第六章・立たないフラグは折れない
ここで一応面倒だがキャラクター紹介とかしとこう。だれのために?自分で自分の記憶をはっきりさせるためにな!それ以外に意味があるとでも?記憶の整理、これ大事。
この金髪イケメンは隣国の第二王子。本来ならゲーム中盤で登場してくるサバイバル系王子。この国に留学予定があって、留学自体はもうすこし先の話であるため、たまにこっち来ていろいろ見聞きしたりと、だれかこいつの手綱しっかりにぎってやれよという性格をしている。ちなみに同行してるモブキャラは王子の乳兄弟で地味な黒髪キャラ。このルートでたまにフラグを左右する人物でもある。
ちなみにこれ、とかあれ、とか言ってるとボケるからしっかり名前も確認しておこう。この国の名前は「トリスナイ」隣国…といっても三国くらいと国境接してるんだけど、この第二王子の母国は「エストラント」。さっき伏線みたいなセリフあったけど、教育熱心な国。宗教より学問重視って感じ。第二王子の名前は「オルト」、モブキャラは「ルーベンス」。性格はもうさっき漏れ聞いた会話で想像がつくだろうけれど、自由奔放と謹厳実直のペア。
まあ時の権力者ではある。お友達としてなら軽口も叩きあえる気の置けない友人になりそうなタイプ。恋とか愛とかデリケートに好きしてとかそんなんなってくるとちょっと鬱陶しいタイプかも。とにかく「どこまで本気?」ってビビるくらい褒めて甘やかしてベタベタしたがる、そんなアレ。軽そうに見えるのを本人も自覚してて、たまに絶妙なタイミングでぐさっとくるセリフを吐いたりする。
ぐさっとくるというか、乙女ゲームを楽しみたい方にとっては「グッとくるセリフ」そして恋愛に興味ない人間にとっては「おまえ大丈夫か?なんか勘違いさせてすまん…みたい身もふたもないセリフ」となる。
声優チョイスもちょうど今季のアニメのキーパーソン的立ち位置で人気出てるので、楽しめるっちゃあ楽しめる。あとパターンとしては、ルートに足突っ込みつつほかの攻略キャラとイベント進めたりすると拗ねる。かなりひねくれた感じでわかりにくく拗ねるのがちょっと面白い。バッドエンディングしたりすると結構えぐい。ネタバレすると、女一人のために王子のくせして王家を巻き込む陰謀に身を投じて最後に親兄弟とガチで殺しあって火の中で哄笑する感じ。このバッドエンディングは正直いたたまれなかった。破滅的って言ってしまえばある意味カッコイイのかもしれないけど、その原因が色恋ってのがちょっと情けないというか。
たとえバッドエンディングでも友情ルート的なものがあるならこのキャラ最高なんだけどなあ。そういやこのゲームは友情エンドってのがほとんどなくて、全キャラ攻略に失敗したルート、言うなら外れエンディングでもホームの国、つまり主な舞台となる「トリスナイ」の王子と結婚くらいにはなる。
どこまでいっても恋愛から逃れられんのよ。
まあ出会いがそのままフラグになる世界だからねえ。
「出会わなければよかったのに」みたいなありがちラブソングの歌詞そのまんまを地でいく世界ですから。
遭遇→敵味方識別→威嚇射撃→撃墜とかではなく、遭遇→ひとめぼれ→イチャイチャ→結婚式くらいの感覚なのでやりづらいったら。
唐突にぺちぺちと軽く頬をはたかれてはっとした。存外物思いにふけった時間が長かったようだ。
「なあ…正直おまえ、何者だ?近くの村の子供とかいうおためごかしはもう通用しないぞ。無理がありすぎ。ちなみに具体的に無理をの内容をあげつらっていけば、まずその変な服装。んで村人にしてはいささか小奇麗に見える。服の縫製が無駄に職人芸なみに賞取れるくらいに上質だ。まあちょっとばかりくたびれてはいるが、汚れを落としさえすれば肌艶の元地は悪くない。平民にしにては言動が高圧的にすぎるし、どうみてもあれこれとちぐはぐな感が否めないんだ」
意外と観察力に長けてるみたいだなこの王子。やっぱ政治的な立場からそういう面も鍛えられてるのかな。
存外この王子が食えない。悔しいが、ちょっとばかり予定を変更して多少真実を交えて不自然にならないよう現状を説明するとするか。下手におかしなフラグたたなきゃいいけどな。どうもフラグ管理がうまくいってない気がする。ゲームと現実とのすり合わせの過程でイレギュラーが発生してるのかな。
「上から目線でモノを言ってすまないけど勘弁してね、確かに一介の子供と言いつくろうには無理があるくらいつい本音とかだだもれてしまった自覚はある。でもね、ひとことで説明するの無理なんだよね。時間あるなら語るけどさ、そのままじゃなんでしょ?とりあえず二人とも楽にしてその辺に座ってくれる?わたし自身着の身着のままなせいで気の利いた敷物的なものもろくに用意できないけど、ここそんなに汚くないっぽいし」
ここは腹をくくってある程度真実を話そう。幸いオルトは話の分からないキャラではない。むしろ事情を話せばある程度の助力が得られるかもしれない。…何度目かの楽観視だけどね。
片方はわりとウキウキ気味に、もう一方はやや眉を顰め気味に。それでも素直にわたしの提案に乗ってふたりともその場に座り込んだ。もちろんルーベンスは当然のように自分の上着を無雑作に地に敷くし、オルトも躊躇なく乳兄弟の上着を尻に敷く。そういう関係なんだってわかってはいても、階級制度と縁のないわたしにとっては一連の流れるような動作にうっかり感心してしまう。
いいねえ主従、下剋上。ときめきがとまらない。
「話があるんじゃなかったのか?めったに見られない俺様の美貌に見とれたか?」
「ああ…、悪い悪い、ゴメンナサイよっと。美形って罪だよねえ、そして災難だよねえ…」
「災難とか意味わからん」
そうだね腐妄想の犠牲者は気づかなきゃ幸せだよね。自分が総受けの薄い本見た日には災難だなんてむしろソフトな表現だとようやく気が付くんだろうね。大丈夫、今のところわたしの妄想は無意識に口に出るほど煮詰まってない。