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外つ国の魔女  作者: 莪藤
本編
30/33

終章

春も近付いた某日、王国の北の果てにある居住限界線において、大規模な獣の侵略があった。

フローゼン王国は全軍の三分の二を投入、国土の防衛に当たった。


極寒の地での戦いの最中、戦場を見渡せる丘の上に一対の男女が立った。


男は割れ物を扱うように取っていた女の手を放し、血にまみれた場にそぐわないくらい酷く優しい微笑むと横にひざまずいた。

常緑樹の眼が、彼女に仇なす全てを射殺すかのように彼方の敵に向けられる。


女は真っ直ぐに前を見据えている。

あらゆる光が吸い込まれるような黒のマントに、六花を模した銀の止め金が控えめに飾られている。

その下にも黒衣を着ており、風を含んで膨らむスカートに縁取られた艶糸が煌めいた。


見かけは若く、その黒瞳の眼差しだけは壮年の冷静さを備えている。

傍らに跪く騎士の肩に手を置き、黒い髪を揺らして虚空に空いた細腕を差し伸べた。


呪いを唱えるでもなく、足元には魔法式の一つも無い。

ただ女は一言だけ、彼女に添う見えない友に声をかけた。

指先に小さな煌めきが宿り、膨れ上がるように光の塊に変わっていく。


元来ならば視認出来ないはずのそれを、人々は確かに見たと後に証言する。

ある者は言う、女の背に生えた一対の翼のようだったと。

またある者は、差し出された手に手を重ねた銀氷の乙女であったと言った。


恐ろしいほどの密度で集まり弾け飛んだ精霊たちは、淡い光になり戦場に舞い散ると戦士たちの傷を癒し、獣たちを押し返し勝利が確約されるまで鼓舞し続けた。


その雪原の戦場が、人々が終わりの魔女、ミカ・ニーナを見た最後だった。



「魔女の歴史・語り部の記録」より




◇◇◇◇◇




丘へと続く道のりを、アルフォートはゆっくりと歩いていた。


フローゼンの夏は短く、涼しい。

薄い金髪を揺らし、心地よい風を受けて気持ち良さそうに常緑樹の眼を細める。


その瞳の先には映るはしゃぎながら駆けている子供たちがいた。

女の子が男の子の腕を取り、引っ張っている。

男の子は手に持った花冠を落とさぬように胸にかかえながら、懸命にそれに付いていっていた。


女の子は踊るように振り向くと、彼に向けて焦れた声を上げた。


「はやく、はやく。」


アルフォートは微笑むと、軽く手を上げて応えた。

不服だったのか、女の子は彼に駆け寄り空いた手でアルフォートの手を握り、引っ張り出す。

せっかちな幼子に苦笑しながら、すでに疲労困憊な体の男の子を抱き上げた。

首に小さな手を回される。その黒髪が頬に触れるくすぐったさには未だ慣れない。


「ずるい!わたしもー!」


それを見た女の子が頬を膨らませて、両手を挙げてせがんだ。

手を伸ばしながら、口元をゆるめて首を傾げた。


「急がなくても?」

「いそぐけど、わたしもするの!」


はいはいと笑いながら、二人分の重みを感じる。

子供たちを抱えて、少しだけ足早に歩き出す。


木々のざわめきに乗って、歌が聞こえた気がした。優しく甘い声。


風の通る丘の上、小さな石碑が見える。


若草色の服を着た女性がその傍らに腰を下ろしている。

顔を上げるとほんの少しだけ青くなった黒髪をなびかせ、昔から変わらない鮮やかな笑みを見せて、彼女は手を振った。

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