表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/38

第十一話:初仕事(悪霊編)

 周りが騒いでいるなか、聖は悲嘆にくれ、思わずため息を吐いてしまうのだった。すると、誰かに服を引っ張られた。振り向くと、先ほどジェンネの横にいた少年がそこに立っていた。聖のことを心配しているのか、不安そうに聖を見上げるのだった。


 「君の名前は?」


 「………グリオ。」


 その一言だけ言って、その少年は、またもやじっと聖をその目で見つめていた。


 「え〜っと…僕に何かあるの?顔に何かついてるのかな。」


 グリオに目線を合わせるために、その場にしゃがみこみ、怯えさせないよう、慎重に声をかけた。


 「へー…グリオが自分から人に接するなんて。聖だっけ?あんた相当好かれたねぇ。滅多にないよ、こんなこと。」


 「…へぇ、そういえば、グリオ君ってジェンネさんの弟ですか?同じ銀髪だし。」


 「その通りさ。お頭…いや親父は茶色だが、私とグリオは二人とも母親似でな。それと私は呼び捨てで構わないからね。…堅苦しいのは好きではないから。あと敬語もやめな。」


 「わかった。これからは、ジェンネって呼ぶ……」


 「…僕も。」


 グリオは聖の服を引っ張り、自分の存在を主張するかのように、聖に話しかけた。これには、ジェンネも吃驚したのか唖然としている。


 「分かった。よろしくね、グリオ。」


 聖はグリオの頭を撫でながら、微笑みかけた。それを見たグリオは、恥ずかしがりながらも笑みを浮かべるのだった。一方、会話を聞いていたお頭は、その様子を驚きが混じった目で見つめるのだった。


 「何いってやがる…馴れ馴れしく近寄ってきた男を何人半殺しにしたことやら。グリオも、俺にすらあんなに積極的に話しかけてこないってのに…」


 誰にも気づかれないよう、そっと小声で、寂しそうに呟くのだった。


 山賊達が騒ぐ中、待ちきれなくなったのだろう。メルシーは怒りのためか、頬を赤くさせ、大声で話し始めた。


 「いい加減ばか騒ぎはやめにして、本題にはいれ。私達は暇ではない。帰ったら聖の修行があるんだからな。」


 「………。」


 聖にはもはや何も言うことが出来なかった。成り行きに任せることにしたのだろう。諦めているのか、現実から顔を背けているのか分からないが、大人しく黙っている。


 「おお!そうだったな。場所なら、グリオとジェンネに案内させる。言っとくが、グリオは精霊を持っている。まぁ、攻撃するのに適してはいないが、俺達が無事なのはあいつのおかげだ。期待してくれていい。終わったら、狼煙をあげてくれ。楽しみにしてるからな。」


 「そうか、まぁ私と聖だけで十分だ。それでは早速出発するとするか。行くぞ、聖。」


 「…了解…」


 (これからずっとこうなのかな…)先のことを思うと、自分は生きのびられるか、自信がなくなるのであった。


 「悪霊はあそこだよ。」

 

 洞窟を出た後、ジェンネとグリオに案内され、森をさらに奥へと進んでいくと、森の中でどうやって建てたのか分からないほど、立派屋敷が二つ並んでいた。しかし、行く先々で罠が仕掛けてあり、もしも案内がなかったら、聖は無事ではすまなかっただろう。


 「あそこか…そういえば、グリオの精霊って?」


 「………出てきて。」


 グリオが呼ぶと、勢いよくグリオの中から、小さな水で模られた水竜が出てきた。グリオに懐いているのだろう。グリオが手を差し出すと、嬉しそうにじゃれはじめた。


 「…水竜?凄いな、初めて見た…かっこいいね。」


 その一言に照れたのか、グリオは恥ずかしそうに下を向き、顔を紅潮させている。その水竜も、心なしか嬉しそうだ。


 「その竜でなにが出来るんだ?攻撃は無理だと言っていたが。」


 しかし、聖がその竜を褒めたのがメルシーとしては面白くないのだろう。水竜を横目に、グリオに早口で質問した。勿論、グリオは答えられず、下を向いてしまったので、見かねたジェンネが横から代わりに答えた。


