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第二章・シナリオ外れたら厳しい現実が待ってた

 それでは、この世界でなるべく人と関わらず、何が最適解か考える時間を作ってそして、元の世界に戻れるならもど…、あれ?戻る?

 確かに聞いた気がするんだよ、脊椎の脳に近い部分がめきょって感じでねじれてカァっと熱くなった後に訪れた純粋な静寂。

 あれは…運よく元の体に戻れて救急車呼ばれたところで病院到着時死亡確定だよねー。DOAっていうの?

 その、都合のいい考えだとは分かっているけれど…。滑る直前までほんの少しだけ時間を巻き戻して元の世界に戻るとか、徹夜明けの幻覚オチとかそういうの、求めちゃダメ?ダメかな、わたしジャッジならギリでアリだけど。でも確率的にもんのすごーくミニマムな感じってのはわかるよ。さすがにフィクションとリアルを混同しないよ。あっちの世界の現実ってのは現実であり、現実の厳しさってやつは一人暮らしを始めたら嫌でも気づいてしまうよ。

 はふぅ…。

 鬱だけど、いま鬱ってる場合じゃないんだよね。

 いまここにあるのはわたしの自意識のみ。自らの肉体すらここには存在しないのだ。ここで精神崩壊してしまえばもう元の世界にもこちらの世界にもわたしという個の存在がほぼ無となる。

 わたしは…、それだけは失いたくないな。


 うん、決めた。

 まずはあそこに行こう。

 ゲーム中盤に出てくる洞窟スポット。もちろんイベントのための場所だけど、いまのわたしは非常に切実に誰ともかかわらず雨露をしのぎたいのだよ、あの洞窟はとりあえずちょっと引きこもっていろいろと考え事をするのに向いている。

 馬で一時間くらいの場所だ。徒歩でも行けるだろ。

 それにさ、いっつも思ってたんだけど、乙女ゲームのヒロインって基本めっちゃ健脚だよね!?これどうして誰も突っ込まないのか疑問でしょうがないんだけど…っていうかお約束と言われてしまえばそれまでなのだけど。とにかくいろんな場所を行き来してあちこちでフラグ立ててイベント起こして…。おそらく乙女ゲーのヒロインには基本仕様として縮地的な基礎能力が備わっているのだと。そう思うことにしよう。

 少しくらいは楽観要素ないとね。だっていまライフゼロって感じだしな。

 さあさ楽しい楽しい真夜中のピクニック!楽しい楽しい!わくわくドッキリ!

 ひゃは…いやいや。

 躁方向に突き抜けてしまってもダメだろコレうん。

 まああれだ。

 あれを声に出して言うだけなら。

「ゲットレディ・ゴー!」

 ひゃは…。

 てれってれー。

 SAN値が下がった。

 もーいいやー。

 せめてこの世界が某クトゥルフ世界だったり、某ガチで現役女子高生に何スペオペやらせてんの的な小説世界だったり、グレソ、豚切り、上等的世界でないだけまし。そう思うことにしよう。

 そう考えればわたしの運はなかなかのものじゃない?この世界って、甘々なイベントさえなければいきなりチートやるから無双しろ!みたいな世界じゃない。ある意味ラッキー。まあチートもないけれど。

 でね…。

 (以下略)


 はは、想像以上の悪路+長距離でしたー!!

 リアルorzの姿勢で涙目でぜひょーぜひょーと乙女らしからぬ喘鳴をあげておりますのはもちろんこのわたくし。不動産屋のチラシでいうところの「徒歩五分」がホントは「競歩の達人なら五分可能だし、嘘ついてないし」って意味だと判明したのはまあどうでもいいとして、馬で一時間だと徒歩じゃ半日以上かかるのだね。初めて知ったよ。

 月夜がきれいな夜中に出発して美しい朝日を死んだ魚のような目で拝んだよ。それじゃ足りなくてやっぱりお日様が中天に差し掛かるころ、目的地らしき地形にたどりついたよ。なんなの詐欺なの何詐欺なの誰得なの?

 ああ、ゲーム世界が現実になればこうなるってことなのかな。

 ゲームでは颯爽と馬にまたがったスチルが出た後すぐに目的地に着いたもん。ゲームならどこでもドアがそれこそどこにでも開いてるようなもんだ。

 では…ゲーム内で描かれていないことに関してはいったいどうなっているんだろう。それはわかる由もないだろうなあ。いちいち自分で確かめるしか。

 やっぱここはろくでもない世界だー!!

 って叫ぶ余力もないほど疲労困憊した。

 とりあえず目的の洞窟は発見したから最後の力を振り絞ってもぐりこむ。もう自分がいま二足歩行してるのか匍匐前進してるのかわからない。一瞬意識が途切れた気もしたけど、執念で洞窟に転がり込むこと成功。ぐだぐだだけどね。

 お行儀悪いし衛生関係気にならなくもないけれど、ひとまず寝っ転がって失った体力気力等補給。ああ、湿った砂がざりざりするよ。ここ、土なんだね。鍾乳洞とかじゃなく、言ってみればただの横穴? ゲームの中では普通にここで一夜過ごせたけれど、ひょっとしてもしなくてもこういうあんま人工物っぽくない自然の穴は、何らかの生物の巣って可能性大だよね。あはは、のっそりくまさんが入ってきたらどうしよう。

「あー、どうもはじめまして。わたしはあなたのごちそうです」

 冗談じゃないよー。そういう意味で美味しく食べられちゃう乙女ゲーム誰も買わないよー。むしろ宗旨変わってわが身を飢えた虎に食わせる系の強制悟りツアーとかになるよ。目が見えない人のためにわたしの目をあげましょうとか、何の恩返しもできないのでせめて自分から火に飛び込んであなたの糧となりましょうとかさー。そりゃ仏様…というかブッダさん本人はすごいなあとは思うけど。

 まあ…奥のほう行かないと詳しいことはわからないけど、いまのところ洞窟の入り口近辺で、日の光がギリ届くところまで目視したところ、なんらかの動物が出入りした痕跡っぽいものは見当たらない。ひとつの安心材料ではある。ここで、もしも足跡とか見つけた日には…。疲労で体が動かないわたしはやはり「はじめましてあなたの生餌です」って言うくらいしかできないと思う。やー、極限状態で言えたらすごいな。体張ったネタだね。くまさんしかギャラリーいないのが残念だけど。



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