プロローグ
晴ればれとした空、まるで雲の存在が疑われるような天気の中。一人の少年が、ぼんやりと木の下で寝っ転がりながら空を見上げていた。けれど、まゆを眉間に寄せながら、目の焦点が定まっていなかった。その様子は、深く考え事をしている人にありがちな、自分の世界に入ってしまった状態である。
「とうとう明日なんだ…」
誰に言うというわけではなく、まるで自分に言い聞かせるかのように少年は呟いた。
「この馬鹿やっと見つけた!まったく、あんたって奴は…」
少年は、いきなり現れたうるさい存在、声の主である少女ターシャを横目に機嫌が悪そうだ。大抵の人は、自分の時間が人に邪魔されるのを嫌うものである。少年も例外ではなく、
「いや…別に何処にいようと自由っていうか今一人になりたいんだけど」
「あんた明日ギルドに申請しに行くって本当?やめときなさいって。絶対無理。
大体、最近じゃ申請の時に契約してもらう精霊クラスだとろくな仕事が出来ないわよ…」
ギルドというのは、簡単に言えば仕事を貰いにいくところである。ただ、ギルドにくる仕事のほとんどは命の危険が伴う。そこで、精霊という存在が必要になってくるのだ。
精霊は世界中にいて、例えば木、石、水などの様々な物質に宿っている。最も高位の精霊ともなると、そうそう会えるものではない。だが、時に力を持った精霊は自分と相性のいい人物を探し始める。どうやって決めるのかは、精霊によって違うので定かではない。
ギルドでは、登録する際の条件として、精霊がパートナーにいることを義務づけている。しかし、精霊に選ばれる人物はそう多くないので、申請の時に儀式をおこなって精霊と契約しなくてはいけないのだが、大抵は低いクラスの精霊が応じればいい方なのである。
「いや、僕は大丈夫だと思うよ。そんなに危険なのやらないし…っていうかできないしさ。
ただやってみたいんだ。熟練になれば一生食べていけるみたいだしね。」
「全く…ギルドの新人がどれだけ苦労してるのか分かってるの?
まぁ私はそれほどでもなかったけどね。」
この少女、ターシャは今Bクラスであり、13という年齢を考えればかなりの高ランクである。
少年とは幼馴染もしくは腐れ縁だが、恐らく後者だろう。背はそんなに高くはなく、ターシャは美人といえる部類にはいっており、少年を持ち前の勝気な性格と抜群の行動力でよく振り回している。その容姿、性格、実力は、多くの人を魅了させ、少年の町のギルドでも将来を期待されている。
「じゃあ〜大丈夫かな。ところで何か用?」
少年は特に気にする様子もなく、平然と微笑んでいる。その顔を見たとき、ターシャは胸の動揺を悟られないようにしながら、説得は不可能だということを理解した。少年の、まっすぐな目とその表情が、深い決意を表していたのである。
「はぁ、聖みたいな馬鹿には何言っても無理か。
あんたの母さんが呼んでたわよ。さっさと行きなさいよね。」
「分かった。それじゃ、また明日な!」
そう言って聖は駆け出した。ここからある宿命を背負った少年、金髪黒目である聖の物語が始まるのである。