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第十八話:久々のトロイカ

 「なんだか、懐かしいな〜。」


 「そうか?俺は最近来まくってるぜ。今じゃこの店の常連さ。それはそうと、聖って金持ってんのか?」


 「ん、ああ、持ってるよ。本当にギルドって儲かるんだね。…あ、ターシャに追及するの忘れてた。帰りにターシャの家でも寄ろうかな。」


 「やめとけ、やめとけ。最近何か悩み事があるらしくてな。無表情だし、話しかけてもあんま反応ないしで今は近寄らない方がいいと思うぜ。…お前は別だろうけどな。」


 聖が言葉を返そうとした瞬間、全く変わっていない小さな店の中から懐かしい声が聞こえてきた。


 「おー!聖じゃないか。最近全く顔見せないから心配してたんだ。どうだい?調子は。なんでも強い悪霊倒したらしいじゃないか。……ん?何か今店が馬鹿にされたように感じたんだが…」


 「久し振りです。カミンさん。気のせいじゃないですか?それと、悪霊っていっても僕一人で倒したわけじゃないので…」


 「そうなのか?まぁいい。さぁ、入った、入った。今日はもちろん何か買ってってくれるんだろう?」


 「おーい。カミンさん。俺もいるんだけど、俺は?」


 「はっは。たまには品物買ってから言うんだな。毎日毎日、冷やかしか?少しは買って行けよ。」


 「いや〜俺は宣伝係りだから。金ないし。」


 そう言って、無性に笑いたくなるような、楽しい談話をしながら、聖とレートニイは店の中へと入って行った。しかし、店の中は相変わらずよく分からないものが散乱していて、何がなんだか分からなかったが。軽い口調でレートニイがカミンをからかっている間に、聖は散策しようと辺りを見回した。そこで聖は奥の右側、壁に掛けてある四角い写真に目を奪われた。


 「カミンさん。これってカミンさんの若い頃?」


 「おお、そうだよ。まだまだギルドの現役で結構活躍したっけな〜」


 カミンは懐かしい時を思い出しているようで、目を少し細め、嬉しそうに語りだした。レートニイも、興味をひかれ、思わず写真を見に近寄った。


 「まだ若いな〜……この横にいる男の人って誰?チーム組んでた人?」


 「まだって今でも十分若いだろうが…そうだな。お前らにも話しておくか。そいつは、俺のパートナーのアントラって奴でな。俺の一番の親友だった。本当にいい奴でな〜何度助けられたことか…ハハハ、数えきれないくらいだ。というわけで、一つ忠告。もしもチーム組むんだったら、信頼できる奴と組まないと、絶対続かないぜ。なぁ、レートニイ。」


 「なんで俺に言うんですか?俺はちゃんと人を選んでますよ。なぁ、聖。」


 レートニイは、写真から目を離して、聖に同意を求めるように、顔を覗き込んだ。だが、聖はカムイの言葉に感じた違和感に心を奪われたのか、黙っていた。


 「聖?どうしたんだ?」


 不審に思ったカミンが思わず、聖に視線を向け質問した。聖は申し訳なさそうに、目線をそらしたが、カミンの視線に耐えきれなくなったのか、おずおずと答えた。


 「いえ…親友だったってことは…もう亡くなったんですか?」

 

 「………。そっか。よく気づいたな。そうだよ。俺の親友は死んだ…いや、殺された…って言った方が正しいかな。」


 「誰に?」


 レートニイが興味に駆られて質問した。聖はそんなレートニイを諌めるように鋭い視線を投げかけたが、好奇心に駆られたレートニイには気付かなかった。


 「…お前らは知らないだろうがもう4年以上も前にな、ある村が突然業火に包まれた…アントラは妻と一人娘、三人で一緒にそこに住んでいてな…悲惨な事件だった。アントラは結局妻と一緒にな…ただ、娘の遺体だけ発見されてないんだ。もしも生きのびているなら俺が保護してやりたいが…ま、ないだろうな。」


