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第六話:聖の精霊(後編)

 

 聖はまるで命じられた機械のように、無意識に水晶の上に手をかざした。その途端、水晶の色が赤、茶色、青などに、どんどん変わっていった。何かに呼びかけているかのように、水晶が、色に応じて強く光っている。最後に白の色になり、ひときわ強い光を発した直後、今までの光が嘘のように、また元の状態に戻るのだった。


 「……。」


 聖は唖然としたまま、まだ正気に戻っていないかのように、水晶をじっと見つめていた。


 「……。」(失敗かのう…しかし…あの強い光は…わしですらあんな光は見た記憶がない。)


 辺りをまた静寂な空気が支配したと聖が感じた時、それは突然やってきた。水晶の上に、小さな竜巻が発生したのだ。あまりのことに、聖は目を開けていられなくなった。次第に竜巻は静まり、心地よいそよ風が吹くだけとなった。


 「一体なんなんだ?」


 「………お前が聖か?」


 「え?」


 聖は声のする方、上を見上げた。そこには、全身が真っ白で、長い髪をなびかせた、小さい女の子が浮かんでいた。顔立ちは、大きな瞳が特徴的であり、かなりの美少女といっても過言ではなかった。


 「そうだよ。…君は?」


 「そうか!それでは、お前が今日から私の宿主だ。」 


 「人型じゃと!?」


 ゾシマが一人、驚嘆の表情を浮かべ、思わず声を張り上げた。


 この世界の精霊は、大抵動物や虫などの、自分が発生した元の形を模っているのがほとんどだ。人型の精霊も、全くいないわけではないが、それでもかなり稀なことであり、過去をさかのぼってもあまり例をみないことであった。


 「まさか悪霊かのう?」


 「なんだ?そこのじじい。あんな知性のかけらもない奴らと私を一緒にするのか。殺すぞ?」


 ゾシマがこう思ったのもしょうがないことであった。悪霊とは、精霊とパートナーを組んでいた人間が、死んだあと、その体、もしくは魂を精霊に乗っ取られてしまった状態のことをいう。精霊のなかには、それを狙って人間と組むものもいる。しかし、悪霊になってしまうと、理性がなくなり、本能に忠実になってしまい、人に危害を加える可能性が高い。それゆえ悪霊となってしまった存在を排除するのもギルドの仕事なのだ。


 「美人の顔の割には狂暴じゃのう…聖、こやつで大丈夫か?もし嫌なら、特別にもう一回やってやるぞ?」


 聖は、ただ黙ってもう一度、その精霊の方を見た。その精霊は、不安なのか、もしくは聖を見つめられるのを嫌っているのか、表情を強張らせ、怯えたように聖を見つめ返している。


 「…いや、この精霊がいいです。そんなに悪い感じはしないし。」


 ふぅ、精霊が安心したかのように、息を吐いた。表情も先ほどと比べ、穏やかで涼しげである。


 「もっと慎重に選ばんか、全く。(そういうところはあやつに似ておるのぅ)それでは、仮契約にはいるとするかの。」


 「仮契約?」


 聖は意味が分かっていないように首をかしげている。


 「知らんのか?精霊にも色々おるからのぅ。ギルドでは、最初は仮の契約をして…そうじゃな…仕事を2、3回こなして、認められてから、初めて本契約といって、本当のお主の精霊になるのじゃよ。」


