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女狩人

 リアナから3日かけてたどり着いたラクス村は、人口300〜400人くらいの農村だった。

 村の中はところどころに家が建っており、その周りの土地が畑になっているようだった。

 村の中心部は村長の家や食料保管庫となる倉などの村にとって重要な施設がかたまって建っており、その周りを木の杭と空堀で囲っている。

 もし何かあれば、村人たちはここへ避難するのだろう。


 村についた俺はまずホゼさんに連れられて村長のお宅へ案内された。

 仕事の説明などもそこで行われるようだ。

 村の中を歩きつつ、周りの景色を見る。

 畑では農作業をしている人を見かけるが、よそ者の俺を見る目が多少厳しいくらいで平和そうな印象を受ける。

 現時点ではゴブリンの影響はないのだろう。


 村長宅へついた。

 平屋だが大きな家だ。

 城郭都市のリアナでは家といえばレンガ造りだったが、この村では木製の家ばかりで、村長の家もそうだった。


 ホゼさんの後を追うように家の中へと入る。

 レンガの建物では気にならなかったが、木で作られた家に入るときには靴を脱ぎたくなるのは日本人の習性なのか。

 床が汚れるのとか気にはならないんだろうかと疑問に思う。


 入口から入っていき、案内された部屋につくと、部屋の中には3人ほどが座っていた。

 おじいさんと中年男性、それに若い女性だ。


「失礼します。冒険者ギルドで森の調査依頼を受けた冒険者のヤマトです」


 よくわからんが、真ん中に座っている爺さんが村長だろうとあたりをつける。

 爺さんに会釈しながら名乗りを上げると、しかし別方向からの返事が来た。


「おいおい、わざわざ冒険者を連れてきたと思ったら、随分若いやつを連れてきたもんだね」


 そういうのは爺さんの隣に座っている女性だ。

 ていうか、誰なんだ?


「私はここの森で狩りをしているエイダってもんだ。森でのことは私が一番詳しいんだ。入るのは構わないが、私のいうことは絶対聞くんだよ」


「分かりました、姐さん。よろしくお願いします」


 エイダさんと名乗る姐御肌の女性の雰囲気につられて、つい適当に返事をしてしまう。


「おお、なんだ、物分りの良いやつじゃねえか。よし、私が色々教えてやるよ。わからないことがあればなんでも聞いてきな」


 これは意外と気に入られたと思っていいのかな?

 それより、この村の狩人って女性だったのか。


「ありがとうございます」と頭を下げておく。

 森に詳しいらしいし、なるべく嫌われないようにしておこう。

 そう考えていると、今度はおじいさんが話し始める。


「そこのエイダが最近森の中でゴブリンが増えてきているのを確認している。君にはその調査をお願いする。調査の間はこちらが用意する家は自由に使ってくれてかまわない。ただ、夜はあまり出歩かないように」


