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少し遅くなりました。
どうぞ
帰り道は何事もなく進んでいった。カイルとイヴがハヤトのスパルタ教育を受けて毎回訓練の際瀕死になっていたことを何事もないと捉えるのであればだが。
「ふむ、カイルたちもだいぶ成長したな」
「そうですね、やはり兄さんから特訓を受けると伸びますね」
「まあ毎回ぼこぼこにしてやっているからな」
これはハヤトの自論だが、本気を出すことこそが重要である。自分と対等、もしくは強い者と競い合うことが成長への近道だと思うからだ。自分より劣るものとではどうしてもその優越感から鍛錬に身が入らないことが多い。しかし、対等の者と鍛錬をすることで負けていられないという気持ちが鍛錬への集中力を上げる。そして、どれだけ全力を出しても大丈夫というのも、鍛錬ではかなり重要だ。実戦を意識しながら刃挽きをしていない武器を用いて戦うことで実戦感覚を養うことも可能だ。
面白いことに、カイルとイヴは鍛錬後、毎回回復魔法を受けていたからか、「自然回復」というスキルを取得していた。毎回瀕死まで鍛えられていたことで取得できたものと思われる。これはドライたちにも同様の訓練が必要だなと思ったハヤトであった。同刻、アルストロメリアにいるドライたちが謎の悪寒に襲われていたことを知る者はいない。
「そういえば、これからの旅の話は本気ですか?」
「ああ、行くのは俺とステラだけだ。他の奴らじゃまだレベルも実力も足りない。少数精鋭で最短でいくのが良いだろう。進行速度が落ちるのもまずいだろうしな。何より幻獣族は俺たちと同じくらいの実力らしいから下手にカイルたちを連れて行ったら守れるかわからないしな・・・」
「みんな、反対してきそうですね」
「だろうな・・・。マリアとか特にな」
「説得は」
「俺がしないとだろう。大丈夫だ、何とかするよ」
ちなみに、この話を知っているのはステラのみである。最初は孤児連中も連れて行こうと思っていたが、よくよく考えてみた結果、危険が大きいのではないかと結論に至ったのだ。ただカイルたちに話していないのは、地獄の訓練の後死んだように眠っていることで語る暇がなかったからだ。
出発から二日後、彼らはアルストロメリアに戻ってきた。そのまま家へと直行する。家の周りには丈夫な土の壁がそびえており、家を取り囲んでいる。初めは丈夫に作ることが求められていると思い、全力で作っていったのだが、この辺りに出る魔物の強さを考えたとき、ウサギやオオカミでこのレベルの壁を突破できるのだろうかと疑問がわいてきた。もっと薄く脆くてもよかったかもしれないと思ったが、丈夫すぎても問題はないだろうと思い直し気にするのをやめた。しかし、ただの土壁では何とも味気ないし、圧迫感がすごいから何かしらの改築は余裕ができたらやろうと心に決める。
城壁とも思える我が家の塀を越え、中に入っていくと、洗濯ものがひらひらと風に揺れていた。どうやらセラが洗濯物を干していたようだ。シーツや服など綺麗に洗われている。さすが、メイドである。
「ただいま」
「あ、ハヤト様お帰りなさい」
「あれはセラが?」
「はい。今日は天気が良かったので」
到着して一番に出迎えてくれたのはセラだった。少し遅れてシェリルが家から出てきた。そして洗濯はやはりセラがしてくれていたらしい。聞いたところによるとマリアは今日の買い出しに出ているらしい。二時間ほど待っているとドライとマリアが帰ってきた。
久しぶりの我が家での団欒を楽しみながら、開店の時間を迎えた。
「おおお!兄ちゃんが戻ってきてるじゃねえか!」
ハヤトの固定客が餓狼亭に流れ込んでくる。
「野郎ども!またせたな!今日の飯は俺が作るからな!楽しんでいってくれ!」
「いいいいいいやっほおおおおおお!!!」
「うむ、ようやく帰ってきおったか。楽しみにしていたぞ!」
やはりこの馬鹿騒ぎは帰ってきたという実感を与えてくれる。しかし、予想外の奴が歓迎してくれた。というか、なぜいる風龍よ。いや、探知のお蔭でいることは分かっていたんだけども。セラに聞いたところ、ドライたちに加護を与えた後ずっと居座っているらしい。
どんだけ自由だこの龍は。
セラと協力して飯を作っていく。基本的に客が望む料理をどんどん作っていく。ハヤトの特別お任せメニューもあり大好評であった。
「よし!閉店!」
本日も餓狼亭は満員御礼であった。儲けも結構出ているようだ。正直副職でも生きていける気がしてきた。でもやはりそうもいくまい。客の笑顔と美味いというその言葉を守るためにも、行かなければならないところがある。それに、大事な家族、仲間を守るためにも副職で楽しんでいるわけにもいかない。
完全に余談ではあるが、餓狼亭で食事をするために客は毎日必死に働くようになり、アルストロメリアの経済は最近面白いように伸びているらしい。もっとも、餓狼亭と経済を結びつけて考えているものはほとんどいないのだが。
仕事が終わり、みんなで飯を食った後、緊急のミーティングを開いた。
「聞いてくれ。これから俺はいかなければならないところがある。今回はどれだけ時間がかかるかわからない」
「今回は俺たちが連れて行ってもらえるんですか?」
ドライが身を乗り出して聞いてくる。どうやら、居残りはあまり喜ばしいことではなかったようだ。それに帰ってきたカイルたちの成長を見て負けていられないという思いが強くなったのだろう。まあ、同じメニューを課せばきっとカイルたちのように毎回ぼろぼろになること間違いないのだが。
