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IX「桃色」「虫アミ」「正義の脇役」

 思い出すのは振りかぶった虫網。母が買ってきた、虫取り網には似つかわしくないドピンク色の柄を持った虫取り網だ。

あの頃俺は正義の味方だった。同級生の誰よりも力が強かったし、誰よりもリーダーシップがあった。逆に言えば、それ以上は何もなかったのだが、それでも俺は正義の味方だった。力とは正義そのものだったのだ。

子どもなんて言うものはわかりやすいものに理解を示すものだ。力はその最たるものだったし、だからこそ正義の使者たる俺が暴走した時に叱りつけてくれる、そんな教師は俺たちの中では悪役だった。俺たちは悪役の目から逃れるように、正義の味方であり続けた。

今から考えるとなんて浅はかなんだろうと思う。正義の味方が悪の手先に見つからないように行動するなんて、そんなことは今では考えられない。

ともかくも、俺は正義の味方だった。そしてその夏、俺たちの中で悪は宇宙人の尖兵たる虫たちだったのだ。俺たちは虫取りに行っては捕まえた宇宙人を自分たちの都合のいいように調教した。要するにただ飼育していただけなのだが、それでも俺たちにとっては正義の活動だったのだ。口には出さなかったが。

だから、その重要な活動の場である虫取りに持っていく網も、本当なら赤色が良かった。正義の味方、みんなのリーダーとくれば赤色と相場は決まっている。赤は全ての悪を打ち砕く象徴なのだ。

しかし母親が面倒臭そうに買ってきたのは女児用のやや小ぶりな虫取り網で、まるで機能性もないピンク色に塗られた虫取り網だった。俺は怒ったし、そして落胆した。みんなの前でこんなものを使うわけにはいかなかったが、それ以上に買ってもらった虫取り網がピンク色だったからという理由で正義活動を行えないのは屈辱的だったのだ。大きな仕事を翌日に控えていたらしい母は、帰ってきてからというものの寝っぱなしでとても違うのを買ってこいとは言えなかった。

俺はピンクの虫網を持って虫取りに出かけた。俺を仲間たちは奇異な目で見たが、俺は妹が俺のを壊したんだと言ってそれを堂々と使い続けた。虫取りはうまくいくこともあったし全く取れないこともあった。

俺たちはしばしば大人が危険だという場所にも虫取りをしに行ったし、そしてそういう場所でけがするやつも多かった。そのたびに叱られるが、それはけがをしたやつが悪いのであって俺は悪くないと信じていたし、他のやつもそうだったのだろう。

そういう風に慢心していたから俺のもとにも事故が起きた。崖から足を滑らせたのだ。

あっ、と思った時には遅かった。そして気づくと俺はさっきまでいた崖の上で寝転んでいた。誰かが助けてくれたのだと、後で知った。

助けてくれた人を、俺は真の正義の味方だと思った。そして俺は脇役で、脇役なりに正義の味方になろうと誓ったのだった。


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