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1.すきすきすきすき



※差別用語+不妊がどうとかのしかも作者不勉強なお話になります。


暴力表現、艶というかそういう行為ぎりぎりセウトに書いてしまいますのでご注意ください。


監禁と言っておりますが現実における犯罪行為の実行など、社会的行為を誘導するものではありません。


そしてハッピーエンドですので報われないオチを希望の方はすいません。



以上、ご注意の上でお読みください。







俺は前世の記憶を持っている。知っている。


名前は今と変わらず「アーサー」。親はいない。貧乏だった。

俺の妻は薬師で料理も上手かったが、たまに調理道具に疑惑がある女だ。だが家庭的で、怒らせると怖いけど笑うととても可愛かった。


俺はなんとかあいつと結婚したくて、努力に努力を重ねて街の治安隊に入隊。人手不足もあってすぐに上官の補佐官にまでなれた。街の穏やかな通りに部屋を借りて、笑いあり涙ありの生活を送った。


喧嘩すると俺の短気とヘタレのせいで長期戦―――でも、あいつが桃色の花を飾ると、俺は帰り道であいつの好きなプリン(当時は高級品)を買い、あいつは俺の好きなものばかりを並べてくれた。

金の使い方も上手で、内職してはその分を俺の軍馬や軍服をこしらえる際に出してくれた。


だけど子供は出来なかった。二人で検査したが、……あいつはとても落ち込んでいた。「子供が欲しい」と毎晩泣いていた。


『……俺は、ずっとお前と新婚さんでいられる生活がいいよ』


子供の為に使えない金は、夫婦おれたちの幸せな時間の為に使おう。

寂しくないさ、手間のかかる子供おれがいるだろ、老後だって寂しくない。俺が看取ってやる。


そう言った時の、あの微笑みが忘れられない。











―――さて、じゃあ俺が生まれ変わる原因……つまりだ、死亡理由を教えよう。


俺はあいつと旅行に行こうと思って、小金を貯めようと残業を重ねており、その日も眠たい中あいつが作った弁当を手に、あいつに見送られて家を出た。


昼……頃だったか。弁当箱を洗っていると、緊急事態を知らせる太鼓の音がして、俺は慌てて持ち場に戻った―――魔物の集団に襲われていた。


当時は魔王を倒す勇者は生まれていなかった。上官に突っ込めと命じられ、俺は剣を抜いたが、駄目だった。部隊は壊滅寸前。俺は「時間稼ぎ」がある内にと逃げ出した。上官なのか味方なのかが咎めて奇声をあげる。ごめん。


俺はもしかしたら子供とか老人を蹴飛ばして走ったかもしれない。家に戻ると俺の荷物もまとめていたあいつがいて、逃げやすいように簡単にまとめてくれたそれを背負って、あいつに頭巾を被らせて走る。助けてと誰かが泣く。



『離れ離れで死にたくないよぉ……』



滅多に泣き言を言わないあいつが、鼻を赤くして呟いた。

どこかの神話のように、二人同時に木になって、ずっと夫婦でいたいのだと泣いていた。


―――良かったな、木にはなれなかったけど、一緒に。


死ねた。魔物にばくんと。二人仲良く。

俺は突き飛ばそうと思ったけど、あいつは抱きついた。だから俺も庇うように、抱き合って。


『ずっと一緒だね…』


それが最期の言葉。気が付くと俺は散々苦しい思いをして産婆とこんにちはをした。


前世と同じ名前だが、両親は居た。割と裕福だった。

あの日の事を調べたが、街の人間は全員死んだ。もしかしたらあの時、俺が仕事を優先したら誰か一人は生き残れたのかもしれない……。



―――そう後悔していたら、色々あって勇者にされた。



女神曰く「クジで」らしいけどな!べ、別にいいんだからねっ……というのは置いといて、俺は償いと世界を巡ることであいつに会えるんじゃないかと思ったんだ。


そしたらなんとある国のお姫様があいつに似てて、名前もぴったーん!…だったから、ずっと会いたくて仕方なかった俺は不用心に言ってしまったんだ。

俺が前世の記憶を持っていること。××なんだろう?俺のこと覚えているか?―――これがただの平民なら病院送りだが、俺は勇者だ。前世の保持くらいはありえるのだろうと思われた。


