未来人と対面
ひかるは驚いた。
「西暦4038年?そんな未来の世界に飛ばされちゃったの?」
『検索しましたが、あなたのIDは存在しませんね』
今までと変わらず、姿が見えない男性の声が脳内に直接聞こえてくる。
「すみません、怪しいものではないので助けてもらえませんか?寒いんです」
言い終わらないうちに、目の前が暗転して、体が軽く浮くような感覚を覚えた。
場所が移動したようだ、そこは寒くもなく暖かくもない。
畳で言うと8畳ほどの真っ白な部屋に、テーブルとイスが向い合って2つ置いてあった。
『はじめまして、ヤノヒカルさん』
片方のイスに若い男性が姿勢悪く腰掛けている。
『海外も検索しましたが、どのサバにもあなたのIDは存在しませんね、2016年の原始時代から飛ばされたと言うのも、真っ赤な嘘でもないかもしれません』
「はぁ?原始時代ですって?」
ひかるは男の顔や体をまじまじと見た。
座っているので身長は推定だが、175cmほど、
スマートではないが、太っているとまではいかない体型。
髪の色は真っ黒で、顔はごく普通の若い日本人に見える。
目の色も黒で、銀色のフレームの眼鏡をかけている。
服装は、上半身は青い服で、下は黒いジーパンのようだった。
『そんなにジロジロ見られると恥ずかしいですよ』
男は顔をひかるの方に向けた。
対面しているのに、声ではなく、脳に語りかけてくるのは変わらない。
「イスに座ってもいいですか?」
男は優しそうな顔をしており、危険はなさそうなので、訪ねてみた。
『どうぞ、座ってください、飲み物を出しますね』
ひかるは、イスに腰掛けた。
驚くことに、冷えきったからだが一瞬で暖かくなり、非常に心地が良い。
テーブルに目線を移すと、さっきまで何もなかったはずのテーブルに、空のコップが2つ置いてあった。
『好きな飲みのものはなんですか?お好みのものを用意できますよ』
ひかるは相手を困らせようと思い、
「じゃあ、72年の赤ワインをください」
と、舌をぺろっと出して、言ってみた。
『検索72年ノアカワイン、インリョウスイ』
男の眼鏡が一瞬光った。
次の瞬間、目の前の空のコップが赤く染まった。
『用意できました、2072年に作られた赤ワインです』
男はにっこり笑った。