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たぶん幸せな奴隷の話



※明るいけどギリギリセウト。ご注意ください。






「それちょうだい」



彼は、その日、鞭を打つ人間の顔もよく見えなかったけど。


金貨と、白い指の輝きは良く見えた。


何故自分を買ったのかと聞けば、「目が気に入った」という。その後、おとぎ話のように大事にされたかというと違って、やっぱり蹴られたり鞭打たれたりしたけど、嫌な開発されたけど。

三食まともに与えられて、寝る場所があるというのは、豚と一緒に寝るはめになっていた彼には大変魅力的だった。


ゆえにご主人様にはその分尽くしたのだが、どうにも、性的なことよりも嫌なことがある。



「だーかーら、豚臭いんだってば!何も水風呂にするとか言ってないでしょ!」

「………ッ!」

「丸まんな!亀かお前は!おら!」

「…、…やだっ」

「やだじゃないわよ!ビョーキになったらどうすんのよ!拭くだけでも限度があるでしょーが!」



そうしてお風呂(各自部屋付き)に尻を蹴っ飛ばされて入る頃、夫婦の寝室では修羅場が起きていた。包丁から一生懸命逃げる無実の夫に幸あれ。



「うっ、うう……!」

「うーうーうっさいな。あー?この温度が丁度いいんか?あ?」

「うっ、う……うん」

「ほら見ろこの垢!垢!!」

「いたい!!」

「あーきったなぁい!河原の捨て犬よりも汚ぁい!」

「う、うー…」



泡でもこもこされる彼に容赦ない罵倒を繰り広げる頃、外出中の彼女の弟は良い人オーラで超良い子ちゃんを騙していた。



「おら前見せろほら!」

「やっ!」

「やじゃねーよ、乙女かお前は!?ああん?」

「ひっ」

「こんな汚いの部屋に置いとけねーだろ!」


もうちょっと女の子らしく洗って欲しいと思えども、彼は買われた身。黙ってこの私刑に耐えていた。

―――そもそも彼が風呂嫌いなのは奴隷時代に水風呂か熱湯風呂で苛められ顔もその際にやられたので、どうにもトラウマが出てしまうからだった。

ここに来てからはお湯が適温で気持ちいいのだけど、それでついついリラックスして気を抜いてしまうのが彼には怖かった。


「……よし、じゃあアンタは風呂に収まってるか私の体洗うか、どっちかしなさい」


髪も洗い終わって、彼女は体を隠すタオルも用意せずに踏ん反り替えってそう命じた。

これは嫁に行けないと思う、と彼は内心心配したが、無言で浴槽の中で膝を抱えた。

…若くてしかも数回寝てしまった仲だけに、彼女の体を洗うと思い出してしまってまあこっちも気まずいので、彼はじっとアヒルのオモチャの流れていく様を観察することに。


……しかしまあ、女の風呂は長く、彼はだんだん逆上せてきた。死ぬ、と気づく頃には流石の彼女も洗い終わり、


「えいっ」


ぴしゃっ


……真っ赤な彼の横顔に、彼女は水鉄砲(この前購入)を浴びせる。彼は内心キレた。

だがブチッと行くのと同時に彼の意識もブチッと逝ったので、暴れはしなかった。大騒ぎになったけど。






「―――おいおい、やめてくれよ殺人沙汰なんか」

「お父さんに言われたくない」

「いや、アレだからな、お父さんは無実なのに冤罪かけられる運命にあってだな。……パン屋のおばさんにオマケして貰っただけで浮気は無いだろ!?」



気が付くと、彼女の部屋のベッドの上である。

彼は彼女の所有物なので当然部屋は無い。常にこの部屋で寝る。

喧嘩(彼女の一方的な、だが)すると彼女は一緒に寝ずにソファで寝てベッドを譲るという謎の紳士さを出すが、今回もそんな感じで夜を越すのだろうか。


どうでもいいことを考えていると、このヤンデレ一家の元凶とも言える女がにこにこと彼に薬を塗る。火傷の痕が消える薬の実験台にされているのだが、実害は無いので彼は特に気にしない。というか、買われた以上は文句は言えない。