するとお姫様と報告を受けた王様は考えたのである。魔王討伐後もこの国で頑張ってもらいたい王様は、姫様に一芝居打てと言った。


街は崩壊したが神殿には当時の住民の記録が残っている。姫様は文官と神官を何十人か使って前世の記録を見つけ、お姫様は自信たっぷりに俺に嘘を吐いた。


"―――わたくしは××よ。ああ思い出したわ。…でもね、中途半端で記憶がはっきりとしないの。ごめんなさい……。"


当時の俺はそれでも嬉しかった。あいつの誕生日、出身地、家族構成。結婚記念日も言えたから。お姫様は俺の会話から「あいつ」を上手く読み取って、当たり障りなく、俺に植え付けていった。


俺はお姫様を大事に大事に扱った。役者で言葉も巧みなお姫様に、夜毎「今度は子供が産まれるのかなあ」と無邪気に笑った。




―――…だけど、何か。違う………。


その違和感を、俺は「途中から思い出したから」だと思っていた。

前世でも俺はあいつを信頼しきっていて、……いや、疑うことで「最悪の事実」が実現することを恐れたんだ。



ゆえに、途中から俺は一人で行動することになる。

具合が悪くなることの多くなったお姫様を残し、魔王城へと向かった。


俺が生まれ変わる間に魔王も何人かころころ変わったらしい―――魔王城で無双状態の俺を遮ったのは、若い魔族の男と女だった。



「勇者よ。頼みがある。万の宝をくれてやるから陛下を殺してくれるな」

「散々人間を殺しておいてよくもまあ言えるな?」

「……陛下はもう、病で死ぬのだ」

「えっ」

「陛下のご子息は、人間との戦いで討ち取られ、奥方は先に……100年も、あの方は孤独に生き、我らを導いてくださった。せめてその最期は穏やかであって欲しいのだ。叶えてくれるなら私たちの宝と首もやる」



後に知るが、この男女は魔王の孫だった。


俺はもう魔族を殺しまくりたいとかそういう感情は擦り切れてるし、手を汚さないで済むなんてラッキーだ。

………それに100年も独りであった、というのが、剣をしまった一番の理由かもしれない。


「いいだろう。―――だが死ぬまで監視させてもらう。女神に誓って、お前らが嘘と戦いを仕掛けない限り、俺は剣を抜かぬ」

「ありがとう…!ああ、だが、勇者よ」

「?」

「……陛下は、……ボケてきて……」

「えっ?」


どういうことよ、と振り返るのと扉が開くのは同時だった。


俺は魔王な爺さんが盆栽をいじくるというシュールな光景に出会い―――「ああ、息子ベレッタよ、どうしたんだい…」と後光が見えるような微笑で出迎えてもらった。


「俺wwwあんたを殺しに来たwww勇w者wwでぇーすっwwww」だなんて言える訳もなく、俺は息子さんの役を担うことに。

とりあえずその日は爺さんの昔話に付き合い、魔王城に泊まった。ご飯まで何故かちゃぶ台で仲良く(ちなみにあの孫二人付き)食事をし、二日三日と過ぎてく中、俺は爺さんと将棋やら囲碁やらと付き合った。爺さんボケてるくせに強すぎた。


