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どうぞ
「にしても、困ったことになったなあ」
「そうですね・・・」
風龍が去った次の日、ハヤトたちは今後どうするか相談していた。それもそうだろう。
突然お前強くならないと死ぬかも、てかまじ強いやつ押し寄せてくるからがんば!
と言われたのと同じなのだから。そして、今後の行動の案だが、
1、このまま進み、岩石獣を狩りにいく。
2、一旦戻り、早急に幻獣族の里を目指す
3、現実逃避して海を目指す
だった。一年の猶予があるとのことだったので、このまま2,3日ならあまり変わらないのではないかということだ。それも、核魔石が手にはいればスキルを取得できる可能性が高いこともあり、指示されている。一旦戻って里を目指すというものだが、これを支持するものも多い。風龍の話だと強者のみが進化可能ということだからセラやマリアは無理だろう。ハヤトとステラは認められれば可能とのことだった。カイルたちは加護を今後も与えられるのならば可能性があるとのことだった。龍の加護はもちろん強力なのだが何分まだまだレベルも低いし実践経験も浅い。3つ目は、ハヤトが考えるのが嫌になってつぶやいた案が採用された結果だ。
「とりあえず全速力で岩石獣を狩りまくって、速攻戻って里を目指すか・・・」
「わかりました」
基本的にこのメンバーはハヤトの決定に従って動いている。風龍との一件からカイルたちはなおさらハヤトのことを神聖視していた。
「じゃあ、レイとシャディに頑張ってもらうことになるな」
声をかけるとぶるるると返事をする二頭。任せておけと言っているかのようだった。
「じゃあシャディには俺が、カイルは俺の後ろに乗れ。レイはステラとイヴを頼む」
そういうとみな騎乗したのを確認したのち二頭は歩みを進めた。その歩みは今までの進行の比ではないスピードだった。まるで風になったような感覚を持ってしまうほどだ。この時ハヤトが風魔法で抵抗を少なくしていなければこうはならなかっただろう。依然全力で走ったときの風圧がやばかったので考案したのだった。
景色が流れていき、街が見えてきた。綺麗な花が咲き乱れた野原に囲まれた街だ。もちろん街は城壁に囲まれたものだったが。
「きれいなところだな」
「ええ」
「カイル、目的の街ってここからどっちに行くんだっけ?」
「マリア姉さんは街の北西にあるって言ってたはず!」
「街によりたいところだけど、岩山まで一気に行って狩れるだけ狩ってさっさと戻ってくることにしよう」
「わかりました」
ステラとイヴが返事し、また彼らは風になった。ただし、彼らが向かった先は方角は大体あっていたが、普段冒険者たちもあまり踏み込まない岩山にたどり着くことになる。それは単に、マリアを連れてこなかったこと、そして街に寄らずに進んだことが原因なのだが、この時は誰も気づくことはできなかった。
2時間ほど走った先にはごつごつとした岩が転がる悪路になり始めた。さすがのレイたちでもこの悪路のせいで速度が落ちたが、太陽が真上に来るころ、大体昼ぐらいだろうか、に目的地の岩石地帯に到着した。
「ありがとう、レイ、シャディしばらく休んでてくれ」
感謝の意を伝えた後、契約のスキルで二頭を異空間へ戻し、四人は大小さまざまな岩石が転がる山を登り始めた。山の標高は1500m位で、比較的勾配もきつくはないその山は、山登りの経験がほとんどない彼らには幸いなことだった。ただ一つ、その山を住処にする魔物たちの存在以外は。
「うわっ!」
突然カイルが悲鳴を上げた。四人は、先頭をハヤト、殿をステラが務め、カイルとイヴはその間に位置し、ひし形のような形で進んでいた。右翼側にいたカイルだったが、突然の敵襲を受けたようだ。そこでみなが思った。
探知スキルに反応しない!?