 「物や人を水で包むことだけさ。私らが悪霊に攻撃されそうになったとき、グリオが守ってくれたのさ。でも、まだそれだけしかできないらしいから、あまり戦闘にはむかないかもしれないけど。」


 「その悪霊の属性は?」


 「多分……火だな。よく分からないが、そいつが手をかざした瞬間、矢のような火球が飛んできたから。」


 「…そうか。まぁ、聖なら大丈夫だろう。」


 「こら、メルシー。そんなの当たったら多分死んじゃうって。とにかく、敵が火を使ってアジトが燃えたりなんてしたら一大事だ。風の障壁でなんとか防ぎながら、近くの川のまでおびきよせよう。確か、悪霊って知能少ないんだよね?」


 「そうだが…そんなに簡単にいかないだろう。山賊のアジトと乗っ取って、何を考えているか知らんが…恐らく馬鹿ではあるまい。おびきだしてもそこを動くかどうか…」


 「…ジェンネ、悪霊の大きさはどのくらい?」

 

 「確かあまり大きくはなかった…聖と同じくらいだね。…だが無茶はするな。ダメならダメで、違うギルドの奴をこれから金を稼いで雇えばいいだけなんだから。」


 ジェンネは不安そうに、聖の顔から感情を判断したいのか、じっと穴があくほど見つめるのであった。

 

 「はは、そのなけなしのお金はもう使っちゃったんでしょ?洞窟の中や皆の顔を見ればわかるさ。悪霊なら大丈夫。ただ、グリオ。ちょっと手伝ってくれない?君のその力が必要なんだ。」


 「………うん。」


 聖は少し緊張しているグリオを安心させるために、微笑みながら、グリオの頭を撫でるのだった。その様子に、思わずジェンネも笑顔が漏れ、悪霊にアジトを追われて以来、久しく味わってなかった感情、溢れる期待感に胸が一杯になるのだった。


 「よし、じゃあメルシー。初仕事と行こうか。」


 「そうだな。私と聖の初仕事…ふふふ、悪霊もついていない。」


 

 聖とメルシーは悪霊に気づかれないように、慎重に屋敷に近づいた。かなり広かったが、幸いにも悪霊の姿を先に確認することができた。何を考えているのか、屋敷の庭でじっと空を見上げ、ただ立っているだけで、不気味な印象を聖に与えたのであった。聖は恐怖と興奮を抑えつけ、息を落ち着かせた。


 「いた…よし、まずは挑発。メルシー、頼む。」


 メルシーが頷き、手をかざしたその瞬間、悪霊に向かって突風が吹き荒れた。


 「グ…オォォォォォ。」


 突然の風に驚き、数秒何の行動もしなかったが、それが精霊による攻撃と気づいたのだろう、急に森中に響くような雄叫びをあげ、すごい形相で辺りを睨めつけている。


 「あれが…悪霊か…」


 聖が思わずこう呟いてしまったのも無理はない。メルシーと同じように人型ではあるが、悪霊と間違えられて怒っていた気持ちがよく分かった。確かに見た目は人の形をしているが、髪と目は赤く染まっていて、その手足も精霊による影響なのだろう、真っ赤に変色し、皮膚は、鱗のようなものが覆っている。なまじ人間が元となっているため、一層悲惨な姿に見え、その姿からは悲しみ、恐怖しか伝わってこない。まさしく化け物であった。


 「ウォォォ…」


 悪霊は、その目で風の発生元である聖を視界にいれた。そして、片手を聖に向けてかざす。聖はとっさに横に飛んだ。その手からは、ジェンネが言ったように、まさに矢のような火球が、手をかざした瞬間襲いかかってきた。


