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昨日の夜の肉売りはまさに戦場だった。前の日の1.5倍の人の分の肉を焼くのがあれほど大変だとは。これは、丸焼肉を売ること自体を考え直した方がいいかもしれない。
煮込み料理とかなら、一度作れば盛り付けるだけだから、回転よくなりそうだな、なんて考えつつ、今俺はベッドの中で惰眠をむさぼっている。
今日の予定としては、ウサギよりワンランク上のモンスターであるスモールディアっていうやつを狩りに行くつもりだ。ウサギの図鑑規定値が次は320になっていて、結構大変な数だ。ウサギを一日延々狩り続けるよりも、新たなモンスターを倒した方が、スキルポイントなどの面でおいしい。
そうと決まれば、すぐにでも行動を起こした方がいいだろう。早起きは三文の徳っていうしね。
「ステラ起きろ。朝だぞー」
あと五分というお馴染みのやり取りをしつつ、ステラを起こす。ん?あなた誰?
「えっと、ステラだよな?」
「そうだよー?」
何言ってるんだお前って?だって昨日までがりがりに痩せ細っていた小さな少女が、一気に大人びた姿で隣にいるのだ。まだ体はやせ細ってる感じだが、胸のふくらみも前よりぐっと増している。身長と髪の毛もどことなく伸びている気がする。
あ、思い出したぞ、ボッシュさんいわく、レベルが上がってくると、行動に最適な状態に体が変化するって言ってたな。これがそれか!一日で激変したな、おい。筋肉痛とか骨の形成とか色々俺の知ってる医学的な考えは通用しないのか。さすがファンタジー。まあ、看板娘が美人になったことは素直に喜ぶことにしておこう。
「気にしないでくれ。俺の気のせいだ」
適当に話を濁しておいて、服を着替えて、満腹亭の朝食を食べた。
蛇足だが、昨日は何の恥じらいもなく真っ裸になっていたステラだが、今日は恥ずかしそうにこそこそと着替えていた。急に恥ずかしそうにされるとなぜか俺まで恥ずかしい気分になったわ。レベルとか上がって知力上がったため、その辺の考え方も一気に大人びた感じなのだろうか。一般ぴーぽーの俺にはよくわからない世界だな。
そして、食後にはさっそくギルドへ!ってわけではなく、俺たちは商店街に来ている。目指すは武器屋と防具屋。もしくは装備屋となっているかもしれない。
つまり、新たなモンスターに挑むにあたって、装備を整えようということだ。今まではギルドで支給される剥ぎ取り用のナイフだけで済んでいたんだが、ウサギより大きなやつと戦うのだからそろそろしっかりとした装備に変えてしかるべきと考えたわけだ。
ちなみに、俺は槍を買う予定だ。何故槍かって?俺より俊敏性に勝るステラがいるため、中距離から戦闘できたほうがメリットがあるのと、かっこいいから。繰り返すかっこいいから。大事なことだからもう一度、かっこいいから。
後者の方が主な理由である。前者はどちらかというといいわけだ。ステラには剣と盾を購入する予定だ。
しばらく探して歩いていると、剣と盾のマークを模した看板が掲げられた店を発見した。中に入ると店員が対応してくれた。店内を見渡すと棚には防具が、床の上に置いてある樽の中には武器が詰められている。俺は鑑定スキルを使いながらいいものがないか探していく。
普通だとここで伝説の武器がほぼただで手に入って無双とか何だろうけどさ、なんか魔法効果が付与されているらしい名称????の槍を見つけたんだよ。だけど普通に高くて手が出せなかった。なんだよ金貨って、また見たこともないよ。
「いらっしゃいませ、どの様な装備をお求めですか?」
「装備一式揃えようと思いまして、ついては手頃な値段の槍と片手で扱える剣と盾、あと防具一式を」
俺は店員が勧めてきてくれた槍と今俺が買えそうなので気に入ったデザインのものでどちらを買おうか迷っている。前者が銀貨1枚後者が銀貨2枚。悩ましいな。前者は持つところが何かの木でできていて結構軽く感じるんだが、デザインが気に入った方は、持つところが何かの鉱石でできているのだろうか、かなり重かった。
