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脳内補完

 翌朝からはエイダさんと一緒に森に入っていく。

 森の中の調査といっても初めてくる土地だ。

 やはり慣れた人があそこには何があると教えてくれるだけで非常に助かる。

 俺が調査を兼ねたゴブリン駆除をして、エイダさんが森の獲物を狩る、そういう手はずだった。


 しかし、この目論見は初日から崩れていた。

 原因はすべて俺にある。


「こら! もっと静かに移動しな!!」

「風向きを考えるんだよ! 向こうに獲物がいるのに、風上から近づくやつがあるか」

「これを見てみな。こっちは突撃猪の足跡、こっちはゴブリンのやつだ。いや、これぐらい普通わかるだろ」


 森に入ってから俺はエイダさんからダメ出しされまくっている。

 一言で言えば、森の中の移動について基本が全くできていないらしい。

 俺は前回の薬草採取の件を自分なりに反省し、森に入ってからは【探知】スキルを使用していた。

 その為、近くにいる動物やモンスターの位置を視界外からでも認識できている。


 だが、それだけでは駄目だったようだ。

 自分の身の隠し方、気づかれないように移動して近づく方法、風によるにおいの把握、追跡術、その他もろもろとできなければいけないことが全くと言っていいほどできていない。

 というよりも、日本にいるときに山に入ったことも無ければ、狩りをしたこともない俺にとっては、そもそも知らないことだらけだ。

 知らないということは、問題点について意識をしていないということで、改善の見込みもないということだった。


 最初はやんわりと教えてくれていたエイダさんだったが、だんだんとスパルタじみたお説教が始まってしまった。

 初日は調査どころか、森の浅いところで移動の練習に費やしただけで終わってしまっていた。


 【隠密】スキルでも使えば、気づかれないようになるとはいえ、今度は逆に相手の位置がわからなくなってしまう。

 エイダさんは俺の不甲斐なさに怒りながらも、教えてやろうという気持ちがあるようだ。

 ありがたい話なので、せっかくならスキルに頼らない方法を勉強しておこうと思った。

 できるようになるかは別としてだが。


 2日目からはもう少し森の中へと入っていく。

 この森に慣れたエイダさんがいるんだ。

 探知スキルはやめて、刀術スキルをつけて森の中を歩いて行く。

 昨日教わったことを思い出しながら、実践していく。

 前回よりは格段に動きが良くなったように感じる。

 それでも、ちょくちょくエイダさんからアドバイスをもらいながらも移動を続けた。


 そうやっていると、森の中で少しだけ開けた場所に何かいる。

 エイダさんが草むらの後ろの隠れるように、さっと姿勢を落とした。

 俺も同じようにしゃがみ込みながら、もぞもぞと動いているそれをみる。


 猪だ。

 異様に牙が長く、突き出したようになっている猪がそこにいた。

 あれが豚汁の材料、もとい突撃猪だろう。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】


 スキルの鑑定眼を使ってみる。

 前は突然冒険者に襲われ、その後フォレストウルフとの連戦になったため、動物やモンスターに対して鑑定をしたことがなかったからだ。

 鑑定眼を通して突撃猪をみる。


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 種族:突撃猪チャージボア

 Lv:9

 スキル:チャージLv1


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 以前、自由市で使用したときのように簡素な情報しか表示してくれない鑑定さんである。

 だが、色々と気になるところもある。

 まず、何と言っても俺の表示と違う点があることだ。

 体力や魔力といった項目がない。

 さらに、何故かスキルにもLvが表示されている。

 気になったので、突撃猪から少し視線をずらしてエイダさんをみる。


 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 種族:ヒューマン

 Lv:13

 スキル:槍術Lv1、弓術Lv1


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 これがエイダさんのステータスを鑑定した結果だった。

 名前くらい表示してくれてもいいだろと思ってしまう。

 それにしてもエイダさんのスキルにもLvの表示がある。

 これが普通なのだろうか。

 わからん。


 鑑定結果について頭を捻っていると、「ボーッとしてんじゃないよ」と怒られた。

 しまった。

 前方には突撃猪がいるんだった。


 アイツについては事前に情報を聞いている。

 敵を認識すると突き出た牙を向けて、猛然と突進してくるという。

 ただ、攻撃には特徴がある。

 まっすぐに突撃するために、力を貯めるという行動を挟まなければならないらしい。

 チャージを行うと、一歩目からトップスピードで突っ込んでくるがチャージ中のすきを突くか、そもそもチャージさせないかすればいい。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【弓術】


