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装備作成

 予算の大部分を使って買い物をしたため、他には特に何も買うこともなく宿へと帰る。

 また一泊食事付きでマールちゃんにお願いすると、同じ部屋を使うようにと指示された。

 どうでもいいが、朝から出かけて午前中のうちに帰ってきた住所不定の男性、つまり俺のことはマールちゃんから見てどう見えるのだろうか。


 部屋に戻ると、机の上に購入したボロ剣3本を並べる。革鎧は床へと置いておいた。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鍛冶】


 まずは鍛冶スキルをペイントしてから、錆びついて刃こぼれもしている長剣を手に取る。

 ここからどうすれば良いのかと思いながら、ステータス画面をみる。

 鍛冶と書かれた文字の上を指でタップしてみると、2つの文字が表示された。

 【修理リペア】と【インゴット化】とある。


 とりあえず試してみよう。

 剣を手にもってリペアと念じると、一瞬剣が光った。

 かと思うとすぐに光は治まり、持っていた剣はサビ一つない、刃こぼれ一つない剣へと生まれ変わっていた。


 これは本当に現実なのだろうか。

 もはや魔法と言っても言い過ぎではない気がするのだが。


 修理された剣をまじまじと見つめる。

 剣の長さでも測っておいたほうが良かったかもしれない。

 修理の過程で短くなったりするのだろうか。

 なにせ、持つ部分である剣の柄に巻かれていたボロボロに擦り切れた布まで全く新しい新品状態へと変わっていたからだ。


 よくわからないことは一旦置いておくに限る。

 今度は半ばで折れた剣を手に持ってリペアと念じてみた。

 おそらく長剣であったろう折れた剣は、鍛冶スキルの光が収まると刃渡り40cmほどのショートソードへと生まれ変わっていた。


 剣の先端は突き刺さるように尖った状態だ。

 どうやら、リペアを行うと元に戻すのではなく、手直しに近いのかと思う。

 刃こぼれした剣を何度も修理しながら使い続けていたら、きっとどんどん短い剣になっていくのだろう。


 もう1本の折れた剣も修理しておく。

 20〜30cmの剣になったのだが、柄の部分はおそらく長剣用のままなのだろう。

 少し不格好な印象を受けてしまう。


 あっという間に修理が完了した。

 最後の1本は微妙だが、他の2本は間違いなく売り物になるだろう。

 別に自分で露店を開かなくても、さっきの店にでも買い取ってもらえばそれだけで儲けが出るのではないだろうか。


 ふーむ。

 こんなに簡単に修理できるなら、鍛冶屋の見習い連中はバンバン剣を量産していないとおかしくないか?

