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第十七話:休憩

 「なんでいつもこうなの…」


 大きな一軒家、聖の家の倍くらいはあるだろうその豪邸は、屋根は赤く、外壁は白一色で、太陽の光によって、輝いているようで、思わず目を奪われてしまいそうだ。その家の二階、子供の部屋とは思えないほど大きな部屋にターシャはいた。寝起きのようで、ベッドの上で目をこすっている。普段絶対見れないような無防備な姿をロムが見たら、一体どんな行動をとるかは想像するのも愚かなことだろう…しかし、ターシャは浮かない顔である。


 「はぁ……」


 ターシャはこの数日気分が悪かった。見えない影が後ろに絶えずくっついてくる…胸のあたりが締め付けられる…そんな感覚。いや、その原因は分かっている。しかし、だからこそ取り払うことができないのだ。


 「なんでいつも聖につらく当たっちゃうんだろう…昔はもっと普通に接してたと思うんだけどな…最近じゃあ会うとなんだか興奮して…特に、あの精霊が出てくるようになってからは思わずむきになっちゃうし。」


 ターシャは抑えきれないかのように、一人、ベッドの上で呟き始めた。細くて白い両腕で胸を抑えている。この悩みのおかげで、最近では夜も時々目が覚めてしまうのだ。とにかく落ち着きがないようでもあった。


 「山賊退治だって、私が意地を張らないでついて行ってあげればよかったのに…あんな危ないこと…しかも悪霊に遭遇したって…死んでもおかしくなかった。それを、謝るどころか怒鳴りつけるなんて。」


 夜明けが近づいてくる…太陽が顔を覗かせ始め、その光はかすかに残る闇と溶け合い、混じりつつ、闇を追い払っていくかのようだ。そんな朝日を、ため息をもらしつつ、一縷の望みを見出そうとしているかのように見つめるのだった。


 「…そうよ。こんなの私らしくない…とにかく、聖に会って…謝ろう。けど、最近あいつ森に籠ってるのよね。はぁ…まぁ、いいわ。とりあえず、今日もギルドに行ってみようかしら。」


 ターシャには聖のいる場所は大体見当がつくのだが、自分から森に行くのはまだ決心がつかなかった。いくらB級ギルドの凄腕といっても、まだ13歳の少女なのだ。この呟きは、その事実を実感させた。



 聖が悪霊退治を終え、アミリヤに殺されかけた日から、五日の月日がたった。たったの五日がこんなにも長いものだなんて、誰が想像できただろう。聖は想像を絶する修行を、なんとか生き残っていた。これも、毎日の基礎訓練、アミリヤとの組み手、ターシャとの修行?のおかげだと、聖は実感せざるおえなかったほどである。


 「今日はこのくらいだな。たまには休みをいれないといけない…らしい。私としては、このまま残り二日やりたいのだが…どう思う?」


 メルシーは、聖に教えることが相当嬉しいらしく、どこから持ち込んだのか…恐らく悪のりしたアミリヤからだろうが、聖に修行をつけつつ、表と裏が真赤な、見るからに如何わしい本を熟読していた。今も木の下にたてかけてある。さて、メルシーの放ったこの一言がどれだけ聖を喜ばせたのかは、本人でなくては決して分からないだろう。仰向けに倒れていた体を無理に起こし、必死に賛成の意を示した。


 「それがいい、うん。こんなんじゃ、体壊すって。大体、なんで風をやっと操れるくらいのレベルなのに、僕を崖に吹きとばして上がってこいだの、いきなりよけろって言って沢山岩を飛ばしてきたりで…あれ、よく死ななかったな…本当に強くなるの?」


 「勿論だ。おかげで大分風を操れるようになっただろう?それに、本に書いてあるんだから間違いない。」


 「…その本少し見せてよ。」


 「だめだ。アミリヤとの約束だからな。どうしても見たかったら、アミリヤに頼め。とにかく、今日はここまでだからゆっくり休め。明日は倍頑張ってもらわなくてはいけないからな。」


