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決着

 驚くべきことに、ガロードさんは溶岩竜から放たれた火竜弾を盾で受け止めていた。

 盾に衝突した火竜弾は大砲の弾と何ら変わらない威力を持つであろうことは間違いない。

 だが、それを人間の身で受け止めていたのだ。

 スキルの怪力や服用した剛力薬の効果があるとはいえ、そんなことが可能なのかと驚く。

 しかし、やはり力負けしてしまったようだ。

 ガロードさんの体が火竜弾の着弾から数拍遅れて後方へと吹き飛ぶ。

 俺の横を通り過ぎるように吹き飛ぶ姿を目で追うと、盾を持っていた両腕は変な方向へと曲がり、火傷もしているようだった。

 そのあまりに痛々しい姿に、「ウッ」と声が漏れかけたが我慢する。

 そして、俺も痛む体を無理矢理に動かすようにして、横方向へと飛ぶようにして移動した。


 ガロードさんのガードは完全ではなかったけれど、無意味でもなかった。

 わずか数拍という短い時間ではあったが俺はその時間を使って火竜弾を回避することに成功したのだ。

 吹き飛んだガロードさんの様子が気になる。

 だが、次にいつまた溶岩竜から火竜弾が放たれるかわかったものではない。

 ウエストポーチに手を入れて、適当に数本のポーションを取り出して地面に横たわるガロードさんに向かって放り投げる。

 ポーションは飲むほうが効果があるのだが、体の傷がある部分にふりかけるだけでもある程度の効果が見込まれる。

 おそらく全身傷だらけになっているであろうガロードさんにはこれだけでも有効なはずだ。


 ポーションを投げたあとは、再び溶岩竜に向かっていった。

 タックルを食らって結構な距離を飛ばされてしまっていたので、近づくまでに少し時間がかかってしまう。

 その間に次の火竜弾が来ないかとヒヤヒヤしてしまう。

 だが、そうはならなかった。

 フィーリアの攻撃が溶岩竜へと命中したからだ。


 氷精であるフィーリアの精霊魔法は当然のことながら氷を使うことになる。

 もしここが生まれ故郷の雪山であれば、もっと高威力の攻撃をバンバン連発出来たのかもしれない。

 だが、ここは洞窟になったダンジョンの中であり、その力を完全に発揮できずにいた。

 そのために、フィーリアが行ったのは周囲の環境を変えることだったようだ。

 いつからそれをやっていたのかは分からないのだが、最初と比べるとダンジョン最下層の中の気温が下がってきている。

 溶岩竜による火竜弾で地面が熱せられているというのにだ。

 つまりこれはフィーリアの魔法によるものであり、総攻撃の前の下準備が完了したことの合図でもある。

 ダンジョンの地面の上にはうっすらと白い雪が降り積もっていた。


 地面に積もった雪から氷の蛇が発生した。

 それも1匹だけではなく氷の蛇の数は軽く10を超える。

 その蛇が生きているかのように体をくねらせながら溶岩竜へと近づいていく。

 氷蛇が狙ったのは硬い金属の鱗がある場所ではなく、すでに鱗がなくなっている場所だ。

 すなわち、俺とシリアが必死につけた左右の後ろ足や尻尾の傷口に対して氷蛇は近づいていき、そこへ牙を突き立てた。

 ガブリと噛み付いた氷の蛇を、溶岩竜が体を動かして引きちぎっていく。

 だが、その抵抗はさほどの効果も生まなかった。

 すでにこの空間には雪が降り積もっており、そこからいくらでも氷蛇を出すことが出来たのだ。

 1匹の氷の蛇を引きちぎる頃には次が、さらにその次の蛇が噛み付いていく。

 何度かそれを繰り返すと、新たな変化が起こった。

 蛇同士がその体を寄せ合い、お互いの体をクルクルとねじり合っていったのだ。

 まるでそれは紐を結うというよりも、鋼鉄のワイヤーを作っているかのような光景だった。

 3匹の蛇が絡み合い、太い1本の体になったかと思うと、さらにそれが他のものと絡み合っていく。

