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不幸少女の話



※ギリギリセウトな表現があります(裸などといった)。


※内容に関しまして、現実における犯罪行為の実行など、社会的行為を誘導するものではありません。






少女は走っていた。怖い怖いと喚きたて。


追いかけてくるのは育ちの良さげな、笑顔が本当に優しい少し年上の少年。いや、青年か。少女も顔が童顔なだけで、結婚適齢の歳である。


青年が持っているのは修羅場によく登場するような刃物ではない。寒い夜に風邪を引くと悪かろうと、片手にコートを持っているだけ。しまいには「足元に気を付けて」と忠告だってしてくれる。



―――少女はこの青年に好意を寄せていたのだが、まさかの青年の愛の告白で舞い上がり、交際一年間、手をつなぐだけの清い仲であった。

それが今日、結婚できる歳になった途端、彼は言ったのである。「家に紹介したい」と。


青年への評価は町でもたいそう良かったが、彼女の中でもその言葉でぐんと上がった―――つまりである、結婚も視野に、と彼は切り出したのだ。

彼はまじめにアドベンチャー協会で働き礼節ある人であったが、家族も家も居所不明だった。それが唯一引っかかったが、それ以外はまったくもって好条件なのである。

彼女は二つ返事で頷くと、失礼のないようにときちんとした格好で待ち合わせ場所に向かった。派手さは好まれないだろうと、質素にしてしまったのが少し不安でもある。


彼は彼女が来る前から待っていて、彼女は毎度ながらに申し訳ないのと嬉しいのでいっぱいいっぱいになる。呑気に家へと向かった―――愚かなことに。




「我が家にいらっしゃい」



家は綺麗なものだった。童話の中のよう。館と家の中間のような広さで、自分の家と比べるのも申し訳なくなってきた。

ドキドキと家の中に進んだのだが、誰も出ない。彼曰くいい歳になってからは子供部屋と夫婦の部屋を分け、食事こそ一緒だが日中は会わないとのこと。

寂しくないか、と聞けば、親は確かに子供たちを愛しているようで、今も可愛がり過ぎて困るほどだという。


初めて見た彼の部屋はさっぱりしていて、丁寧に自分が贈った花飾りが壁に飾られているのに照れてしまう。よく見たら、他の誕生日にと贈った物もきちんと置かれていて、それ以外の私物は本が多い。博識な人だと思っていたが―――


「あ、お茶淹れてくるね」


暖炉の火の近くに座らせて、彼女は呑気にロッキングチェアの座り心地の良さを楽しんでいた。温かい彼の手に撫でられて、照れてしまう。


(ご両親と、お姉さん。どんな人かしら……)


何度も練習した「御挨拶」を暗唱して自信を取り戻していると、ふと物音が聞こえた。

よくよく耳を澄ませば乾いた音であった。誰かの声も微かに聞こえる。というか、物音が大きすぎて聞こえてしまった、というのが正しいのか。


「だ、誰か怪我をしたのかしら……」


彼女は無垢であった。


そして薬作りを得意としていたので、誰かの怪我に敏感であった。

そろそろと部屋を出て、離れたところにある部屋を見つける。微かに開いており、彼女は呼びかけるだけでまず留めようと息を吸った。


ら。



「ふふ、ほぉーら、飲んで?」

「………んっ」

「嫌がるだなんて悪い子ね」

「ん……ん゛んっ」

「這い蹲って」

「……」

「そうよ、良い子ね」

「ん゛―――!」



それが、彼女の初めて見たSMプレイだった。



……と笑い話に出来れば良いが、今の彼女にはまったく笑えぬ事態である。

加害者の女(恐らく彼の姉)は美人で、艶やかなベビードール姿に同性だというのにドキッとした。

蝶の髪飾りがよく似合い、部屋の中は大人びているものの下品ではない。というか、その人のしなやかな豹のような美しさがあってこその部屋だろう。


対して囚われ人は鞭痕と顔のやけどの跡の酷い男で、女より年下に見える。背中に番号と刻印が押し当てられた痕があるから、元は奴隷なのだろう。


女は奴隷の男にスープを飲ませたいらしいが、口の布を取らねば食えなかろうに。

―――だが様子を見るに、女は「これじゃあ食べれない」と言わせたいのかもしれない。何せ奴隷の男は食事を嫌がっているのだ。「食べたい」の言葉が聞きたい……にしても、鞭で叩きあんな痛そうなものを突っ込む非道には弁護出来ない。



(この家、変だ)


彼女はすぐさま逃げ出した。たったかたったかと。しかし戸は塞がれていて出れない。彼女はやがて「寝室」の方に来てしまう。



「ほら、薬持って来たぞ」


若い男性の声である。彼の父親かもしれない。


案外まともそうな会話が聞こえてきて、もしかしたらあのお姉さんが異端なだけで他の家族は普通なのかもしれないと思った彼女は悩んだ。―――どうする、部屋に戻るか?


