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第三十話:姦計

 聖達はギルドを出発し、リリカの森に向かっていた。途中、たびたびメルシーとターシャの衝突したりエルナが急にいなくなったりと、大分時間をロスしてしまったが、とうとう無事に辿り着いた。


 「これがリリカの森か。」


 見渡す限り緑一色で、たくさんの木々が空を覆っていた。聖の家の近くにある森とは、その規模や森独特の空気など比べ物にならないほどであった。


 「なんだ。やっぱ初めてなのか?俺はたまにここら辺来るけど。」


 「うーん…母さんが許してくれなくて。まだ小さいんだから、遠くに行くなってさ。」


 エルナは、豊かな景色に目を奪われながら、笑顔で言った。


 「過保護なんだね。聖お兄ちゃんのお母さんって。知ってる?そういうの、温室育ちって言うんだって。」


 そう年下に言い切られると、若干虚しさを感じる聖だった。実は、聖は一人で町から外に出たことがなかったのだ。何度かアミリヤに頼み込んだことがあったが、必ず自分が同行するというのが絶対条件だった。聖は、確かに自分は温室育ちかもしれないと思った。 


 「…何気に毒舌だね。まぁ、事実だけどさ。それで、悪霊はどこにいるの?。」


 聖はレートニイの方へ目を向け、指示を仰ごうとしたが、なぜか視線を逸らされた。心なしか、焦っているようにも見えた。その異変にいち早く気づいターシャが口を開いた。


 「ねぇ…まさかとは思うけど、悪霊の居場所を知らないっていうんじゃないでしょうね?」


 ビクッ、レートニイの背中がターシャの問いに反応し、その悲しい事実に全身で応えていた。


 「うそ〜、この森結構広いんだよ!悪霊の出現エリアを調べとくの常識でしょ?」


 エルナは声を張り上げた。


 「お…落ち着け妹よ。そういや、聞くのをうっかり忘れちまったが大丈夫。ここは二手に分かれて森中くまなく捜索すれば今日中には…」


 「え〜…面倒くさい…レートニイお兄ちゃんが一人で探してきてよ。」


 レートニイはしどろもどろになって、悲しそうに言った。


 「それはあんまりだろ…いいか、とにかく時間がないんだ。早く捜索を開始しよう。そのメンバーだが…」


 「私と聖。お前と妹。後はそこの野蛮女でいいだろう。」


 今までじっと森を見据えていたメルシーだったが、強気な口調で言い放った。


 「勝手に決めないでよ。何で私が一人なの?」


 ターシャはメルシーの提案が気に食わないようで、真っ先に異議を唱えた。


 「はっきり言って、聖以外は邪魔だ。私たちなら、風を使えばある程度生物の位置など特定できる。無論、この森の広さでは多少時間がかかるが、それでもこの森半分程度なら一時間もかからん。一人が寂しいなら、そこの金髪ばかについて行けばいいだろう。」


 「よっし、それでいこう。それじゃ、悪霊見つけたらこの閃光弾使ってくれよ。どんだけ離れていようが、一発で分かるから。」


 ターシャの意見など聞かず、最早決定事項のようにレートニイは聖に閃光弾を手渡した。これ以上、ここで時間を浪費したくないのだろう。だが、エルナもターシャも不満気な表情だった。恐らく、メルシーに邪魔呼ばわりされたのが、相当気に食わないのだろう。


 聖は傍観を決め込んでいて、何一つ言葉を発さなかった。それは、今までの経験が導いた行動なのだ。少し情けない気もするが…


 「それじゃ、エルナ、ターシャ、さっさと行こうぜ。もうそろそろ昼になっちまう。」


 「よし、聖。早く行こう。」


 先ほどのやる気のない様子とは打って変わって、メルシーはご機嫌のようだ。よっぽど、ターシャから離れるのを我慢していたんだろう。聖が行くのを待たず、すぐに森の奥へと進んでいった。


 「分かったよ。じゃあねターシャ。エルナちゃん。」


 「あ〜、私のこと子供扱いしてる〜温室育ちのくせに。エルナって呼び捨てでいいからね。」


 「…はは、分かった分かった。じゃあね、エルナ。」


 まだまだ、子供だと聖は思った。まぁ、そういう自分も十分子供なのだが、エルナを見ていると、自分が随分と大人びているように感じられた。 


 「聖…何かあったら絶対呼びなさいよ。」


 ターシャは心配そうに聖に声をかけた。だが、目を合わせようとしない。不審に思った聖だったが、まさかターシャが照れているとは、夢にも思わないだろう。


 「うん、そっちも気をつけてな。行ってくる。」


 そう言って、森の奥へと聖は姿を消していった。そして、ターシャとエルナは、レートニイの後に続く。


 「私、聖お兄ちゃんと一緒がよかったのになぁ〜はぁ…レートニイお兄ちゃんは顔はいいのに、性格がダメなんだよ。」


 「思いっきり聞こえてるぞ、エルナ。っていうかわざと聞こえるように言ってんだろ?耳元でぐさっと人の傷つくこといいやがって。兄に向って、ダメってなんだ、ダメって。もっとこう言い方があんだろうが。」