 この爺さん、挨拶がないまま話し始めた。

 まあ、おそらく村長で間違いないんだろう。依頼のことを話しているし。


「分かりました。ゴブリンに遭遇して駆除した場合、討伐部位の耳はこちらがもらっていいんですね?」


「ああ、そうしてくれ」


「調査の結果、森の中でゴブリンの群れを発見した場合はどうしましょうか」


「その場合はわしに報告してくれ。ホゼに手紙を持たせて増援を呼びに行かせる」


 それなら最初から駆除依頼で良かったんじゃないかとも思ってしまう。

 小さな群れだったら、俺が間引きして時間を稼ぐだけでお茶を濁すのかもしれないな。


「そういえば、この村は元冒険者の人が護衛をしていると聞きましたが」


「クックック。そこにいるヤザンの旦那がそうだよ。夜、寝ぼけて転んで怪我するなんざ、もう年ってことだね」


 笑うエイダさんの言葉から、村長の右に座っている中年男性がそうなんだろう。

 たしかに腕なんかには切り傷がある。

 がっしりした体格の持ち主だ。

 ただ怪我をしているようには見えないが。


「よろしくお願いします、ヤザンさん。ギルドで聞いた話だと怪我の治りは1ヶ月ほどだと聞きました」


「ああ、そのぐらいだ。腰を痛めてな。ただ、全く動けないわけではない。君はエイダと一緒に森に入ってくれ。もし、村にゴブリンが出てもその時は俺が対処しよう」


 エイダさんに年だなんだと言われてもあまり嫌そうな顔をしていない。

 きっと信頼関係があるからエイダさんも冗談をいうのだろう。

 元ベテラン冒険者の信頼があるのなら、エイダさんも実力のある狩人に違いないと判断した。


「調査は明日からお願いする。エイダ、空き家へ案内してやってくれ」


 村長がそう言って話をまとめた。




 □  □  □  □




 村の外れにある空き家へと案内される。

 見た目は家というより完全に小屋だ。

 中には以前住んでいた住人の物が残っており、それらを使ってもかまわないらしい。

 ただ、ベッドはなくわらを使うようだ。

 シーツを藁の上にのせてから、そっと上に身体を置く。

 思ったよりも悪くはなさそうだ。

 ここに来るまで野営で地面の上に寝ていたことを考えると、随分マシとすら思えた。


「ヤマト。荷物を置いたらついてきな」


 家の外からエイダさんに声をかけられる。

 エイダさんの家はこの家よりもさらに森の近くにある。

 今日はエイダさんに食事を提供してもらう事になっていた。


 エイダさんは20歳代半ばくらいに見える。23〜25くらいか?

 赤い髪の毛をしており、ポニーテールとして後ろでまとめている。

 後ろからついていくと、フリフリと揺れる髪の毛を自然と目でおってしまっていた。

 身長は160cmくらいだが、自然の中で鍛えられた肉体のため力強さを感じる。

 しかし、健康的に焼けた肌と引き締まった身体は決してゴツくはないため、キツめの目つきと合わさって、どこか豹のような印象を受けた。


 エイダさんの家にお邪魔する。

 こちらも木製の家だ。

 中を拝見すると槍や弓などがいくつも置いている。

 狩りの道具として利用するのだろう。

 家の横は納屋のようになっていた。

 もしかすると、解体などはそっちでやっているのかもしれない。


 椅子を勧められ、座って料理ができるのを待つ。

 かまどに薪をくべて鍋を煮立てている。

 それほどの時間はかからずに食事が用意された。


 出された料理をみて驚く。

 これはもしかして豚汁ではないだろうか。

 おそるおそる器の中身をすくって口に含み、咀嚼する。


「うまい」


 肉は豚よりもにおいがきつい。

 なんというか野性味がするといったらいいのか。

 茶色のスープは味噌っぽいが微妙に違う気もする。

 料理について詳しくないため、どう違うのかわからないのがもどかしい。

 豚汁に似た、しかし豚汁とは微妙に違う食べ物は、それでも間違いなく美味しかった。


 だが、これを食べると無性にお米が食べたくなった。

 こちらの世界に来てからパンばかりであっても、決して嫌ではなかった。

 しかし、この味付けで食べるのならばパンよりもお米のほうがいい。


 コメが食いてえ。

 料理スキルの不思議な力でポンとコメが入った料理が出てくれないものだろうか。

 カレーのルーや生魚を用意してスキルを使ったら、コメが付いてきました的な。


 お米のことを考えつつも、この豚汁もどきを食べ続けていた。

 気がついたら、おかわりもしていたようだ。

 エイダさんも少し呆れたような顔をしている。


「そんなに気に入ったかい? あたしの突撃鍋は」


「この料理、突撃鍋っていうんですか? なんの肉です?」


「ああ、森に住む突撃猪チャージボアの肉だね。豆から作った調味料で作ったスープと合うんだよ」


「何杯でもおかわりできそうです。姐さんは料理上手なんですね」


「よせよ。おだてたってこれ以上なんもでないよ」


 そういうエイダさんは少し照れたのか顔を赤くしてそっぽを向く。

 なかなか可愛らしい反応をする。

 それまでの姐御みたいな態度との違いにギャップを感じて、つい笑ってしまった。

 それを見て、「な、何笑ってんだよ」と怒るところもまた魅力的に感じてしまった。

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