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第二十話:日常

 今聖の家の前に、一つの皺のないスーツを着込み、緊張した面持ちで目の前にあるドアを見つめながら、ある決意に燃えている男が立っている。この人物にとっての必須アイテムである鏡で綺麗に整った髪形は、横風を浴びてもビクともしない。この頑強な髪の毛は、本人の今の気持ちを具現化しているかのようだ。


 トントン…その男が呼吸を整えた後、ゆっくりとノックをした。そのまま直立不動で目を閉じている。


 「はーい。」


 アミリヤが客の来訪に気づき、返事をする。この男の姿勢が緊張のためか、つま先からてっぺんまでが一直線になったようだ。背筋が、まるで純粋な子供が姿勢を直され必死にその状態を維持しているのに似ている。


 「あれ、どなたですか?」


 「初めまして。私の名前はイグリオート・カシスと申します。実は、あなた様の息子さんである聖君を、我が学院ラスルコフに特別生としてご入学していただけたらと思いまして。」


 「あら〜そうなんですか。わざわざご苦労様です。私は昼食の準備がありますので失礼しますね。それでは。」


 ガチャ……イグリオートにとって、まさか数秒で扉を閉められ、その上断られるなんて夢にもよらなかっただろう。さっきとは違う意味で固まってしまい、呆然としていた。


 「す…すみません。ちょっと待って下さい!あのラスルコフ学院ですよ?未だに貴族や王族しか通えない超エリート学院、費用は学院の方で負担しますし、学院の寮もありますから経済面でも通学面でも不自由なことは……」


 イグリオートは必死になって、ドア向こうにいるアミリヤに説得を試みた。顔は焦燥感で満ち溢れている。それもそのはず、わざわざ最高権力者に了解をとり、休暇まで貰って首都からやってきたのだ。これで失敗だなんてことになったら、イグリオートの面目丸つぶれである。それだけは何とも避けたいに違いない。


 アミリヤは不機嫌そうな表情をして、嫌々ドアを開けた。


 「うるさいわね。もうお断りしたはずですけど?」


 「何故!せめて理由を教えて下さい。」


 「そうねぇ…聖が行っちゃうと寂しいからかしら。一応本人にも話してみるわ。でも、確か学院は16歳からじゃなかったかしら?」


 「いえ、それは高学年のほうでして、この学院は低学年と高学年に分かれています。低学年の方は15歳までで、高学年は…」


 「分かった、分かった。今シチュー作ってるのよ。後で本人には知らせるから、今日はこのくらいにしておいて。」


 そう言って、顔を真っ赤にして説明しようとしているイグリオートを軽く足払い、興味なさそうな態度で会話を打ち切り、家の中へと消えてしまった。


 「なんでだ……」


 イグリオートはガクッと両膝を地面につけた。顔は生気の抜けたみたいに白くなっている。先ほどの人物とは信じられないくらいだ。しばらく立ち直れず、迷惑にも聖の家の前で落ち込んでいたイグリオートだったが、急に立ち上がった。

 

 「…しかしあきらめるわけには。聖君を学院に入れること…これは私の使命なんだー!」


 アミリヤの取った行動はある意味完全に裏目に出てしまったようだ…さらなる決意を胸に、イグリオートは走りながら、この場を後にした。


 その頃聖とターシャは…意識不明のレートニイを置き去りに、ギルドを後にしていた。


 「どこに行くの?」


 「私の家よ。そこでご馳走してあげるわ。」


 「…ターシャって料理できたっけ?昔散々実験台にさせられたんだよな…別に無理しなくてもいいから、どこか別の飲食店にでも行かない?」


 聖の記憶にある限りでは、ターシャの料理をおいしいと思ったことは一度もなかった。いや、むしろまずかったという記憶しかない…それでも拒むことができず、無理やり食べさせられた。その事を知ったアミリヤに、よく幸せ者と冷やかされたものだ。本人にしてみたら、どこが幸せなのか全く分からない。なぜあんなまずいものを沢山食べさせられて幸せなのか…聖にはこのような考えしか浮かばなかった。 


