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朝起きて、飯を食い、ギルドに向かう。今まで日本で暮らしてきた日常とは打って変わった生活にも3日目になるとだいぶ慣れてきた。今日の天気は晴れ、絶好の外出日和だ。お弁当持ってピクニックとかいいかもね。まあ男一人でピクニックとかちょっと考えてて、一人で落ち込んだのは内緒だ。今日もギルドの扉を開けるとメルさんが髪の毛を後ろで一本結にしているのが目に入った。女性のうなじに魅力を感じる系男子の俺としてはメルさんのポニーテールには激しくGJといいたい。言わないけどね。
「おはよう、メルさん。今日もいい天気だね」
「ハヤトさんおはようございます。今日もスモールラビットの依頼ですか?」
「特に何かなければそのつもりです」
「それでしたら、南門のほうから出た草原などの討伐に行っていただけませんか?北東側は数がそこまで増えていないそうなのですが南門の付近で大量に表れたそうなので」
ほう、大量発生とな。次の図鑑の規定数までもう少しだが、恐らく次はさらに倍の数が必要になるだろうから、大量に狩れるというなら願ってもないことだ。あ、でも一度にたくさん相手しないようにしないと、タコ殴りにされたらさすがにまずい。
「きれいなメルさんのお願いなら断るわけにはいきませんね」
冗談めかしてみた。一つ言っておこう、日本にいたころの俺なら絶対言わないようなセリフであると。
「あら、お上手ですね。でもそういう言葉は本命の人だけにした方がいいのでは?」
「もしかしたら本気かもしれませんよ?メルさん彼氏とかはいないんですか?」
「ずいぶんと率直ですね。黙秘権を行使させていただきます。あと、女性に恋愛について尋ねるときには雰囲気を大事にしないといけませんよ?」
にこにこしながら切り返されてしまった。やはり慣れないことするもんじゃないね。
「失礼しました。でもいいことを学べましたよ。その授業料といってはなんですがウサギ料理なんていかがですか?」
「ウサギ料理ですか?」
いきなり何を言ってるんだこいつって思われているだろうな。説明しよう!実は恐らく今日の狩りでウサギの所持数が99に到達しそうなんだよね。100以上持てるならいいんだけど、ゲームとかだと99がMAXであとは持てませんってなることが多いから、余ったりしたら捨てるのももったいないし、せっかくの料理スキルLv4を誰かに自慢したいと思ったんだよね。どうせならLv5になってからのほうがいいのだろうが、レベルアップなどを待っていたら持ち物を持ちきれなかったときに困ってしまう。
そして、誰かにご馳走するとなったとき、思い浮かぶのは草原で寝ているところを発見して、ギルドまで連れてきてくれたボッシュさんと依頼の斡旋とかしてくれるうなじの素敵なメルさんだ。もし見つければボッシュさんも食事に誘ってやりたい。
「これでも料理の腕には自信があるんですよ。材料はウサギの肉ですけどたぶん想像を絶するうまさだと思いますよ?」
過大評価ではないつもりだ。正直昨日自分で作ったウサギの丸焼きを食ってから満腹亭の飯が全くうまく感じなくなってしまっているくらいだ。飯って言ってもパンとウサギ肉だけどな。それでも、繰り返すが出された食事には感謝して残さず食べている。ただそれくらいうまかったのだ。この感動をこの世界の知り合いにも味わってもらいたいと思ったのは何も不自然なことではないだろう。
「よっぽど自信があるんですね。角付きの肉でもお持ちなんですかね」
角付き?なんのことだろう。今日まで蹴り殺してきたウサギには角なんてついてなかったけどな。
「いやいや、材料じゃなくて腕がいいんですよ」
これも嘘ではないはず。多分料理スキルLv4のおかげだろうしね。
「そこまで言うならごちそうになろうかしら。今日は夕方で交代なので」
「それはちょうどよかった。夕方頃報告のついでに迎えに来ますよ。ただ、しがない宿屋暮らしの身なので、青空のもとバーベキューになると思いますけど、勘弁してくださいね。ただ味だけは満足してもらえると思うのでお腹すかせて待っててください」
「楽しみにしてますね」
そうと決まれば、さっそくウサギ狩りに行こうか。今日もレベルが上がったら魔法の取得も視野に入れていこう。そんなことを考えながらスモールラビットの依頼の手続きをしてくれているメルを待つ。
