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I:「空」「笛」「家の中のヒロイン」

ギャグコメ指定ですがどこにギャグ要素が入っているのかわからない感じになりました。

 我が家のお姫様がひきこもった。

 何でも給食で人参が出たのが想像以上に嫌だったらしい。「人参が出るくらいならこのまま家の中のヒロインとして君臨してた方がましなのよ!」などとわけのわからないことをのたまって自室にひきこもっているのだ。

 私はそれを仕方ない奴だなぁなどと見ているのだけれど、父や母にとっては死活問題らしい。「ほらはやく出てきなさい!」「どうしてこんな子になっちゃったのかしら……」などと大いに嘆きつつ、それでもいつも通りに生活を送ろうとするさまは滑稽でもあった。

 どうでもいいが私の朝食はまだか。

 お姫様は寝ているのだろうか。それとも部屋の中で何らかの娯楽に興じてでもいるのだろうか。不思議と音はあまり聞こえてこないのだけれど、もしや自殺などしているのではあるまいな。そう不安に思ったもののたかだか給食に人参が出たぐらいで自殺するほど我が家のお姫様が軟弱だなどとはああまり思いたくなかった。それよりも問題なのは私の朝食がまだ準備されていないことなのだが、この父と母はまさか朝食を用意しないつもりではなかろうな。

 そんな疑念を抱えつつも父と母を見る。時折気遣わしげにお姫様の部屋を覗きこむものの、それ以上は腫れ物に触るような態度しか取っていない。まるで親失格ではないのだろうか。お姫様もお姫様でくだらないことでぶちぶちと悩んでいるし、この家族はどうなっているのだろう。

 そこで父が私の目の前に食事を置いた。あ、ありがとうございます。

 しゃくしゃくと咀嚼を続けながら考える。どうしてこうなってしまったのかを。始まりは父の転勤だった気がする。左遷されたのかもしれない。そのためかは知らないけれど母も働くようになった。おかげでお姫様は不快感をあらわにしたし、それが気になったのか父と母はお姫様を預かってくれるところを探し始めた。しばらく探してやっと見つけたものの、給食に人参が出ただけでこのありさまである。どういうことなのか小一時間問い詰めたい。お姫様はひきこもっているからそれも難しいのだけど。

 ごちそうさまでした。

 そんな時、父が箪笥を漁り始めた。今日もまた始めるつもりなのだろう。その想像通り父は箪笥からほら貝を取り出すとうきうきと二階に上がって行った。間もなくして聞こえてきたのは笛の音。空からバサバサと鳥が集まってくるような音も聞こえる。ご近所迷惑だからやめてほしいのだけど、母もこれをうっとりと聞いているだけで注意はしない。

 それを聞いていると、なぜだかは知らないが件のお姫様が出てきた。笛の音に感じることがあったのだろうか。そして言った。

「人参なんか食えるかボケだワン!」

 私は赤い目でじっと見つめて言う。

「人参よりおいしいものなんてないウサ」

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