表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/116

今後について

 アイシャさんのお悩み相談室が終わった。

 今は店から出て、2人ならんで歩いている。

 今回話を聞いてもらって、かなり楽になったのだが、少しだけ気になっていることがある。


「話聞いてもらって助かりました。でもなんでこんなに親身に話を聞いてくれたんですか」


 何せ昨日受付のカウンター越しに業務上の話をしただけの関係だ。

 その割にはかなりいい対応をしてもらっていると思う。

 さすがにギルドメンバー全員の相談にのっているということもないだろう。

 そのことが気になっていたのだ。


「実はね。ここだけの話、ヤマトさんは昔亡くなった弟によく似ているの。それでつい、気になってしまっていて」


「はい? 弟ですか?」


 そんなバカな。

 こんな美人の弟に似る要素などないはずだが。


「ええ。そのきれいな金髪と白い肌。それに透き通るような青い瞳がそっくりだったから」


 なんのこっちゃ。

 俺は日本人で、黒目黒髪のはずだ。

 そう思ったところで思い出した。

 今の俺は、ペイントスキルを使って金髪碧眼の白人へとクラスチェンジしていたんだった。

 あれ? てことは弟要素は全部まがい物なんだけど。


「ごめんなさい。勝手に弟扱いしていろいろ言ってしまって」


「大丈夫です。むしろ弟にしてください! これからはお姉ちゃんと呼ばせてください!」


 また、わけのわからないことを口走ってしまった。

 結局、姉と呼ぶ許可はでず、アイシャさんと呼ぶことになったが、向こうからはヤマトと呼び捨てにしてもらうことに成功した。

 よくわからんが若干の好感度上昇と言えるだろう。

 あと、この外見はしばらく続けよう。

 ほんとは違うとばれたら、だましていたのねと言われてしまいそうだし。




 □  □  □  □




 翌朝、宿のベッドから起きると、外は雨が降っていた。

 そういえば、雨具の類は持っていないことに気がつく。

 外を歩く人を見ると、濡れてもかまわずに歩き回る人もいれば、カッパを着ている人もいる。

 傘をさす人がいないところを見ると、ほとんど普及していないのだろう。


 宿の酒場でぼんやりと食事を食べる。

 わざわざ雨の中、森に行って薬草を採取したり、モンスターと戦うこともないか。

 今日は休みにするか。


 そう決め、食事が終わってからもイスに座って考えを巡らせる。

 今後、どうしていくかだ。


 一晩寝て、気持ちに区切りもつき、冷静になると今度は文句が出てくる。

 理由のよくわからない絡みかたをしてきた冒険者に対してではない。

 会社に対してだ。


 確か、入社直後の説明では最初の異世界転移ではあまり危険のないところへ行くという話だったのではなかったか。

 それがどうだ。

 道を歩いているだけで絡まれた。まあこれは日本でもあるかもしれない。

 しかし、返り討ちにしたら、その後お礼参りに殺しに現れるような連中がいる世界が安全とは言えないだろう。

 あれだ、もし心の傷とやらのPTSDになったら、会社を訴えてやろう。

 異世界でうけた心の傷に対して労災はおりるのだろうかと考え込んでしまう。


 しかし、冒険者活動は今後も続けていくつもりだ。

 というのも、あの会社での仕事を続けるのであれば、今後はほかの異世界へと派遣されることもあるのだろう。

 その世界が、この世界よりも危険に満ちている可能性は十分にある。

 後になって、「ああ、最初の世界は安全だったんだな」と思う日が来るのかもしれない。


 その時に、最低限戦えるようになっていたほうがいいだろう。

 たしか、ペイントスキルに関しては俺の資質にあわせて発現するスキルのはずだから、ほかの異世界へと行っても使うことになるだろう。

 もっと使いこなす必要がある。


 昨日のことを思い出す。

 3人組の冒険者に襲われた後や、フォレストウルフに襲われた後の戦闘自体は特に問題はなかったと思う。

 問題はそれ以前のことだ。