 「これは、当たったら火傷なんかじゃすまないな…多分一瞬で黒こげだ。」


 聖はなんとか避けることができたが、屋敷の囲っていた壁が、一瞬で燃え尽きた。


「いいか、怯えるな聖。これから、全力で風をお前の体に集中させる。それにしても、ここまでのレベルとは、私も考えていなかった…あの悪霊は何かがおかしい…今の聖では、その状態はもって一分か二分程度だろう。それ以上は、まだ体に負担が大きすぎる。いけるか?」


 「多分大丈夫…それから僕が合図したら、メルシーがジェンネ達と初めて会ったときにやったように、腕に風を集中できる?」


 「問題ないが…何を考えている?」


 「とにかく頼む。来るぞ。」


 悪霊は聖が無事なのに気付き、今度は両手をかざした。火球が今度は二発、聖にむかって放たれる。だが、メルシーが聖の周りに小さな竜巻といっても過言ではないような、強力な風を纏わせる。その風は、聖の移動速度、防御力を飛躍的に上昇させた。その火球をなんなく紙一重でかわし、一気に接近を試みる。どうやら、火球は連射が利かず、最大発射数は二発なのだろう。威力は強力ではあるが、今の聖にとって、悪霊が次に発射させる時間が最高の好機であった。一瞬で悪霊の背後に回り込む。


 「メルシー!」


 「分かった。」


 掛声とともに、聖の腕に風がうねりをあげて集中される。悪霊が聖に手をかざし、火球を発射しようとしたその瞬間、悪霊の胴体に、聖は渾身の一撃を叩きこんだ。


 「オォォォォォォ」


 叫び声をあげながら、悪霊は思い切り吹き飛ばされる。聖は悪霊が吹き飛んだ後も、全力で風をその両手から放った。その風は屋敷の壁を突き抜け、木々をなぎ倒し、グリオのいる川の辺りまで悪霊を移動させる。


 「来たぞ。グリオ!」


 「………うん。」


 グリオはその力を使い、川の水を操り悪霊を分厚い水の壁で包みこんだ。一方、我を忘れ、怒り狂った悪霊は、周りを見ずにその火球で二人を焼きつくそうとする。しかし、水に閉じ込められた状態から、灼熱の火球を発射したので、水は高温の蒸気となって、悪霊に襲いかかった。


 「グオォォォ…」


 悪霊が悲鳴を上げ、苦しそうに倒れ、動かなくなった。


 「やった!ついに倒したな、グリオ。」


 「………いや、まだ…」


 「何?」


 ジェンネが急いで悪霊に目を向けると、なんと皮膚が破れ、全身傷だらけにも関わらず、立ち上がり、大きく口を開け、そこから燃えたぎっている火は、ジェンネとグリオに死を予感させた。

 

 「いや……」


 「………。」


 グリオが急いで水の壁を出そうとするが火炎の発射の方が早く、間に合わない。そのまま、火炎は二人に向かって一直線に放たれた。だが、そこで聖が間一髪二人の前に立ちふさがり、もはやメルシーの風の効力は弱まってしまっていたが、背中に背負っていた刀を構える。


 「馬鹿、そんなので……」


 メルシーが必死に叫ぶが、聖は精神を集中させ、刀を火炎にむかいに垂直に振りおろした。


 「え?……」


 ジェンネが思わず呟く。信じられない現象が起こったのだ。あの灼熱の火炎が、何かに吸い込まれたか、元々存在しなかったかのように、一瞬で消え去った。これには聖も驚いたが、対する悪霊の衝撃は聖以上だったのだろう。唖然としているのか、口を開けたまま動かない。その好機をメルシーは見逃さなかった。


 「聖!それでそいつを斬れ!」


 正気に返った聖は、まだこの現象を理解することができなかったが、風の効力が少しでも残っているうちに、足に力を込め、悪霊にむかって飛び込んだ。悪霊もそれに気づき、逃げようとするが、今の聖から逃げられるハズもなく、後ろから一太刀、聖が勢いを利用して頭に叩き込む。


