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「あんたが初心者殺しを倒した冒険者?」
露骨にがっかりした様子でこちらをみて再度訪ねてくる少女。身長はステラよりも低く、150㎝前後だろうか。俺から見たらとても小さな体には不釣り合いなほどの大きな槌を背負っている。武骨な槌は片面がひしゃげたように潰れていて、もう片面は鶴嘴のような形をかたどっているようだ。
「ああ、運よくな」
「ふぅん。騒ぎになっているから見に来てみたけど、大したことなさそうね」
「は?」
素で聞き返していた。確かにただのまぐれで狩れたのだが、さっきまでの賞賛とは打って変って、いきなり罵倒されると憤りを隠せなかった。
「いきなりでてきて、なんなんだ、お前らは?」
「私たちを知らないってことは本当に冒険者成り立てなのね。本当に無知、これだからただでかいだけの奴は」
俺が売り言葉に買い言葉で喧嘩を売り返し始めると、周りの冒険者たちがざわめきだした。この周りの反応を見たところこいつらは結構有名な冒険者なのだろうか。だが、出会っていきなり、大したことないとか、無知だの言われて黙っていては男がすたるというものだろう。
「ちびの逆恨みかよ」
その言葉を言った瞬間俺は意識を失った。俺が辛うじて覚えているのは、目の前にいたはずの少女が消え、さっきまで少女が立っていた床の木が踏み砕かれ、あとから追いかけるようにドンっという音が聞こえてきて、顎に何かとてつもない衝撃が走って、後ろに吹き飛ばされたということだけだった。
俺が目を覚ますと、ステラや冒険者たちが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。ここはまだ冒険者ギルドの中のようだ。体を起こすと顎がずきずきと痛む。何度かヒールを念じて回復させる。
「兄さん大丈夫ですか?」
「いってー、ああ、一応な。一体何が起きたんだ?」
「ええと・・・」
訳が分からなかった俺はステラにさっき起きたことを訪ねた。以下ステラから聞いたお話。
俺がちびといった瞬間、先ほどの少女が瞬間移動でもしたかのように俺の懐に飛び込み、勢いをそのままに俺の顎をアッパーカットで打ち抜き、俺の意識を刈り取ったらしい。そのまま俺は後ろに倒れ、ステラが空いている席に俺を寝かせてくれたそうだ。
そして、先ほどの連中のことだが、この街を拠点にしている今この街で最もBランクに近いCランクの冒険者らしい。俺を殴った少女が名前をアリス。小柄な体躯に似合わぬ巨大な戦槌を巧みに操りモンスターたちを蹂躙しているパワーファイターらしい。彼女の仲間は、常に目深にローブを羽織っている人族の魔法使いのアマンダさん、竜人族で身長が俺くらいあり、すらっとしたモデル体型でお尻のところに蜥蜴の様なしっぽがあり、長剣と盾を装備しているリンダさん、弓を背負っている猫人族のベッキーさんの四人でパーティを組んでいるらしい。名前や武器なんかは近くにいた冒険者たちが教えてくれたそうだ。
いてて、と顎をさすりつつ、さっき起きたことを自分なりに理解しようと努める。スキルポイントを使ってステータスや、スキルはアーマードベアを倒す前よりも格段に上がっているはずなのだが、まったく反応できなかった。これは、俺の警戒不足もあるだろうが、何かしら特殊な技法が存在している気がしてならない。
だって、Lv4って料理のスキルを見た感じかなりのものだろ?身体能力にLv4の補正がかかっているのに反応すらできないっていうことは、ステータスやスキルももちろん大切ではあるが、そのほかにあの強さの理由が隠されているのではないだろうか。
この世界で生き残っていくためにも、もしそのような方法があるならぜひ俺も参考にしたい。
さて、すっかり気分は白けてしまったが、とりあえずやることが決まった。出会いこそ最悪な形になったが、せっかく高ランクの冒険者に出合えたのだ。お近づきになっておいて損はないだろう。
「ステラ、さっきの連中はどこにいるかわかるか?」
「すいません、ですがギルドを出て左のほうに歩いていったと思います。まだ時間もそれほど経っていませんので近くにいるかもしれません」
いきなりどうしたの?っていう顔をしているステラを連れてギルドを後にする。ギルドからでてほどなくして先ほどの連中に追いついた。俺が意識を失っていたのは本当に少しの間だけだったらしい。
「さっきはどうも」
「ん?ああさっきの初心者。何か用?」