 「そんなのいらない。」


 精霊が、さもめんどくさそうに言葉を投げかけたが、


 「規則じゃからな。破ったらギルドにはいられんぞ?気をつけるんじゃな。」


 ゾシマはそう言って、また呪文を唱え始めた。 


 「ところで君の名前は?」


 「私のか?そうだな…メルシー。そう呼んでくれ。」


 「分かった。これからよろしくね。メルシー。」


 聖は、にこやかに笑いかけた。


 「そ…そうだな。よろしくな。」


 なぜか分からないが、また、周りに強い風が巻き起こり始めた。だが、聖には風が当たっていないようで、その突風はもろにゾシマに直撃してしまった。


 「ぐふ……何をするんじゃ!もっと老人を労わらんか!」


 ゾシマが非難の声を、風を起こした張本人に浴びせるが、本人は聞こえていないかのように、平然としている。


 「…まぁよい。これで最後じゃ。契約を結びたかったら、大人しくしとれ。」


 途端に風が嘘のように静まり返る。


 「我、万物の主精霊王に誓い、今ここに宣言する。この二人が契約を結び、共に同じ道のりを歩むことを。」


 ゾシマが唱え終わった瞬間、聖はまるでメルシーと重なり合ったかのような、不思議な感覚に襲われた。


 「これでいいじゃろ。無事仮契約完了じゃ。これからは二人で頑張るんじゃぞ。」


 聖は少し、呆気にとられながら、


 「はい。ありがとうございます。ところであなたは一体?あやつって誰ですか?」


 「さぁ、なんことかの?次が控えておるんじゃ。さっさと行かんか。」


 「……はい。それじゃあ、失礼します。」


 聖は納得がいかず、不満気な表情だったが、仕方なく、メルシーと一緒に部屋を後にした。

二人が完全に去ったのを見送った後、


 「悪かったのう。無理を言ってしまって。」


 「いえ…それにしても、なぜあなた様がわざわざ?新人の精霊召喚のためだけに、こんな辺鄙なところにお越しになるとは…。」


 部屋に中年の男が、恐縮しながらはいってきた。その厳格な格好からみてみると、ここの本当の精霊召喚士なのだろう。


 「なに、単なる年寄りのおふざけじゃよ。わしが来たのは内密に頼むぞ。それでは、わしは帰るとするかの。」


 「…はい。お疲れ様でした。ゾシマ長老。」


 聖は、精霊の間から出て、真っすぐギルドのフロアに向かった。その顔は晴れ晴れとしていて、嬉しさをかみしめているようだ。抑えきれない笑みがこぼれている。それも仕方がないだろう。聖にとっては、これがギルドへの第一歩なのである。後ろに佇んでいるメルシーにも、その気持ちが伝わったのだろうか。新たな主の嬉しそうな表情に誇らしげな様子で、辺りを見回している。

 

 「聖!?ずいぶん早いわね…普通なら5時間は掛かるのに…まだ30分も経ってないわよ?」


 ターシャが不安そうに、早足で駆けつけてきた。そのすぐ後に続いて、ロムが、


 「やっぱり精霊は応じてくれなかったか。ははは、まぁ君じゃしょうがないよ。気を落とさなくていい。君の呼びかけに応じる精霊なんているはずがないんだ。」


 さも愉快そうに、悠然と駆け寄ってきた。しかし、


 「なんだ?この偉そうなのは?聖。お前の敵か?」


 聖の後ろについていたメルシーが、突然声をあげ、聖に話しかけた。その瞬間、ギルド全体が凍りついたかのように、誰も声を発しなくなった。


 「人型!?悪霊か?…」

 

 「あの精霊しゃべれるのか!?」


 数秒後、皆抑えきれないように、興奮して、一斉にこそこそと喋りだした。真っ先に聖に質問を投げかけたのがターシャで、ロムは今の状態が信じられないのか、放心したかのように呆然をしている。


 「聖…もしかして、その後ろにいるのがあんたの精霊?」


 「ん?そうだけど。」


 「…でも人型で、しゃべれるなんて…その精霊のランクは?」


 「聞いてないから知らない。へー…そんなのあるんだ。」


 「聖様の精霊、メルシーの精霊ランクはAですよ。」


 受付の女性が律儀に答えたのをきっかけに、またもや誰も、ターシャさえも声を発しなくなった。


 「聖。本当になんなんだ?こいつらは?さっきからわめいたり、急に静かになったり。」

 

 「僕にも分からないよ…それより、これからちょっと寄るところがあるんだ。そういえば、メルシーってほかの精霊みたいに、僕の体に宿らないの?普通にしてるけど?」

 

 通常、人とパートナを組んだ精霊は、人の魂に宿って力を蓄えると言われている。基本的に実体を持たない精霊にとって、そこは心地よい場所らしい。最も、精霊も千差万別で、絶対そうであるとも言えないのだが。


 「ふふふ、私は他のやつとは出来が違うんでな。まぁ力を使ったらお前の中で休むが、それ以外の時は、このままの方が都合がいい。それと、いいか?もう聖の魂と体は、私の物だからな。その辺は、ちゃんと認識しておけ。」 


 「そっか。じゃあ行こう。」


 聖は聞こえていないかのように、すたすたと出口の方へ向っていった。


 「こら。ちゃんと聞いているのか?」


 とメルシーが声を張り上げながら、追いかけていく。


 未だに理解していない他の者達を置き去りに、二人はギルドの外に出て行ってしまった。これが、聖とメルシー、宿命を背負った人間と過去を背負った精霊の出会いであった。



 


一度でいいので、この小説に対する読者の評価を聞いてみたい!と思っています。拙い小説ですが、出来れば評価の方よろしくお願いします。

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