 「ウォォォォォォ」


 悪霊は、周りに呪いを与えるかのような、気味の悪い最後の咆哮をあげ、跡形もなく消え去った。


 「やった………」


 しかし、聖の方も体が耐えきれなくなったか、その体を止めきれず、川に思いきり落ちてしまった。


 「聖!!」


 その様子を見て心配になったジェンネが、憔悴しきった顔で、すぐさま川に飛び込んだ。聖は気絶してしまったのだろう。ジェンネの腕に抱えられ、川から引き上げられた。そして、そのままアジトに運ばれ、ベットに寝かされた。メルシーが不安そうに、傍に寄り添っている。

 

 「今狼煙をあげたから、すぐにお頭達がやってくるよ。本当にありがとな。」


 「ふん、礼なら聖に言ってやれ。全く…他の人間なんて庇って…もしあの刀でなかったら、命はなかったというのに。」


 「なんなんだい?あの刀は?鞘に入ったまま使っていたが……」


 「聖はお前ら人間の中で、特別だということだけだ。他に説明すべきことなどない。」


 「そうかい…聖…変わったやつだな。」


 「言っておくが、聖を好きになったなんて戯言と言うんじゃないぞ。今でもこいつにつっかかる変な女が一人いるんだ。全く…」


 「聖がもてるとなんか不都合があるのかい?」


 「余計な詮索は無用だ。お前には関係ない。さっさと金の準備でもしてくるんだな。聖の容体は私が見る。」


 「あらら、聖もこんなのに好かれちまうとは。なんだかますます好きになりそうだよ。」

 

 「貴様…私の忠告を聞いていたのか?精霊もいない分際で…」


 「それは…まぁいい。そのうちギルドとやらにも行ってみるから、聖にも伝えといてくれないかい?」


 「………」


 風が部屋を支配し、室内とは思えないような突風が吹きあげる。それを見たジェンネは、やれやれといった表情で、仕方なく部屋を後にするのだった。


 一方同時刻、山賊のアジトからすこし離れたところで、一人の全身黒い服で包まれた男と、青い髪をした少女がいた。男の方は、薄ら笑いを浮かべ、青い髪の少女は深く考え込んでいる。


 「ひひ、驚いたな〜さすが期待の星。初仕事で、あのレベルの悪霊を難なく倒すとは。Bランクのやつでも手こずるレベルだと思ってたんだけどよ。あの坊ちゃんもやるじゃねえか、見直したぜ。ひひひひ、楽しくなってきたな〜。」


 「いいんですか?あいつ倒されちゃいましたけど…精霊の方もどこにいったか分りません。確かやっと捕まえた精霊だったのでは?上からなにか言われますよ。」


 「そんなくだらないこと。どうでもいいじゃねぇか。おっもしろいもんが見れたぜ〜ただ、ベースの人間の方が弱すぎたな。全然火の力を使いこなせてねぇ。上に言っとけ、次はもっといいベースを用意しろってな。ところで、いつ勧誘するんだ?恐らく、この1件が公になったら、ギルバード王国やらなんやに先こされちまうぜ?」


 「さぁ?上が判断することですから。あの精霊は惜しかったですけど、いいデータが取れました。聖さんとメルシーのデータも。今日はもう退散しましょう。」


 「分かった、分かった。帰って寝るとしようかねぇ…それより、なんだか今日はご機嫌じゃねえか。ひひひ、あいつに惚れでもしたのか?」


 「馬鹿なことを言わないで下さい。」


 「ひひひ…」


 不気味に笑いながら、男は森の中に消えていった。その場に残った少女は、アジトの方に目を向け、微笑みをこぼすのだった。


 一縷の希望を胸に抱かせながら。


なんだか一番長文になってしましました。っていうか、最近そういう傾向に……次は読みやすい小説を目指したいです。感想の方よろしかったらお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