―――今思うと不思議なものだ。俺もまたお姫様に騙されているのに、目の前の爺さんを騙しているんだ。

俺は一人になると、よく置いてきたお姫様と前世の妻を想う。引っかかる物に疑いを強めた頃、爺さんは亡くなった。老衰で。


「すまんねえ。勇者さんに最期の面倒までかけさせて……楽しかったよ……」


孫の手を握り、大臣に囲まれながら。

爺さんは「おおアリエッタ、天女のように美しい我が伴侶……」と涙を静かに流して死んだ。


俺は約束通り宝物を貰った―――のだが、その途中、孫の女に呼び止められた。


「女に気を付けろ」

「えっ」


悪気はない。本当に忠告というか警告。


ただでさえ帰るのが怖いのに酷過ぎる。しかし有難く聞いておこうと頭を下げた。

そして国に帰ると、姫の腹は大きくなっていた。心当たり?俺だよ――と思いたいが、気の多い女だったと人伝に聞いて以降、自信がない。


「お帰りなさい、あなた!」


俺は半信半疑のまま戻る前に、宝を不思議な小さなオルゴールの中に封じたんだが、ちょっと王様とお姫様は残念そうだった。嫌な予感はとっても増す。



―――俺はとても馬鹿な間違いをしたんじゃないかと思えども、お人好しでヘタレで学の無い俺には最善策が分からない。酒に溺れた。心が擦れて人を疑っては落ち込む。


そんな中、―――ああ、あいつはふらりと、俺に直感的な絆を引っ張って現れた!



「―――あ、あなた何ですの!?ここは王家の人間の住まう場所!下民が…ッ」


色々と甲高い声で威嚇するお姫様に、あいつは微笑んだ。「私がアリスよ?」俺が思わず涙目と修羅場に心臓がレッドゾーン。


お姫様も揺らぐ俺の心に気付いたのか、立ち上がって喚いた。



「いい加減にしてよ!今一番大事な時なのよ!?アリスはあんたじゃないの!!とっとと失せなさいよこの石女!!」



その差別用語に俺はカチンときた。

あの前世の頃から、俺は減給になろうが上官に殴られようが、あいつにそう吐き捨てた人間を老若男女上司部下問わずぶん殴ってきた。


しかし今回は相手が妊婦。もっと言うと疑心暗鬼と酒のせいで判断能力も衰えがちの俺は少ない理性をかき集めて「おい!!」と怒鳴り手がわなわなするのを抑えるのが精一杯。だが。


「えらんで」


つ、と。包丁の先が妊婦の腹に当たる。刺さってはいない。当たってるだけだ。


あいつはうだうだしてるしか出来ない駄目な男に微笑むと、病的に微笑んだ。



「私と生きる?それともこの赤ちゃんと生きる?ねえどっち?どぉ―――っち?」



俺は全力ダッシュであいつに襲いかかると、俵のように抱えて逃げ出した。



何故なら赤子に罪は無いからである。―――だって、俺と余所の女の子供を、あんなにも子宝を欲していたこいつが許せるはずがない。


背後からはお姫様の奇声。あいつの楽しそうな笑い声。俺のマントを包丁で切る音とビビる使用人一同さんの各々の反応。



「あ、待って待って、止まって?」



城から出て森に突っ込んだら、あいつは無邪気に俺に言うのだ。


俺は恐る恐るあいつを下すと、なんか悲惨すぎるマントを引き千切って倒れた木の上に敷いて座らせた。包丁が怖すぎて泣く。


「アリス……だよな?」

「そうよ、アーサー?」

「……何度も俺がお前に注意したことは?」

「ふふ、…"俺の喧嘩に口をはさむな。いいな、それは別に今持ってるその煉瓦で頭を殴っても可とかじゃなくて物理的にもだ。絶対に大人しく遠目から見守ってろ"」

「……俺はエビフライに、」

「タルタルソース」

「………風呂上りは」

「珈琲牛乳。でも珈琲は飲めないの」

「……………――――アリス!」

「ふふふ、会いたかった、アーサー!」


あの最期にぱっくんちょ以来の抱擁だ。


俺は謝るのも忘れてあいつの名前を呼んでいると、あいつは幸せそうに俺の胸に埋もれた。

俺もあいつの髪に頬を押し付け泣き出しそうだった―――が、何か視界の端に白いのが見えた。遅れて「どんどんどんどんっ」という連続する落下音。



不審者か魔物かと慌てると、あいつは「あらあら」と言って。

白いタキシードを盛り上がる筋肉で所々、いや、上半身は手首に名残を引っかけ首にも蝶ネクタイの名残しかない。

恐る恐る巨体を見上げれば、その顔は白い兎だった。よく見ると縫い目!縫い目が!


