騎士のレベル
ハイド教官ともう1人のギルド職員とともに騎士隊との話し合いへとやってきた。
騎士の人たちはこの宿場町の中では一番大きな宿を使用しているようだ。
宿は豪華というわけではないが、大きなつくりで厩舎もあり、部屋数も多い。
おそらくリアナから出発して通常なら3日の距離にあるため、いろんな身分の人がここに立ち寄るのだろう。
全ての宿が大部屋で雑魚寝というわけにはいかないから、こういう個室の多い宿も必要なのかもしれない。
3人で連れ立って入口の前に立つ。
「冒険者ギルドの職員、ハイドだ。作戦会議へやってきたと伝えてくれ」
入口にいた男性に対してハイド教官が告げる。
2人いたうちの1人が中へと入っていき、ほどなくして中へ入ってよいという許可が下りた。
この人たちは騎士の従者とかなのだろうか。
そう思いながらも、俺自身は特に何も言うことなく案内についていく。
入口からいくつか角を曲がりながら歩いていくと、とある扉の前で従者さんが立ち止まる。
「冒険者ギルドの職員をお連れしました」
ドアをノックした後、扉を開けることなく話しかける。
すぐに奥から「入れ」という声がかけられた。
なかなかに渋い声だ。
扉が開けられ、2人が入るのに合わせて進んでいく。
「失礼いたします。冒険者ギルド所属のハイドです。後ろの2人は職員と冒険者です」
といいながら、ハイド教官があいさつを始める。
というかいきなり片膝を床に着いた。
もう一人の職員も同じようにしている。
俺は一瞬あわててしまったが、ここで礼儀作法スキルが勝手に体を動かしてくれた。
右膝を曲げるようにして左膝を立て、右手はグーに握りしめて左胸に当てる。
どうも、これが騎士に対するあいさつのようだ。
こんなこと聞いてねえぞ。
先に説明しとけよ、と心の中でハイド教官に文句をつける。
「わかった。こちらに来い。早速だが作戦会議を始めるぞ」
部屋の中は思ったよりも広い。
部屋の真ん中には机が置かれており、そこに大きな紙が拡げられている。
扉から入って一番奥でイスに腰掛けていた男が声をかけてくる。
40歳代くらいの男性に見える。
しかし、体はしっかりと鍛えられており、皮膚の中に強靭な筋肉をギュッと詰め込んでいますと言わんばかりの体をしている。
なんというか全身からオーラを感じる。
人の上に立つものという雰囲気だ。
おそらくこの男性が騎士の中で一番立場が高いのだろう。
机の周りには10人前後の騎士がいる。
奥の男性のそばに立つ1人を除けば、そのほとんどが金属製の甲冑を着ていた。
兜はないが、これがプレートアーマーというものなのだろうか。
夏になるというのに、全身に金属を身にまとうのは熱くないのだろうか。重くないのだろうか。疑問が尽きない。
まあ、そんなことはどうでもいいか。
状況的にみると、机の上に置いてある大きな紙、あれはこの辺りの地図なのだろう。
その上にいくつか駒のようなものが置かれている。
あれは人や部隊を示すものとして使っているのか。
すでに地図の上に駒があるということは、作戦会議とやらは実質スタートしているのではないだろうか。
なぜ俺をここに連れてきたのかは分からないが、この宿場町について早々にここへ来たハイド教官は会議が始まっていることを察知していたのかもしれない。
「それでは改めて盗賊討伐作戦についての説明を行います」
そういうのは、板金鎧を着ていない騎士だ。
参謀のような感じなのだろう。
見た目も、ほかの騎士たちよりも体格が細見のようでプレッシャーは感じないが、頭が切れるタイプのような印象を与えてくる。
「交易都市リーンから城塞都市リアナに向けてアンバー商会を中心とした約150台の馬車で構成されたキャラバンが襲撃を受けました。襲撃を仕掛けた盗賊は生存者の報告によると50名以上はおり、被害は甚大。約半数以上の馬車を放棄し逃げざるを得なくなりました」
そういって参謀の騎士がこちらを見る。
やはりこの内容はほかの騎士たちにはすでに通達してあったようだ。
話を聞きながらうなずいているものもいる。
そのまま話をすすめていく。
