第三章・おバカな考えはそれほど休むに似てない
さて。
昨日の騎士さんの去った後に舞ったハンカチについて考察する。
この世界は現実であると同時にある程度ゲーム内容を踏襲しているのかもしれない。多少なりとも現実補正がかかりはするけれど、現実で起こりうる範囲内でゲームの進行をなぞっている…?まだ判断材料は足りないけど、これからこの考えを頭の片隅に置いたうえで行動したほうがよさげ?
うん、気力体力ともにマイナスに食い込みそうないま、脳もあんまりいい仕事してないとは思う。それでも脳の使ってない部分を無理やり駆使するのが締め切り前の同人作家というものである。
それに加えて命かかってるしね。
ちょっとまじめに生存手段を考えよう。
まずは正確なこのゲームの内容を思い出すことから始めようと思う。
「ときめきのティアラ~あなたの白馬の王子様」、略して「ときプリ」ああ、プリは王子様のプリンスね。このゲームはたしか出てくるキャラが全員どっかの国の王子さまって設定で、だれを選ぶかでどの国の王妃になるかが決まり、それぞれのエンディングとなる。そんな感じだったかな。いろんなゲームプレイしまくったせいで正確な攻略キャラとか思い出しにくいし、ルートのストーリーもほとんど追ってない。正確にはひたすら腐妄想でプレイしていたため本筋と妄想を混同している可能性大だったりする。しかもほかのゲームのキャラとかを中のひとつながりで持ってきて話作るとか、そんな荒業もやってのけましたとも。おかげさまで脳内カオスである。通常運行だけど。
でも発売当日に最速攻略サイトとかは一回作ったから少なくとも全キャラでエンディングまで持っていったはず。砂吐くセリフとかは脳内で腐変換してたから精神的ダメージを追わずにプレイできてたよ。ちなみにネタバレありの「この中の人のこのセリフが聞けるルート」とか「ヒロインを巡って三角関係になるあの二人の中の人は某有名BLゲーのあのひととあのひとだ!」とかマニアックな情報サイトももちろん併設してたさ。
そんなちょっとアレな記憶を頼りにこの場所が絡む箇所を重点的に思い出してみようじゃないか。なんかの解決になるかもしれないし。それに身動きとれないくらい疲労困憊していてもなぜか頭は結構働くんだよね。
とりあえず現実とシナリオの奇妙なすり合わせがある点はいまのところ否定できない。ならば記憶の許す限り洞窟イベントの細部まで思い出して、ひとりでも再現可能な部分を見つける。これで運よくある程度の補正がかかれば生き延びる可能性が高くなるって寸法です。不確実な点が多いのは心配材料だけど、まったく望みがないよりはまし。
確か…洞窟イベントは、自国の第一王子ルートから派生する隣国のお忍び王子とのフラグ。自国王子と遠乗りに出かけた際、はぐれて雨に降られてしかも暗くなるという三拍子そろった状態で明かりが見える方向に行くと、隣国の王子のくせに視察の名目でハメ外してサバイバル生活してるところに出くわす。んで心細くて人恋しくなってるヒロインが、見知らぬ男と洞窟で一夜明かすってシチュ。
ゲーム補正にしろこんなとこでサバイバルしてた隣国の王子すげー。
残念ながらまだゲームだとすれば序盤もいいとこ。多分隣国のサバイバル王子もまだまだ自国にいるはず。
なのでそこの再現は不可能ってことで、それ以外になんかあったかなあ。
あー、腐ってもサバイバル王子は自力で火を起こしてたね。わたしもチャッカマンさえあれば何とかなる気もするけれど、火切りぎねとか虫眼鏡とかもないし、火打石とかもしあったとしても判別できないし使用法もわからん。
だが火がないとそもそもこんな山の中で生活できるはずもなし。
また半日かけて街まで戻って火種あたりをどっかで手に入れてこないとなあ。
…うん、あの半日徒歩はもう二度とごめんです。
水に関しては、サバイバル王子が洞窟の奥に天然の湧き水があるとかで、ひとり松明もって木桶ぶらさげてくんできてくれたけど。松明も身を守る武器もなしに決して確実な安全を保障できない状態で水なんか汲みにいけるか。そもそも桶すらねーよ。
…認めたくないけどさあ。
…詰んでね?