 「でも、火事で死んだんでしょ?」


 「いや…その妻はともかく、アントラのことはよく知ってるが、たかが火事なんかで死ぬ奴じゃない。それは断言できる。必ず犯人がいるはずなんだ。」


 「犯人の目星はついてんの?」


 「うーん…まぁな。けど、教えないぜ。聖はともかくお前は絶対言いふらすしな。さぁ、辛気臭い話はこれまで。聖。何を買う?武器とか欲しいだろ?」


 「……そうですね。一応この不思議な刀がありますけど、抜けないんです…でもメルシー曰く、悪霊との戦いで相手の火炎を消したらしいんですけど…母さんに聞いてもよく分からないんですよね。」


 そう言って、聖は背中に背負っていた黒刀を手に取った。いちいち持ち歩かなくてもいいのだが、背負っていないと妙に落ち着かなくなるのだ。なので、外出する時はほぼ必ず背負い、メルシーに散々文句を言われたが、今では修行中でも背負っている。


 「どれ…見せてみろ。」


 カミンは刀を受取り、抜こうとしたが抜けないので、丁寧に鞘の部分を色々と調べていたが、特に何も見つからないようで、首をかしげ、ぶつぶつ呟き始めた。しばらく考え込んでいたが、結局何も分からないようで聖に黙って刀を返した。


 「分からん…俺も色々な武器を扱ってきた自信はあるが、こんな抜けない刀なんて初めてだな。…火炎は気のせいじゃないか?とりあえず、違う武器…少し大きいが、このサーベルでいいか。これから大変だろうしな。とりかえてやろう。これも一応もう一回調べてみるよ。」


 「……うーん。いや、この刀はおじいさんのだし。サーベルは買いますよ。その方が…うん……」


 聖が決心してサーベルを受け取ってみようとしたのだが、突然頭に何か言葉が響くのだった…


 ≪こ…のうつ…け、わらわ…そん…なも…同格?絶対…いや…じゃ。わら…わ一人で…≫


 突然の出来事に、聖は膝をついてしまった。カミンは慌てて、聖傍に寄り添う。レートニイも、何事かと目を見開いた。


 「おい!聖。どうした。貧血でも起こしたか?」


 「いえ…大丈夫です。はは、僕おかしくなっちゃったかな…サーベルはやっぱりいいので、それ以外に何かありますか?」


 「お…そうか。じゃ〜、この指輪は?値段は高いが、風の属性専用の珍しい指輪でな。確か…精霊の力を引き出しやすくするための紋様が刻まれている…だったかな?」


 「!それでいいです。よし、これなら後二日生き残れる。」


 突然物騒なことを言い出す聖に驚いたカミンだったが、何も言葉を発しなかった。とりあえずそっとしておくことにしたのだろう。なにやら同情の面持ちで、聖の持っていた金貨と指輪を交換した。


 「聖〜。もう買い物すんだ?そろそろギルド行かない?」


 「え〜っと、そうだね。とりあえずいいかな。じゃあ、カミンさん。また今度。」


 「おう!また来いよ。それから、レートニイ…また何も買わないのか?その上聖を急かすなんて…もしかして、本当に冷やか…」


 「…え〜違いますよ。それじゃ、俺は用事があるんで…さよなら。」 


 レーニニイは、指輪を眺めていた聖の腕をガシっと強く掴み、大急ぎで駆け出して行った。その様子を見たカミンは、やれやれといった感じで溜息をついた。そのまま、二人が出て行った後、悲しいことに客もいないので、品物の整理をしていたカミンだったが、なぜ先ほどあんなことを、まだ子供の二人に話してしまったのか疑問に思うのだった。


 「…あいつがこの町に来てるってことが分かったから、浮かれちまったかな…くそ、俺らしくもない…まぁ、いいさ。それより早くあいつの居所をつかまないとな…気がかりだった聖もやって来たし、あいつもとりあえず大丈夫そうだ。じいさんの指令もあるからな、店はとりあえず休業にしとくとするか。」


 普段と同じ口調…だったが、明らかにさっきまで二人と話していたカミンとは別人の深く、暗い仮面をかぶったもう一つの顔がそこにはあった。



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