上位種の存在
俺のスキル発動が他の人から見ると都合のいいように脳内補完されるらしい、ということがわかった。
そこで、村まで戻ってくると俺はエイダさんの装備についてもリペアすることにした。
リアナという大きな街から離れたところにある村だからか、エイダさんの装備はよくいえば使い込まれている、悪く言えばボロいものばかりだった。
槍や弓、革鎧などを新品同様へとリペアするだけでも、戦力アップとなりそうだ。
しかし、ここで恐ろしいことが起こった。
……でけえ。
エイダさんの着ていた革鎧をリペアした時の話だ。
突撃猪の毛皮から作られたという革鎧だが、新品同様へとなったが問題があった。
エイダさんのサイズとはあっていなかったのだ。
そこで、リペア後に革鎧を着てもらいつつフィッティングを行う。
パッと光った革鎧は一瞬にしてエイダさんの身体のサイズにピッタリと合うように変化した。
そう、エイダさんの身体のラインに沿うように、本当にピッタリに変わってしまったのだ。
胸がものすごい強調されていて、やばい。
しかも、大きな胸に対して腰回りは非常に細くくびれている。
革鎧は胸を包み込むような形をしつつも、腰回りはコルセットのようにキュッとしぼめられているため、エイダさんの魅力値が跳ね上がってしまったのだ。
普段、外に出るときはサイズの合っていない革鎧、家にいるときなどはダボッとした麻の服で、胸が大きいことは知っていたがここまででかいとは思わなかった。
もしかしたら、この世界ではブラジャーなんかはないのかもしれない。
ピッタリフィットの鎧が押し上げるお胸様は、いつもより大きいようにすら感じる。
これはやばいぞ。
そういえば、日本にいたときにインターネットでこれに近いものを見かけたような気もする。
確か、「童貞を殺す服」とか呼ばれていたものが頭に浮かんできた。
「おい、ジロジロ見すぎだ」
フィッティングを終えた後もエイダさんの正面に立ったままボーっとしている俺。
頭を真上からチョップされてしまった。
見た目が大幅に変わったにもかかわらず、エイダさんはいつもどおり堂々とした立ち居振る舞いだ。
鎧を着込み槍を持つその姿は、一流の戦士の姿にも見える。
「どこまでもついていきます。姐御」と口走ってしまった俺の背中をバンバンと叩きながら、「よっしゃ、しっかりついてこいよ」と答える。
魅力と頼もしさが跳ね上がってしまったようだ。
□ □ □ □
翌日からも俺はエイダさんと一緒に森へと入っている。
俺のスキルにより装備一式が更新されて、エイダさんも気兼ねなくゴブリンと戦えるうえ、解体スキルによって狩りの獲物をさばく時間がなくなったため、一緒に調査を行うことにしたのだ。
昨日までよりもさらに森へと入っていく。
すると、近くに気配を感じた。
さっと姿を隠して様子を伺う。
藪の向こう側に人影が見える。
しかし、ここは森の中だ。
村人であるはずがない。
というか、人間ではなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
種族:ゴブリン
Lv:7
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ゴブリンだ。
緑色の皮膚を持つ子鬼。
身長は120〜130cmほどか。
小柄な体格で手には槍を携えている。
一見子どものような姿だが、顔を見るとしわくちゃで年寄りじみても見える。
開いた口からは黄ばんだ歯が見えており、よだれを垂らしている。
なんというか、こう、「生理的に無理」という印象を強く与えてくるのがゴブリンという生き物だった。
お友達になりましょう、とは間違っても思わないだろう。
Lvをみる限りでは、突撃猪よりも弱いのかもしれない。
ただし、ゴブリンは群れる習性があるのが厄介な点だ。
群れによって生活し、狩りなども3〜5匹がかたまって行う。
ゲームのように錯覚してしまいそうなこの世界だが、しかし現実なのだ。
身体を殴られれば痛いし、怪我をすれば動きも悪くなる。
慎重にけがをすることなく、しかし、なるべく多くのゴブリンに対処しなくてはならない。
エイダさんと目配せをしてから、弓を構える。
呼吸を合わせて矢を放つ。
俺の弓術スキルの力によって放たれた矢は「グギャグギャ」と意味不明の声を発していたゴブリンの目に突き刺さった。
おそらく、目から脳へと到達したのだろう。
一瞬ビクリと体を痙攣させてから、バタリと倒れた。
突撃猪の牙から作った矢でも十分に威力があり、倒すことができるというのがわかった。
しかし、エイダさんの放った矢はゴブリンの腹に刺さっている。
効果は間違いなくあるはずだが、即死には至らなかったようだ。
「グギャ! ゲギャ!」
コチラの位置を把握されたらしい。
俺ももう一度弓を構えて矢を放つ。
1匹のゴブリンを仕留めた。
最初に4匹いたため、この時点で2匹死亡、1匹は腹の傷で動きが鈍っている。
近づいてきたところを、俺の刀とエイダさんの槍でサクッと倒すことができた。
初めてのゴブリンとの戦闘はこうして完勝した。
□ □ □ □
「ちっ、前よりも数が増えてやがる」
エイダさんが舌打ちをする。
いわく、森の中でのゴブリンの数が依頼を出したときと比べても増えているとのことだ。