詰将棋というゲームがあるね。西洋将棋にも「詰み」の概念あるよね、いわゆるチェックメイト。
いまわたしは詰みという状態にある。では、詰みという状況に付随する負け、わたしは負けるのか…。何に? この状況に? 原理も理屈もいまだ不明なこの状態における確実なる負けとは、おそらくわたしの自我の消失。逆に言えばそれを回避するには、それには詰みという現状に対するパラダイムシフトが必要であり、将棋の駒として詰んではいても、たとえば接待麻雀なんかでわざと負けたりするよね。でもそれは出世に必要な手段。いうなれば、戦術で詰んで戦略もしくは作戦による状況打破というのはけっして不可能ではないはず。
うお…真面目に考えすぎてなんか知恵熱でそう…っていうか酷使した筋肉が熱もって実際問題息苦しいし意識は飛びそうだしひとまず休もう。
ってか何のためにここに来たのかって、ひとりでいろいろ考えるため…っだったけど。うん、この立地。確かにその目論見は達成できそう。問題は、ここは疲労困憊した人間が休息するには不向きな立地であること、そしてわたしは現在疲労困憊の極致にあること。
おっかしいなあ。どこで何間違ったかなあ。
ぼへーっと薄暗い洞窟の天井を眺めてて、ふと思った。なんかこういう感じの救われないストーリー聞いたことあるなあ。文明と隔絶されて、ひたすら洞窟の壁に日付を刻んでほぼ原始人状態になる感じの。
わたしの近い将来ってそんな感じになるのかなあ。実際のところ、このままフラグ避け続けるにはあまり人里に行かないほうがいいのは確かだし。
それで一生を終える?
ひたすら腐妄想して生きる?
せっかく転生して美少女になったのに野生児になるの?
あまり精神力に自信ないから、それらのうちどこかの時点で発狂しそうな気がするよ。
これでいいの?ねえ誰か教えて…。
そこまで考えて、結局わたしはひとりで生きていくことのつらさを真剣に考えていなかったんだなあと。現代社会の濃密な人間関係に慣れすぎてて、本当の孤独を知らないのかもしれない。
物語としてロビンソンクルーソーは理解し得ても実体験するとなるときっと勝手は違うんだろう。
孤独に付随するもろもろは、けっして簡単に乗り切れるものではないんじゃないか。
フラグ回避に全力を傾けて得られるものは孤独なんだ。どのみちSAN値削られるんなら素直に乙女ゲームのストーリーに乗っかって砂吐きながら生きていく選択だってある。どちらも嫌なら素直に死ぬべき。
…そういや前世で死んだ結果こんな状態にあるんだっけ。ここで死んでももっと生きにくい世界に飛んじゃう可能性がゼロじゃないのか。うわぁ…。進むも地獄、退くも地獄か。 不退転の覚悟とか、一般女子大生とかに求めちゃいけないと思う。弁慶と張飛は求めたらしっかり結果出してるからすごいんだ。きみしにたまふことなかれ…のどこが問題なのかわからないくらい平和ボケした人間はたぶん知らないうちに淘汰されたりするのかも。何が問題なのか理解できないうちに即死。
なんでわたしなんだ。悔しいな。もし転生したのが現代日本人じゃなくて戦国武将とかだったら生き延びる上に国くらい軽く取りそう。足軽程度でも十分軍事顧問になれそう。常在戦場ってどんだけだ。
せめて男ならもう少し体力あるよね…あ、でも乙女ゲーの世界に放り込まれたって理解できたら生きる気力なくしそう。わたしも男性向けゲームの世界に性別変わって転生とかしてたらのたうち回りそうだな。ひととおりのたうち回ったら結構楽しんで攻略するかもだけど。
攻略かー。
なんか、世界は現実なのに攻略ってイメージわかないなあ。なにがどうなればエンディングなんだろう。というかエンディングで終わるの?現実って死ぬまで続くよ?
違う。
なんだろうこの違和感。
ゲーム脳で現実を理解してると齟齬が生じる?
目的が攻略じゃないんだこれ。きっと、生きることが目的なんだ。
簡単なことがいままで理解できてなかったかも。
あれ?わたし生きたいんだよね?そういうことでいいんだよね?
とかなんとか割と大切っぽいこと考えながら、肉体疲労に精神が追い付いてきて意識がもうろうとしてきた。寝た?自分が眠る瞬間って、どこって確定しづらいよねー。ゆめうつつって状態はグレーであって、白とも黒ともいえないよね。