52
このあたりから話がぶっ飛んでいく気がします。作者の頭はだいぶ前にぶっ飛んでしまったようです。
アルストロメリアを出発してから早くて2日が過ぎようとしている。とりあえずの目標であるブルーローズにはまだ到達していない。主な理由としては、道中での訓練が原因だ。今回は遠征ということもあり、野宿の経験を積ませようという目論見と純粋な技の訓練を行うことにしたのだ。
出発してから二日目の今日、日が傾いてきたこともあり寝床の準備を行っている一同に接近する巨大な気配があった。その気配にはみな即座に反応を示した。
「これなんですかね?」
「俺たちで偵察行ってこようか?」
ステラの問いにカイルがそう提案する。
「うげぇ・・・いや、こいつの狙いは、多分俺だ・・・。このままここで待っていよう」
みな、疑問符を頭の上に乗せているようすだったが、ハヤトだけは接近する気配に心当たりがあった。いや、正確にはステラも知っているはずなのだが、当時と若干異なる気配になっていたことで気付かなかったようだ。
「久しいな!」
現れたのは、エメラルドグリーンの目と髪をした長身の男だった。男の登場に合わせ、カイルたちはみな武器を構えていた。もちろん旅の途中である以上、常に動けるように身構えてはいるのだが、今回はいつもの様な余裕はなかった。本能がこいつはやばいと全力で警鐘を鳴らし、本人も知らない間に武器を構えていたのだ。
「久しいなって、あれからまだ全然時間経ってねえじゃねえか!まさか今から戦おうとか言わねえよな!?」
「それも実に心惹かれる提案ではあるのだが、少しばかり面倒なことになってな。お前には忠告しておこうと思ってこうしてやってきたのだ」
くくくと笑っている男の態度を訝しみつつ、彼の言葉をもう一度反芻しながら理解していくと、嫌な予感しかせず顔をしかめるハヤト。
「忠告?というか、まずその気配少し弱めてくれ。うちの連中がお前に切りかかっていってしまう前にさ」
「ん?これでもかなり魔力を抑えているのだがな。・・・・これでどうだ?」
途端に張りつめていた緊張が緩んだ。カイルとイヴの額には玉のような汗が浮かんでいる。ステラはハヤトとの会話でこの男の正体に気付いたのか、いつでも攻撃できる体制ではいたがカイル達ほど消耗してはいなかった。
「すまんな。それで?いきなりどうしたっていうんだ?お前とまた会う予定なんて俺の中にはなかったんだが?」
「連れないやつだなお前も。この間の戦闘の後、傷を治すべく龍の里に戻ったのだ。そこでお前の話をしたら古き友たちがお前に興味を持ってしまってな。恐らく近いうちにお前を探し出して、現れると思う」
男の言葉を理解できたのはハヤトとステラの2人だけ。そして二人の顔は先ほどのカイルたちの比ではないほど青ざめていた。
「兄ちゃん?何がどうしたっていうんだ!?」
「・・・ああ、お前たちはこいつのこと知らないんだよな。悪いが言ってもわからないだろうから本当の姿に戻ってもらえたりするか?」
「構わん」
抑えていた魔力が一気に膨れ上がり、その男は姿を変えた。あの日出会った絶対強者たる風龍の顕現であった。美しきその鱗は夕暮れの陽光を反射しきらめいている。その眼はやはり人の姿のときと同様透き通るようなエメラルドグリーンだった。
今回息をのんだのはカイルたちだけではなかった。その姿をハヤトも息をのんで見つめていた。あの戦闘のとき見たがやはり近くで見ると圧巻であった。風龍はすぐにまた人の姿に戻ってしまったが。
「これで我が何者かはわかったであろう?」
「おう、すまんな。それにやっぱりまだ角は折れたままなんだな」
「当たり前だろう。この間お前にへし折られたばかりなのだからな。そのことも古き友に散々笑われたぞ。まあその腹いせにお前と戦えばみな同様に自慢の角をへし折られるだろうと言ってやったがためにこうなったのだがな」
「おいこらまて。それ完全に八つ当たりだよなそれ!?」