「武器や防具は使い手を選びます。選ばれた者にはまるで体と一体であるかの様に合いますが、選ばれなかった者には重たいただだけの飾りになるでしょう。ですが今は重くても修行して力をつければきっと前は無理だった武器も認めてくれるでしょう」
と、後者の槍をやりの重さに軽くふらつきながら構えていると店員に言われた。なるほど、ステータスが影響してくるわけか。ただ単に力が弱いから重く感じるのか、一定のレベルになる必要があるとかかな。
んーでも、やはりこの槍いいな。スキルポイント余ってるし、力に全振りしてみようかな。でも力が関係なかった場合無駄になるか。
うんうんと考えつつ、先にステラに片手剣と盾を合わせて銀貨1枚で、あと関節や急所への攻撃を意識して、軽装ながら足首、太もも、腰回り、胴体、胸、肩、手首、あとは頭を守れるような皮素材でセットになっている、初心者向けの防具を二人分で銀貨1枚×2で装備を整えた。
結果悩んだ挙句に俺は重たい槍を購入した。買ったばかりの槍を持ってみる。はっきり言おう、かなり重い。もしかしたら、さっきまでのは気のせいだったとかはなかった。やはり持つところは鉱石でできていてそこそこ強度があるらしい。丈夫なのは良いがなかなかの重量だから振り回すと体が泳いでしまって今の俺では初戦でいきなり使うとか無理だ。でも一応スキルポイントを使って、槍スキルを取得しLv3まで上げる。あれ、なんか一気に槍が自分の腕の延長されたみたいに、自由に動かせるイメージが。どう動かせばいいかわかる感じ。これがスキルの効果か。スキルがあるやつとないやつではかなり違ってくるのだろうな。結構動かせるようになったが、やはり重いものは重い。
そこで、今朝ベッドで惰眠をむさぼっている間に見て、ピックアップしておいたスキルの中から『重量操作』のスキルを取った。これは、スキルのLvに応じて、選べる対象が増えていき、その選択した対象の重さをMPを消費して増やしたり減らしたりできるようになるスキルだ。槍を選択して、MPを20ほど消費し、重さをぐっと軽くした。背中に背負っていても重さを感じなくなった。
たぶん、現時点で槍の重さは体感で20数キロだったがスキルを使った結果今はかなり軽くなっている。恐らくMP1で1kg増やしたり減らしたりできるのではないだろうか。たぶんそんな感じだ。今度重量計でもあったら試してみよう。あと、何かほかに持つものとか出るかもしれないから、一応Lvは2にしておく。
そして、買い物をしてようやく、ギルドにやってきた。カウンターにいるメルさんのところにスモールディアの狩猟依頼の紙を持っていく。内容はスモールディアのハントだ。スモールディアは食欲旺盛で、森の植物を食い荒らしているらしく、依頼が来ていたようだ。
「あら、ハヤトさん。お疲れ様、今日もウサギの依頼?」
「いえ、スモールディアを狩りに行こうかと」
そういうと少し暗い顔になるメルさん。何かまずいことでもあるのだろうか?考えていると、
「スモールディアは基本的に森の上の方にいることが多いのですが、あまり上まで行かないにようにしてくださいね」
「なぜです?」
「上の方にEランクでは勝てないモンスターがたくさんいて、一部のモンスターは初心者殺しなんて呼ばれていますので。気をつけてくださいね」
なにそれ、超怖い。俺は今日も俺の飯を待っててくれる人たちのために帰ってこなきゃなんだぞ、それにそれが終わったらゆっくり寝るんだ。ん?なんだか死亡フラグっぽいこといったか?まあそんなことはないだろう。貴重な情報にお礼を言って、近くに森があるという、西門のところから出発することにした。門から出ると遠くで木々が生い茂っている森が見える。ここから一時間ほど歩くとつくそうだ。
本人は自覚していなかったが、新しい装備を身に纏い、正直かなり浮かれていた。まだ結構残っているスキルポイントを使うことも忘れているほどに。
「さて、鹿狩りに出かけようか」
そういって俺たちは城門から出発したのだった。
今回はいつもより結構短めです。
感想や評価いただいた皆様ありがとうございました!
今回スマホでの作成なので誤字脱字があるかもしれません。見つけた方は報告していただければなるべく早く訂正します。
今後ともよろしくお願いします。