確かに、数が多いように感じる。
森の中と言うのは移動がしづらい。
枝を払いながら、木の根などを避けつつも、なるべく音を出さずに移動をする。
そのため、平地であればもっと進んでいたはずの距離とは比べ物にならないくらい、前に進めない。
それなのに、結構な頻度でゴブリンを見つけているのだ。
今のところはすべてのゴブリンを全滅させている。
俺のウエストポーチには討伐部位であるゴブリンの耳が切り取られて入れてあるが、その数は50を上回っている。
血に濡れた耳を集めるというのは気分のいいものではなかったが、すぐに慣れてしまったくらいだ。
「またいたぞ。あっちだ」
エイダさんが小声で話しながら、指を指し示す。
そこにはゴブリンが数匹いた。
しかし、これまでとは少し違う。
ここに来るまでのゴブリンは粗末な棍棒や槍を手にしていたのだが、今度のやつは弓を持っている。
ゴブリンが弓を使えるのか、と思った。
「あれはゴブリンアーチャーか? 厄介だな」
エイダさんがそう言うので、俺は即座にスキルをペイントし直した。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
種族:ゴブリンアーチャー
Lv:13
スキル:弓術Lv1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
本当だ。
種族がゴブリンアーチャーと表示されていて、スキルまで持っている。
通常のゴブリンよりもレベルが上だ。
と言うかエイダさんと同じレベルだった。
しかし、これまでとのゴブリンとの違いはそれだけではなかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
種族:ゴブリンマジシャン
Lv:15
スキル:火魔法Lv1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
種族:ゴブリンリーダー
Lv:18
スキル:指揮Lv1、槍術Lv1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
5匹中で3匹が種族名が違っている。
慌ててエイダさんへとそのことを伝えた。
「あれがそうなのか。私は初めて見たが聞いたことはある。確かゴブリンの上位種ってやつのはずだ」
やはり、そういうのもあるのか。
生まれながらに種族が違うのか、Lvが上がって進化するのかどっちなんだろうか。
そんなことを考えてしまう。
「これは思っていたよりも群れが大きくなっているのかもしれないね。あとでヤザンの旦那にも相談してみよう」
なるほど。
元ベテラン冒険者であるヤザンさんならば、こちらが知らないことも色々と知っていることだろう。
「よし、とにかくあいつらをやっちまうよ」
エイダさんの掛け声とともに戦闘を開始する。
これまでと同じように弓からの攻撃を行う。
危険度としてはリーダーとマジシャンが厄介か。
俺がリーダーへと、エイダさんがマジシャンを狙って矢を放つ。
引き絞った弓から矢が飛んで行く。
だが、そこでゴブリンリーダーが僅かに反応した。
ハッと顔をあげて辺りを見渡そうとする。
だが、遅い。
周囲の状況を把握する間もなく、ゴブリンリーダーの脳が矢によって破壊された。
対して、エイダさんの狙ったゴブリンマジシャンは腹に矢を突き立てられながらも、なおもこちらへと敵意を向ける。
手に持つ身近な木の枝、あれは杖代わりなのだろうか。
その杖をこちらへと向ける。
――ステータスオープン:ペイント・スキル【刀術】
すぐに刀術スキルへと切り替えて、藪を突っ切るようにして走り込む。
口から青い血を流しながらも、何事がモゴモゴと言っているゴブリンマジシャンを切り倒した。
モンスターの使う魔法がどのくらいの威力があるのかわからないが、様子見している場合ではないだろう。
俺がゴブリンマジシャンを切り倒した頃になってようやく、他の3匹が動き出した。
だが、ここまでくるともう遅い。
残りの3匹もすぐに倒し、戦闘を終了した。
□ □ □ □
「ゴブリンリーダーか……。微妙なところだな」
村へと戻ってきたところで、俺とエイダさんはヤザンさんのもとへと訪れた。
先ほどのゴブリンたちとの遭遇について、相談をしにきたのだ。
ヤザンさんが言うところでは、ゴブリンリーダーが存在するということはゴブリンの群れが森の中にいることは間違いないとのことだ。
しかし、ゴブリンリーダーがトップに立つ群れであれば、そこまでの脅威度にはならないらしい。
だが、魔法を使えるゴブリンマジシャンがいることから、群れのトップではゴブリンリーダーではない可能性もある。
もっと上位種が存在している場合があるということだ。
そうなると、危険度が上がってしまう。
「上位種がいる群れは集落を作ることが多い。何処かに群れのすみかとなるところがあるはずだ。そこを見つけてくれないか。群れのトップがそこにいる可能性も高い」
なるほど。
思っていたよりも森の調査と言うのは大変なんだと言うことがわかった。
ギルドでみんなが仕事を受けたがらないはずだ。
まあ、引き受けた以上は最後までやろう。
とりあえず、群れの集落とやらを見つけに行くとしようか。




