Part1
その日、日本全国で風が吹き荒れた……!
みのりが開けた郵便受けには、封筒が一通、入っていた。
宛名のところには、「古沢みのり様」とある。
(誰から……?)
裏返すと、そこには「豊嶋紗希子」とあった。
(紗希子……!)
驚くみのりの手から、突然の強風が封筒を攫っていった。
「やだっ……! ちょっ、待っ……!」
みのりは慌ててそれを追いかけた。
紗希子とは、幼稚園から小学校を卒業するまでの付き合いだった。中学は別々だったため、卒業式の日に大ゲンカをしてからは一度も会っていない。
ケンカの原因は、紗希子の失敗と、みのりがそれをひどく責めたことにあったのだが、お互いに謝るタイミングを逃したまま、もうすぐ三年が経つ。
その紗希子からの、突然の手紙。
内容が気にならないはずはない。
だが、封筒は高く高く舞い上がり、少しも落ちてくる気配がなかった。
「諦めるしかないの……?」
呟いた瞬間、唐突に風は止んだ。
封筒はひらひらと、道路の真ん中に落ちていく。
そしてそこに、一台の車が突っ込んでいく……!
「やだっ。やめっ……!」
車が封筒にぶつかる直前、再び吹いてきた風が、またしても封筒を舞い上げた。
(良かった……)
みのりはまた、その封筒を追いかけ始めた。
それは今度は、みのりをからかうように飛んだ。
時々落ちてきて、だがみのりの手が届きそうになると逃げるように手をすり抜けていく。
みのりはもう半分自棄になってそれを追いかけた。
そして、いつの間にか随分遠くまで来ていた。
(ここは……)
みのりは気付いた。ここが紗希子の家の前だということに。
(偶然……?)
にしては、出来過ぎているような気もする。
(……あ)
さっきまでは全然捕まえられなかった封筒が、目の前に落ちてきた。
みのりはそれをキャッチし、急いで封を切った。
封筒は空だった。
(えっ……?)
もう一度確認してみる。
だがやはり、封筒の中には何も入っていなかった。
「何、これ……?」
これでは、何のために苦労してここまで追いかけてきたのか分からない。
(何のつもりなの? 紗希子……!)
みのりが混乱に陥りかけたその時。
「みのり!?」
二階の窓から、紗希子が顔を出した。
「ちょ、ちょっと待っててね!」
バタバタと音がして、紗希子が玄関から出てきた。
手には何かの紙を持っている。
「ごめん! ホントにごめん! この前出した手紙、便箋入れるの忘れてた!」
(……え?)
みのりがその言葉を理解するまでには、わずかに間があいた。
「……やだっ、それ、手紙出した意味ない……」
「あはは。だから、ごめーん! ……でもね、もう中学も卒業だし、その前にどうしても謝っておきたかったの。私、ドジで、みのりにも色々迷惑かけたこと、思い出したから」
そこでまた、便箋を封筒に入れ忘れたというのが紗希子らしいというか。
けれどみのりは、もうそんなことを気にしていなかった。
「私こそ……。あの日は酷いこと言って、ごめん」
「じゃあ、これ」
紗希子がみのりに、手に持っていた便箋を渡そうとした瞬間。
突然の強風がそれを攫っていった。
「あ……」
二人は呆然としてそれを見送ったが、やがてみのりが言った。
「まっ、いいか。親切な風のいたずらのおかげで、こうして仲直りできたんだから」