第4症 にゃんこパラダイス!(3/3)
月曜日の昼。また懲りずにあいつがやってきた。
「また来たの……」
「……お前、あの態度どこに置いてきたんだよ……」
明らかに呆れた顔を向けて言う私に対して、帰ってきた返事はとんちんかんだった。返事とは。
「あの態度って何」
「猫カフェと別人すぎんだろ‼︎」
「訳がわからない上にうるさい」
彼は何を言ってるんだ。私は元々これだったでしょう。第一、猫と接する時と一緒の態度とる訳ないでしょ。あれはめちゃくちゃ特別だ。
「とりあえず落ち着けば? お菓子あるけど。チョコじゃがるこ」
「オレは猫じゃねぇ……」とか言いつつ座りながら食べた。
なに言ってるんだ。当たり前だろう。同等な訳がない。猫ならむしろウェルカムだ。人は糖分を摂取すると胃に血液が集中するし、血糖値も上がるから興奮が抑えられるというだけのこと。元々猫扱いしてない。
ま、そうじゃなくても食べようと思ってたから、ちょうどよかったけど。……きっと好きかなって思ったし。限定じゃがるこをあげる私に感謝して欲しいわ!
「……ていうかこないと思ってた」
「は?何で?」
いや、何でって……そりゃ私が彼に対して気に食わない対応とった自信しかなかったからだけれど。
でもそんなこと言うと気にしてるみたいじゃん⁉︎ 気にしてないんですよむしろ迷惑だし……ちょっとは寂しいかなとは思ったけど。
そんなことは当たり前だが、言えずにいると。
「ったくよー、今度行くときはちゃんとした服でこいよ?」
「⁉︎」
え、何今なんて言った?
「なんだよ、いかねーの?」
「行きます行かせていただきます、というか行かせてくださいお願いします!」
「ぶっ! ぶははははっ‼︎」
私の必然的で反射的な発言がツボったのか、めちゃくちゃ笑われた。
うるさい。どんな犠牲を払っても、何物にも変えられない価値があるんだよ!
彼はひとしきり笑うとやっと止まった。泣くほど笑うことないでしょう……。そこまでされると恥ずかしくなってくる。
「はー……必死すぎかよ、クッソ笑ったわー」
「うるさい……」
「あれ? 照れてる?」
「本日の営業は終了しました!」
そう言ってガバッとテーブルに伏せた。
こうなったらふて寝だふて寝!
テコでも私は動かない!
「あーこら、照れんなってー」
そう言って頭をぽんぽん叩いてくる、失礼な王子サマは楽しそうだ。私は不愉快です。
伏せた体制のまま、顔を腕に乗せ睨む。まだ顔が赤い気がするのは子供扱いされたせいだから。私の頭は本来高いのだぞ。お猫様に免じて無礼を許してやっているのだぞ。もう。
「終了したんですけど?」
「おーこわ。まーでもあれだな」
「何?」
怖いと思ってないでしょうあんた。笑うなし。そう思いながらも投げやりに聞いた。
「お前思ってたより、可愛いかも」
……思わず1テンポ遅れた。
「……は?」
え、何? どうしたの?
「なんか悪いものでも食べたの……?」
「うわガチで心配された……ひでぇ」
当たり前だ急に何言い出すんだ。
「ついに頭沸いたの?」
「さらに辛辣かよ!」
「いい病院あるけど」
「いらねーわ!」
なんだったんだ今の。とりあえず幻聴か、彼が疲れてるんだろう。とりあえずチョコじゃがるこを、もう一本勧めておく。
「……オレ諦めねーから」
じゃがるこを食べて(そこは食べるのねと思った)、真剣な表情で彼は言った。さっきまでじゃがるこ食べてたと思えない。
「はぁ……それはまた」
「惚けんなよ? オレが言ってんのはそーゆーことだぞ。」
そういってビッと人差し指をこちらに向ける。
だから、それに目を向けて言う。
「人を指しちゃいけません」
「お前オレのかーちゃんかよ……」
「よく言われる」
「言われんのかよ……ってえ⁉︎ 言ってくれる人周りにいんのか⁉︎」
失礼な。中学時代なら私だって居たわ。
……しかし何故なのだ? 私割と嫌われそうなことしたと思うし、その覚悟もしたはずなんだけど。念を押されてしまった。
つまりはオトすことを諦めていない……そういうことなんだろう。
私も無知じゃない。でも彼は本当に未知だ。
「利益ないのに頑張るね……」
「何回も言うけど、プライドの問題だからな」
じゃがるこを咥えながら、そう言われた。咥えじゃがるこが、ビミョーに決まってんのが腹立つ。これだからイケメンは。
私にはそのプライドが分からないけど。
プライドイズプライスレスなんですか。
「ま、でも可愛い方がやる気出るからな」
にやりと悪い顔で言う。くそ、そんな顔もイケメンとか殴ってやりたい。
「付き合いきれない……」
「でも逃げないんだろ?」
にやにやとしながら、そう言ってくる彼は楽しげだ。
逃げないとは言ってない。それさえ面倒臭いだけだ。
全てのものには等しく、平等に、時間が流れて解決してくれるから……そのはずだ。
「ま、精々がんばれよ?」
そう言ってこちらに笑いかける彼は、本当に楽しそうで……何故か嬉しそうで。
私は戸惑いと一緒に、変わらない日常に不思議と安堵を覚えたのだった。