「ふふふ、だって、アーサーは格好良いんだもの。不安になるでしょ?」

「え、か、恰好良いなんて……」

「 で も 次 は 無 い わ よ 」

「はい」


俯く夫に、妻はニコニコとしている。その横で、彼女は顔のとは全く違う薬を勝手にとって彼の腹―――先日、彼女の鞭で叩かれた箇所である―――にぼちゃりと落とした。


「!う、う゛……ううっ」

「お、ひんやり気持ちいいねえ」

「もっとこう、塗り込むのよ。それじゃあ効果が分からないでしょ」

「う、あああ!やだ!やだやだ!」

「お父さん押さえつけてよ」

「えっ」

「あっ、やっ」


熱い。風呂に入っても大丈夫なくらいに皮も張ったのに、じんじんする。それが腕を押さえつけられて力も押し殺せない状態で塗られる。

彼女の母はさっさと塗ってくが、彼女はくすくすと嘲りながら塗る。ついでと胸をくすぐるように指を動かすのが気持ち悪い。せっかく風呂に入ったのに。


「おお、痕が無くなる」

「試験薬なの。でも成功してよかったわ」

「なんか面白いなあ。ねえお父さん、こいつの手、そこのベルトで縛って」

「……父さんな、こういうのに良い思い出が無……」

「お母さん得意よ」

「いやあああああ悪夢が―――!」


会話はまったく呑気だが、彼からしたら拷問である。

「じゃあねー」という声と共に扉が閉まる頃には縛り終わっていて、彼はころんと転がされた。


「い、や、や………」

「やじゃねーよ、ほら、尻出せ尻」

「ううっ!」

「暴れな……っち、足もやってもらえばよかった」

「やだやだやだ!!」


熱くて変になりそう。

だけども彼女はまったく意に介さず鞭の痕の残る尻を撫でまわした。ねっとりした感覚で頭が真っ青になる。

「やっぱさー、痕付けるなら綺麗な方がいいじゃん?」と言ってしまえる程度には、彼女もまたあの夫婦の娘である。


涙目で彼女を見上げると、彼女はちょっとびっくりした顔で彼を見る。そしてややあってから気まずそうにフイッと目を逸らした。彼には分からぬ理由で照れたのである。



「しょ、しょうがないじゃん。あんただって傷だらけは嫌でしょ……母さんは世界一の薬師だし安全性は―――」

「……俺のケガが治るように?」

「え、あ、……きったない尻叩いても楽しくないって言ったでしょ!…それに、あんたを実験台にしたらお金貰えるしぃー?小金稼ぎだし!」



その言葉は、彼にとって慣れた言葉であると同時にショックだった。


だから彼女がベッドの上に乗った時、下剋上したのかもしれない。











―――彼が風呂と同レベルに嫌いなのが食事である。


家事は交代制だが、何故かこの家族は彼女に料理を作らせない。代わりに彼が作る。今日はその日だったようで、彼はだからあの後も綺麗にされたのかと、「少し寂しかった」。


(……?)


彼は家畜同然の人生だった故に料理が分からないが、本で無理やり学習した。

頼めば他の人間も教えてくれただろうし、教えようとしてくれたのだが、怖かった。出来ない時に叩かれたらと思うと短い悲鳴が飛び出る。彼女は彼のそんな気持ちを知ってか知らずか、彼の背後で煙管を吸うのだが。

しかも彼女は嫌な人間で、誰かが「代わろうか?」とか教えようとするのを止めるのだ。こいつにさせろと言う。彼女は「出来ない」と彼が縋る姿が見たかった。


しかし彼には料理の才があった。少しずつマスターした。……のが面白くないらしい。煙管の煙が彼の鼻を塞ぐ。


「んっ!」


しかも挙句の果てにクスクス笑って"触る"破廉恥ぶりである。ここは調理場だと彼は叱りたくなった。

だが彼女が「やめて」の可愛い言葉が聞きたいのに対し、彼は強情だった。やがて飽きて彼女は居間に去ってしまう。


(…望む通りにしたら、飽きるくせにな)


玉葱のせいで、目が滲んだ。




「はー、今日は味がしっかりしてるわ」

「んだよ、お父さんのご飯は駄目駄目ってか!」

「はは、違うよ。メニューが子供っぽいってだけ」

「!!……アリス!子供たちが苛める!!」

「ふふふ……いいわあ…家族でご飯……」

「アリスぅぅぅぅぅ!!」



彼は震える手でフォークを動かす。

奴隷時代、彼の食事は犬のエサ皿みたいなものだった。酷い時は共同である。食べてるその際に頭を踏まれて息が出来なかったこともある。


つまりだ、彼はこの家族のように優雅に食べれないのだ。



「でさー、さっき玄関行ったらー、この前助けた兎がね―――…」

「おお、兎の恩返しとか可愛いな!俺も…」

「ふふふ、メスだったら助けちゃ駄目よ、アーサー」

「パッと見でメスって分かるものかな…」



彼は出来るだけ小さくなって食事をする。

忌々しいことに彼女は時折「食べてるー?」と話を振って注目を集める。どっさりと彼の綺麗な皿に食べ物を取り分ける。それで哂っているのだ、彼の下品さを。


「…………ッ」


分かってる、それは彼の被害妄想だ。

今の環境は有難い。お風呂に入れてもらえて体は綺麗だ。怖いけど、薬師としての腕は信頼できる奥さんに今まで受けた傷を治してもらえる。温かいご飯を綺麗な皿で食べれる。ふかふかのベッドで、寒さに震えることも無い……。


―――でも嫌だ。彼は奴隷だ。人間と対等で無い。



彼は、………と対等でありたかった。



「…………きらいだ」



(―――おまえなんか、だいっきらいだ!)






奴隷×我儘女主人も好きなんですてへぺろ。





補足:


奴隷のイリス⇒実は叱られるのが怖い。人間嫌いじゃなくて対人恐怖症。

家の皆からは家族(イーシェの恋人っしょ?的な)認定されてるが彼自身は「奴隷」の枠から抜け出せない。でも抜け出したいとは思ってる。


ちなみにイーシェの部屋の掃除洗濯をやってて抱き枕しつつ恐ろしいことになってる布団を直してる毎日。



イーシェさん⇒好きな子ほど苛めたい小学男子みたいな屑っぷり。

イリスが強情なので縋ってもらいたいと思ってるだけなのに何かおかしいことになってる。かまってもらいたい小学男子にツンデレ入ったもんだと思ってください。

口と足と鞭がアレだけども、「虐待した」と言いつつ世話焼いてるあの猫の話みたいなノリ。ああは言ったけどイリスに薬を使う際は自分の肌で試してる。


・このカップル、イリスは「デレたり泣きついたりしたら負け。飽きられる」と思ってるけど実際デレたりしたらイーシェさん喜んで飴ばっかりの攻撃にでる。泣きついたらよしよしするだけなんだけど考えと立場がまるきり違うのでなかなかイチャイチャレベルにまで達しない。


正直書いてて続編書きたくなった件。


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