「あ、そうだ。ボッシュさんってどこに行けば会えるかわかりますか?先日よくしてもらったお礼を兼ねてメルさんさえよければ一緒に彼も食事に誘おうかと思っているのですが」
「今日は多分南門の警護をしているんじゃないかしら。はい、ギルドカードを返却しますね」
そういってギルドカードを渡してきた。それを受け取り、お礼を言ってギルドを出る。よく考えてみれば、メルさんと二人きりの食事のほうがボッシュさんと三人で食べるより俺得な展開なのでは・・・。よし、ボッシュさんが南門にいないことを祈ろう。出会わなければ無理に探しに行くのもおかしな話だしね。そんなことを考えながら歩いていくと、俺の願いがあっけなく崩れていった。ギルドをでて5分としない道でボッシュさんに会ってしまった。どうやら神はいないらしい。会えなければ仕方なかったが、会ってしまった以上無視するなんて俺にはできない。いや、お礼はしたいんだよ?これは本当だ。ただね、美女と二人の夕飯を考えていたからさ、仕方ないよな。気を取り直して、
「ボッシュさん、この間はお世話になりました」
「ん?おお、この前の!名前なんだっけ?」
豪快に笑いながら尋ねられて気付いた、俺自己紹介してなくないか?よくしてもらっておいて名乗りもしてなかったとか最悪じゃないか
「すみませんでした、名乗ってませんでしたね。改めまして、大川隼人です」
「ハヤトか、よろしくな。ところで何か用だったか?」
「この間のお礼に食事でもいかがかと思いまして。ギルドのメルさんにも声をかけてるんです。俺の作る奇跡の料理をご馳走しますよ」
「奇跡ってお前・・・。まあご馳走してくれるというならありがたくいただこうか」
「メルさんが夕方で仕事終わるそうなので、その頃に南門に顔だしますね。今日は南門の警護なんですよね?」
「そうだ。メルに聞いたのか?」
「はい。南門に行けば会えるだろうと」
「そうか、じゃあ声かけられるのを待ってるとするよ」
そのあと他愛もない話をしながら南門まで一緒に歩いていく。ボッシュさんは先の当番だった人と代わって護衛の仕事に就いた。俺も大量発生したというウサギ狩りに行くことにする。
あれから二時間ほどウサギ狩りをして、今俺は城壁の近くまで戻ってきて休憩中だ。確かにメルが言っていたように、こちら側のウサギのポップ数はかなり多かった。すでに20匹は狩っている。いつもならこの数を狩るのに倍の時間はかかるはずだが、かなりの確率でエンカウントしているため、いつもより効率よく狩ることができている。ちなみに密集しているところは可能な限り避けている。集団の中でたまたま俺に気づいて単独で寄ってくる奴は狩ったが、痛い思いはしたくないのでなるべく逃げていた。
逃げ切れずに囲まれたときは泣きそうになったよ。6匹くらいだったかな、前から後ろからタックルされて、痛みは弱くなってきているっていったけど痛いものはやっぱり痛いんだよね。何とか1匹ずつとどめを刺し、疲れたためいったん休憩しようと決めた。
拾ってきておいた木を燃やして、昼飯作りを開始する。夕食は豪華に行きたいから、早めに飯を済ませて腹を空かせておいてもいいだろうという判断だ。
いつものように手早く準備を進めていく。皮を剥いで火にかける。十分に焼けるまでゆっくり待つ。こんがり焼き目が付いてきたころで、勢いよく熱さも気にせずかぶりつく。毎日食べていても全然飽きが来ないのが驚きだ。もっと稼いで調味料を使って料理したらどんなことになるのだろうか。贅沢に調味料をかけて、肉の上にたっぷりチーズを乗せ、とろけて伸びる熱々のチーズと溢れ出す肉汁を一緒に口へ・・・。想像するだけでよだれが溢れてきた。
そうできるようになるためにはまずは依頼をしっかりこなしていかなくては。俺はウサギ2匹分の肉を平らげ、また狩りに戻った。
あの時もう少し考えて行動していればこうはならなかった。わき腹がずきずきと痛む。食後に走るとわき腹が痛くなったことはないか?今俺は大絶賛その脇腹の痛みと交戦中だ。なぜそのような痛みに襲われているかというと、食後3匹ほどスモールラビットを狩ったところで、今まで見たことのないウサギを発見したのだ。その個体の頭には10㎝ほどの角があり、他の個体よりも少し体が大きい奴だった。普通のスモールラビットは俺を見つけるとすぐにとびかかってきたのだが、角付きの奴は、一目散に逃げ出したのだ。来るものは拒まないが、逃げていくものは追いかけていきたくなる性分の俺は、字のごとく、脱兎のごとく逃げ出した角付きを追いかけて、5分ほど全力疾走したのだ。結果から言えば角付きの個体の狩猟には成功したし、こいつが、今朝メルが言っていた、角付きであるということがわかったのだが、食後すぐに走った俺はなかなか治らない脇腹の痛みにもがいているというわけだ。