赤髪のおちびさんが振り返って俺の顔を見るなり興味なさげな表情を浮かべた。さっき一撃でのされてしまった俺など眼中にないのだろう。
「先ほどは高ランクの冒険者の方々だとは露知らず、無礼な態度を取ってしまったことを謝りに来ました」
「え?」
「だから、謝りに来たんですよ。あと、今日狩ってきたモンスターの肉を焼いて売り出すので夜にでも俺の店に来てください。お詫びにお肉ご馳走しますから」
「店ってあんた、冒険者よね?」
「そうですよ。友人に俺の料理の腕を評価されたのをきっかけに副業として狩ってきたモンスターを調理して売り出しているんですよ」
「ふぅん。まあご馳走してくれるというのなら仕方がないから食べてやってもいいわよ?場所は?」
「ちょうどこの辺りですね。多分夜に来てもらえると行列できてると思うんですぐに分ると思いますよ」
うぬぼれではなく、連日の完売御礼を思い出せば、今日も店を出したら大行列を作るだろうことは想像に難くない。
「わかったわ、夜にまた来るけどまずかったら承知しないわよ」
「きっと満足してもらえるかと」
さてと、こちらの仕込みは済んだ。あとはこの機会を生かすために、料理に腕を振るうだけだ。まずは特大の鍋を用意しなくては。その他にも料理に使う野菜なんかも買いに行かないと。
鍋は直径1m深さ50㎝の大きな鍋を二つ購入してきた。それに合わせて、キノコや大根、ゴボウなどの野菜根菜、リンゴなどの果物、あと大量の酒を買ってきた。調味料としては比較的安い味噌を調達してきた。
まず俺とステラは一度城門から出て、草原で熊と鹿の解体作業を行った。必要量切り出して、急ぎ目で解体を終えた。すでに日が暮れかかっている。
さてここからが大変だ。切りだした熊の肉をひたすら小さく、一口サイズを心掛けて切り刻んでいく。切ったものを鍋の中に入れつつ、切り出してきた熊の肉を鍋二つに入れていく。そして、何回か水で肉を洗い、さっき買ってきた酒を注ぎこむ。次に買ってきていたリンゴなどの果物も皮をむいて入れる。確か、熊肉は匂いが独特だったはずだったから、匂い消しにハーブも鍋に投下。そして、鍋を火にかけてひたすら煮込んでいく。煮込み始めてから、灰汁がでるわでるわ。丹念にそれらを取っていき、鍋内の水量が減ってきたら水を注ぎ、さらに灰汁を取っていく。灰汁の出がある程度落ち着いてきたところで、次に鹿肉の調理に移る。
ステラにバーベキューセットでも火を起こしておいてもらったので、鹿肉を程よいサイズに切り分け、残っていた野菜と一緒に鉄板で豪快に焼いていく。麺でもあれば焼きそばっぽくして売り出してもよかったのだが、麺を作る手間を考えると面倒だ。
鹿肉の調理に移ることには、匂いに釣られてか店の前にいつも通り客が並び始めた。もう誰も指示しなくても勝手に並んでいく。素晴らしい。
「兄ちゃん、今日はウサギ肉焼きじゃあないのかい?」
「ああ、今日はスモールディアの炒め物とアーマードベアの鍋だ。値段はいつもより少し高くなる。炒め物は銅貨10枚、鍋は、あ、やべ、ステラ」
「はい?どうかしましたか?」
「鍋物を盛る器用意するの忘れていた、ちょっと急ぎで買ってきてくれないか?」
「結構な人数ですけど全員分ですか・・??」
そういわれて、並んでいる列を見てみると、かなり後ろの方まで並んでいるな。どうしたものか。
「器が必要なのかい兄ちゃん?」
「ああ、人数分こっちで用意するのもちょっと厳しそうなんだよ」
「じゃあ、各自で持ってくればいいんじゃないのか?」
「そこまでしてくれるのか?」
「兄ちゃんが作るものはあほみたいにうまいからな。そんなの面倒とも思わないさ」
「そうか・・・。じゃあ、みんなー聞いてくれー!!今日のメニューは鹿肉の炒め物と熊肉の鍋なんだが、できれば各自皿と器を持ってきてくれないかー?まだ準備できてないから売り出すのはもう少し時間かかりそうなんだ。だからあまり急がなくてもいい。どうしても用意できそうにない人だけ、報告してくれ、こちらで何とか用意する」
そういうと、並んでいたお客さんたちは快く食器を持参することを承諾してくれた。一度みんなうちに戻ったり、近場に買いに行ったりするために、列が解散した。
「ステラ、一応皿と器を10個ずつ買ってきておいてくれないか?あとからくる赤毛の御嬢さんたちの分にさ」
「わかりました。じゃあちょっといってきますね」
「すまん、よろしく頼んだ」
そういって、ステラにも買い物を頼んで、せっせと鹿肉を焼き、熊鍋から出る灰汁を取り続けた。本来熊の肉からはかなりの灰汁が出て、肉が柔らかくなるまで結構時間がかかるものだった気がするが、料理スキルのおかげか1時間くらいでいい感じになっていた。
