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マグナタイト

「ふ〜、死ぬかと思った」


 倒れ伏した溶岩竜の胴体から鬼王丸を抜き取りながらつぶやいた。

 気楽な感じでつぶやいてみたものの、体の状態はひどい。

 たぶん、指なんかは何ヶ所も骨折しているだろうし、腕の骨もボッキリ折れてしまっている感じだ。

 肩も脱臼していて腕がブランブランと揺れているが、その振動ごとに痛みを感じる。

 回復魔法でちゃんと治るだろうかと心配になる。


「みんな、大丈夫か?」


 そう声をかけると、近くにフィーリアがよってきた。

 フィーリアは大丈夫そうだ。

 攻撃を受けたのは火竜弾くらいだったし、それもうまく氷壁で向きを反らして防いでいた。

 特に外傷もないだろう。

 もっとも、怪我があったところで俺と戦ったときのように何もなかったかのように動き出すことができるんだろうけど。

 だが、そのフィーリアのそばに歩いてきた女王雪豹のシリアは痛々しい姿だった。

 マグマ色をして体表が熱くなっていた溶岩竜の背中に飛び乗って、何度も攻撃していたからだろうか。

 足の裏を火傷したに違いない。

 ヒョコヒョコと足を引きずるように歩いている。

 シリアの自慢のプニプニとした肉球も怪我をしているに違いない。


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【光魔法】


 俺は光魔法をペイントして、シリアに回復魔法を使った。

 肉球と爪、それから口も怪我していたのが回復していく。

 ただ、やはり怪我の具合がひどいのか完全回復までには至らなかったようだ。


「大丈夫か? 悪いけど残った痛みがあったら、あとは自分で回復してくれよ」


 シリアの状態もひどいが、俺もたいがいひどい状態だ。

 だが、それ以上に死にかけている人がいる。

 全身がだるくなって、歩くのもきついがなんとかふらつきながらも、俺はガロードさんのそばまで歩いていった。


「大丈夫ですか? ダンジョンの主、倒せましたよ。ナイスガードでした」


 そう言いながら倒れているガロードさんのそばに座り込む。

 ウエストポーチから魔力ポーションを取り出して口に流し込みながら、ガロードさんへと回復魔法をかけていく。

 溶岩竜の火竜弾を盾で防いだガロードさんだが、その盾はボロボロだ。

 高熱の火竜弾を受けたことで表面は溶けてしまっているし、後ろ側の持ち手は歪んでいる。

 だが、その持ち手をよく見ると人の手で握った痕がくっきりとついている場所があった。

 きっとあの時、ガロードさんは火事場のクソ力と言うやつを発揮したのだろう。

 尋常ではないほどの力が瞬間的に出せたからこそ、一瞬とは言え俺が逃げる時間をかせぐことが出来たのだ。

 おかげで、ガロードさんも腕が折れて両腕は大きく火傷してしまったのだが。

 俺が回復魔法を念入りにかけている間、フィーリアも火傷の部分を冷やしたりして手伝ってくれていた。


「なあ、ヤマト。俺は役に立っていたか?」


「もちろんですよ。尻尾の攻撃を防いでくれたときも、火竜弾を止めてくれたときもほんとに助かりましたよ。あれがなかったら少なくとも俺は今頃その辺に倒れていたでしょうね」