 それとも、スキルに頼らず炉に火をくべてハンマーで鉄を叩いて剣を作っているのだろうか。

 まあ、気にしなくてもいいか。どうせ1年たてば地球に帰っていなくなっているわけだし。


 ついでなので、鍛冶スキルにもう一つあったインゴット化も試してみることにした。

 頭のなかでインゴット化と念じた瞬間、先ほどまでとは違う反応が起きた。

 机の上にまとめておいていた3つの剣が同時に光りだしたのだ。


 まずい。

 そう思った瞬間に、机の上には鉄の塊が出現していた。

 3本分の剣から作られたインゴットはなかなかの太さの長方体へと変貌していた。

 これで殴っただけでも十分人は殺傷できるだろう。

 というか、剣についていた布なんかは綺麗サッパリとなくなってしまっている。

 ちょっともったいないと思ってしまった。


 机の上に鎮座している鉄の塊をしばらく眺めていたが、いつまでもこのまま置いておくわけにはいかない。

 もう一度、剣にしようと考えたところで、ふと気になってステータス画面を確認してみた。


 再び鍛冶のところをタップすると、先ほどまでとは表示が変わっている。

 修理やインゴット化という項目は消え、代わりに【長剣】【短剣】【大剣】といったいろんな種類の剣の名称が並んでいたのだ。


 その中の一つに目が止まる。

 それを見ているとだんだんと気分が高揚していき、無意識に口角が上がっていた。

 【刀】があるのだ。

 これにしよう。

 刀を使って居合い斬りなんかやってみよう。

 そうしよう。これは決定事項だ。


 頭のなかで刀の作成を念じる。

 すぐにインゴットに光が走り、次の瞬間には机の上に日本刀が出現していた。

 よく見ると、ご丁寧にも刀の鞘までついている。

 握りの部分には少し太めの紐のような布が巻かれており、握りやすい。

 つばの部分は花びらの模様まで入っていた。


 しっかりと握って、刀を抜き出す。

 刃には波打つ模様があり、明らかに鋭い切れ味があることがわかる。

 決してなまくら刀には出せない、色気のようなものを感じた。


 しばし、時を忘れて刀を見続けていた。

 いろんな角度から見る。それだけで楽しい。満足感が半端ではない。

 どのくらい、見ていたのだろうか。

 みることに満足した後は、実際に使いたくなってくるのが人情と言うものだろう。


 とは言え、4畳しかない宿の部屋の中で刀を振り回すわけにもいかない。

 どこか試し切りできるところに行こうかと腰を上げかけたときに、床においてあった革鎧に足をぶつけた。

 そういえば、こんなものもあったなと思い出す。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【皮革加工】


 皮革加工スキルをペイントして、剣と同じようにリペアを施すと、カビが生えてボロボロで使うのをためらいそうな状態だった革鎧があっという間に新品へと早変わりした。

 ついでに、皮革加工スキルはリペアの他に【フィッティング】という項目があったので、きれいになった革鎧を着て試してみる。

 最初は少し小さかったのかきつく感じた革鎧が、まるで自分の身体に合わせてあつらえたかのようなぴったりサイズへと変化した。

 ハードレザーなので、指で突っついてみるとかなりの硬さだ。

 だというのに、動きの邪魔にはならない。

 スキルの効果が驚くほど高い。

 これはもう、生きていくなら働かなくても大丈夫に違いない。


 革鎧を着た状態で、腰の左側へと刀を差す。

 刃の長さが70cm以上ありそうなので、全体から考えると1m近くになりそうだ。

 なかなかの存在感と言えるだろう。

 異世界転移してきたときに何故か用意されていた剣は、そのまま使うことにする。一度も使わないうちにインゴットにしたら、バチが当たりそうな気がしたからだ。


 さて、試し切りの場所として宿の裏の井戸のそばを使わせてもらうことにした。

 宿で使うのだろう薪の一つを拝借して、これを試し切りしてみることにする。


 日本刀を両手で持ち、まずはスキル無しで自分の思うように切ってみることにした。

 適当な高さになるように調整した薪へめがけて、右上から左下へと刀を振り下ろす。

 ガッという音がして薪が左方向へと吹っ飛んでいった。

 狙い通り刀は薪に当たったようだが、切ることはできずに吹き飛ばしただけで終わったようだ。

 飛んでいった薪を調べてみると、側面が少し削れている。

 きっと、刃を当てる角度なんかも悪かったのだろう。


 スキル無しでうまくいくとも思っていなかったが、これだと素人が鉄の棒を振り回しているだけといえる。

 武器を使うときはスキルが必須かもしれない。

 あるいは真面目に毎日素振りでもしたほうがいいのかも。


 気を取り直して、今度は剣術スキルをペイントして再度薪を切ってみた。

 カンっという音がして再び薪が飛んで行く。

 しかし、さっきとは違い薪は2つに別れた状態で飛んでいった。

 うまく切れたようだ。


 スキル無しの状態とは違い、刀を振っても身体が振り回されてふらつくような感じはない。

 スキルはきちんと効果を発揮しているように思う。

 だが、なんというか、奥歯に物が挟まったような微妙な感覚がある。

 悪くはないが、もっといい方法があるようなきがするのだ。


 しばらく、刀をいろんな角度から色んな方向へと素振りをしつつ考える。

 10分ほど素振りをしていると、ふと、昨日のことを思い出した。


 昨日、ペイントスキルでどんなスキルが追加できるか試していたときのことだ。

 確かあの時、剣術とはべつに【大剣術】というスキルも追加できていたはずだ。

 ということは。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【刀術】


 成功した。

 考えたとおり、剣術スキルとは別に細分化した武器のスキルもあり、それが追加できたのだ。

 【刀術】にしてから、素振りをしても、先ほどまでより自然に、スムーズに刀を扱えているような感じがする。


 薪をもう一つ持ってきて、再び試し切りをしてみる。

 すると今度は、スッと言う感じで刀が薪を通り過ぎた。

 手で薪を触ってみると、ポロッと上下に別れて薪が転がった。

 同じ刀を使ったはずなのに、切れ味が全く別次元のような印象を受ける。


 その後、調子に乗って薪を20本くらい切り刻んでいるとマールちゃんに見つかってものすごい怒られてしまった。

 ごめんなさい。許してください。なんでもしますから!

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