これまで倒した数はすでに35匹、あと10匹とかからず所持数が99を超えてしまう。どうしたものだろうか。一応試しに99匹以上もてるか試して見てもいいか。
そして、ようやく脇腹の痛みも落ち着いてきたところでさらにウサギを倒して行く。倒すというか蹴って行く。結果から言おう!100以上持てた。(笑)
うーん、なんて便利なんだこの図鑑は。これで後顧の憂いなくウサギ狩りできるってもんだ。
その後三時間ほど狩をして、薪になりそうな木を探して拾いながら城門の方に向かって歩いて行く。ついでに手頃な大きさの石も集めている。バーベキューでお馴染みなのではないだろうか、石を並べてその内側で火を起こす光景は。俺も例に漏れず、そのセットを作ろうというわけだ。城門に戻る頃には必要であろう数はしっかり集めることができた。
城門入り口にボッシュさんが警護のために立っている。
「ボッシュさーん。大きめの鉄板とかあったりしませんかー?」
ナイフにさして丸焼きでも変わらず美味しいが、鉄板焼きにできれば、野菜とか買ってくればそれも一緒に食べられる。
「すまんな、ここにはハヤトの望むようなものは置いてない」
ですよね、城門に鉄板おいてるわけないよね。まあ本格的なやつはまた今度ってことで。
「わかりました、準備するんでしばらく待っててください。準備できたらメルさんを呼びに行ってきますので」
そう声をかけて置いて、早速石を並べ、木々をおいて行く。手早く準備をして、一旦街の中へ。向かう先はギルド。メルさんに報告に行く。今日の成果はスモールラビット60匹。大量発生というのは本当で、うじゃうじゃいました。毎日毎日ウサギ狩り。今ならどんなウサギだろうと仕留められそうな気さえする。ウサギ蹴りの名人もとい、ウサギ狩りの名人言っていいんじゃないかと思うほどだ。
「今日もおつかれさまでした。結構狩っていただけたようですね。このペースでしたら、南側もすぐ落ち着くことでしょう」
「仕事はあとどの位ですか?」
「もうすぐ交代の時間ですね」
「わかりました、ギルドの中でで待ってますので終わったら声かけてください」
そういって、依頼が貼ってあるボードを見に行く。俺のランクはEなので、そこの掲示板を見て行く。薬草採取や、ウサギ狩り、荷物運びとかある。基本毎日ウサギ狩りしてたから、ほかの依頼なんて全然知らなかったわ。お、スモールディアの狩猟ってのがある。ディアって鹿だよな?いまの俺なら狩れる気がするぞ。
この時軽く考えていたがために、何日かあと手痛い仕打ちを受けることになるなんてこの時はまだ知る由もなかった。
20分位だろうか、依頼を眺めていると、後ろから仕事が終わったメルさんが話しかけてきた。労いの言葉をかけて早速ボッシュさんがいる南門へと歩を進める。
「ボッシュさん、今から準備するので少し待っててください。奇跡の味まであと少しですよ」
「ははは、持ち上げすぎて実はがっかりな味とかはやめてくれよな。かなり期待値高くなってるぞ」
「想像の斜め上を行きますよきっと」
冗談交じりで話したあと、さっき作った簡易かまどのところで、図鑑からウサギを三匹と角付きを取り出す。丁寧に皮からはがし、くる前に購入してきた鉄串に刺して焼いて行く。ちなみにメルさんはボッシュさんと話ししてもらっている。図鑑からウサギを取り出したりするのを見られたら不思議に思われるかもしれないしね。
かくして、20分ほどで辺りにはなんともいえないうまそうな匂いが立ち込め始める。
「そろそろ出来上がりますよー」
もんのところの二人に声を掛ける。どうやらボッシュさんは交代の人がきたらしく、仕事が終わったようだ。二人がこちらにやってくる。肉を大皿に乗せて行く。ちなみにこれは宿屋から借りてきた。後で洗って返さなくては。まあそれはさておき、
「さあ、奇跡の料理を食べましょう。手元にあるのは普通のウサギを焼いたもので真ん中の皿に乗ってるのは角付きの肉です。ただの肉ですが、騙されたと思って食べて見てください!」