しかし今戻っても、多分お茶を淹れに行った彼は戻って来ているはず。「あなたのお姉さんに吃驚して……」なんて言い訳をしても、まず案内もされてない上に姉の部屋を覗き見した女を好きになってくれるだろうか?これなら「トイレを探してて」の方がマシである。


泣き出しそうな彼女はおろおろとして―――ふと、背後に誰かいるのに気付いた。



「イー……す?」

「きゅfbgんtmhp:おじうhgfdふゅjkl」

「ひっ…きゃあああああああああああああああああ!!!」



盛り上がる筋肉で破れた白い燕尾服を着た……兎?


顔は兎、しかし言葉が可愛くない。手に大きな包丁があって、彼女は救いを求めて扉に抱きつく―――開いた。


「……誰だ、お前」


三十路くらいだろうか。


男の首輪に彼女は「お前もか!」と突っ込みたくなったが、そんな肝の据わった行為は彼女に出来ない。部屋の奥、ベッドの上では疲れてぐったりしている裸の二十半ばかその前ほどの女がいる。上半身を起こして、「白兎に任せればいいじゃない」と恐ろしいことを言う。


(ご、ご両親じゃないの…!?)


だって子と親の年齢が釣り合わない。法違反をしたのでなければ―――第一、二人の纏う空気は何かおかしい。秩序がない。


「その子、あの子が呼んだ子でしょ?」

「あー、そういや言ってたな」

「だから放っておいて…ねぇ?」


甘え上手な女の体を拭いてやりながら、男は彼女に、いや白兎という名の化け物に「部屋に戻してやれ」と命じた。

悲鳴を上げる彼女にまったく気にせず、女は「見ちゃだめー!」と男の目を隠してじゃれていた―――壊れている。



しかしまあ、やだやだと暴れても筋肉盛り沢山な兎男に勝てる訳もなく、部屋に投げ出される。ばたんと閉められ彼女が必死に逃げようとすると、背後からぽん、と肩を叩かれた。



「大変だったね」



そこから彼女の記憶はぐちゃぐちゃになる。

悲鳴を上げて暴れていたような気もするし、泣いて怖がっていたような気もする。彼はあくまでも紳士的に彼女を宥めるが、小心者の彼女の耳には届かない。

やがてくるんと体を倒されて、非常に優しくされた一夜を過ごした。手厚い看護をされたが、彼女は隙を見て逃げ出し―――冒頭に至る。



「急に動くと体に悪いよ」



背後からの言葉通り、元々ノロマな彼女にはキツかった。太ももに伝わる濡れたモノに泣きたくなる。

騙されたと罵りたいが、彼は家の事は伏せていたが真実しか語っておらず、"やらかした"件についても誠実であった。これは結婚も考えての行為だと手の甲に口づけを落とす。

―――しかしそれが何よりも怖いというジレンマ。信頼できるところがより一層の恐怖を煽る。


優しい人は何よりも怖いのかもしれない。誠実も一歩超えると恐怖でしかない。

彼は人よりも早い脚を持っているくせにわざとこちらに合わせて、怯える子羊の様を楽しんでいる……。



「つかまえた」



そっと、冷えた肩にコートをかけて。


碧と金茶の瞳の彼女が少女のままであれたのは、この時までである。











―――娘が嫁いでから、帰ってくるのは半月に一度。会いに行くのも半月に一度。


何度か招かれて行ったが、とても立派な家だったと、嫁いだ娘の母は隣の奥さんに語った。


"両目の違うあの子だから、もしかしたら不憫な目に遭うんじゃないかと心配でね……"


そう口にしてしまうくらい、母は娘に対し過保護であった。娘の世間知らずにも一役買っているのも分かっているので、娘をくれと言いに来た男に対して厳しい目で見たものである。

だが男は調べれば調べるほどにしっかりとした好青年で、親の自分が言う前から、今の若いのには珍しく清いお付き合いをしている。稼ぎも良かった。協会はたらきさきでもお勧めされたくらいだ。これはもう最高である。