「襲撃を受けた場所はここから街道沿いに半日ほど進んだところで、襲撃後は盗賊たちは南東方面へと逃げたとみられています。積荷はそのほとんどが馬車ごと持ち去られており、馬車の数から100名規模の盗賊団の仕業ではないかと考えています」
本当だろうか。
もっといてもおかしくないような気もするが。
まあ、その辺のことは詳しくわからないしな。
「現在は盗賊団のアジトなどについては不明。ただ、多量に奪ったため、すぐに遠くまで逃げることはできていないと考えられます。追跡可能なところまで追った結果、アジトの位置は南東の荒れ地地帯の可能性が高いと考えられます」
机におかれた地図を見ながら、なるほどと思う。
リアナからリーンにつながる街道というのは少しカーブをしながらも東の方へと向かっている。
その途中には森の中を街道が通るところがある。
それがこの宿場町からさらに東に行ったところだ。
おそらくキャラバンは東の森を抜けて、もうすぐ次の宿場町に着くというところで襲撃を受けたのだろう。
そうして、その森の南東方向に行くと、今度はあまり森の無い場所が続いている。
日本の地図と比べると恐ろしく雑な地図にしか見えないため、どんな地形なのかよくわからない。
が、おそらくそこらはあまり森もない荒れ地になっているのだと思う。
「それでは、荒れ地地帯を中心に冒険者も調べましょう。斥候を放ちます」
俺が地図に目を向けている間にハイド教官が話をしている。
どうやら、冒険者も使って人海戦術で盗賊のアジト探しをするらしい。
作戦について俺が口をはさむすき間は特にないだろう。
だんだんと、人員の配置や報酬分配などに話が移ってしまった。
ハイド教官が話をし、もう1人が書記のように手元の紙に書き込んでいる。
俺はホントになんでこんなところにいるのだろう。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】
暇だったので鑑定眼を使ってみる。
騎士の人たちを鑑定してみようと思ったのだ。
騎士のほとんどはLv30台のようだ。
唯一、上座に座っている人がゴブリンキングと同じ42という数値になっていた。
これはかなり強いと思う。
少なくともリアナにいる冒険者のほとんどはLv20台であり、30を超える人はチラホラといったところだ。
それにやはりは貴族様ということになるのだろうか。
騎士の人が腰につるしている武器やチラリと見える装飾品。
それらにはアビリティがついているものがある。
アビリティがついている装備品は高い。
安くても金貨数百枚はするというのだから、普通の人はまず買えないだろう。
貴族の家に代々伝わるものだったりするんだろうか。
それとも、騎士になるとそれくらいの武器は楽に買えるほどの収入があるものなのだろうか。
俺がアビリティ付装備品て目を楽しませていると、気がついたら会議が終わってしまっていた。
ハイド教官が退出を促してくるので、一礼して部屋を出て行くことにした。
結局俺は何しにここへ来たんだ?
「教官。なんで俺を連れてったんですか?」
ハイド教官が泊まる宿に荷物の持ち運びを手伝い終わった後、一緒に食事をすることになった。
食事を食べながら、会議に連れて行かれた理由がイマイチよくわからなかったので聞いてみることにしたのだ。
「ん? ああ。アイシャから聞いたんだがよ、お前今回の件がベガ盗賊団が関係していると思ってるんだろ?」
「ええ、確証は何もありませんけど。それが会議と関係しているんですか?」
「もちろんだ。今は盗賊として有名だが、ベガは昔、騎士だったんだよ。だから、実際の騎士を近くで見ておくのも悪くないと思ってな」
マジか。
鑑定眼使っておいて正解だったのか。
てことは、ベガは最低でもLv30以上はあって、下手するとアビリティがついた装備を持っていたりする可能性もあるということか。
さらに、ほかの人が使えないような召喚ができて、100人近い部下がいる。
なるほど、これはゴブリンキングを相手にするよりも大変なのかもしれない。
食事をしながら、知らないうちにため息が出てしまっていた。




