初めての依頼
翌日はすっかりと天気が良くなっており、雨が降りそうな気配は微塵もない。
今日は森の方にでも行ってみるか。
そう思って冒険者ギルドへと歩いていった。
早朝のギルド内は多くの人がいた。
掲示板の前で素材の値段の確認や依頼書などを真剣に見ている。
冒険者はこわもての連中ばかりでそんなにいいイメージがなかったが、その真剣な姿を見ていると真面目に仕事として活動している人のほうが多いのかもしれないと感じた。
見ていると女性の冒険者もいないわけではないようだ。
若い冒険者もいる。が、見た感じそのほとんどが貧弱な装備しかしていない。
武器の値段が高いからだろうか。持っているのは小さなナイフの他、棍棒が多いようだった。
俺は掲示板には向かわずにカウンターへと移動した。
どんな依頼を受けるか相談してみようと思ったからだ。
アイシャさんが受付している列に並び、順番が来るまで待つ。
10分ほど待って、俺の番がきた。
「おはよう。アイシャさん。ちょっといいかな。どんな仕事を受けようか相談したいんだけど」
「おはよう、ヤマト」
お互いに敬語抜きでフランクに話していく。
「実はちょっと困っていることがあるの。割のいい仕事ではなくて、むしろ儲けが出ない可能性もあるのだけど、聞いてくれない?」
アイシャさんがそう言ってくる。
「ん? どんな話? 新人でもできそうな仕事なの?」
「ありがとう。依頼はこの街から南西に3日ほど移動したところにある村からなの。村から少し離れたところに森があるのだけど、最近そこにゴブリンが多くなってきたらしいわ」
ゴブリンか。そういえば、まだ見かけたこともないな。
そこまで強いモンスターではなかったはずだ。
「村がゴブリンに襲われて困ってるってこと?」
「いいえ。まだ村にはゴブリンの被害はないわ。ただ、森の中で狩りをしている村人が危険性を訴えているの。森の中にゴブリンの群れができたんじゃないかって。でも、村にはまだなんの被害もないから、討伐依頼をだすか村で揉めたそうなの」
「あれ? その話だと討伐の依頼が出てるわけじゃないの?」
「そうよ。討伐依頼を出すとその分依頼料は必要になるから。そこで、討伐ではなく、森の調査依頼を出しに来たらしいわ。村としては調査のついでに群れを見つけて少しでも駆除してほしいんだと思う」
なるほど。
村としてはなるべく経費削減したいってことなんだろう。
でも、モンスターのいる世界でそんなことをしていたら、あっという間に村が無くなりそうな気もするんだけど。
安全保障とかの考えはないんだろうか。
「もともと、あのあたりの森はそんなにモンスターが出ることがなかったのよ。それに狩人の人とは別に、村では元ベテラン冒険者が定住して、村の護衛もしていたみたい。ただ、最近怪我をして1ヶ月ほど森には入れないから、その人が治るまで様子見したいって事情もあるそうよ」
まあ、納得できる事情はあるということか。
問題は依頼料が安くて、それなりに稼げる冒険者はわざわざ3日もかけて行きたくはないのだろう。
依頼料は安いが調査期間中は村の空き家を使っていいし、村から食事も用意してくれるという。
戦闘経験を積む機会だと思えば、この依頼受けてみても良いかもしれない。
俺は依頼を受けることをアイシャさんに告げた。
□ □ □ □
「いやー、助かります。誰も依頼を受けてくれないかもしれないと言われていたものですから。実際、もう何日もここで待っていて、諦めようかと思っていたんです」
そういうのは、今回の依頼をギルドへと持ち込んだ男性だ。
南西にある「ラスク村」からやってきたホゼさんというらしい。
駆除依頼ではなく、森の調査依頼をするという決定をした村長は、せっかくリアナの街まで依頼を出しに行くならついでに物も買ってこいと言ったらしい。
ロバにつなげた荷車には村では手に入らない生活雑貨が積まれている。
依頼を受けることにした俺は、ホゼさんが滞在していた宿へと向かい顔合わせをした。
そして、その直後に村へ向かって出発したというわけだ。
ロバが引くゆったりした荷車の上に最初は乗せてもらっていたが、途中からは降りて歩いている。
思った以上に振動がひどくて、逆に疲れてしまったからだ。
今の身体はマラソン選手よりも早いスピードで100分間走り続けられる。
歩いて行っても平気な身体で助かった。
リアナからラスク村まではあまり広くはない道を通っていく。
途中に立ち寄れる道路そばの村や町というのはないらしい。
1日で歩ける距離のところで一応広場みたいになっているところがあるため、そこまで行って夜は野営するということを続けた。
この間、思わぬ収穫があった。
【料理】スキルが予想以上の効果を発揮したのだ。
最初はホゼさんが用意していた黒パンと塩漬け肉を食べていた。
黒パンも塩漬け肉も長期保存が可能なので、旅をする人はよくこれを食べるらしい。
しかし、硬いパンと塩辛い肉を食べていても味気ない。
そう思って自分で料理を作ってみることにしたのだ。
その辺に生えていた適当な木の枝を切り落とし、蔦を取る。
そして、【木工】スキルを発動させるとあっという間に弓が出来上がった。
さらに、以前残して置いたフォレストウルフの爪や牙を【細工】スキルで弓矢の矢じりへと変える。
さらに、この矢じりと木の枝を【木工】スキルで矢にすると、なぜか矢じりとは反対側には鳥の羽根までついた矢が完成した。
完成した弓矢を使って、近くにいた「穴兎」を狙う。
穴兎は小柄な体格にしては大きな耳を持つウサギさんだ。
音に敏感で人やモンスターの気配を察知すると、すぐに巣穴へと引っ込んでしまうらしい。
しかし、【弓術】スキルを付けた俺の矢は逃げる時間すら与えずにあっさりと仕留めることができた。
ホゼさんにこのあたりで食べられる野草を教えてもらった。
この野草と解体した穴兎の肉を用意する。
さて、このときになって、どうやって料理をしたものかと考えた。
俺は料理を全くした経験がなかったからだ。
いつも母が料理してくれていたものを食べるだけだったし、母がいないときには妹が作ってくれていたからだ。
というか、自分用の調理器具すらもっていない。
どうしようと食材を持ちながら立ち尽くす。
とにかく、これで何が作れるのかだけでも調べようと思い、料理スキルをつけた状態でステータス画面をチェックした。
【スープ】と【香草焼き】の2種類と画面には表示されている。
ふむ、温かいスープが飲みたいなと思った。
黒パンの硬さを考えるとスープに浸して食べたいという理由もあったからだ。
そう考えていると、急に手に持つ食材が光り始める。
これは、すでに何度もみたスキル発動時の光だ。
光が収まると、俺の手にはいい匂いのするスープがあった。
ご丁寧に、木の器とさじまでついている。
立ったまま、さじでスープを一口すくって口へと運ぶ。
きちんと味がついていた。
存在すらしていなかったはずの塩と胡椒の味までついている。
よく考えれば、今まで使った他のスキルでも存在しない材料がどこから現れていたこともある。
そう考えると料理スキルがこうなってもおかしくはないのかもしれない。
しかし、てっきり自分で調理をしなければいけないものだと思っていたので驚いた。
だが、それにしてもこの料理スキルは助かる。
何と言っても、肉と草を用意しただけで水分補給まで可能なのは、ものすごいメリットと言えるだろう。
これなら、手ぶらで森に入っても連日調査を継続させても平気かもしれない。
せっかくなので今回の調査は、森の奥の方まで調べてみよう。
そんなことを考えながら移動を続け、ようやくラクス村へと到着した。