しばらく子供の喧嘩の様な会話が続いたのだが、それをカイルたちは信じられないものを見るかのように見つめていた。彼らの心中では、ハヤトはこんなおとぎ話に出てくるような伝説級の龍と対等に話しているだけでなく、戦ってその実力を認められているということでこれまで以上の尊敬の念を膨らませていた。
「で・・・?具体的にどんな奴が来るっていうんだ?」
「ふむ。みな久しく自分と対等な者と戦った覚えがない者ばかりだからな出会えば戦闘は必然かもしれないが、その中でも危険な者がおってな・・・。そやつのことを忠告に来たのだ」
「やばいやつなのか・・・?」
「そやつの名はオニキスといってな、我々龍種へと進化を遂げたもの中で最も若いやつだった」
「名前から想像するに黒龍か紫龍って感じか?」
「まあそんなところだ。あやつは雷を操る力を持っていた。しかし、あやつは堕ちてしまった・・・」
「落ちた?」
この時、普通にどこかから落下したのかと思ってしまったハヤトたちを誰が責められようか。風龍が言うところの堕ちたとは、つまり魔に堕ちたことを指す。少しの会話を経て風龍とハヤトの会話が噛み合わなくなったことでお互いに解釈が間違っていると気づき、詳しい説明が入り共通理解にたどり着いたのだった。
「で、墜ちたっていうのはどういうことなんだ?」
「この世には魔素が充満していることは理解しておるか?」
「ああ」
「我らはその魔素を体内に吸収することで生きている。もちろん魔物を狩り食事をすることもあるが基本的に我らの様な上位の存在は魔素さえあれば生きていけるし、怪我したところで魔素が濃いところで療養すれば自然と回復する」
ハヤトはうわ、チートだ!と心で叫んだが空気を呼んで口にはしなかった。
「人々との認識は違うようだが我らは基本的に争いは好まん」
「まじか。俺はてっきり勝手気ままに人を殺して回る連中かと思っていたぜ」
その言葉は嘘偽りのないハヤトの本心だった。魔物は人に害するもの、そう思っていたのだ。
「下級の存在どもは確かに本能で生きているからな。我らの様な上位の存在にはそういう者もいるということだ。特に我ら龍種は自領を侵されない限りは基本的に人間など相手にはしない。ただし、一度我らに牙をむこうものなら徹底的に消し去るがな」
なるほどそのせいか。下級の魔物は人を襲う。魔物は人を襲うものであるという認識が人々に根付いてしまい、その上に位置するものも同様に人に害成すものとして見られ、討伐隊が組まれたりしてしまうのかとハヤトは一人理解した。
「お前たちが非好戦的だということは分かったけど、オニキスってやつが墜ちたっていうのはどういうことなんだ?」
話しがずれたので軌道修正をする。
「おっと、論点が外れていたな。我らは戦いを好まない。あやつ、オニキスもまた平和を愛しておった。だが、人間たちがあやつを討伐しようと軍隊を出したことが事の始まりだ。
オニキスは強い。しかし、人間の中にはお前を超える超常の存在がおったようだな。そやつらに深手を負わされただけでなく、オニキスの子らが人間の刃によって命を落とした・・・。オニキスはぼろぼろになって、その地を去らざるを得なくなった。そして我とほぼ時を同じくして龍の里に傷を癒しに来たのだ。あそこは魔素が濃いからな。傷はしばらくすれば直るはずだった。
しかし、何百年、いや何千年に一度と言っていい確率ではあるが魔素に心を侵食され、本能のままに行動を起こしてしまうものがいるのだ。我ら龍種の様な存在は他の連中、お前たちが言うところの魔物とは格が違う存在だ。進化したと言っていい。ゆえにお前たちの使う言語を理解することもできるし、こうしてお前たちの姿かたちを真似て自分の体を変化させることも可能だ。しかし、一度心を魔素に侵食されると堕ちてしまうのだ。退化といってもいい。本能のままに行動するようになってしまう。まして、オニキスは人間たちをひどく憎んでいる。その存在すべてが許せないと思うほどにな・・・」
ハヤトは悟った。人間族、あるいは亜人族や他種族を巻き込む大事件が起きてしまうということを。