俺に言われるままに、肉を口に運ぶ二人。一口かじったところで二人が目を見開いて動かなくなった。ボッシュさんに至ってはうっ、うっ……と呻きをあげながら前かがみになって行った。ここにきて急に不安になってきたのは俺がチキンだからだろう。もしかしたら口に合わなかったか?こっちの世界の肉は焼けば誰でもこの位の味になるのかもしれない。それならこれ以上の恥はないだろう。罪は恥、恥は罪、これは日本人的考え方だろう。一気に冷や汗が引き出してくるのがわかる。
「あの・・・お口に合いませんでしたか??」
呻いていたボッシュさんがばっと顔をあげて
「うまーい!!!!!」
吠えた。うまいといってもらえてさっきまでの緊張から解放されて、安心はしたものの、至近距離で熊みたいな大男に叫ばれると鼓膜が・・・。
「なんでウサギ肉がこんなうまいんだ!?ただ焼いただけにしか見えないんだが!?」
「本当に美味しい!ウサギ特有の臭みもないし、何より口にいれた瞬間じゅわっと肉汁が溢れてきて、すっと消えるように溶けて行く・・・。どうやったらこんな味が!!」
「お口に合って良かったです。角付きの肉もどうぞ」
勧められるままに角付きの肉を食べる二人。またしてもボッシュさんが吠えた。何と無く予想できたから、耳を塞ぐのに成功したぜ。同じ轍は二度は踏まん!それからは会話はなかった。一人一匹丸々と角付きの肉も焼いてあったのだがあっという間になくなってしまった。
「いかがでしたか?」
「俺はもうこれから先の人生でこれ以上にうまいウサギ肉料理に出会えないと思ったぜ。俺の予想の斜め上どころか、遥上空を飛んでたドラゴンを撃ち落とすレベルでうまかった!」
んー表現がよくわからないけど、まあうまかったならいいや。
「本当です!まさに奇跡の味でした!男の人の見栄で大ボラ吹いているんだと思ってたこと謝りますね」
まあいきなり奇跡の料理とか言われたら普通そう思うか。
「普通そう思いますよね。また何かあった時はご馳走しますよ」
ボッシュさんからは絶対だぞ!って迫られた。男に迫られても何も嬉しくないぞ俺は!メルさんからもお願いされました。メルさんなら毎日でも作ってあげてもいいな。男女差別?うるせえ、俺は女の子が大好きなんだ。野郎なんて二の次じゃい。
そうだ、店でも出したらいつでも食べにきてくれるんじゃないか?
「毎日でもご馳走してあげたいんですけど、それには店でも出さないとね」
「それだ!出店出せばいいじゃないか!」
「勝手に商売し始めて大丈夫なんですか?」
「護衛官の役所に届け出を出せば問題ないですよ」
とメルさん。なるほど、なら商売でも始めてみようかな。ウサギを狩って報酬もらって、さらに肉を売って稼ぐと。なんだか、調子が出てきたな。
「では、役所に行って見て、許可が出るようなら出店出してみようかな」
「俺が所長に口利きしてやるよ!明日暇か?」
「特に予定はないですね」
「じゃあ朝一で役所に来い。話しして置いてやるから!」
「何だか悪いですね、いつもいつも」
「気にすんな!そこでだ、話がうまく言ったらお礼にまた、ウサギ肉食わせてくれないか?」
それが目的かこの野郎。無償の善意だと思って感動してた俺に謝れ、ちくしょう。まあよくしてもらってるわけだしいいか。
「構いませんよ」
そういうとガッツポーズまでし始めるボッシュさん。
「ボッシュさんばかりずるいです!」
メルさんが食いついてきた。まあ自分でいうのもなんだがあれだけうまいものを隣のやつだけまた食えるとか、嫉妬もするよな。
「その時はメルさんもご一緒にどうぞ。幸い肉は街の外に出ればいくらでも襲ってきますので」
そういうと、メルさんの表情がぱあっと明るくなった。二つ年上とのことだったが、無邪気な笑顔は、実年齢より幼く見えた。
そうして、食後は他愛もない話をして、役場の場所を確認してみんなと別れた。自分の料理をうまいうまいと食べてもらえることがこんなに嬉しいとは思わなかった。スキルに感謝だな!
てかLv4でこんなに感動されるってことはLv5にしたら一体どうなってしまうんだ?
思わぬ小遣い稼ぎの職をゲットできそうな喜びと、俺の作った飯をうまいうまいと食ってくれる人たちを想像すると明日が待ちきれない。そんな熱っぽさを抱えながら帰路についた。
かなり長くなりました。感想などあればお願いします。