 刀術から弓術スキルに変更し、自作の弓を構える。

 エイダさんも弓を構えている。

 突撃猪はまだこちらには気がついていない。

 2人で呼吸を合わせて、同時に矢を放った。


「へ〜、やるじゃないか」


 今まであまり良いところを見せることができていなかった俺だが、弓での攻撃を行うとエイダさんからお褒めの言葉を頂いた。

 俺の放った矢は正確に突撃猪の心臓を貫き、一撃で仕留めていたからだ。

 エイダさんは通常ならば一撃目を足の付け根を狙って放つそうだ。

 そうすれば、突進攻撃もスピードが落ち、安全に仕留めることができる。

 森の中で使う短弓では一撃で心臓にまで届くかどうかわからないためだという。


「最初はへっぽこ冒険者が来たと思ってけど、良い腕してるじゃないか」


 そう言って、頭をガシガシと揺らしてくる。

 まあ、嫌な気分にはならない。

 ようやく役に立てるところを見せられたのだから。


「よし、それじゃあ、持って帰って解体するよ」


 上機嫌のエイダさんがそう言って倒した突撃猪へと近づいていく。

 解体か。

 当然、皮をはいで肉を切り分けるのだろう。


 しかし、エイダさんを鑑定した限り、槍術や弓術のスキルはあっても解体スキルはなかった。

 どうやるのだろう。

 普通に解体用ナイフを使ってやるんだろうか。


「そういえば、ヤマト。あんたは解体できるのかい? わからないってんなら教えてやるよ」


 相変わらず親切な人だ。

 授業料を払ってもいいくらいかもしれない。

 しかし、森歩きに関してはスキルの都合上覚えておきたいと思ったが、正直なところ解体を学ぶのはあまり気が進まない。

 猪一匹を解体するのにどのくらい時間がかかるか知らないが、そんなに短い時間でもないだろう。

 それならわざわざ覚えなくとも、スキルでやってしまったほうが効率がいい。


 そう思って、つい言ってしまった。


「解体はできるから大丈夫」


「ん? それならやって見せてもらうおうか」


 やべえ。いらんことを言っちまった。

 どうしよう。

 スキルでの解体は果たして一般的なのだろうか。

 今まで誰にもスキルで何かを作ったりするところを見せたことがなかったか驚かれてしまうのではないか。

 どうしよう。

 背中にタラリと冷や汗を感じる。


「何だ。嘘だったのか? お前私に嘘をついたのか」


「大丈夫です。できます。やります」


 エイダさんにギロリと睨まれて即答する。

 エイダさんは嘘をつかれるのを非常に怒る人間なのだ。

 昨日の夜も一緒に食事をしたが、その際「わからないことはちゃんとわからんって言えよ。出来もしないくせにカッコつけてできるとかいうやつは伸びねえんだからな」と言われた。

 まさにそのとおりだと思う。


 よし、覚悟を決めよう。

 突撃猪を解体スキルで解体してやる。

 驚かれたら、その時はその時だ。適当に誤魔化そう。

 俺の地元はみんなできるとでも言うしかない。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【解体】


 解体スキルをペイントで追加したら、その場でスキルを発動させた。

 いつも通りスキルの光が獲物を光らせて、一瞬で解体が終了した。

 地面には突撃猪の毛皮と牙、それに肉の一部がある。バラとモモだろうか。


 どうだ。

 エイダさんの方を向いて様子を伺う。

 少し呆然とした表情をした後、エイダさんが言った。


「やるじゃねえか。弓の腕もすごかったが、解体もすげえ手際いいじゃねえか」


 んん?

 エイダさんは確かに驚いている。

 地面に置かれた毛皮を持ち上げて、傷もない、脂肪もきっちり取り除いている、こんな丁寧な解体見たことがない、などと言っている。


 あれ?

 おかしくないか?

 手際がどうとか関係ないんだけど。

 いまだにエイダさんは俺の「手際の良さ」をべた褒めしている。


 もうちょっと試してみようか。

 そう思って、エイダさんに聞いてみる。


「こいつの牙、もらってもいいかな? 矢じりにしようかと思うだんけど」


「ああ、いいぜ」


 あっさりと許可をもらえたので矢じりを作る。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【細工】


 細工スキルを発動させて、牙がひかり、矢じりが出来上がった。

 軽く30個以上の矢じりが手の平の上にある。


「おっ、これもすげえうまいじゃねえか。手が器用なんだな。この量をあっという間に削るなんて」


 いや、削ってはいないです。

 これは、もしかしてもしかするのか。

 俺のスキルはこっちの世界の人に見られても都合のいいように脳内補完されてるのか。

 ステータス画面が俺以外に見えていなかったところで疑問を持つべきだったかもしれない。

 この考えに間違いないなら、人前でも気にせずスキルを使っていくことにしようか。

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