 そうすることで、足と尻尾に噛み付いた氷蛇は溶岩竜が体を動かすだけでは切り離すことが出来ないくらいの太さと強度を持つに至った。


「グアアアァァァァァ」


 地面に縫い付けるような形で氷の蛇に噛みつかれている溶岩竜が叫ぶ。

 いや、その叫びはどちらかと言うと痛みに泣いているかのような声色をしていた。

 動きを封じられた溶岩竜の背中にシリアが飛び乗り、あちこちに噛み付いていたのだ。

 まだ、溶岩竜の体表はマグマのような色をしている。

 おそらく体に触れれば熱いはずだ。

 氷の蛇がすぐに溶けてしまわないのは、ひとえにフィーリアが生み出した氷だからだろう。

 それなのにシリアは口を大きく開けて噛みつき、4本の足の先にある爪を伸ばして溶岩竜の体を切り裂いていく。

 シリアの体からジュウと嫌な音もしている。

 平気なはずがないのだ。

 ただ、標的を倒すために、それだけのために全力を尽くしている。

 俺もいつまでもその姿を見ているわけにはいかない。


 ようやく、俺も溶岩竜の元へとたどり着いた。

 あと数歩進めば溶岩竜の体へと刀が届く距離にいる。

 鬼王丸にありったけの魔力を流し込み、魔刃を発動させた。

 ここで決める。

 強くそう思ってアーツを発動させた。


 ――突進突き


 正面から走り寄っていた俺だが、その姿を溶岩竜は追えていなかった。

 フィーリアによる氷の蛇に翻弄され体の自由を奪われて、背中側からはシリアにあちこちへと噛みつかれ切り裂かれている。

 そのことによってこちらへの注意が薄れていたのだ。

 起き上がってからここまで来る間に全力疾走で駆け抜けてきた。

 自分でもこんなに早く走れるのかと思うくらいのスピードだと思う。

 そして、そのスピードを利用した攻撃用のアーツを使って攻撃を行う。

 突進突きというアーツはいわゆる自爆技と言っていいのかもしれない。

 対象に全力で走っていき、そのままの勢いで手にする刀ごと突っ込むというアーツなのだ。

 当然相手にぶつかることになるので、俺もダメージを負ってしまう。

 だが、そんなことは気にならなかった。

 タックルで吹き飛ばされた俺も全身に痛みが走っているが、倒れているガロードさんや今も攻撃しているシリアも傷を負っている。

 ここで決めなければさらなる傷を負うことに、いや、下手をすれば死んでしまうかもしれないのだ。


 突進突きによって溶岩竜に激突する。

 まるでトラックとの正面衝突の事故のような、あるいは高い崖から転落して地面に落ちたとでも言うような衝撃を感じる。

 俺の突進突きを受けた溶岩竜の方はその体が仰け反ることもなかった。

 いや、その表現は正確ではない。

 フィーリアの氷蛇がガッシリと体を固定しており、仰け反ることすらできなかったのだ。

 アーツである突進突きによる攻撃力が逃げることも、そらすことも出来ない状態で、溶岩竜の首の下、胸に当たる部分へと突き刺さる。

 その一撃は思った以上の破壊力を持っていた。

 まっすぐに突き出した刀が溶岩竜の胸へと突き立てられ、さらにそこから俺の体ごと胴体へと押し込まれていく。

 俺の腕がボキボキと音を立て、肩がガコンと外れる音を聞きながら、腕がまるまる突き刺さった。

 だが、それでこの攻撃は終わりではなかったようだ。

 まるで刀の刀身が伸びたかのように、胸から胴体を貫いて、切り裂いた尻尾の切断面に至るまで攻撃が通ったようだ。

 数mもある体を真っ直ぐに貫くように溶岩竜の体を衝撃が駆け抜ける。

 全身を固定されて動けないにも関わらず、大きくビクンビクンと痙攣し、次第にそれが収まると力を失った溶岩竜の体は自身を支えることが出来ず、大きな音をたてて地面へと倒れ伏した。


 こうして、俺たちの長かったダンジョン攻略は終わりを告げたのだった。

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