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第五話:聖の精霊(前編)

 

 「なんか悪いな。付き合わせちゃって。」


 「別にいいわよ。アミリヤさんの頼みだもの。アミリヤさんの頼みごとなら、どんな嫌なことだって大丈夫。」


 どうやら聖は、ターシャの機嫌を昨日に引き続き、損なってしまったようだ。言葉に毒が含まれていて、聖に襲いかかっている。だが、付き合いの長い聖にとってそれは慣れたもので、平然と歩いていた。最もその様子が、余計にターシャの不機嫌さに拍車をかけているのだが。

 


 ターシャと聖は、まっすぐギルドに向かって、足を運んでいた。途中、人々でにぎわっている市場を通りかかった。太陽の日差しが容赦なく、道行く人々に降り注がれている。そろそろ時刻も昼に近付いているのだろう。道行く人に呼びかける、活気ある人々の叫び声が響き渡っている。


 「お!ターシャちゃんに聖。久しぶりだな!」

 

 と知り合いのおじさんやその他の市場にいる人も話しかけてきた。ターシャは今までが嘘のような、天使のような微笑を浮かべながら、挨拶して通り過ぎた。聖も挨拶をしつつ、そのすぐ横を歩くのだが、周りの視線は当然のように、終始ターシャに向けられていた。聖はこの現象に、ターシャの人気を実感させられるのだった。そうなれば、当然


 「あのターシャさんと、並んで歩いている男は誰だ?」


 となり、聖は市場の人々、特に男性に穴が開くほど見つめられるのであった。聖は苦い思いをしつつも、なんとか市場を通り抜け、公園を過ぎ、ギルドに辿り着いた。


 「やっと着いたわね。さぁ早く中に入りましょ!ふふ、聖はどんな精霊が出てくるのかしら。」


 いつの間にかターシャの機嫌は、聖の気分と比例するかのように直っていった。聖は何故ターシャが、突然明るくなってきたのか分からなかったが、とうとうギルドの前に立っていると思うと、考えてもいられなくなった。人は、目の前に自分にとって大きな目標が目前に迫ったとき時、些細なことに気を取られなくなるものである。そのなんとも言えない喜びは、時に人に伝わるのだろう。


 「うん。」 聖は抑えきれない心臓の鼓動、その内に秘められた無上の喜びを感じながら、ゆっくりと、まるで何かに挑むかのように、中に進んでいった。


 「おや?ターシャ!会いたかったよ。昨日は突然帰ってしまって驚いたけど、また後でゆっくり話そうね。僕は君のためなら、例えどんな用事があろうと、君を優先するよ。ん…君は…確か…聖クンだったよね。今日が申請日か…ははは、僕も見てるから、頑張ってくれよ。見てる僕にも恥をかかせないでね。」


 二人が入っていきなり、まるでずっと前からこの言葉が言いたくて待ち切れなかったかのように、ロム・グルポフが話しかけてきた。聖に対しては相変らず卑しい、高慢な口調であった。


 「あ、どう…「ごめんなさいね、ロム。私今日は外せない用事があるの。またいつかね。」


 聖がとりあえず返事を返そうと、声を発したが、わざと聖の声に被せたかのように、ターシャがいつか、を強調して話しかけた。


 いきなりのターシャの責めるような言葉に、面をくらってしまったが、昨日の経験からか、すぐに持ち直し、


 「そうか、残念だよ。君は忙しいからね…また次、時間が空いたら僕に話しかけてよ。おいしい食事をご馳走するからさ。」


 今日はターシャの機嫌が悪いと思ったのだろう。あっさりと、ギルドにあるカウンターの椅子に腰をかけた。聖を横目に見つめながら、平然としながらも、どこかうずうずしたようなその様子は、何かが起こるのが待ち切れないようであった。


 聖はそんなロムの様子には気付かないで、ロムが去った後、真っ先にギルドの受付の場所に向かった。


 「すみません!聖といいますが、申請の方お願いします。」


 「はい。聖様ですね。承っております。どうぞ、こちらへ。」


 聖は、受付の女性に案内され、ギルドの一番奥の部屋、精霊の間に歩いて行った。


 「聖!とにかく頑張りなさい!待っててあげるから。」


 と、ターシャが声をかけた。その表情はいつになく真剣であった。


 聖は立ち止まり、後ろを振り向き、そしてにっこりと、ターシャにむかい微笑んだ。


 「ありがと。」


 そしてまた前を向き、静かに歩き始めた。ターシャはもう一言声をかけたい様子だったが、どうやら言葉が出てこないようだ。顔がほんのり赤くなり、上を向けず、下の方をただじっと見つめているのだった。



 聖はただ案内されるままに精霊の間、と呼ばれるギルドで最も神聖な場所にはいって行った。部屋は暗く、静寂と神聖な空気が場を支配していた。中は広いが、ただ床に何か模様が描かれており、真ん中に台とその上に水晶が置いてあるだけであった。


 「よく来た…待っておったぞ。お主が聖か?」


 どこに立っていたのか全く分からなかったが、突然後ろから話しかけられた。聖は多少違和感と困惑を覚えたが、


 「はい。そうです。」


 と、その老人の方を向き、相手の顔を見つめながら答えた。


 「そうか。お主がか…その黒い目。あやつにそっくりじゃな。髪の色は違うが…まぁよかろう。少し待っておれ。」


 と言い、台の方へ進んでいった。


 「え?」聖が言葉を返す間もなく、その老人は水晶に手をかざし、呪文を唱え始めるのであった。


 「あなたは?誰なんですか?」


 「……よし、これでいいじゃろ。ん…そうじゃな。わしの名は…ゾシマ。ここのギルドを担当している、まぁ精霊召喚士ってところかの。細かいことはともかく、今準備ができたぞ。さぁ、ここに手をかざして。精霊に呼びかけてみよ。」


 その言葉には、有無を言わせない不思議な魔力があるかのように、聖の戸惑いを消し去り、聖を水晶の前に導くのであった。


  









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