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おかわり

「小僧、大丈夫か」


 オルトロスの死体が転がるさまを見届けていた俺に声をかけてくる人。

 救援に来てくれた騎士をまとめている騎士隊長さんだ。

 確か、貴族で長ったらしい名前を持っているはずの40歳代の男性。

 ラムダさんとかいったっけかな?

 身につける全身鎧は白く艶めかしい光を放っている。

 金属鎧だが鉄製ではないのかもしれない。


「大丈夫です。助かりました」


 会議に出るときには礼儀作法スキルを使っていたが、流石に今使うのはまずい。

 ボロが出ないように言葉少なく返事をする。


 それにしても、騎士が救援に来てから数分という短い時間であっという間にオルトロスを倒してしまった。

 俺の頑張りは何だったのかと思ってしまうくらいだ。

 中でも目を見張ったのがクロスボウの存在だ。


 冒険者でクロスボウを使うものはあまりいない。

 弓と違って部品の数が多くなり、故障しやすいという欠点があるようだ。

 さらに、それを作る職人の数も多くないらしい。

 結果として普及していなかった。


 だが、先ほどの戦いを見るとクロスボウは非常に有用な武器に見えた。

 なにせ、この世界には魔物と呼ばれる存在がおり、その体の一部を武器や防具の素材として使うことができるのだ。

 おそらく、騎士隊が持っているクロスボウは魔物の素材を使ったものなのだろう。

 一撃が重く、高い攻撃力を持っていたように見えた。


 弓とは違って連射がきかないというデメリットもクロスボウにはある。

 だが、いくら弓を連射しようとも、魔物の強靭な皮膚や毛皮を貫くことができなければ結局意味がない。

 そういう意味ではクロスボウの数を揃えての一斉射撃は強力で素早いモンスターに対しても有効な戦術なのだろう。

 もっとも、俺は物が大きいのであんなものを背負って移動するのは大変だという理由で複合強弓を選択して使ってはいるのだけれど。


 っと、いけない。

 刀を使うときに複合強弓を放り出したまま、回収できていない。

 盗まれるのも嫌なので、とっとと拾いに行ってこよう。

 そう思って、再び騎士隊全員に対してお礼を言い、弓を拾いに行くことにした。




 □  □  □  □




 意外と遠くまで移動していたことに気がつく。

 カルド遺跡の中心にある元領主館の見える位置で戦い始めたはずだった。

 しかし、オルトロスの攻撃を避けて移動し続けているうちに、思ったよりも遠い位置にまで来てしまっていたようだ。

 どこだったかな。

 そう思いながら、ようやく弓がある場所にたどり着いて、さきほど無事に回収する事ができた。

 どこも壊れておらず、盗まれもしていなくてホッと一安心というところか。


 だが、俺がオルトロスと戦い、弓を拾いに行っている間にも戦いは新たな局面を迎えていた。

 砦や要塞のような重厚さをもつ領主館から矢が放たれているのだ。

 極稀に魔法を使ってくるものもいる。

 そして、そんな攻撃をくぐり抜けながらも館の内部へと入り込もうと冒険者が動いている。

 俺が知らないうちに、ちょっとした攻城戦のような展開になっていたらしい。


 ここまでカルド遺跡の中では盗賊たちを見かけていない。

 ということは、おそらくあの建物の中に100人近くが立て籠もっているのだろう。

 対して、冒険者と騎士隊の人数は合わせて500〜600人ほどのはずだ。

 どこで聞いたのかははっきりしないが、「城攻めは3倍の人数」というのが基準になると聞いた覚えがある。

 人数差を見れば、押し込めるんじゃないだろうか。


 そう判断した俺は少し休憩することにした。

 まずは、周りから姿を隠せるところへと移動する。

 安全を確保してから、【鍛冶】や【皮革加工】のスキルをペイントして、装備を整えることにした。


 鬼刀は少し刃が欠けている。

 何度もオルトロスの攻撃を防いでくれたための、名誉の負傷といったところだろうか。

 むしろ、鬼刀でなければやつの攻撃でポッキリ折れて俺がダメージをもらっていたかもしれない。

