27
迷宮編入る前にちょっと幕間として一話挟んでみます。
森から帰ってきた彼女は落ち込んでいた。自分の無力さを嘆いて心が沈んでいた。何故こんなことになってしまったのかと後悔していた。あの事件の後、ずっと探していたけど駄目だった。今彼はどうしているのだろうか、生きているのだろうか、それとも・・・。嫌な方にばかり考えが行ってしまう。ネガティブな考えを振り払うように彼女は今日も動き続けた。
※
私はこれまで強がって生きてきた。本来男が職として選ぶこの道を選んだその日から、上から目線の男たちに負けないように、小さい自分の存在に負けないように必死に戦ってきた。自分の小ささを補うために、武器は槌を選んだ。その小さな体で扱うにはあまりにも武骨な武器だ。武器の選択を間違えたのではないかと冷やかしもうけた。その時の屈辱をばねにひたむきに頑張った。
初めは一人で依頼を受け、冒険者業をこなしてきたがあるとき一人の同性の同業者に出合う。彼女は魔法使いだった。自分の魔法の腕を上げるためにこの職を選んだらしい。口数も少ない彼女だが、初めて出会った同性の同業者ということもありすぐに仲良くなった。そして流れでパーティを組むことになって今もまだ一緒に仕事をしている。
さらに仲間が増えたのは、魔法使いの同業者と出会ってから一年ほどしてからだ。その子達は奴隷として売られる直前だった。年端もいかない子供が売られそうになっている状況を見て居てもたってもいられず、必死に頼み込んでその時の全財産に近い額を払って何とか二人を購入した。一人は竜人族と呼ばれる亜人の子だ。そしてもう一人は猫人族という亜人の子だ。二人は女の子で、いきなり攫われてきた奴隷だったらしい。攫われるときに親は殺されたそうだ。二人も冒険者として仕事をするようになり、私たちは女だけでのし上がっていった。しばらくして私たちはBランクに一番近いCランクの冒険者になり、周りも自分たちを見る目が変わってきた頃だ、彼に会ったのは。
初めは噂を聞き、興味を抱いた。初心者ならかなりの確率で出会えば殺されるという初心者殺し、アーマードベアを返り討ちにした駆け出しの冒険者がいると。それほどの腕を持つものがいる、そう聞いてなんだかあってみたいと思ったのだ。
「あんたが初心者殺しを倒した冒険者?」
いつもの癖で口調がかなり厳しいものになってしまった。彼もすごく苛立った様子だった。悪いことをしたなとは思ったものの、常に周りの男たちから卑下されてきたので強がるのが癖になっているので仕方ないだろうと思ってもいた。
「大したことなさそうね」
素直に賞賛しようと思っていたのにまた癖で見下したような口調になってしまった。さらに相手は気分を害したようだ。しまったと思いつつ事態は取り返しのつかないことになっていった。
「ちびの逆恨みかよ」
そういわれたとき、体が勝手に動いていた。慣れた動きで魔力を爆発させて一気に彼との間合いを潰し、殴っていた。自分たちを女だからとか見た目で馬鹿にしてきたやつらは拳で黙らせてきた。その癖がこんなところでも炸裂してしまった。
申し訳ないことをしたと思い、その場をすぐに去った。いつか機会でもあれば謝ろうと思った。きっと怒っているだろうなと思いながらとぼとぼ歩いていると後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声だ。振り返ってみると彼だった。
なぜか、笑顔で接してくる彼はこの後夕食を食べに来いと言い出した。何でも店を出しているらしい。そして、彼の店で食べた料理はもう絶品だった。私は我を忘れて夢中で食べた。おかわりしたくてお願いしたら条件を出された。依頼に連れて行けって?そんな危険なことできるわけないじゃない。これだから駆け出しのルーキーは・・・。なんて考えていたが、必死に頼んでくる彼に対してひどい仕打ちをしてしまったことへの罪悪感と料理のあまりのおいしさに条件を飲んでしまった。
そんなこんなで彼と彼のパーティメンバーの亜人の女の人と一緒にハイトロールの討伐依頼を受けることになった。道中の戦いを見て、何もできないただのルーキーという認識を改めた。確かに動きには無駄も多いし、隙だらけだけど、落ち着いて敵をしっかり倒していく。そして、一見私たちが危険に見える状況下で彼が投擲した槍が信じられないほどの威力を持って魔物を貫いた。地面が抉れてしまうような威力って・・・。そう思いながら考えていると、
「緊急のことだったので、つい力が入ってしまいました」
