6話
目が覚める。
すっきりと起きることができた。
カーテンを開くと灰色の空の下で鳥が2,3羽飛んでいた。
ああ、良い朝だ。
今日は私の誕生日。
顔を洗っていつもより丁寧に化粧をして、鏡の前でにこりと微笑む。
白めの肌にうすピンクのほほ。
ベージュピンクのリップを付けて、作り笑顔で鏡を見る。
私と同じ顔が目の前で薄く笑っていた。
部屋に戻り、服を選ぶ。
お気に入りの赤いカーディガンを手に取り、それに合わせて服を決めていく。
膝丈くらいのジーンズスカート。
白地に小さな黒い星がちりばめてある長袖のシャツ。
大好きなコーディネート。
家族で出かけるときは大体この服だった。
それに着替え、少し焦げているくまを抱いて、部屋の隅の棚の前で座った。
一番上の段を開け、和紙の封筒を取り出す。
引き出しを元に戻し、ベッドに腰掛ける。
くまを膝の上に置き、きれいにシールを剥がしていく。
私の字で書かれた、一行の短い文。
それを指でたどりながらゆっくり読んでいく。
『さようなら、この世界』
自分のための文章。
自分の気持ちを確かめ、決意を固めるための手紙。
さようなら。
私のための私の人生。
そして、それを作らせてくれた、この世界。
私の部屋の窓際にくまを座らせる。その黒いビーズの瞳にあの場所が写るように考えて倒れないようにそっと手を離した。
よし、と小さくつぶやき立ち上がる。
ドアの前で振り返り、自分の部屋を見渡す。
一息ついて、軽くお辞儀をする。
大好きな空間へ、今までの感謝の気持ちをこめて。
中学の時、親と喧嘩した時に時計を投げつけて一部へこましてしまったベット側の壁。
あの時は本当にびっくりした。
親も、私も。たぶん壁も。
そんなことを思い出し、謝罪の意味を込めて壁にも頭を下げた。
しょうもないことで喧嘩したなぁ、壁にとっちゃ、とんだとばっちりだと小さく笑ってしまったのは壁には秘密だ。
頭をあげ、ドアに向き直る。
開けっ放しで何もはまってないドア枠をくぐり、まっすぐ玄関に向かう。
生まれた時から住んでいた、このマンションの一室。
嫌というほど歩いたこの廊下。
足になじみすぎたフローリング。
その柔らかな感触を改めて感じてうれしくなる。
友人が言っていた、
「自分の人生は誰のものか」
をあのまま忘れ、カウンセラーのあの人に会わないまま死んでいたら、このフローリングの柔らかな感触も覚えずに死んだのだろう。
あぁ、よかった。
生きられてよかった。