 「はぁ…やっぱり駄目だよ。」


 「どこら辺が!?字も何だかひどくなってる気がするぞ。いいか、もっと真面目に探せ。金貨五十枚だぞ。なぁターシャ?」


 「……そうね。」


 「あり、やる気が感じられない。やっぱ聖がいないと…いやいやいや、違うよ。気が引き締まらないなぁ〜って言おうと思ったんだぜ。」


 慌てて言葉を修正しながら、弁解を試みていたレートニイだったが、目の端をかすかによぎった、不審な物体の姿を見逃さなかった。 


 「どうやら俺らが当たりらしいな、エルナ、ターシャ。」


 「……そうね。」


 「おーい、頼むから真面目に聞いてくれ。俺真剣なんだぜ?」


 傍から見る限り、一種のコントのように感じられるほど、緊張感がなく普段と変わらない談笑であった。


 バキッバキッ、右後方で森を這いずり回っている何かが嫌な音をたてた。ようやく、レートニイ達は、各自臨戦態勢を整える。


 「ぐおぉおおおおおおぉぉぉおおおおぉぉぉ。」


 その刹那、その物体は急にこの世のものとは思えない程の不気味な咆哮を唱えた。其の姿は、大樹がそのまま悪霊に変貌してしまったかのようで、三メートルほどの巨体で、最早人の原型を留めていなかった。その手は木の枝と化し、その顔は木に邪悪な目が光っているだけであった。


 「哀れね…」


 そう一言、ターシャはやりきれなさそうに呟いた。


 ターシャの一言に反応したのか、その悪霊は、両手をまるで大蛇のようにうねらせレートニイ達に襲いかかる。


 「いでよ、スメターナ(炎に宿る者)」


 ターシャは右手を、前方にかざし呟いた。その言葉に呼応し、炎が沸き上がったかと思えば、それは鷲の形をした炎鳥となった。


 「スメターナ、あの存在を焼き消せ。」


 ターシャが一言命令するだけで、火鳥は一瞬で迫りくる木を焼き払い、悪霊本体をも炎で包み込んでしまった。


 「おぉおおおおぉお…うがぁぁぁぁぁぁ」


 炎で体を焼かれ、自らの死期を悟ったのか、最後の力を振り絞りその炎ごとターシャ達に突進してきた。だが、ターシャ達は平然としていた。

 

 「まったく、大人しくしてれば楽に逝けたのに。レートニイお兄ちゃん、お願い。」


 「って俺?この流れはどう考えてもエルナがとどめだろ!ったく、バロリー(土を食らう者)、あいつの動きを止めてくれ。」


 すると、土の中から数本の手が伸び、悪霊の身動きを封じ込めた。だが、未だに悪霊は憤り、何とか一矢むくいたいのか、必死でもがいていた。


 「これで完璧。いや〜俺久々にいい仕事したな〜」


 だが、悪霊は前よりも大きな咆哮と共に、土の呪縛を解き放った。


 「はぁ、これだから駄目なんだよ、レートニイお兄ちゃんは…しょうがないから、私がやるよ。あの悪霊に安らかな眠りを…イストアール(土に命を預けし者)」


 聖を森で襲ったあの土人形が数体悪霊に飛びかかっていった。さすがの悪霊も、何体もの土人形に囲まれ、身動き一つ取れなくなった。最後は土人形ごと、地面に吸い込まれるかのように姿を消した。 


 「な〜にが、安らかだ。めちゃくちゃ強引じゃねぇか。このかっこつけちゃってよ。」


 「うるさい。この駄目男。私がレートニイお兄ちゃんの後始末したんだからね。」


 「兄にむかって駄目男ってなんだ?いいのかな〜そんなこと言っちゃって。エルナの秘密をみんなにばらしちゃうぞ〜」


 それを聞いたターシャは、呆れ顔で


 「同じレベルなのね…ふぅ、聖どうしてるかな。」


 とつぶやいていた。まるで、先ほどの戦闘が嘘のように、嬉しそうにはしゃいでいるレートニイ達だったが、突然前方から一人の男が拍手をしながら、歩み寄ってきた。


 「いや〜大したもんだぜ。難なくDランクの低級とはいえ、その年で倒しちまうとはよ。ひひ、お前らアヴィズムに推薦してやろうか?」


 何故今まで気付けなかったのか。この男の圧倒的な存在感に…すぐに、全員が臨戦態勢をとり、その男を見据えていた。


 「あらら、やっぱマリヤと違って俺は勧誘むいてねぇな…す〜ぐこれだ。」


 「だ…誰だお前は?悪霊じゃないよな?」


 レートニイが口火を切った。


 「ひひ、ひひひひ…ひゃ〜ひゃっひゃ、面白い小僧だ。俺は悪霊か?そうだな、確かに近い存在かもしれねぇな…」


 「俺達になんの用だ?」


 「ん…大したことじゃねぇよ。ただそうだな。…お前らは聖を縛る鎖になりそうだから、死んでもらいにきた。あぁ、安心しろ。一人ぐらいは人質として生かしといてやる。」



バトルを書くのは慣れてないので…勘弁してください。

どんどん更新していけたらいいなぁって思ってます。一言感想がありましたら、ぜひお願いします。

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