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ベガ盗賊団

 盗賊団討伐に参加を希望する冒険者は思った以上に多かった。

 その場にいたほとんどのものが参加を希望したかと思うくらいだったが、さらにその後に冒険者ギルドへとやってきた人たちも盗賊団の話を聞いてそれに加わっていたからだ。

 そんなこんなでアイシャさんに相談するのは、かなり時間が立ってからのことだった。


「アイシャさん、ちょっといいかな」


「ヤマト、あなたも参加を希望するの?」


 そう答えるアイシャさんの顔は少し疲れているように見える。

 ほとんど休憩もなしに、ずっと受付で対応し続けていたからだろう。


「お疲れ様。なんかすごいたくさん参加しそうな感じだね」


「そうね。みんなかなりやる気よ。我さきにって感じで受付しに来ていたわね」


「盗賊の討伐ってのはよくあるの? 毎回みんなこんな感じなのかな?」


 少し気になったのでそう聞いてみる。

 するとアイシャさんは首を横に振る。

 背中まであるサラサラの髪が横にたなびく。


「いいえ、今回は特別に人気があるのよ。なにせ襲撃を受けたキャラバンがアンバー商会だったから」


「大きい商会だったってことかな。そのアンバー商会っていうのは」


「あら、アンバー商会を知らなかったの? あそこは大手でもあるけれど、もともと取り扱っているのが宝石類なのよ」


「つまり、今回盗まれたものは宝石が多かったってことか」


「盗賊を討伐すると、その盗賊が持っていた略奪品なんかは討伐した者が得られる事になっているの。何台もの馬車が商隊になって運んでいたくらいだから、かなりの量の略奪品があると考えられるわ。宝石ならば取り分が少なくても、普通にモンスターを狩るよりもお金になるとみんな考えたんでしょうね」


 ふむふむ。

 ようするに、今回のは討伐が成功すればギルドからの報酬以外にも儲けが期待できる可能性が高いケースということか。

 ギルドマスターがアンバー商会が襲われたと言った時点で、ほとんどの冒険者はそのことに気がついていたんだろう。


「あれ? でも、領主様も騎士を出すって言ってるんだよね。略奪品を見つけたら騎士が全部持っていくってことになったりすることはないの?」


 ふと疑問に思ったので聞いてみた。


「それは大丈夫よ。こういうときはどうしても冒険者のほうが数が多くなるし、毎回全部持っていかれたら、次から討伐に参加しようとする冒険者もいなくなってしまうもの。ある程度公平に分けるように取り決めがされているし、ギルド職員からも現場に行って対応する人もいるのよ」


 なるほどね。

 そりゃまあ、儲からないとわかれば冒険者もわざわざ危険な中に好き好んで行かないか。


「そういえば、今回アンバー商会を襲った盗賊団の情報とかはわかっているのかな」


「はっきりとしたことは判明していないの。ただ、襲撃してきたのは50人ほどだったことから、どこかにアジトを構えていても100人くらいまでではないかと予想されているわ」


「そっか。ところで、アイシャさんはベガ盗賊団って知ってる? そこが関係しているってことはないかな?」


 そう聞いた瞬間、アイシャさんの顔色が変わった。

 驚きと困惑、動揺といった感情の揺れが感じられる。

 ベガ盗賊団について何か知っているのだろう。


「ヤマト、今ベガ盗賊団って言ったの? 今回の襲撃はあそこがやったっていうのかしら」


 逆に聞き返されてしまった。

 どうしたものか。

 ステータス画面には間違いなくベガ盗賊団の犯行であることが表示されている。

 かといって俺はベガ盗賊団のことをなにも知らない。

 当然ながら、そこが襲撃をしたことを証明するものはなにも持っていない。

 仕方がない。適当にごまかしながら話をしてみよう。


「ベガ盗賊団がやったのかはわからないよ。ただ、俺が聞いたことのある盗賊団の名前がそこだけなんだ。もしかしたら今回の件には関係ないかもしれないけど、ベガ盗賊団について知ってることがあれば教えてくれないかな」


「そう、まあヤマトがそういうのならそれでも良いわ」


 あまり納得していなさそうな感じだが、アイシャさんはベガ盗賊団についてを語ってくれた。

 といっても構成員などの詳しい内情まではわかっていないらしい。

 ただ、いろいろな場所で襲撃を繰り返し、もうすでに10年以上は盗賊団を維持し続けているという、ものすごい年季の入った集団だということだ。

 商隊の襲撃だけではなく村や町などに対しても略奪を行うこともあるという。

 数多くの騎士や冒険者を退けてきているため、戦闘力を持つ集団であるとも言える。


 特に盗賊団の頭であるベガと言う名の男が、やはり一番危険であると有名だ。

 ベガ自身にも高額の賞金がかけられている。

 なぜ、そこまでベガが強力なのか。

 それはベガの持つスキルによるところが大きい。


 盗賊団長のベガはモンスターを召喚することができるというのだ。

 アイシャさんいわく、召喚を行うことができる人間はまれにいることがあるが、基本的にはどれも自分よりも弱いモンスターを使い魔として扱うくらいなものらしい。

 しかし、ベガは違う。

 弱いモンスターならば大量に。

 さらに普通には召喚すること自体ができないような強いモンスターでさえ、召喚することが可能だという。

 ベガ自身も戦闘経験豊富であり、なかなか仕留めることができず、惜しいところまでいってもいつも逃げられてしまっていたそうだ。


 召喚という言葉を聞いて俺は少し動揺した。

 俺のペイントスキルはステータス画面にペイントを行うことでさまざまなスキルを使えるようになるという特徴がある。

 だが、【召喚】というスキルはペイントできなかったのだ。


 俺が使うことのできないスキルを使うことができる存在。

 絶対にそんなやつがいない、などということはないのだろうが、すごく気になってしまう。

 獲得できる貢献ポイントが高いのもそのあたりが関係しているのだろうか。

 ベガとは一体何者なのだろうか。

 確かめに行ってみよう。

 そう思った俺は今回の盗賊団討伐に参加をすることに決めた。

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