 最後の噛みつき攻撃は疾風切りで避けられはしたものの、革鎧の左肩は大きく裂けている。

 その場ではわからなかったが、牙が当たっていたのだろう。

 それでも肉体は擦り傷ですんでいることを考えるとゴブリンキングの革鎧の性能のよさがよく分かる。

 やはり装備のよさは実戦で命に関わってくるなと感じる。


 それだけに召喚の仕組みが悔やまれた。

 召喚されたモンスター、とくにオルトロスだが、それらの死体は倒してしばらくすると死体ごと消えてしまったのだ。

 トリックモンキーの時からわかってはいた。

 だが、ゴブリンキングよりもLvが高く、スピードの早いオルトロスの素材が取れなかったというのはつらい。

 レベルも上がらない、素材も取れないとかクソゲーじゃないかと思ってしまう。

 使役モンスターだったりしたら死体は残ったのだろうか。

 なぜベガとかいうやつは召喚なんてものを使うんだと、心のなかで恨み言をつぶやいていた。




 □  □  □  □




 休憩を終えた俺は領主館が見える位置にまで移動した。

 どうにも冒険者たちは攻めあぐねているようだ。

 もともと攻城戦をしに来たわけでもなく、パーティーごとに独自判断で行動しているから、思い切った攻撃ができないのかもしれない。

 だが、それでも、少しずつ内部へと入り込めている人もいるようだ。

 このまま押し切れそうだなと考えていたときだった。


 叫び声が聞こえる。

 ワーっという声が聞こえたかと思うと、せっかく侵入した連中がパラパラと出てくるものがいる。

 なにがあったのかと見守っていると、そいつが現れた。


 いつの間に簡易な柵で閉じられていた入口の奥からその巨体が姿を現す。

 真っ黒な体で、頭の高さは5mほどになるそいつは首が2つある。

 再びオルトロスが現れてしまった。


 まじかよ。

 頭を叩かれたかのような衝撃を受けた感じがした。

 オルトロスってそんなにポンポン呼び出せるものなのか?

 召喚の強さがぶっ壊れてるようにしか思えん。

 どうする。


 オルトロスともう一回戦うのはなしだ。

 とても集中力が持たない。

 それに、もしまた次が出てきたら俺の体力や魔力はほとんど残らないかもしれない。

 それならば、あいつは相手にせずに召喚を行ったベガを倒すのが一番いい考えなのではないだろうか。


 そうと決まれば善は急げだ。

 オルトロスが出てきたことによってまわりは混乱している。

 隠密を使って、内部に潜入してベガを叩く。

 それしかないだろう。

 よし行こう。


「おい、小僧。ついてこい」


 今まさにペイントを行って突入しようとしたタイミングで、肩をガシッと掴まれて声をかけられた。

 誰だよ。

 そう思って振り向くと、騎士隊長がこっちを見ている。

 兜から見える顔は獰猛な肉食獣を思わせる笑みを浮かべていた。

 え?

 もしかして、オルトロスと戦えとか言われるんだろうか。


「騎士隊から俺を入れて5人で突入する。残った者があのデカブツを抑えておく。小僧は俺と一緒に突っ込むぞ」


「は、はい。わかりました」


「中にはいったらベガを探せ。ほかのやつの相手は最小限にしろ。ベガを見つけたら俺を呼べ。わかったな」


 うむを言わせぬというのはこういう事を言うのだろうか。

 まるですでに決定したことを告げるかのように命令してくる。

 そういえば、やけにベガにこだわっていたような気がする。

 何か因縁があるのか。

 とにかく、これ以上オルトロスの相手はしなくてもいいようだ。

 それだけでも助かったと思おう。


「了解です」


 すぐに騎士隊がクロスボウの斉射をはじめた。

 オルトロスは何発かは避けながらも攻撃を受ける。

 ボルトが刺さった瞬間に叫び、すぐに2つの首を向ける。

 血走った目だ。

 やはり痛みを与えると怒るのだろう。

 攻撃を行った騎士隊に向かって全力で駆けていき、2つの大きな口で地面ごと食べようかとしているかのごとく噛みつき攻撃を行った。

 それを横目に見ながら、騎士隊長のラムダさんと俺を含めた6名が、全速力で入口へと向かって走り出した。

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