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3.ずっと、いっしょでしょ



「な、なあ、もう蹴るのかなあ」

「ふふ、まぁーだ!」

「なんだぁ……」

「でもね、いるのよ。ここに!」



アリスは上機嫌だ。

まだ腹の膨らみは目立たないけど。……そういやあそろそろ妊婦さんの服を揃えないとな。


「子供が産まれたら、部屋どうする?」

「もう作ってあるわよ?」

「えっ」

「ふふ、二人分。ほら、あなたが『あの階段は?』って言ってたじゃない」

「あー、そういやそうだなあ」

「ベッドもオモチャも用意してあるのよ!赤ん坊の世話もね、弟で経験済みなの」

「頼もしいな」

「女の子かしら?それとも男の子……ふふ、どっちがいい?」

「どっちでも。お前の産んだ子なら大歓迎だ」


肩を温めてやると、アリスは嬉しそうに「ありがとう」と微笑む。


俺は傷痕だらけの腕でぎゅっと抱きしめてやると、アリスは「危ないわ」と苦笑する。―――手元にはぬいぐるみがあった。



「赤ん坊にぬいぐるみかあ…。上手いな」

「でしょう?"一針一針心を込めて"いるの!えへへ、女の子なんだけどよく出来てる?」

「出来てるよ。髪は金なの……」



―――金。

青い目。ドレスに見覚えがある。綿が腹に集まり過ぎてるような……。



「……な、なあ、腹…綿、寄り過ぎじゃないか?」

「え?…ああ、大変!どうしましょう、引っ張り過ぎて集まっちゃったのね」

「引っ張って取ろうか?あ、いや……」


偶然だったらしいが、だとしても綿を抜くなんて。

……気のせいだとしても、俺が勝手に思ったのだとしても、ちょっと……。



「とって」

「……え?」

「とって。」

「あ、アリス…?」

「とって」

「……」

「とって」



俺は。多分、このまま無視してもアリスは「とって」しか言わないだろうことに気付いた。

しかもアリスの手で深く植え付けられた恐怖と快楽の、あの頭がおかしくなる夜が急に戻って来て。俺は逃げる代わりに綿を引き抜いた。


震える手の中、アリスはそっと手を重ねて蓋をする。もう母であるというのに、いやに艶やかだった。



「これで許してあげる」



アリスは微笑み、糸を引き千切った。針で狙いを定めたのは心臓の在るところで、何度も縫った。何度も何度も何度も。


「でもお前は許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」


俺は心底ゾッとして、ぬいぐるみを奪う。

すると、アリスが今度取り出したのは神官のぬいぐるみだった。


どういうことだ?―――幾らなんでも俺はそこまで浮気野郎じゃないぞと見れば、アリスは柔らかく微笑んだ。



「こいつがね、"前世のアリス"を王様たちに教えたのよ」

「へ、え……?」

「こいつがね、言わなければねッ!!アーサーが騙されることは無かったんだよッ!!!何が天に仕える者だ、この売女がッッ!!」

「ひっ!?」



ざくざくざくざくとハサミで首を刺し、叫ぶや否やのんびりと燃える暖炉に放り投げた。「ジュ」という音が断末魔の代わりに聞こえて、俺は腰を抜かす。


「アーサー」

「!」


急に静かな声で呼びかけるアリスの、その横顔は髪の毛のせいで見えない。

けれどアリスが俺を見て、腰の抜けた夫を悲しそうに見つめた。



「あなたがすきなの」



そう言うと、アリスの綺麗な瞳から涙が溢れて。



「世界で一番。だから許せないの。私の夫。いとしいひと。あなたの子供を身籠るのは、私のはずだったのに」

「アリス……」

「お姫様があなたの子を宿したと旅の途中聞いた時、気が狂いそうだった!!そいつじゃない、私が!私があなたの妻!!!なのに奪われて、先に子供を宿してッ!愛されるだけでも許せなかったのに!あなたの血を引きあなたに似た子を抱く女に殺意を抱いた!そうしたあなたにも!!」

「アリス…!」

「わたしがアーサーの妻なの!!私だけが産むのよ!!他の女も子供も認めるものかッ!!!」

「アリス!」



抱きしめると、ハサミで腕を切られた。

それでも強く抱きしめると、「わたしが、わたしが!」と泣き縋る。

「ごめんな」と謝ると、わんわん泣いて止まらない。それがとても愛しかった。



「うん、俺の妻はアリスだけだよ……」



お前の罪は、元はといえば俺のせい。


お前は悪くない。何一つ。そうさ―――俺が悪い。……だから。



「ほら、お腹の子が驚いてしまうよ」



笑って。











「―――姫様の子が、流産したらしい。姫様も産んで間もなく……」

「勇者様は何してんだ。妻を残して……」

「英雄様の考えなんぞ俺ら一般人には分からんさ」

「お偉い人ってのは、屑ばっかだねえ」




蜜柑を紙袋にたんと詰めてもらって、俺は熱い石畳の町を歩いた。


噂の通り、お姫様の子は生きられず、姫もまた亡くなった。それがまた酷い死に方だったそうで、毒を盛られたのではなかろうかと噂されている。

ちなみに女神官は焼身自殺……流石は呪術も得意なだけはある、と俺はアリスの腕前に苦笑した。


王宮は姫を弔い、そして勇者の繋がりも切れて不利になった現状にびくびくしている。血眼になって俺を探すかもしれない―――そろそろこの国から去らねばなるまい。


思えば俺の前生は、他人を犠牲にしてでもあいつを優先させることばかりだった。


来世があれば悲惨な人生だろうと思う。地獄があれば最下層に行くのだろう。


だが、怖くは無い。



「―――ただいま」

「あっ、ふふ、おかえりなさい!」

「プリン買って来たぞ」

「やったぁ……あら、ふふふ」

「ん?」

「今ね、お腹、ふふ」

「あー!ずるい!もう一回!」

「まだアーサーには分からないわよ?」

「いいや分かる!もう一回!もう一回!」

「ふふ、じゃあ、よーく耳を澄ませてね…」



病める時も、健やかなる時も。


罰される時も。死ぬ時も。



ずっと、いっしょだよな――――。






お見事ハッピーエンド。






追記:



たった三話ですが、読んでくださってありがとうございます。


内容はアレですが、個人的に、転生(勇者)×前世妻のこのカップリングが地味に理想のヤンデレカップルだったり。…まあ実際こんな夫婦いたら怖すぎて泣きますが。

なんか設定が死んでるような話だったのが無念です……ちなみに魔王爺さんのネタは「君好きRPG」で使おうか「勇者拾ったら」で使うか悩んだ没案でした。


もうギリギリセウトで大人向けなろう様行こうか悩みましたが挑戦しました。アカンと言われたら大人しくそっちに変えます……もうちょっとガッツリ書きたかったです。はい。

差別用語と妊娠の話を勉強せずに書いてしまい申し訳ありませんでした。

ただ「あなたの子供が欲しい」なんて極上プロポーズ使いたかったんです……軽んじていると思われた方、すいません。


ヤンデレ夫婦は子供が産まれたら引っ越して好きな子にヤンデレひっかけてゲットする逞しい子供になると思います。

夫婦は最期、何とか呪いでもかけて夫婦の木になるかもしれないし、薬を飲んで一緒に死ぬのかもしれません。上手いこと不老の方法を知るかもしれません。

そんな感じで、こんな二人で妄想してくれたらとても嬉しいです。


最後までお付き合いしていただき、ありがとうございました。


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