第一章・オープニングを回避しよう
そうだった、内容ありがちシナリオ無難、そんなゲームは楽しめなかったけど声優陣がど真ん中ストライクだったんだ。声優陣見て即買いしたゲーム、それがこの「ときめきのティアラ~あなたの白馬の王子様」。王道だよねー。
うおお中の人の声生で聞いちゃったよ。願わくばこのゲーム内の対象攻略である強気赤毛キャラとかクール水色キャラとかと絡んでくれないだろうか。単純に会話してくれればいいのだよ、それだけで新刊三冊でるよ。腐妄想フィルターをなめてはいけない。単なる事務連絡ですら押し隠した愛のメッセージ。
眼前のキャラはこの国の現王の隠し子、いわゆるご落胤といったところですな。本人微妙に事情知りつつあくまで一介の騎士として国を乱すことなきようふるまうけなげな子なのよ。幼いころは孤児院とかにいて社会の暗部なども見聞きしてきたので平民アレルギー。王族、貴族の高邁な精神こそ国の基とか考えるがちがちのタカ派。これがフラグ立ててルートにはいると一介の平民であるヒロインを通じて平民への悪感情が少しずつ薄れていくという仕様。真面目な子なので好感度あげるのは割と簡単…というか、選択肢の裏の裏を読まなくてもエンディングにたどりつけるので初心者向けかなあ。この国の王位継承権一意の王太子との微妙なやりとりが腐妄想をいよよ誘うよい子なのである。
「だがこんな時刻に子供が一人で出歩いてはいけない。家まで送り届けよう」
現実逃避やらこの世界でのカップリングの可能性やらどっちが受けかやら、不埒三昧なことを考えていたわたしの方に不意に手が置かれた。思わず身を引きそうになる。はたから見たらにやけそうな表情でもにょもにょしてたんだろうな…。心配させてすまん。だがこれが平常運転なんだよー。
「どうした?心細いのか?」
間近で紡がれる生声。
「ひっひゃうぅっ!」
ああマジで出産しそうなくらいビビった。
どーでもいいが、騎士がわたしを子ども扱いするのはこのゲームのヒロインの設定が関係してるのだと思われる。ヒロインはたしか低身長で地味めな顔立ち。このゲーム世界の住人は、まあ髪の色や眼の色はゲームらしくありえんカラーなのだけど、基本アングロサクソン系なのでやたらみんな背が高い。ヒロインはこの世界の常識をよく知らないことも相まってこの世界の住人から見れば子供以外の何物にも見えない…とかいう設定?キャラクターイラストみたらそんなに気になるほど子供っぽいわけでも地味ってわけでもなくフツーに美少女でしたが?
そういえば、この立ち位置は確かにこのゲームではヒロインのものなんだけど、うっかり転生でこっちに来ちゃった場合見た目ってどうなるんだろう。ゲームのデザイン通りの美少女になってるのか?それとも見た目そのままで転生したか?
もし後者であれば、徹夜明けでお肌も髪もボロボロ、着ているものは穴が開いたり膝が抜けてたりする愛用のジャージプラスはんてん。体中に消しゴムかすやらトーンくずやらくっついてる小汚くみすぼらしい浮浪児にしか見えないだろう。うん、自信ある。
「見たところ良家の育ちだな、ふむ…変わったデザインだが、これほどの縫製や生地の良さは…もしや貴族階級か?」
あは、騎士様の観察眼と独り言でシナリオを理解させるテクはなかなか…。
あー、うん。これわたしの外見ゲーム設定で決定ぽいね。たしかヒロインは制服姿で現れるという設定だ。本来のわたしの格好を見てこんなセリフがでるわけがない。転生やらかしたと同時に外観まで変わっちゃいましたか…。まあよかったよ、自分自身の意思がこうして健在で…。
それにしても…。記憶ではさっさか終わったオープニングイベントだったけど、なんかやたら引き延ばしてくるなー。なんだろね、ヒロインが所定の行動をとらない限り延々ループするホラーロールプレイングとかごめんなんだけどなー。
いいさ、やってみようか。
強制オープニングイベントにバグ発生!なんかヒロインがおかしいんですけど的なノリで確かめてみるさ。わたしがここでいま何ができて何ができないのか、それを知るためのわたしからの初のアクティブな接触。
「ひぇー、お偉い騎士さま、ご無礼許してくんろ。おら怪しいものではないダス。この上等なおきもんはおらが仕えるお貴族様のお屋敷での制服なんだべ。おら村から出るの初めてでごんす。もうこんなところで油売ったりしねえと約束するダニ。どんぞ黙ってみのがしてくんろやなもしー」
笑うな、笑うなよ。いなかっぺを演じるために頑張って方言っぽい言い方してみたダニよ。残念ながら日本各地の方言をすべて網羅しているわけでもなく、あちこちつぎはぎだらけで「どこ出身よ!?」突っ込み全スルーの方向で。
「む…なんだ。そのようなことだったか。ならば平民風情に用はない、速やかに屋敷に戻り職務に邁進せよ」
このキャラの平民アレルギーを利用してみた。平民のフリしてみて正解だった。なるほどねえ…キャラ設定や世界観的なものはゲーム世界と同じなのか。わたしだけが本当のイレギュラーなのかな。つまり、この世界で出会う人たちはみなNPCって認識が可能なのかも。設定とか決まってるし、どんなアクションに対してどんなリアクションをとるのかは公式設定通り。たとえ現実がゲームとことなる状況であってもそれは変わらない…か。イベントはご遠慮したいけれどバタフライ効果でこの世界がカオスになっても対応に困るからこれはこれでよし…かな。
ひらり。
なんか目の前を白い物体が横切りました。
どうやら騎士様の落とし物のようです。
ああはい見なくてもわかります例の紋章入りハンカチですね確定。
拾わない選択、ちゃんとありなんだよね?ここでスルーして、あとでポケットの中にいつの間にか入ってたりしたら怖いけど。
ま、とにかく。
希望が持てました。
ヒロインにならずに生きていける可能性があると判明。