「つまり、俺にそいつを倒してほしいということか?」
「ん?そんなことは言っていない。ただはっきり言って、墜ちた龍はけた違いの強さを得るのだ。魔素を以上に取り込んでしまったことで無意識に抑えていた力が溢れだしてしまうからな。まあ見方を変えれば進化したといっても過言ではないかもしれんな。今のお前では勝負にならないだろう」
「じゃあ、どうしろっていうんだ?」
「それを伝えるために来たのだ。それ以外にもあるのだが、一度しか言わぬから、努々忘れるな。そして確実に実行しろ」
「内容によるがな」
「ここより北東のあの山の麓に、大樹が茂る森がある。その中にいる幻獣族の里に行け。そこで進化の儀を行うのだ」
そこから風龍が語った内容は驚くべきものだった。それはこの世界に古くから伝わる進化の技法についてだ。魔物のなかには、長い年月をかけて上位種へと進化を遂げるものがいる。しかし、進化は何も魔物たちだけが行えるものではなかったのだ。人間や亜人族なども進化の可能性があるそうだ。その進化の技法を代々継承しているのが幻獣族という人々だということだ。正しくは人ではない。彼らは進化した存在であり、もともと人間やその他の種族だったものたちというだけだ。
龍曰く、その地で進化を遂げたものはその時代の英雄となった。
また曰く、進化を遂げ、己が覇道を突き進むがゆえに魔王といわれたものがいた。
更に曰く、もともと人の身であったものが、究極の進化を経て、龍へとその身を変化させることができるようになったものがいると。
俄かには信じられない話だった。しかし、これから襲い掛かってくるであろう敵を思えば、ぜひとも進化を行いたいと思える内容だった。
「だが、なぜそのことを俺たちだけに伝えた?人々に伝えてやればよかっただろう?」
「こんなことを他の人間に言ったところで何になる。もとより、幻獣族は己が認めた強者にしか進化の儀を行ってはくれない。そして奴らは強い。今のままのお前では厳しいだろう。しかも、儀式に耐えられる強靭な意志がなければ死ぬ危険もあるからな」
「まじか。一刻も早く進化したいところだが、猶予はあるのか?」
「ああ、それならしばらくは大丈夫だ。奴が負った傷は深い。我以上だ。恐らくあと1年はあやつも無理には動かないだろう。我らが制裁を施したゆえ龍の里にはもう近づくこともできないだろうからな。寸でのところで逃げられたが他の地では魔素が薄い。回復にも時間がかかるだろう」
「なるほどな。お前たちが仕留めててくれたら何も苦労はなかったんだけどな」
「魔に堕ちたやつにそこまで冷酷になり切れなかったのだ。愛しき子らを殺された怒りは我とて分る。そのことを思うと最後の一手が打てなんだ」
「だが、そいつが俺のところに来る可能性があるのか?聞いた話だとその討伐隊のところに行くと思うんだが?」
「初めはそうだろうな。復讐心からそいつらの所に向かうだろう。しかし、次は恐らくお前だ」
「なぜ?」
「我と時を同じくして里に戻ったといっただろう?我らは好戦的ではないが、たまに息抜きをしたいと思うものでな。自分たちと同じくらい強きものと戦いたいという欲求もあるのだ。特に舐めきっていた人間でそこまで戦えるものがいるという情報は里で一気に噂になってな。あやつも目を輝かせていたのだ。まさかあの時はこんなことになるとは思ってなかったからな・・・。」
「ええと・・・おまえのせいかあああああああああああ!!!!」
要約すると、龍が魔龍となり人々に攻撃してくる可能性が高い。そしてそいつは死ぬほど強い。そいつに勝つ、もしくは生き残るには進化するしかない。その進化は北東にある山奥にある森の中に住んでいる幻獣族が知っている。そして、この原因となっているのが、龍討伐を行った連中であり、またこのやたらイケメンな人化を行って現れた龍のせいだということだ。
ひとしきり叫んだあと状況を理解したハヤトは、ぐったりとうなだれた。その様子をステラたちは息をのんでみていた。彼らは必死に話を理解しようとしていたが理解できずにフリーズしかかっていたのだ。しかし、そのなかでステラが動いた。
