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新たなクエスト

 ゴブリンキングを倒してから、それなりの時間が経過していた。

 どうやら、ここには季節がちゃんとあるらしい。

 梅雨はなかったが、もうすぐ夏だそうでだんだんと暑くなってきている。

 もっとも、日本のようにエアコンがないと生活できないような暑さでないところがまだ救いといえる。


 ここしばらくは魔の森に入って薬草を採取してきたり、冒険者ギルドの訓練場で訓練をしたりして過ごしている。


 薬草はいくら採取の数を増やして持ち帰ったところで、あまり儲けにはならない。

 だが、俺にはスキルがある。

 薬草からポーションを作り出す【調合】スキルも存在する。

 調子に乗ってポーションの大量生産をしていたら、リアナの街のポーション相場がガタッと崩れそうになる事態になってしまったこともある。

 基本にして奥義、そして一番の売れ筋商品であるポーションの値崩れは薬を取り扱う店にとっては深刻な問題として受け止められてしまった。

 事態を重く見た冒険者ギルドが対策に乗り出して、俺からの買い取り量が減らされてしまったのは残念だが、仕方がないだろう。


 ギルドの訓練場ではひたすら刀と弓の練習をしている。

 もっとも、これは鍛えるという意味合いは少ない。

 よく考えると、俺は異世界に飛ばされる際、もともとの体をこちらの世界へと適合されるようにして転移してきたはずである。

 なので、こっちでいくら鍛えても地球に戻ったらおそらく意味がなかった、ということになるのではないかと判断したからだ。


 だが、この世界での出来事が地球に帰っても記憶として残るのであれば練習はする意味もある。

 体の使い方、動かし方を確かめるように訓練することにしたのだ。

 スキルを付けた状態で体を動かし、スキルを外したらその動きをトレースするように動かす。

 多少は意味があるだろうと思う。


 だが、途中からは訓練場にいた教官に目を付けられてその状況が変わってしまった。

 教官から見ると、俺はいつも1人で訓練場にやってきて、武器を振る練習しかしていないように見えたらしい。

 そのため、「遠慮することはない。俺がきっちり訓練をつけてやる」と無理やり模擬戦をさせられているのだ。


 ステータス上では体力が100あるため、戦闘系スキルをペイントしていないときでも100分間は動き続けることは可能だ。

 怪我をしたらポーションなり光魔法なりで治すこともできる。

 なので、スキルを使わずに訓練をつけてもらったが非常にハードだった。


 木剣であっても叩かれたら痛いし、突きの場合は大怪我をする可能性もある。

 だが、冒険者の訓練ならばこれくらいならば普通なのかと思って、ずっとこの訓練を続けていたのだ。

 後になって、この訓練は通常よりもハードだったことが分かった。

 理由は単純なものだった。

 この教官おっさんはアイシャさんのファンだからだという。

 俺がたまにアイシャさんと話をしているのを見ての行動だったらしい。

 いや、あんた妻子持ちだろうが、と怒ったが軽くかわされてしまい、今でもその訓練は続いている。

 ちゃんと教えてくれているので別にいいのだが、これなら理由は知らないほうが良かったかもしれない。




 □  □  □  □




 今日も訓練所で体を動かそう。

 そう思って、冒険者ギルドの入り口をくぐる。

 訓練所自体は建物の外を通ってもいけるが、いつも中を通って訓練場へと向かうようにしていた。


 しかし、この日はいつもと様子が違っていた。

 カウンターの向こう側にいる職員があわただしく走り回っている。

 そして、冒険者のほうもどこか落ち着きがない。

 何かあったのだろうか。


 気になったので、訓練場へは向かわずに少し様子を見ることにした。

 掲示板などで素材の相場などを見て時間をつぶす。

 しばらくすると、奥から恰幅のいい男が出てきた。

 頭の毛が少なくなってきており、お腹も出ているこの男性こそ、冒険者ギルドのマスターである。


 実は冒険者ギルドのギルドマスターは冒険者あがりではない。

 むしろ、過去のほとんどのギルドマスターは冒険者以外から選ばれている。


 以前、この話を聞いたときに不思議に思ってアイシャさんに聞いたことがあった。

 その時教えてもらった話によれば、もともと冒険者ギルドは商工ギルドの下部組織として始まったそうだ。


 特に商人が商品を街から街に運ぶときに護衛を付けたのが始まりで、その後、モンスターや森などにある素材をなるべく安定供給させるために作ったのが冒険者ギルドの始まりだったらしい。

