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第九話:初仕事(中編)

 



 「いい天気だなー今日は。ちょっと寄り道していかない?」


 「何処にだ?今日はギルドの仕事をしにいくのだろう?」


 「まぁまぁ…うん、双愛公園かな。あそこは噴水とかあって、気持ちがいいし。」


 「まったく…」


 そういいつつ、メルシーも満更ではなさそうで、嬉しそうに小さい笑みを浮かべていた。そのまま、聖とメルシーは二人で公園に向かった。まだ時刻が早いのか、公園には犬の散歩をしている少年、ベンチでハトに餌をあげている老人ぐらいしかいなかった。しかし、ハトが羽ばたく音や、雀の鳴き声、木のざわめきが耳に響き、心地よい。


 聖はベンチに座り、空を見上げた。雲も、この天気に便乗しているかのように、本当はもっと速く進まなくてはいけないのに、わざとゆっくり移動しているように感じられるのであった。


 聖とメルシーが、ベンチでくつろいでいると、その隣に、


 「ここ、よろしいですか?」


 聖より、少し年上の声、ハッとしてその人物に顔を向けると、青い奇麗な髪をなびかせながら、遠慮がちに訊ねる綺麗な少女の姿があった。その髪は、腰あたりまで伸びていて、水色の清楚な感じの服を着た、ターシャにも劣らない、美少女だった。


 「あぁ、いいです…」


 「だめだ。違うベンチに座れ。」


 メルシーが、敵愾心を丸出しにして、怒ったように声を張り上げた。


 少女は、いきなりのメルシーの出現に、少し驚嘆したようだったが、申し訳なさそうに、


 「そうですか…ごめんなさい。それでは…」


 といって、去っていこうとした。


 「こら、メルシー。ダメだろ、そんな言い方しちゃ。どうぞ、別に待ち合わせとかしていませんから。」


 聖が安心させようと、にっこりとほほ笑みながら、緊張しているのか、少し端に詰め、席を勧めた。最もそのベンチは、人が三人座っても十分スペースがあるのだが。


 「ありがとうございます。」


 嬉しそうに頭を下げ、聖に礼をいい、ベンチに腰をかけた。その一つ一つの動作には、気品が溢れ、見ている人に優雅さを印象づけるようだ。


 「貴方はギルドの方なのですか?精霊を連れていますけど。」


 「はい、昨日入ったばかりですけど。精霊のメルシーです。君も?」


 「いいえ、違います。精霊は私の中にいるのですけど、あまり姿を見せたがらないので。」


 「おい、聖。そろそろ行くぞ。時間がなくなる。今日は初仕事なんだからな。」


 この二人の会話が面白くないのだろう。拗ねたように、聖の服を引っ張りながら、促すのだった。


 「分かったよ。ごめん、ごめん。それじゃあ、僕はこれで」


 「ええ、また今度お会いできるといいですね。お名前は?」


 「聖です。君は?」


 「マリヤ。マリヤ・ラスターシャ。珍しいお名前ですね。覚えておきます。聖さん。」


 「じゃあまた今度。」


 メルシーに引っ張られながら、聖はしかたなくマリヤに手を振り、ギルドに行くために、公園を後にするのだった。


 マリヤは、聖を見送った後、安堵を覚えたかのように、  


 「ふぅ…」


 と息をはいた直後、


 「どうだった?あの期待の新人君は?ひひひ、見た感じひ弱で使い物にならないが、あの精霊は魅力的だな。」

 

 聞くものの体を底冷えさせ、脳に直接響くような声であった。ハトや雀も、畏縮しているかのように、その存在が感じられない。

 

 マリヤは突然男が出現したことに、心臓を握られたかのような衝撃を受けたが、その動揺を隠すかのように、


 「なぜお前が此処にいるのですか?これは私の任務です。」


 強気な口調を投げかけた。


 「ひひひ、パートナーに向かってひどい口を叩くものだな〜。あいつは、俺達の組織が待ちわびた、逸材なんだ。気になってしょうがないのさ。ひひひ、それにお前が変な気を起こしやしないかと心配になってな。ちゃんと、あいつの事を報告するんだぜ。」


 その男は、いきなりベンチの後ろから現れ、ドサッと腰を下ろし、マリヤの肩に手をかけた。背の高い、大柄な男で、髪が白く顔が死人のように青白い。全身を真っ黒なマントで包んでいる。目つきが厭らしく、口元に絶えず人を見下すかのように微笑を浮かべていた。