「質問があります」
「なんだ?・・・・ん?おお、お前は神狼が認めし者か」
「え!?」
「狼という地を這いまわる下等な存在から我ら上位の存在まで成り上がったもののことよ」
「えっと、そんな存在とは知り合いではないのですが・・・」
「お前の親が加護を受けたか先祖が与えられた加護がお前に伝わったのかもしれんな」
そういって、ステラにかけられていた加護を見抜いた風龍にハヤトとステラが驚く。
「あの、それで、私も進化というのができるのでしょうか・・?」
「神狼が認めたものだ、可能だろう」
「なあ、俺も質問していいか?」
「なんだ?」
「お前も加護とかかけられるのか?」
「・・・可能だ」
やはりとハヤトは思った。高位の存在は他者に対して加護を与えることができる。それは龍である風龍も同じだった。
「俺たちにその加護をかけてくれたりしないか?」
「もともと話のついでに加護をかけに来たのだ」
このことにハヤトの顔がにやけてしまったのは仕方のないことだろう。
「ただし、その娘は不可能だ。すでに他種族の加護を持つ者にはかけられん」
今度はその言葉にステラが落ち込んだ。ハヤトの力になれると思ったのに、可能性が消えたような思いだった。
「なに、気にすることはない。神狼ならばその加護を強力なものにしてくれるだろう。あの頑固者の加護が時を渡ってお前に現れたのだからな。あやつは今もまだ狼の里にいるだろう。幻獣族の地にほど近いところにある。お前が行けば加護の気配を感じてあちらから何かしら接触があるだろう」
ステラもパワーアップが可能な様だった。先祖から受け継いだ加護よりも本人から駆けてもらった加護の方が強力なものになるらしい。その後、風龍の加護を受けたハヤトたちは、お礼にと食事を振舞った。加護を受けた後、体が異常に軽く感じ、力が体の底から湧きあがるようだった。そして、おもしろいことに、亜人族で魔法の使えなかったカイルたちが風魔法を使うことができるようになった。しかもLv3だ。ただ、風龍曰くそれ以上は育たないということだった。亜人族はどうあがいてもそれ以上にはたどり着けないらしい。なら、元々Lv5になっていたハヤトはというと、風魔法を使うための魔力が今までの半分になり、威力は倍加し、一部は呪文なしで発動可能になった。しかも風を自由に操れるようになったことで空を飛ぶことが可能になったのは、本人にとってはうれしい誤算であった。
そして、食事を用意している間に聞いたことだが、同族からの加護は受けることができるとのことだったので、恐らく訪れるだろう他の龍に認められれば更なる加護が与えられることになるそうだ。
「美味!何と美味なことか!!素晴らしいぞ!!ふはははははは!!」
ハヤトのファンが増えた瞬間だった。テンションの上がった風龍にアルストロメリアにいる仲間にも加護を与えてほしいといったら二つ返事で受け入れてくれた。その時、ハヤトに近い味を出すことができる料理人が仲間にいると言ったら目を輝かせていた。次の日アルストロメリアの餓狼亭にエメラルドグリーンの髪と瞳を持ったイケメンが訪れ、ハヤトの依頼で来たと言って亜人族の2人にだけ加護を与え、魔法の使い方を軽く説明し、ハヤトからの伝言を伝えた後、持ってきた大量の食材をセラに調理してもらい堪能することになる。そのとき客と一緒に宴会を開いてしまう。この龍は社交性も持っているようだと帰ってきたハヤトが思ったそうだ。そしてこれはしばらく先のことだが、例の男が餓狼亭に入手困難な美味なる食材を携え訪れることになり、定期的に大宴会が開かれるようになる。
お読みいただきありがとうございました。
中学生に戻って、しっかり勉強しなおしたい作者です。それが無理なら、中学生の俺を蹴っ飛ばして勉強させておきたい作者です。ここまで理解力がないと泣けてきます。勉強って大変ですね。がんばります。