「私の子供なの」

「えっ」

「私ね、前世で子供が持てなかったでしょう?――ふふ、私ね、欲張りだから。子だくさんになろうと思って」

「え、へ、へー…」

奴隷したいと、くいのこしさんをね、真心込めて縫ったのよ」

「あ、あー…じゃ、じゃあ、お前は【人形師】なんだ?」


人形師……その手で編み出すものを下僕とし使役することのできる者。


俺はこの怪ぶ…"子供"がこいつに荷物を渡すのを、びくびくしながら見守った。



「―――ううん、クラスは【魔女】よ?」

「へっ」

「私の生まれ故郷を捧げてね、魔族と契約して力を得たの。だってそうじゃないとあなたを探せないでしょう?」

「は、は、あ……あの、捧げたって?」

「故郷の人間の命、全部食わせたの。そしたら腰痛が治ったって言ってたわ――あ、契約したのは魔王様なのだけど」

「」

「呪術が得意になったの!ふふ、私たち、死ぬときは同時に、夫婦の木になりましょうねえ」



がちゃん。


ドン引きしてたら、いつの間にかこいつに首輪を付けられた。

大きいし、可愛さ重視っぽいから千切って脱出可能かと思ったが、無理だった。恐る恐るあいつを見上げる。



「あ、アリス……なんで、故郷の人間を……」

「だって、あなたが居なくて、発狂しそうだったんだもの。変なところに閉じ込められて、薬飲まされて。服脱がされそうにもなったのよ。気狂い女なんかどうしてもいいからって」

「なっ……!」

「ああでも安心して!私の全てはアーサーの物よ。私を襲おうとした奴らはね、"白兎"が襲い返してやったの。治安に貢献したのよ!…すぐに人間は居なくなっちゃう、その束の間だけど」

「アリス―――アリス、でも、お前の親御さんは!?友達は!?そりゃ、お前人付き合いアレだったけど―――!」

「アーサー、」



華奢な肩を掴むと、あいつは柔らかな微笑を浮かべた。

「そんなことよりね、」と続けて、



「あなたの子供が欲しいの。ねえ、おうちに帰りましょ?」



――瞬間、俺の体に革ベルトが巻かれ、白兎に持ち上げられる。芋虫みたいに暴れる俺に、あいつは笑顔で薬を嗅がせた。



「男の子とね、女の子が欲しいの!ふふふふふ………」






ヤンデレ前世妻に転生勇者が拉致監禁される割とポップ(かも分からん)なお話です☆






補足:


アーサー:


前世の記憶持ち勇者。騙されやすいし喧嘩っ早いがヘタレで愛妻家。愛妻家過ぎて嫁のヤバさに気付かなかった鈍感さん。


女の演技に引っかかり子供まで孕ませ、別人だろうな説が濃くなってきても逃亡を図らなかったのは赤ちゃんの為。子供に罪は無い、との考え。


ちゃっかり駆け落ち中に宝物いっぱいのオルゴール回収するところは褒められたもの。自分の落ち度は認めるが嫁が怖すぎて死ぬ。



アリス:


某人形師なあの彼女じゃないぞ!

アーサーと同じく前世記憶持ち。故郷の人間を魔王様にやって魔力を得て魔女に。

元々ヤンデレ気質だが基本的に甘えん坊な性格。スイッチ入ったのは子供が産めないと知った時から。ちゃんと支えてくれて愛してくれた旦那に依存しまくり。


呪術をマスターしており、明らかにヤバいものを"子供たち"と呼んでしまうのはアーサーに会えない間の孤独を埋めるため。

子供たちにはお手製の服とかでよく着飾ってあげている。


アリスからしたら彼女は彼を待ち続け、ついには危険を顧みず探して見つけたと思ったらよその女を自分と勘違いして愛でて子供をこさえるという……下手したら「中に誰もいないじゃないですか」のいますverをすることになってた。



※「君好き」「勇者拾ったら」のプロトタイプその一作品ですので設定は違います。

割と勇者とか魔女とか関係ない話になるかも……。


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