 マリヤは急いでその手を払い、ベンチから立ち上がった。


 「一体いつまで私にこんなことをさせるのですか?」


 その男を、気押されないよう精一杯睨めつけている。


 「お前も貴重な人材だからな〜。ひひ、一生無理だろう。人質もいるし、あまり変なことを考えるなよ。誰かに助けを求めようものなら、今すぐにでも。」


 「それだけはやめて。」


 「じゃあ二度とそんなくだらない質問はするんじゃない。そうだな、それともう少し笑ったらどうだ?「咲かない花」やらなんやら、ひひ、お前言われてたぜ。」


 「……。」


 「それより、さっさと来い。悪霊をもっと増やさなくちゃいけないんだからな。あぁ〜めんどくせぇ。早く殺しがしたいぜ。」


 (笑えるわけがないじゃない…)

 

 その男の後を、無表情でついて行きながら、マリヤはその胸に、絶望と恐怖、目の前にいる男に対する、抑えきれない憎悪を感じるのだった。


 「聖さん……か。もしかして、あの人なら。」


 誰にも聞こえないよう、声を発したか自分でも分からないような声で、希望の光を求め呟くのだった。




 その頃、聖とターシャは、ようやくギルドまで辿りついていた。どうやら、メルシーのことは周りに知れ渡っているようで、かすかな話し声と多くの視線を感じたが、話かけるものは誰もいなかった。聖はどうしたらいいか分からず、とにかく仕事を求め、受付に向かうのだった。


 「すみません。聖ですけど。ギルドの仕事…ってどうすればいいんですか?」


 「はい。少々お待ちください。」


 受付は、地方によって大分違うが、ここの受付は首都に近いだけあって、とても親切で礼儀正しく好評である。ひどい所だと、勝手に探せとばかり色々な資料が混じったのを渡したり、不遜な態度をするのである。恐らく、元ギルドの人間がやっているのが原因なのだろう。


 「お待たせしました。聖様のランクはDランクです。それだと…あちらの壁に貼ってある資料からお好きなのをお選びください。ランクは一定以上の仕事をこなし、ランクに応じたテストを受け、合格すれば上がりますので。または、向こうの壁に貼ってある賞金首を捕まえれば、その賞金首に応じて上がります、頑張ってください。」


 「ありがとうございます。」


 聖はお礼を言い、早速ランクDのエリアに向かうのだったが、


 「こら、どこに行く?早く賞金首を捕まえにいくぞ。」


 どうやらメルシーと聖は、根本的に考え方が違うようだ。賞金首のエリアに向かってしまったメルシーを、聖は頭の頭痛を抑えつつ、仕方がなく追いかけるのだった。


 「いや、無理だって。メルシー。」


 「聖、こいつを見ろ。別名死神。金貨十枚。この町で見かけたという証言つきだ。こいつにしよう。」


 そこには、全身真っ黒で、生きているのかどうか分からないほど白い顔色をした、白髪の男が微笑んでいる顔が映っていた。その顔は、見る者に間違いなく戦慄を覚えさせるだろう。


 「いや、無理。絶対無理。ほら、Aランク以外は危険って書いてあるし。僕はDランクだよ?」


 「ふふ、私はAランクだ。問題はない。何をそんなに怖がる必要がある?」


 「まったく…何を騒いでいるかと思えば…あなたでも無理よ。」


 聖が声のする方を覗くと、ターシャが呆れたような表情を浮かべ、こちらに歩いてくる。


 「またお前か…なぜそう言い切れる?」


 「そいつは現在、Aランクのギルドのエリートを二人も返り討ちにしているのよ?さらに、生粋の殺人中毒者。最近ある裏の組織に入ったとも言われているわ。とにかく、聖とメルシー。絶対に近寄らないでよ。」


 珍しくターシャが真剣な様子で、注意を促している。メルシーにもその男の危険度が伝わったのだろう。仕方なさそうに、黙っているのであった。


 「いや…絶対手は出さないって。勝てる気がしなし。」


 「まぁ、当然よね。それより聖。昨日の約束覚えているんでしょうね?」


 「そ…それは勿論。その話はとりあえず後にしてくれ。今は初仕事、初仕事っと。」


 そう言ってターシャを後にし、Dランクのエリアに向かおうとするのだが、

 

 「あら、丁度いいわ。それならあれ。やってみたら?」


 と、ターシャが指をさした先には、Cランクエリアの所に[山賊退治D〜Cランク対象]という張り紙が貼ってあった。恐らくメルシーを意識した発言だろう。


 「ふ、これくらい楽勝だ。さっそくこれをやろう、聖。」


 メルシーは言うまでもなく張り切っているが、主である聖は気が乗らないようだ。じっとその紙を見つめ、考え込んでいる。


 「なんかこれ見ていると、いやな予感がするんだよなー。」

 

 「私がいるんだから大丈夫だ。さぁ、さっさと申込にいこう。」


 しかし、メルシーにしつこく説得され、しょうがなくそれを申込み、早速現地にむかうのだった。そこで生じるであろう、何かを予想しながら。


書くことがたくさんあって、書いててこれでいいのかなって自身がなくなってきます。書くのって本当に大変です。

それと、こんな作品を読んでくれて、本当にありがとうございます。

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