 森のように視界が悪いところで、まわりに何かが近づいてきたときに気づくのが遅すぎるのは問題だと思う。

 ガサガサと音を鳴らしながら近づいてきて、ようやくそのことに気づいていた。

 もう少し早く気がついていないと、そのうち命を落としそうで怖い。


 視界の悪いところでこちらが先に周りの状況を把握するスキルとしては【探知】などがある。

 また、【隠密】などを使って見つからないようにするのもいいか。


 だが、気を付けるべきは、ペイントスキルで追加できるスキルの数が1つのみということだろう。

 採取スキルを使っている間に気がつかずに後ろからガブリとやられました、なんてことがあれば即終了になってしまう。

 どんなスキルを使うにしても、自分自身が気を付けて行動していかないといけないということだろう。

 ほかの社員の人はどんなスキルを持って、どうやって活動しているのかすごい気になるな。




 □  □  □  □




 午前中で雨はあがった。

 午後からはブラブラと街中を歩くことにした。

 今更ながら、この街の名前は「リアナ」ということが分かった。

 マールちゃんに聞いたのだ。

「そんなことも知らないの?」といいながら、「しょうがない、私が教えてあげる」と言われた。フンと胸を張って、ドヤ顔をしていた。

 年下っぽいこの子にまで、俺は年下扱いされているのかもしれない。

 童顔に見えるのだろうか。

 日本にいたときにそんな風に言われたことはなかったんだけどな。


 マールちゃんに聞いた話を思い出しながら街中を歩く。

 石畳でできた道は雨上がりでは歩くと思った以上に汚れてしまう。

 国中をアスファルトの道路にしていた日本のすごさが分かる。


 この街は城郭都市リアナ。

 長方形のような形で高さ10mほどの城壁がぐるりと街を取り囲んでいるようだ。

 北側に城がある。リアナという領主が住んでおり、この土地を治めているらしい。

 さらに、お城の近くの区画が貴族街となっているようだ。

 大雑把にいえば、北側に貴族と金持ちの家があり、南側が庶民の場所ということになる。


 庶民の中でもさらに西側が冒険者、そして武器・防具・道具屋や鍛冶場などが南西に多いようだ。

 冒険者以外の庶民のほうが当然数が多く、中央から東側に家がある。

 ただ、その中でも北側のほうが治安が良く、南になるほうが貧民が多いようだ。


 リアナの街の西にある森はかなり広く、魔の森と呼ばれているそうだが、実際にはほかに何か正式名称があるらしい。マールちゃんはしらないみたいだった。

 東側に出て、ずっとずーっと歩いていくと、そのうち別の街が見えてくるらしい。

 北から南に流れる大きな川があり、そのそばにある街だそうだが、貿易都市として栄えているという。

 北に行くと、今度は東西に山脈が続いているという。

 山の近くにも街があるようだ。

 冬になると雪がすごいことになる、と宿に泊まった旅人が話していたことがあると教えてくれた。


 これでも、マールちゃんはかなり物知りな人間だということが分かった。

 というのも、この街に住む人のほとんどはここで生まれて死ぬまで移動するようなこともないものが多いらしい。

 宿屋の看板娘として旅人から話を聞く知識はだてではないということだろう。

 しかし、植物紙があるのにこの街には図書館みたいなものが無いらしい。

 知りたい情報があれば、知っている人を見つけて尋ねる、というのが情報収集の基本になるようだ。

 まさか、レトロゲームのように住民全員に声をかけるわけにもいかないだろうが。

 冒険者ギルドだけでも聞いてみることにしよう。


 しかし、マールちゃんの話の中に1つ気になる話があった。

 北の方にあるどこかの街には昔から女神像が祭られているところがあるという。

 まさか、月の女神リディアが関係しているのだろうか。

 今のところ、女神に対する貢献ポイントがどうやったら手に入るのか、全く分かっていない。

 一度行ってみることも考えておいたほうがいいかもしれないと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