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第十話:初仕事(山賊編)

 聖は、あまり気乗りしないまま、強引にメルシーに引っ張られ、とうとうその山賊が出ると言われている山道の近くまでやってきた。


 (メルシーってまるで小さい時のターシャみたいだな…)


 メルシーの強引さは、聖に幼いころの思い出を振りかえさせるのだった。誰でも子供のころは、周りに存在する様々な現象が何でも不思議に感じられるものだ。無論年をとるにつれ、その好奇心は幻のように消え去っていくのだが。聖はよく、家の近くの森の神秘さや壮大さに惹かれたターシャに、今のように引き連れまわされたものであった。しかし、先ほどから聖は、その地から発せられるなんとも言えない不気味な空気に、体を強張らせ、意識を周囲にむけるのだった。


 「よし、聖。さっさと山賊退治といくか。」


 聖と対照的に、まるで遠足にいくかのような、軽い口調で、メルシーは聖の先をどんどん先に進むのであった。


 「ちょっと待てって。なんでそんなに張り切ってるの?」


 その問いかけに、メルシーは振り返り、少し顔を紅潮させながらも、満面の笑みで、


 「私が聖にとって、なくてはならない精霊と認めさせるいい機会じゃないか。それを思うとつい興奮してな。いいか聖!私の活躍をよく見ておくんだぞ。」


 と声を張り上げた。聖はその言葉に、少なからず衝撃を受けた。そして、メルシーが自分の精霊であることを、嬉しく思うのだった。顔には自然と笑みがこぼれ、抑えきれずに笑いだした。


 「何を笑っている?そんなにおかしいのか?」


 「いや…嬉しくってさ。思わず…メルシーこそ僕なんかには勿体ない精霊だよ。」


 「言っておくが、私は生涯聖以外と組む気はない。私はお前以外の人間など、話すことすら嫌なのだからな。」


 「何でそこまで?昨日少し言ってたけど、僕に何があるの?」


 「それは……」


 メルシーは口を結び、少しの間黙っていた。


 「…別にこれといって何もない。ただ私がお前のことを気に入ってるだけだ。」


 しかし、意を決したかのように、まじめな面持ちで呟いた。


 「…そっか。それじゃ、さっさと山賊退治に行くか。今日中に終わればいいけど。」


 そんなメルシーの様子に、違和感を覚えながらも、素知らぬ風に前に進むのだった。


 「でも、初仕事が山賊退治って…ハードル高くないか?」

 

 「何を言っている?お前には私に相応しいように、もっともっと成長してもらわないと困るんだ。このぐらいの危険がなくてどうする?」


 「いやいや…さっきターシャも言ってたけど、こういう仕事は普通、何人かギルドでチームを組んでから行くものなんだって。メルシーが申し込むなり、すぐにあそこを飛び出して行っちゃうから無理だったけど。」


 聖はため息をつきつつ、ターシャが呆れたようにこっちを眺めていた姿を思い出すのだった。聖は知らないが、その後ろの方では、話を聞いていたロムが、死角で卑屈な笑みを浮かべていたのだった。