「いや、今回はステラ以外みんな留守番だ」
「え!?」
案の定マリアが反応した。前に次は人選を考えるといったことを覚えていたのだろう。
「理由は一つ。これから行くところは俺やステラ位の実力がないと生き残れる可能性が低いことだ。だよな?」
徐に話を当然のように壁際に背を預けた状態で佇んでいるエメラルドグリーンの髪をしたイケメンに振る。
「まあ、そうだろうな。特にそこの人間の女と料理人は無理だろう」
人間の女はマリア、料理人はセラのことだろう。セラの料理にも十分満足しているらしい。もう一度事の起こりからこれからのことを風龍の話を交えながら説明をしていく。最初は反対の意を唱えていたマリアだったが、風龍の正体やこれから襲い掛かってくるだろう危険を思うと何も言わなくなった。カイルたちは一度会っていることもあり比較的理性を保っていたが、ドライたちは正体を見て度肝を抜かれたようだった。加護をもらった時に正体は伝えられたらしいが実際に龍の姿を見たのはこれが初めてだったらしい。面白かったのは、セラだけは、ああ、あの時の龍か、位のリアクションしか見せなかったことだ。敵意がないことを察しているのか、焦りもしていないようだった。
「甘いものでもどうですか?」
「うむ、いただこう」
それどころか、風龍の餌付けに成功しているように見えた。セラ、恐ろしい子である。おい龍、デザートに目を輝かせてるんじゃない。
「出発は2週間後にする。それまでにドライたちの訓練をする」
「はい!」
「俺たちが出かけたら、ここの留守番兼冒険者としてランク上げしておけ。目標はCくらいかな。あくまで目標であり、無理なランク上げは絶対にしないこと。俺がいない以上怪我したらおしまいだと思って慎重に事を進めるように」
「はい!」
その後、今後のプランをみんなと話し合い、久しぶりの我が家での睡眠にふけった。ハヤトを挟んで川の字で眠りについた。
ちなみに、ハヤトに出された課題をクリアできなかったドライが何度も宙を舞い、死にかける日々がしばらく続くのだが、結局それが彼の血肉となり力となることになるのであった。一方のシェリルは、風属性の魔法の特性を生かした攻撃がハヤトに当たったことで罰はなかった。風龍の加護がなければ自分もドライのごとく宙を舞っていただろうと顔を青ざめさせながら、彼女は空を舞う友を見ていたのだった。
その後、ハヤト対カイルたち四人で実戦さながらの訓練が行われたのだが、結局ハヤトが圧勝するという結果になった。次戻ってきたときに自分に勝てなければ皆等しく地獄の特訓というハヤトの言葉にみなこの世の終わりを見たような顔をしていた。つい先日まで宙を舞っていたドライに関しては完全に意識が体から離れていたが、カイルたちの必死の呼びかけで意識を取り戻すことに成功していた。
ちなみに、彼らの戦闘のスタイルはハヤトの指導の結果、イヴが司令塔となり、カイルが全身砲弾のごとき攻撃で先陣を切り、シェリルが属性魔法で敵を攪乱し、ドライがその有り余るほどの膂力で敵を打ち砕くという形になった。
「よし、だいぶ形になったな」
「そんなこと言って、兄ちゃんには全然歯がたたないんだもんな」
「まあこれは基本の形でしかないからな。それぞれ工夫を凝らすんだぞ?しばらくはこの形で大丈夫だろうが、数が増えたときはそれぞれ魔法を織り交ぜたりしながら状況に合わせて行動するように」
「はい!」
カイルたちへの指示はこれくらいだった。あとは四人でパーティーを組んでランクを上げるよう伝えておいた。
「それから、マリアはどうなった?」
「メルさんのおかげで、面接していただけることになりました」
「そうか、面接はいつなんだ?」
「明日の昼、ギルドに来るようにと伝えられています」
マリアと何を話しているかといえば、マリアをアルストロメリアのギルドへ就職させようとしているのだ。もともとミスリムのギルドで働いていたこととメルからの推薦ということで、ギルドマスター直々に面接してくれることになったらしい。
「そうか、じゃあ、面接には俺も一緒に行くことにしよう」
「ありがとうございます」
これからはカイルたちを冒険者として行動させることにしたので、マリアとセラの護衛はできなくなる。そこで、マリアにはギルドで働いてもらうことにした。ギルドには宿舎があるそうで安全面も万全だ。もちろんこの家に戻ってきてくれてもいいが、変な男に声をかけられることを減らすためにもしばらくはギルドにいてもらうことにした。
え、セラはどうするのかって?
「ラルドさん、よろしくお願いしますね」
「うむ、任せよ」
風龍ことエメラルドを懐柔していた。知らない間に、呼び方がエメラルドの一部を取ってラルドと呼んでいるようだった。何でも三食食事に寝る場所として家を貸し出すことで護衛を引き受けてもらったようだ。完全に胃袋を掴まれているようだ。さりげなく、ハヤトが帰還した時には、満足するまで料理を食わせてもらう約束を取り付けておく辺り、風龍もしっかりしていると思う。食欲旺盛な龍である。
さて、明日はギルドマスターのところだ。ぜひともマリアに面接合格してほしい。それに、偉い人にこれから来るであろう災厄について伝えることができるのも大きい。早めに眠って、頭を休めておこう。地位の高い人と話すときは万全の状態で話さないとうまいようにまとめられてしまうかもしれない。また三人は川の字になって眠るのだった。
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