そう、この山の魔物は等しくすべてのものが気配完全遮断のスキルを所有しているのだ。それに気づいたのはカイルが悲鳴を上げ、振り返ったハヤトが疑問に思い鑑定スキルを発動させた時になって初めて分かったのだ。本来この山は、属性石の原料を集めるために推奨されていない山であった。それは単にこの山の魔物のスキルが冒険者たちにとってあまりに相性が悪いが故だった。
今回襲い掛かってきた魔物はアルマジロの様な姿の魔物だった。名をローリングストーンという。ハヤトがどこのロックバンドだと心の中で叫んだのは内緒だ。体長2m弱といったところだろうか。カイルが体勢を立て直し攻勢にでた。巨大で肉厚な鉈がまるで巨大な岩を彷彿とさせる魔物に襲い掛かる。
がきぃぃいん
並みの魔物であれば両断されるであろう一撃は火花を散らして敵の体表を撫でただけで、傷はとても浅かった。
「かたい!!」
「魔闘展開!!打撃に変えろ!」
ハヤトが指示を飛ばす。そして、四人はすぐに魔闘を行い。敵に迫った。魔物は自身の体重故か動きがとても鈍かった。岩に擬態し油断した獲物を一瞬で食らうというスタイルだったのだろう。しかし、初撃が決まらなかった今回、四人の敵ではなかった。カイルが魔力の籠った拳を敵の横腹に打ち込み、魔力が爆ぜる。続けて駆け寄ってきたイヴがバットで打ち返すかのように、飛んできた敵に蹴りを入れる。正面から迎え撃つのではなく斜めから足を払うように繰り出されたその攻撃で敵は大きな音を立てて転ぶ。身の危険を感じた敵は体を丸め、一つの岩石になってしまった。そんなことお構いなしに突っ込む人影が二つ。もう何も言わなくてお互いが分っているのだろう。二つの影は岩を中心に両サイドから駆け寄ってきて、鏡合わせの様に敵に攻撃を撃ちこんだ。同時に爆ぜる魔力。両側からの衝撃が等しいことで左右に動いて衝撃を逃すこともできず、内部を蹂躙された。
「おつかれさん」
軽く労いの言葉をかけて剥ぎ取りに移った。背中や腕といった部位は本物の岩石ではないかというほど硬く、剥ぎ取り用のナイフでは切り裂けなかったが、腹側は肉質が柔らかかったのですいすい剥ぎ取りを進めていく。体内には核魔石があった。しかし、肝心の属性石の原料が見当たらない。
「んー、こいつは岩石獣じゃなかったていうことなのか?」
「いや、でもこいつ岩だぜ、兄ちゃん?」
「だよな・・・ん?岩?」
思いついたようにハヤトは拳に魔力を込めてすでに死んだ魔物の背中の岩石を何度か殴りつける。魔力の爆発に合わせ岩がどんどん崩れていく。
「お、やっぱりあった」
砕いた岩の中から、材質の異なるこぶし大の岩が出てきた。鑑定してみると、魔鋼岩:土とでた。こいつが恐らく属性石のもととなる物だろう、細かく他にもないか確認してみたがめぼしい物はなかったのでさらに散策を続けていく。
「お、兄ちゃん、あったぜ魔鋼岩だ!」
「さんきゅ!だが、いちいち岩を割っていかなきゃいけないのは面倒だな」
「そうですね・・・ハンマーでもあればよかったんですけどね」
「だな、情報収集が足りなかったな」
そんなこと言いながら素手で岩を破壊していく二人を、カイルとイヴは苦笑いしながら見ているしかなかった。普通手で割れねえから!二人の考えは見事にシンクロしていた。
「ある程度集まったよな?」
「そうですね、属性は必要なものが集まったんですか?」
「ああ、とりあえず土と火、水は手に入った。岩石地帯なのに水の魔鋼岩がでたときは驚いたがな」
「あの兄さんが亀みたいって言っていた敵ですか?」
「ああ、ひっくり返してしまえば楽な相手だったよな」
この会話のときもカイルとイヴの心はシンクロしていた。ハヤトたちの言う亀とは、ロックタートルという魔物で、彼らが言うように水属性の魔鋼岩を体内に生成する魔物である。体長2mほどで体重はわからない。ただ言えることは戦闘中に、男であろうが、一人であの敵をひっくり返すことができる人間はそうそういないということだ。それを軽々とやってのけるハヤトに驚いた彼らだったが、なるほどといって同じようにひっくり返し始めたステラに度肝を抜かれたのも記憶に新しい。
「これくらいあればきっと足りるだろう」
彼らは岩石がどれだけ必要なのか調べずに来ていたためわかっていないが、この山の魔物から手に入る魔鋼岩の大きさなら二つあれば属性石が生成可能なほどなので、足りない訳がない。