 「私がいるんだぞ?だいたい、何でお前がDランクなんだ?あの女ですらBランクなのに…」


 メルシーは、憤然としたように、目を怒らせている。


 「対抗心燃やさなくていいって。ターシャは特別。Bランクだって、あの年だったら間違いなくトップだよ。そもそもこの町にAランクの人いないしね。」


 「そんなんで大丈夫なのか?この町は。」


 「もし何かあったら、首都も近いし、すぐにAランクの人が派遣されるさ。」


 「まぁ、聖がこの町初のAランクになればいいだけだな。これから毎日修行だから、覚悟しておくんだぞ。」


 「え…基礎体力とかの訓練なら、母さんに習ったのをやってるよ?」


 「馬鹿め。そんなんじゃ、対精霊使いとの戦いじゃ、話にならない。私が言っているのは、私の力を使いこなす修業のことだ。聖のやっていた訓練とは、根本から違う。」


 「はい?メルシーが戦うんじゃないの?」


 「それじゃあ、言っとくが下っ端にしか勝てない。この戦いでは、どれだけ上手く精霊の力を引き出し、戦うのかにかかっているんだ。」


 「…もしかして、今日戦うのって僕?」


 「当然だろう、私はサポートだけだ。風の属性は、多くがサポート専門だぞ?」


 「……帰ろっか。今日嫌な予感したし、まだ早いって。」


 くるりと向きをかえ、来た道を急いで戻ろうとする聖。最も、そんなことメルシーがさせるはずもなく、聖は風で作られた壁に、勢いよく額をぶつけてしまった。


 「何をしてるんだ?聖。道が違うぞ?山賊退治もいい経験だからな。修行にもってこいだ。全く、山賊は何をしている。早く出てくればいいものを。」


 聖はぶつけた額をさすりながら、先ほど自分がすこし衝撃をうけ、感動した気持ちを頭の中で、思いっきり訂正するのだった。


 「鬼だ…今日が命日かもしれない。」


 聖が呟いた直後、待ち構えていたかのように、木の上や茂みの中から、突然4人ほどの屈強な男が現れるのであった。


 メルシーが、笑みを浮かべているのは気のせいではないだろう。直ぐに聖の横に移動し、腕には不意の攻撃に備えてか、風が渦を巻いている。聖も、突然の出来事だったが、すぐに切り替え、背負っていた刀を鞘ごと下ろし、両手で構え、意識を集中させるのだった。山賊達も武器を構え、このまま戦闘に突入するかと思いきや、


 「待て。」


 山賊達のさらに後ろの方から、一人の女性と小さな少年が、しっかりとした足取りで歩いてきた。


 「お前、精霊がいるってことは、ギルドの者か?」


 「…そうですけど。」


 聖は唐突な質問に戸惑いながらも、まだ距離を取り、刀を構えたまま答えた。

 

 「ふぅ、やっと来たか。待ちわびたぞ。」


 嬉しそうに話しかけてきたその女性は、露出の多い格好をしていて、弓と矢を後ろに背負っていた。銀色の短い髪と鋭い目つきが、その衣装に似合っている。そのすぐ横に、隠れるように小さな少年が、じっと聖を見つめていた。髪の色は同じ銀髪だが、その女性と違い大人しそうな印象を聖に与えた。


 「…どういうこと?」


 「余計なことは聞くな聖。さっさとこいつらを退治しよう。」


 メルシーは、そんなことは関係ないとばかりに、戦闘する姿勢であった。周囲の風が、聖の周りに集まってくる。


 「野郎ども。武器をしまえ。こいつは、お頭に合わせる。おい、お前。私らははっきり言って、お前の敵じゃない。……いや、言いにくいんだが…お前の依頼主だ。」


女性が戸惑いながらも言ったその一言は、聖とメルシーの全身を凍りつかせ、頭を真っ白にさせるのだった。


 聖は何とか説明を求めたようとしたが、理不尽にもいいからついてくるように言われ、今の状況を理解できないまま その女性と少年に連れられて、森の奥、茂みの中にある洞窟まで辿り着いた。メルシーも少なからず混乱しているようだったが、とにかく大人しくついていくことに決めたらしい。一言も声を発しないで、聖の横に浮かんでいる。


 「お頭!やっと、ギルドの人間がきたよ。」


 「本当か!!」


 洞窟の中から、見上げるような大男が顔を覗かせた。山賊という言葉が、これほど似合う男もそうそういないだろう。茶色いぼさぼさの髪をしていて、髭も負けないくらい濃く、顔に寄生しているといったが当てはまっているだろう。腕と足は丸太のように太く、胸板もそうとう厚い。カミン顔まけの筋肉であった。そのあとに、6人ほど男が続いて出てきた。


 「たった一人か…しかもあんま強そうじゃないな…本当にギルドの者か?もっと鍛えた方が…まぁいい。精霊を持っているならどうでもいいか。」


 「え〜と、どういうことなんですか?山賊退治に来たんですけど…依頼主って…」


 聖はその男の言い分に腹を立てたメルシーが、怒って風を起こそうとするのを必死に止めながら、緊張しているのか、少し小声で話しかけた。


 「…そうだな。簡潔に言うと、手前には山賊退治じゃなくて、俺らのアジトに住みついちまった悪霊を退治してもらいたいんだよ。」


 「だったら、ギルドに正式に依頼すればいいじゃないですか?」


 「はぁ…それができるならすでにやってる…恥を忍んで言うが…手元に金がねえんだよ。」


 肩をぶるぶると震えさせ、手を強く握りしめている。屈辱と憤りを胸に秘めているのが一目で分かるが、その体格からは想像できないような暗い口調と表情は、恐らく自分自身の不甲斐なさを一番嘆いているんだろう。何事も自分の力で切り開いていった男にとって、今の現状は見渡すような大きな障壁となって、立ちふさがっているのだった。