肉が柔らかくなってきたことを確認したら、切っておいた野菜を鍋に入れて煮ていく。それから20分ほど待ってからキノコを投入。
このあたりになって、一旦帰っていった客が食器を持って戻ってきた。最後に味を調えるために味噌で味付けしていく。ちょっと味見してみた。あ、超うまい。味噌最強。調味料ってすごいんだな。これだと、塩や胡椒、マヨネーズとかケチャップとかで味付けしたら感動的なものになりそうだ。めんどくさいらしいが、マヨネーズとケチャップはぜひ今度時間を見て作ることにしよう。
鹿肉の炒め物もある程度作れたところで今日の販売開始だ。
「お待たせしました!今日も楽しんでいってください!!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
やっぱりこれ楽しいわ。
そこから、鹿肉の炒め物を一皿銅貨10枚、熊鍋を銅貨20枚で売り出した。スモールラビットの肉から見て入手難度、レア度や他の材料の値段などを鑑み、この値段に設定してみた。ちょっと高かったかなと思ったが、みんなどんどん買っていってくれた。今日はしっかり準備しておいたため、客の回転がよかった。やっぱり丸焼肉だと効率悪かったんだな。しばらく客と談笑しながら炒め物と鍋を売っていく。
「仕方ないから来てやったわよ」
客と楽しく話しつつ肉を売っていると不意に声をかけられた。
「いらっしゃい!ん?ああ、待ってましたよ」
声の主は身長が俺の胸位までしかない小さな赤髪のおちびさんだった。
「本当に行列できててすぐわかったわ。あんた冒険者なんかより、料理人にでもなったらいいんじゃない?」
「さっきも言いましたけど、こっちはただの副業ですよ。怪我でもしたらこっちに鞍替えも考えてますけどね」
「ふぅん」
「まあ何はともあれ、はい、これどうぞ」
俺はステラがさっき買ってきてくれた器に熊鍋を盛って渡した。もちろん他のパーティメンバーの人たちにも渡してやった。ついでに頑張ってくれているステラの分も用意してやる。
「なかなかいいにおいじゃない。じゃあ、いただくわ」
ぱくっといった効果音がしそうなほど小さな口で熊の肉にかぶりついた赤髪のおちびさんとそのパーティメンバー。さてさて、こいつらはどんなリアクションをしてくれるのだろうか。
「おっいしー!!!」「おいしいです!!」「美味」「・・・」
赤髪のおちびさんはボッシュさんの低い叫び声とは異なり高音の叫び声だった。耳がきーんってなってしまった。まじで耳栓がほしいな。ほかの人たちはアリスに比べたら小声でぼそっといった感じ。ローブを羽織った魔法使いの人は本当に一言の感想だった。ちなみに猫の人は何も言わずに食っている。
「なにこれ!!超おいしいじゃない!!」
「よく言われます」
いまだ耳鳴りが止まぬ耳を押さえ、賛辞を軽く流していく。流されたことを気にする様子もなく、アリスとそのパーティメンバー、そしてステラが黙々と料理を食べていく。
「おかわり!!」
「すいません。うちの料理は一人一杯なんですよ」
これはすでに暗黙の了解となっている。確かにみんなもう一個もしくはもう一杯とねだってくるのだが、他の人の分を考えるとわがままは聞いてやれないのが現状だ。
「ご馳走様でした兄さん」
「おう、おかわりしなくていいのか?」
「え?でも・・・・」
「気にするな」
そういってステラにおかわりをよそっていく。どこか申し訳なさそうな表情だったステラだったが、再び料理が並々に盛られた器をみて笑顔がこぼれている。
「ちょっと、なんでその子はいいのよ!!」
アリスが即座に反応してきた。まあ当然の反応ではあるな。自分たちは駄目でなぜステラは良いのか。だが理由は簡単。驚くほど単純明快。
「ステラが狩ったモンスターでもあるからですよ。俺たちが狩ったモンスターですから俺たちにこの肉や素材を好きにする権利があるでしょう?」
「む・・・」
言い返せずに、ぐぬぬと唸る赤髪のおちびさん。
「ですが、どうしてもというなら、こちらの条件を飲んでくれるというのであればご馳走しますよ?」
「・・・・条件を聞きましょうか」
きた!予想通りの展開だ。
「それは」
さあここからが交渉の始まりだ。
リアルが忙しすぎて時間が足りなくて困ってます。
今話は現実逃避してる時に一気に書き上げたものなので誤字脱字あるかもしれません。時間できたら確認します。
今後も不定期になるかと思いますがよろしくお願いします。