なんて彼が言ってきた。それにしても限度があるだろうと思ったがあえて気にしないことにした。それから一夜経つと彼は私の編み出した戦闘術、魔力操作による加速を使いこなすようになっていた。末恐ろしい人だ。そう思った。私が長年かけて編み出した技法を恐らく昨日の私の戦闘を見て習得したというのだから。
そんなこんなで無事に、依頼の森の近くにたどり着いた。いよいよ明日から探索を開始するわけだ。一日目の調査では敵を見つけることはできなかったが、二日目で遭遇した。遭遇した敵が1匹ならよかった。それならいつも通りだった。しかし、ハイトロールは二匹いた。番になっていたようだ。これはまずい、番になった敵はより凶暴性が増し、配下の魔物の統率もうまくなっていく。
なんとか彼らだけでも逃がさなければ。そう思いながら、配下のトロールを狩っていく。彼らも同様にトロールを屠っていく。しばらくしてハイトロールが起きてきてしまった。片方のハイトロールの攻撃を受けて、私たちは横に吹き飛ばされてしまった。それを見かねた彼が、心配してきてくれる。なんとか彼らだけでも逃がす。そう思っていると、彼が吠えた。そして、ハイトロールに殴り掛かっていった。
私たちも一匹をとにかく倒そうとした。今の彼ならきっとやれる、一人でもきっとハイトロールを狩ることができる、そんな期待感を与えてくるほどに彼の戦闘には力を感じた。とにかく早く狩って援護に回ってやらないと、そう思っていたら、彼がハイトロールの一撃を受けて激しく吹き飛ばされてしまう。援護に行きたいがこちらはこちらで一人でも抜けたら戦闘が立ち行かなくなる。どうしたら・・・迷っているうちに少女が駆けて行った。彼の妹という少女だ。兄を守るがために振るう剣も虚しく、少女も攻撃を受けて吹き飛ばされてしまう。彼はうまく攻撃の威力を殺したのだろう、地面を転がってダメージを逃がしていたが、少女は高く舞った。勢いを殺すこともできずそのまま川へ・・・・。
「ステラ―!!」
彼の声が森に木霊した。奇跡的にハイトロールの頭を槌で打ち抜き、パーティメンバー全員による波状攻撃で一匹は命を刈り取った。急いで彼が吹き飛ばされた方へ駆けたが、すでにそこには彼も、そして彼の妹の姿もなかった。
瞬間、悟った。彼らはこの川に落ちたのだと。妹を追って彼が飛び込んでいったのだろうことが。なんとしても無事にこの依頼を終わらせ、いきなり殴ったことを謝罪しようと思っていたのに、こんなことになるなんて。こんなことになるならすぐにでも謝って、こんな依頼に連れてくるなんてことしなければよかった。あるいは、彼が攻撃を受けた瞬間に、私が援護に回っていれば、こんなことにはならなかったのではないか?いろんな考えが頭の中をぐるぐる回っていった。この先には大きい滝もある。ましてハイトロールの攻撃を受けているのだ。万が一にも生きている可能性はないように思えた。
「があああああ」
後ろから残ったハイトロールの声が聞こえてきて現実に意識をもどされたとき、湧き上がってきた感情は、怒りだ。ふがいない自分への怒り。内に秘めたままでは、自分の怒りで死んでしまいそうだ。しかし、幸運にも目の前に敵がいる。私は槌を構え、彼らのためにもまずこいつを仕留めよう、そう思って大地を蹴って疾風のごとく的に襲い掛かった。
奇跡的に番となったハイトロールを討伐することができた。討伐から二週間、私たちはフォレスティアの森の奥まで探索して回った。でも険しい地形と魔物のせいであまり範囲を広げることができなかった。恐らく、この川の流れからして、森周辺で岸に上がることは難しいだろう。もし上がるとすれば、もっと下流の流れが緩やかなところだろう。下流域でもっとも近い街は迷宮都市だったはず。もちろんこの推測は彼らが無事生き残っていて、近場の都市にたどり着いていたらの話だ。可能性はほぼないと思ってもいる。だが、このまま諦めてしまうには、彼らに対してひどすぎる仕打ちに思えた。というか、自分の情けなさをごまかすために彼らを探さずにいれなかった。
とりあえず一度アルストロメリアに戻り、メルに報告しておこうと話し合いで決まった。そして私たちは迷宮都市に行くことにしよう。もし彼がすれ違いでアルストロメシアに戻ってきたときに情報が錯綜しないように。ここ最近あまり寝れていないせいか体が重い。それでも動き続けなければ罪悪感に潰されてしまいそうだった・・・。さて、そうと決まればすぐにでも動かなければ。
決意を胸に少女は今、自分の若すぎた故の過ちを払拭すべく歩み始めた。
お読みいただきありがとうございます。
いつもながら勢い執筆です。へんなところあるかもですが流してやってください。
感想などでいろいろと考えさせられるものがあったので貴重な意見ありがたく頂戴しました。今後とも頑張りますのでよろしくお願いします。