「光とか闇とか風の魔鋼岩にも興味あるけど光とか闇の属性もった敵とか想像もつかないし、危なそうだから帰ろうか」
どどどど
「ん?なんか言ったか?」
「え?私は何も言ってませんよ?」
「私もです!」
「俺も何も言ってないよ?」
どどどどどっどどどどどど
「いや、絶対何か音がする!」
小さな疑惑がどんどん大きくなっていき、辺りを目視で確認していくと、山頂の方から何かが急速に近づいてきているのがわかった。
「ローリングストーンズ??」
音の正体は、ハヤトたちを押しつぶそうと押し寄せてくる巨大な岩石群だった。決して彼の有名なロックバンドではない。中でも一つだけ飛び抜けて巨大な岩がある。鑑定してみると、そいつも魔物で、地竜とでた。他の岩石も鑑定していくと他はローリングストーンたちだった。
「固まれ!」
通常このような状況に陥った場合、慌てふためきまともな行動をとることは困難であるが、ハヤトの指示は早かった。ステラたちがハヤトのもとへ駆けより、迎撃態勢に移る。敵は岩石獣を名乗る魔物であり、その巨大な体躯をもってして転がることで更に力を増して襲い掛かってきている。横に長く伸びたその岩石群の強襲は並みの冒険者だったら逃げ切れず押しつぶされて、その人生を終えていただろう。しかし、彼らは並ではなかった。ハヤトが位置しているのはちょうど地竜と呼ばれる全長10mほどにも及ぶと思われる巨大な魔物で、竜種の下位に位置する魔物だ。通常大人数で囲みながら時間をかけて狩る魔物だが、ハヤトが問った行動は、実に淡白なものだった。槍を構えて投げる。ただそれだけだ。単にこの二つの動作を行っただけというとまた語弊が生じるが・・・。
ハヤトが構えた槍は、夕暮れの日差しを反射させ、深紅の光を放っていた。分るものが見れば一瞬で理解するだろう。これがどれほど力を持った槍なのか。およそ量産品では放つことのできないその威圧感。そう、この槍、覇魔槍ゲイガニルは最古の迷宮と謳われるカトリーナで見つけたものであり、ハヤト専用の魔槍だ。槍を入手してからというもの、その実ハヤトはこの槍の使用に悩みを持っていた。それは強すぎるが故の悩みだ。
ハヤトは、魔物が体内に生成する核魔石を己が持つ図鑑という特殊なユニークスキルに吸収させることで、スキルポイントを手に入れ、この世界の人々とは異なり、自分の意思で能力の取得を行っていた。図鑑では時折ボーナスポイントが手に入るなど、およそこの世界の人々では入手不可能な量のスキルを所有していた。スキルの力は絶大で、何度もその命を救われてきた。しかし、彼の槍は通常の攻撃でも気をつけなければ核魔石ごと破壊してしまう力を持ち、多少力のある敵に対して、魔力を込めたり、魔法を纏わせたりして運用した場合、敵は見るも無残に食いちぎられた。だが、それだけの力ある槍だからこそ、なかなかうまく使えていなかった。風龍との戦闘では攻撃した場合、折れてしまうのではないだろうかという槍をなくすことへの不安から、投擲したり攻撃に使えていなかった。
その槍を持って、彼は短く呪文を唱えた。
「樹氷」
唱えられた魔法は、敵に向かって炸裂することなく、小さな魔光の塊としてハヤトの掌に乗るかのように浮いていた。ハヤトはその塊で槍をなぞるように槍頭から撫でていく。途端に冷気を惜しみなく迸らせる深紅の槍。
ハヤトが身体強化のスキルやその鍛えられた腕力で槍を投擲した。撃ちだされた槍は、高速で敵に接近した。その過程で、槍がぶれた。直進していたはずの槍が二重に重なって見えたかと思うと、槍はその数を乗数的に増やしていき、横に広がる敵の前に飛来していく。槍は敵の頑強な岩石をまるでチーズを貫くかのように貫通し、槍が纏っていた魔法が合わせて炸裂していく。槍を起点に地面に縫い付けられるように氷の枝が点に向かって伸びていく。転がってきた運動エネルギーが相殺されてしまったかのようにその場に縫い付けられ死を迎えた魔物たち。その姿は、魔物という土からそびえた氷の森のように見えた。
お読みいただきありがとうございました。
わからないことを勉強して、わかった気がしたが、また同じような問題を解いたときにまた分からず、何度も反復練習し、ようやく理解するということを繰り返している作者です。
これで1/28に現実逃避して書き上げた分が終了になりました。この先が滞りなく進むかはわかりませんが、テスト期間でもありますので、気長に待ってやってくださると幸いです。では、近いうちに!