羨ましいわあ、とお隣さんが言うと、娘の母は「でしょう!」と頬を染める。



―――ご両親が若すぎるかと思ったんだけど、あれは叔父夫婦でね、ご両親は亡くなってて、代わりに育てたんですって。


―――お姉さんも美人でね、あの子のことを実の妹のように可愛がってくれてるの!姉妹みたいに仲良くお喋りしてて、髪飾りもお揃いだったりね…。


―――着る物も質の良い物ばかりで、あの子も大人っぽくなったわあ。実の母親でもドキッとしちゃったわよぉ~。


―――でも歩き方がぎこちないのよねえ。あの子ったらあんなに良い物毎日着てるのに、慣れないんですって。イース君が危ないからって、よく付き添ってて。



「もう、当てつけがましいわねー。ウチの子が聞いたら羨むような話ばっかり」

「おほほ、だってえ。すごいわ私の娘!良い夫をゲットできるなんて中々無いわよ!」

「あーはいはい。もう、薬作らないと旦那に叱られるわよ」

「あら本当、じゃーねー!」



分かれて店に戻ると、交代しようと声をかけた女の旦那が煙管から口を離して言う。


それはぽつりとした独り言に近く、女は「そんなわけないじゃないのー」と旦那に上着を着せた。

旦那は「ありがとう」と言うと、去り際に「そうかなあ…」と首を傾げていた。女はやれやれと言う。



「まったく、心配し過ぎて幻聴かい?―――あの子の足から鎖の音がしただなんて」






あんまりにも人気だったんで。つい。




補足:


アリス+アーサー夫婦⇒魔王様討伐時の魔王の孫のコネで不老の薬ゲット!オチにしました。

本編ではアーサー二十歳半ば、アリスさん十六とかそんなん。今は三十路と二十歳過ぎ。


お宝はまだあるけど貯蓄してる。アーサーはクエストで金を稼ぐか家事か嫁の手伝い。アリスはひっそりと呪い屋、表向きは薬屋とその合間にぬいぐるみ屋さんもしてる。

仲良くて常にイチャイチャしてるけど子供たちの前ではちゃんと親をしてる。



彼女(エリス)

薄茶の髪に碧と金茶のオッドアイ。まったくキャラ浮かばなかったので、エリスちゃんだけでなくこの作品の登場人物はみんな別作品リサイクルしてます。あ、姫様とかのモブキャラは違いますが。

おっとりしてて今時珍しい初心で良い子。うっかりヤバいのが好きになって向こうにも好かれた。超被害者。


質のいい上品なドレスを着て足元が見えないので、彼女の親には足枷が付いていることが分からない……。

ちなみに逃げる気力も何もかも潰された反動かすっごく大人っぽくなった。病んじゃったけど多分唯一の常識人。



(イース)

元は寡黙で礼節弁えた好青年。博識で優しい……のは実はエリスの前だけだったり。優しくて暴力は振るわないからこそホラー的な意味で怖いタイプの人。

元々こうする予定で家に招いた。多分逃げ惑うエリスを影から見守って「あ、後ろ後ろ」とか思ってたに違いない。


相思相愛になったはいいが怖がられてる。大人っぽくなったエリスを日々「ぴゃっ」と驚かすことに人生賭けてる可愛いS。そして地味に嫌なS。



(イーシェ)

まさかの登場。あの作品のあの人物で、別世界においての同存在。母の血をまあ薄く引いちゃった人。暴君。そしてめっさ色気のある美人。ドS。たまに下剋上されたいS。そしてイース君と違って優しさに安心はできるS。


奴隷な彼を偶然見つけてその場で金貨積んで買ったという男前。なかなか彼に可愛げがないので困ってる。



奴隷(イリス)

まさかの(ry)

反抗しまくって奴隷商人に顔焼かれた。人間大嫌いな奴隷。善意の手であろうと噛みつく。

この家の異常状態がまず嫌。やたらご主人様(イーシェ)が飯を勧めるし手ずから食わせようとするのにどうすればいいのか分からなくて拒否してる。結果苛められる。


ご主人様が美人なのに勿体ないくらいぐーたら人間なので嫌々世話してる。まれに誘いに乗って下剋上するが押し寄せる後悔で死ねる。まあ反抗的なわんちゃんと思ってください。

エリスちゃんには同じ被害者としてちょっと同情してる。


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