 聖は穴が開くほどメルシーを見つめたが、その嬉しそうな表情から察するに嘘ではないのだろう。メルシーはそう言って、ゆらゆらと風に乗りながら、本を夢中になって読んでいる。聖はさすがに何か言ってやりたかったようだが、諦めた。そんなことは、この五日間だけで何度あったことか。


 「………。」


 しかし、この五日で意外なことが分かった。メルシーは、読書が好きだということだ。聖の修行の合間に、アミリヤから渡された本以外にも、聖から適当な本を借りてむさぼるように読んでいた。聖としては、もう少し落ち着いた性格になってもらいたいとの願いだったのだが、悲しいことに今のところあまり変化は見られなかった。


 「…じゃあ、僕はカミンさんのところに行ってくるよ。ターシャに連れてってもらって以来行ってないからね。」


 「ああ、気をつけていけ。何かあったら風ですぐに知らせろ。」


 「はいはい。じゃあね。」


 聖は元気よく叫んで、家に向かって嬉しさのあまり一目散に駆けだした。その後ろでは、


 「元気だな…あのくらいの体力があるなら、明日本当に倍にしてみるか。ふふ、楽しみだな。」


 聖にとっては、ある意味死刑宣告と言っていい、そんな一言が呟かれていた。




 「すみませーん。聖君いますかー?」


 聞き覚えのある声、周りを一切気にしないその声は、どこまでも響いていくかのようだ。


 「あら、レートニイ君。今日も来たの?聖は今…あぁ、あそこにいるわよ。」


 レートニイとアミリヤが家の玄関で話していた。アミリヤと目が合ってしまったので、何とか身振りをアミリヤに送り、面倒なことにならないうちにやり過ごそうとしたのだったが、そんな企ても、両手を顔の前で大きく交差させた聖の努力も、なにを勘違いしたのかアミリヤが聖の方に手を振り返したことにより、水の泡となった。落胆する聖とは対照的に、レートニイの方は、満面の笑みで駆け寄ってくる。


 「よぉ、聖。久しぶりじゃんか!今までどこにいたんだよ。何回お前の家に行ったと思ってんだ。これから暇か?」


 「え…っと、これからトロイカに行くんだ。悪いね。」


 「その後は?なにかあるか。」


 「特にないけど…」


 「よし、じゃあ俺もトロイカ行くぜ。その後、ギルドに寄るからな。」


 聖は最初の返答で断った気でいたが、レートニイは全く気付かずに、そのゆるそうな脳内では、聖と一緒にギルドに行くことが決定しているようで、聖は一瞬返す言葉が見つからなかった。


 「いやいやいや…今日は疲れてるからさ。また今度一緒に行くって。」


 「はぁ、何言ってんだよ。お前はもううちのチームの、準レギュラーとして登録してあるんだから。それに、疲れてんならトロイカ行くの辞めればいいじゃん。それで解決。」


 「…それはないから。はぁ…しょうがない…付き合うよ。それはそうと、何?準レギュラーって?」


 「おお、よくぞ聞いてくれた。実はな、ターシャと俺の妹はいいとして、もう一人の奴が変わっててな〜最近何やってるかしらねぇけど、全然参加してくんないんだよ。だから、最近株価急上昇中の聖に白羽の矢がっ立ったっていうだけ。喜べ、親友。どれだけ他の奴らが入りたがったことか…」


 「ないないない…他の人でいいならさ、その人達でいいじゃん。っていうか、いつから親友に…」


 「あれ〜そんなこと言っていいのかな〜。君は有望の雑用…もとい新人として、目をつけられてんだぜ。それなら、俺らのとこに来た方がいいじゃん。感謝しろよな。今度何か奢ってくれてもいいぜ。」


 聖は内心うんざりしていたが、なぜかレートニイが言うと、憎しみといった負の感情が湧いてこない。天性か才能なのか、なぜだか笑みが零れてしまいそうになのだった。


 「それはないでしょ…まぁいいや、早く行こう。」


 レートニイはまたもや笑いながら、聖は2度目の溜息を洩らしながら、二人並んで、トロイカの方へ向うのだった。



書き方を意識してみたけどどうでしょう…ただ最初に比べたら少し良くなったと自分では感じています。

何かご指摘や感想があったらぜひお願いします。

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