 つまりはもともとの出発点が商売のための労働力を確保するための組織だったということだ。


 当然、ギルドのトップに立つものが脳筋ばかりの冒険者出身では話にならない。

 一度、実力派冒険者が引退してからギルドマスターに着いたことがあったが、素材相場の変動などを読み間違えてギルドが潰れかけたらしい。

 それ以来、商工ギルドの関係者の中から冒険者ギルドのマスターが選ばれることになる、という歴史があるとのこと。


「皆聞いてくれ。先日、東にある貿易都市リーンからリアナへ向かうアンバー商会が中心の商隊キャラバンが盗賊団に襲われた。盗賊団の数は不明だが、100人近くいるのではないかと考えられる」


 ギルドマスターの話でギルド内がどよめく。

 そんななか、一度建物内をグルリと見渡しようにしてからギルドマスターが話を続ける。


「この盗賊団の討伐のため領主様が騎士隊を出す。ここに冒険者ギルドからも盗賊団討伐のための人員を出すことに決まった。希望者はカウンターで手続きを行ってくれ」


 ギルドマスターはそう言って説明を行うと、奥へと引っ込んでいった。

 次の瞬間には冒険者たちがどっと騒ぎ出す。

 そして我先にとカウンターへ走り寄っていった。


 あれは全員、討伐隊に入りたい希望者なのだろうか。

 ものすごいやる気だ。

 熱気がすごい。

 そう思っていると、以前一度だけ聞いたことのある電子音が頭に響き渡った。



 ――クエストが発生しました



 えっ?

 このタイミングで?

 ということは盗賊に関係することなんだろうか。

 あわててステータス画面を確認する。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 名前:ヤマト・カツラギ

 種族:ヒューマン


 Lv:1

 体力:100

 魔力:100


 スキル:異世界言語・ペイント


 獲得貢献ポイント:10P


 受注可能クエスト:ベガ盗賊団の討伐


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 受注可能クエストが新たに表示されている。

 今回現れた盗賊団はベガ盗賊団という名前でいいのだろうか。

 あとで確認する必要があるかもしれない。

 そう思いながら、さらなる情報を求めてステータス画面をタップした。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 クエスト:ベガ盗賊団の討伐


 クエスト条件:アンバー商会を襲撃したベガ盗賊団を壊滅する


 クエスト報酬:貢献ポイント+20P


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 クエストの詳細を見て驚いた。

 ベガ盗賊団というのは間違いなく今回現れた盗賊のことだろう。

 だが、その討伐に対して支払われる報酬がゴブリンの群れからラスク村を救うときよりもポイントが高いというところだ。


 何か理由でもあるのだろうか。

 それだけ、クエストの難易度が高いということなのか。


 しかし、20Pというのは大きい。

 成功すれば日本に帰った時の報酬がさらに増えることになる。

 それも2000万円も増えて、俺の働いて初めての年収が3000万円を超えるということだ。

 高卒で普通に就職して働いていたとしたら、まずそんな金額は無理だろう。

 ほかの冒険者や領主様が騎士隊を出すというのもいいんじゃないだろうか。

 前回みたいにとにかく1人でどうにかしないといけないという状況でもないわけだし。


 だが、と考えてしまう。

 ここは異世界であっても現実だ。

 盗賊といえども生きた人間である。

 2000万円がほしいからという理由で人を殺す、そういうことになるのだろう。


 ほかの冒険者が襲ってきたから返り討ちにした、というのとは状況が違ってくる。

 自分から殺しに行くということを考えるとどうしても不安になる。


 すぐに決める必要はないか。

 一度、アイシャさんにも相談にのってもらおう。

 そう思って、受付カウンターで盗賊団討伐の希望者と話をしているアイシャさんの列がなくなるのを待つことにした。


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