 「山賊らしく、人から取ったり、今まで取ったものを換金するとかは?」


 「全部無理だ。いいか。悪霊は俺らのアジトを攻めてきたんだ。こっちは逃げるので精一杯。武器もアジトに置きっぱなし。こんな状態じゃ山賊稼業もできやしない。やったとしてもだ、もしここにいることを知られて攻め込まれたら、全員お縄につくしかねえ…八方ふさがりなんだよ…」


 今までの欝憤と苦労を吐き出したいのか、夢中になって語り始めた。聖の横にいたメルシーは、いつのまにか聖から離れ洞窟の中を浮遊している。


 「…そこで必死に考えた結果がこれだ。悪霊退治ができるのは、精霊をもつ奴だけだ。だから、ギルドに依頼することにしたんだが、何分生活だけで精一杯…悪霊の依頼は最低Bランク…払えやしねぇ。だから、山賊依頼でギルドの奴を呼んで、解決してもらおうって寸法だ。金はねぇが何とか頼み込んでCランクにしてもらった。頼む!お前なら出来るだろう!」


 「……」


聖はその剣幕に圧倒されてしまって、言葉が出なかった。しかし、冷静の今の状況を考えてみると、相当窮地に陥っているのは間違いないだろう。冷汗が出ているのを肌で実感しながら、何とか言葉を絞りだした。


 「いや……僕はまだ新人で…ランクも低いし…あ、知りあいにBランクの凄腕がいるんで、その子に頼んでみますよ。」


ターシャを当てにするのは気が引けたが、いきなりBランクの仕事なんて引き受けるのは、無理だと理性ではなく本能が理解した。早くこの場を逃れようと、後ずさりしつつ、メルシーを目で探し始めたのだが。

 

 「場所はどこだ?さっさと言え。」


いつの間にか実体化して、堂々と聖の横に浮かんでいた。その顔は、まさに感激の極地と言っても過言ではないほど、嬉しそうな笑みが溢れている。


 「ちょ…メルシー!?何言ってんの?無理だって。Bランクの仕事だよ?」


 「だから何だ?あの女ですらBランクなんだ。お前と私の方が優れているに決まっている。それに…ふふふ、こんなチャンスは滅多にないぞ。初仕事が悪霊退治なんだ。あの女の悔しがる姿が目に浮かぶ。それに、いい修業になるしな。」


 「いや…ほら、割に合わないって。とりあえず、もっと修行を積んでから…」


 と諦めきれず、メルシーの言葉に流されないように食いつくのだが、突然のメルシーの出現に驚嘆して、言葉がでなかったお頭が、


 「金だったら心配しなくていい。悪霊追っ払ってくれんなら、ちゃんと規定の料金アジトにあるからよ。払ってやるぜ。そんくらい強ぇんだったら、うちの娘を嫁にやってもいい。どうだ?破格の条件だろ。ここまで頼まれて、引き受けねぇのは男じゃねえよな。」


 追い打ちをかけ、もはや聖の味方は一人もいなくなった。焦燥感と不安の念が、聖に襲い掛かり、纏わりつくのだった。


 「何いってんだいお頭。何で私がこんな奴と…大体こいつ一人で、あんな狂暴な悪霊と渡り合えるわけがない。即効で死ぬだけさ。」


 先ほど聖を案内した女性が、眉をよせ、不満気に文句を言い放った。


 「何言ってんだ、ジェンネ。強い男が好きってよく言ってたじゃねえか。手前にかなう男なんて、この辺りじゃいないぜ。」


 「馬鹿ども。何を勝手なことを言っている!聖の嫁など、絶対にいらん。邪魔なのはあの女だけで十分だ。もう一度言う。さっさと場所を教えろ。」


 「あんた達じゃ、死ぬだけさ…悪いが、さっさと帰るか、替わりに強い奴をここに連れてきてくれないか?」


 「よく聞け。言っておくが、私の精霊としてのランクはBでもCでもない。Aランクだ。その私の主である聖が、そこらの悪霊共に負けると思うのか?」


 メルシーが話終えた瞬間、数秒の沈黙後、周りから驚きの声が少しずつ溢れだした。それは、お頭が雄叫びによって、歓喜の嵐となって、その声は洞窟の奥にまで響き渡るのだった。


 「……メルシー…何てことを。もう引き受けたも同然じゃないか…」


 無論それは、ある一人の少年の声を置き去りにするのだった。


文字の量舐めてました…おさまりきらず、なんだか番外編みたいなタイトルに…次は気をつけたいです。

後、今までの話で感想もし何かあったら、一言でいいのでお願いします。読んでくれて、ありがとうございました。

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