「……そうか、そうだな。俺たちはダンジョンの主に勝ったんだな」


「ええそうですよ。すごいギリギリでしたけどね。というか、8年前もよくあんな化物に勝てましたね」


「いや、前に戦ったときはあそこまで強くなかったはずだぞ。口から出した灼熱の岩、おまえの言う火竜弾ってやつか。あれなんかももっと小さかったからな」


「え? そうなんですか。じゃあ、今回のほうが強かったってことですかね」


「そうだろうな。体も一回り以上大きいみたいだし、間違いないだろうな」


 何だよそりゃ。

 こっちはダンジョンコアがほしいだけだって言うのに、わざわざ強いやつがこんなところで守ってなくてもいいだろうに。

 まあ、なんとか勝てたんだから贅沢は言わないけどさ。


「っと、回復はこれが限界ですね。ちょっと両腕の火傷のあととか残るかもしれないです」


「そんくらい気にしないさ。むしろ、あの腕を治してくれただけでもありがたいぜ」


 ガロードさんの腕を確認してみると、何ヶ所も焼けただれたようなケロイドが残ってしまった。

 だが、指や腕の動きを確認すると多少引っ張られる感じはあるようだが、一応動いている。

 少なくとも日常生活には問題ないだろうし、リハビリを頑張ってくれればまたダンジョンに潜ることもできるだろう。

 もっとも、ずっと目的としていたダンジョンの主を倒したのだから、今後はダンジョンにこだわることもないんだろうけど。

 俺はガロードさんの治療を終えてから自身の治療に取り掛かる。

 正直、痛すぎて笑いそうになるくらいガンガンと神経に響いてくる感じがしていた。

 こんなにもすごい痛みが出るとは思ってもいなかった。

 突進突きは今後控えることにしよう。

 俺は入念に回復魔法をかけまくりながら、そう決意した。




 □  □  □  □




「おおー、すっげー。マジでこんな少人数でダンジョンの主を倒したんっすね」


 俺が自分の傷を治している間にガロードさんが1つ上の階層で待っていた運び屋5人を連れてきた。

 それぞれが討伐された溶岩竜を見上げて感嘆の声を上げている。

 ガロードさんの目的だったダンジョンの主の討伐だが、自己申告だけでは意味がない。

 やはり証拠となるものが必要になる。

 こうして討伐したからには有用な部位を持ち帰る必要があるが、そのなかでも溶岩竜の頭となる部分を持っていかなければならない。

 竜種の1種である溶岩竜の顔はその大きな口から飛び出す牙も迫力満点で、この頭を持って帰って見せれば誰だって驚くだろう。

 実際のどれ程強かったかを知らなくとも、見ただけでそれが伝わるのが竜の頭というものだ。

 ただ、その頭部を持ち帰るためには切り落としておかないと運べない。

 運び屋たちはそれぞれの手に斧やハンマー、ツルハシなどを持ち、溶岩竜の死体をガンガンと叩いていく。


「こいつの体って死んでもこんなに硬いんですね」


「ああ、そういや昔持って帰ったときもそうだったな。確か熱すると軟らかくなって加工しやすくなるのに、冷えるとすごい硬くなるから武器にも使いやすい金属だって話だったはずだ」


 そういう情報は先に言っとけよ、と思わなくもないが、戦っていたときの感覚は間違いではなかったのが分かった。

 そんな金属もあるんだなと思いながら、俺が切った尻尾に近づいて鑑定してみる。

 溶岩竜の体を覆う鱗部分はマグナタイトという物質らしい。

 せっかくなのでこいつも武器に出来ないものだろうか。


「ガロードさん、この尻尾のところの金属もらってもいいですか?」


「ああ、いいぞ。欲しかったらどんどん持っていけ。どうせ溶岩竜の体は大きすぎて全部は持って帰られないんだからな」


 許可が出たので【解体】スキルで鱗をとる。

 そして、【鍛冶】スキルにペイントし直して、その鱗、つまりマグナタイトをインゴット化した。

 溶岩竜の体にと同じ赤黒い色をした金属の塊を手に持ち、ステータス画面の鍛冶スキルのところをタップして、制作できるものをチェックしていった。


「お? 何だこれ。こいつを作ってみるか」


 俺は鍛冶で作れるアイテム一覧から気になったものを選択してスキルを発動させた。

 手に持っていたマグナタイトと腰に吊るしている鬼王丸が反応して新たな刀へと生まれ変わる。

 持っていたはずのマグナタイトがなくなり、腰の刀に変化が起きた。

 今までなら刀身70cmほどで柄の部分を入れても1mくらいだった刀の長さが伸びている。

 刀身だけで1m以上ありそうな長めの刀に生まれ変わっていた。

 柄に手を当ててゆっくりと引き抜く。

 以前までは刀身の色は緑を基調にして青色が混じっている感じだったが、今は薄い赤紫のような感じになっている。

 なんというか、刀の色としては少し違和感を感じる色のように思う。

 妖刀みたいになってしまったけど、呪いとかついてないよな?


 ――ステータスオープン:ペイント・スキル【鑑定眼】


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 種類:閻魔刀

 アビリティ:力30%UP・硬化・魔刀・炎刀


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 おお、なんじゃこら。

 一気にアビリティが2つも増えている。

 硬化というのは多分そのままの意味で刀が硬くなるということだろう。

 炎刀の方を試してみよう。

 そう思って、刀に魔力を流してみた。

 すると、薄赤紫色だった刀身の色が変化する。

 溶岩竜の色が変わったようなマグマ色とでも言うような赤みの強い色へと変化していた。

 しかも、ただ色がわかっただけではない。

 スッと刀を振ると刀身から火の粉が飛び散っている。

 多分、いま刀身に触れれば火傷するはずだ。

 炎の魔法剣と言うよりかは、刀身そのものが熱せられたヒートソードのような効果が炎刀の正体ではなかろうか。

 これは思った以上のものが手に入ってしまった。

 俺は嬉しさのあまり、ずっとこの閻魔刀を振り続けていたのだった。

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[一言] 閻魔刀…やまと?(デビメイ脳
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