 「無理…ですって。私に不可能なことなんてないわ。それに聖に料理してあげた頃よりも、ずいぶんと腕を上げたのよ。そうね…いい機会だわ。たっぷりご馳走してあげる。」


 ターシャは至極ご機嫌なのか、鼻歌を歌いながら、気落ちする聖をよそにどんどん先に進んでいく。


 「ちょ…ちょっとターシャ。えっと…僕が奢るからさ、違うところに行こうよ。ターシャの家ここから時間かかるしさ。確か近くに美味しい喫茶店があるって聞いたことが…」


 「うだうだうるさい!いいから黙ってついてきなさい。あとそうねぇ。食材買わなきゃ…聖は何か食べたいものある?」


 「…別になんでも。」


 「何を食べたいの?」


 ターシャが口調を強めた。どうやら聖の態度に、少々ご立腹のようである。歩くのを止め、聖の方を振り向いた。


 「…ターシャさんの得意な料理ならなんでもいいです。」


 「そう。じゃ…肉を使った料理にしようかしら。」


 料理名を言わないのが、聖は恐ろしかった。料理ができる人が、その経験に基づいてオリジナルを作るのはいいが、出来るかどうかも分からない人が作るオリジナルが、どんな味をもたらすのか…聖の感じる恐怖はもっともかもしれない。


 ターシャは馴染みの食品店で、肉や野菜を大量に買い込んだ。勿論聖は荷物持ちである。しかし、ターシャと一緒にいると、ターシャの人気がよくわかる。怖い人相のおじさんも、ターシャには破格の安い値段にするし、通り過ぎる人の大多数は振り向くのだ。そのうちの何人かは聖を見ているのだが、自分のことに疎いので気づく様子は全くなかった。


 自分が見られていること気付かない聖に、ターシャは思わずため息がでてしまう。(本当に聖って鈍い。けど以外に有名なのね…まぁ、あの精霊や悪霊の件だと思うけど、それでもなんだか多い…)


 「どうしたの?早く行こう。」


 何も知らない聖は、気楽なものである。ギルドに入る以前、人の注目を集めたことがないのだから当然なのかもしれない。ただ、ターシャにとって昔から地味な幼馴染、聖が一部の人たちの中で人気者になっているのは、少し気に食わなかった。まるで、自分の手から聖を盗られてしまうかのようで…


 「そうね。もう買いたい物もないし…行きましょ。」


 「っていうか本当に重いんだけど…こんなに食べられないし。」


 「別に全部を料理に使うわけじゃないわよ。母さんに頼まれてた物もあるし。」


 「…へぇ、だからこんなに重いんだ。だったら少しは持ってくれてもいいんじゃないか?」 

 

 聖の両手は、ターシャの買った食材でふさがっている。一歩足を前に出すのも一苦労だ。聖は震える手で片方の荷物をターシャの前に差し出した。


 「私は女の子だから。」

 

 その荷物を一目見ただけで、あっさりと断った。それだけではなく、顔には満面の笑みを浮かべている。


 「…鬼だ。なんでこんな目に…」


 聖はターシャに荷物を持ってもらうという希望を、完璧に粉砕された。どこが女の子なんだと声を張り上げたいが、言った瞬間レートニイの二の舞を味わうことになる。それだけは何としても避けたいのか、大人しく従っていた。


 そのまま歩くこと数十分、やっとターシャの家に辿り着いた。だが、これは聖にとって終わりではなく、始まりなのである。


テストの一つの山を越えたので、少しですが執筆しました。

さっき作品を読み返してみましたけど、本当に下手です。せめてもう少し読みやすいように…なんとか頑張ります。

読んでくださってありがとうございました。評価、感想がありましたらよろしくお願いします。

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