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第12話:狂い始める歯車

side yanami―――――――――――――――――――――――――――――

「それでは、次に休めない講義があるのでこれで失礼します」

 そう言い残し鬼龍院は椅子を引き礼をした。

 何気ない話をして時間を潰す。

 特に趣味がない俺にはこんなことしかすることがない。

「あ、そうそう。矢波さんに伝言があったんでした。九さんが次にサークルに来れるのは来週になるそうなので教場の鍵は直接持ってってくれとのことです。すみませんね、私もちょっと用事があるので来週までサークルにいけないんですよ」

 伝え忘れていたことがあったと鬼龍院はヘコヘコと戻ってきた。

「わかった、そうしておく。」

「では、私はこれで」

「おい」

「なんでしょう?」

「もう少しは顔を引き締めることは出来んのか?何が用事だ。来週までの用事が樹さんとのデートってことはわかってるんだ」

「あれ、バレちゃいました?まいったな~」

「お前のその笑顔を見れば一発でわかるぞ。まあいい、楽しんでくるんだぞ」

「は~い。九ちゃんとイチャイチャしてきます!!」

 鬼龍院は食堂を走り抜けていった。

 ダッと、ニヤけながら走る様は自重したほうがいいのだろうが何度言ってもそうなるから仕方がないのだろう。

 浮かれながらデレている鬼龍院は新入生には想像もつかないだろう。

 あのバカップルはいいとして、今の俺は気が休まらない。

 何かがおかしい。

 ここ最近、京橋の弟と千堂に何かしらの変化が起きている。

 何故二人はいつも一緒にいるのだろう。

 そして、何故千堂は幸せそうなのに京橋は苦しそうにしているのだろう。

 彼らは京橋の姉が倒れてからずっとそうだった。

 鬼龍院に言われなくてもそんな異変くらい気づいていた。

 あいつらとはそんなに長い付き合いではないが、俺に関わった人間が何かに悩んでいるのなら俺はその何かを解決したい。

 こんなこと誰にも言うことができない。

 誰の傷ついた表情も見たくない。

 そいつが抱えているものをどうにかしてやりたい。

 勝手な俺のエゴだ。

 だが、そのエゴを俺は貫き通したい。

 全ての人間を救うことはできなくても、俺の周りの人間だけは幸せにしてやりたい。

 まずはあの二人がどうなっているのかを知らなければ。

 幸か不幸か今週はサークルに俺以外にくる人間はいなさそうだ。

 このチャンスを無駄にする訳にはいかない。

 時計の針は12時20分を指していた。














*                  *                  *

side haruka―――――――――――――――――――――――――――――

「霊羅、こういうの気持ちいいでしょ。あは、アリスの指が霊羅の後ろのお口にズポズポ入ってるよ」

「うっ。あぁぁぁっぁぁあ」

 自分でもおかしいことはわかってる。

 女装をして犯されることを。

 でも、感じてしまう。

 声が漏れてしまう。

 ボクの前はもうすでに今日だけで2回搾り取られている。

 外ではなく鏡の中にだ。

 ゴムの使用は許されず、いつ妊娠してもおかしくない。

 ボクは毎回拒むものの彼女はその度に暴力を振るってくる。

 抵抗しようとしても心臓に痛みが走り頭もフラフラしてしまい、彼女の思うままに組み伏せられてしまう。

 情けないがボクには抵抗する力がない。

 例え心から愛していない女性でもボクは姉さんも守らなければならない。

 こんな方法しかないのが、本当につらい。

 鏡の指がボクの奥を突く。

 もう出したくないのに出すかのような快感に襲われる。

「あああぁぁぁぁっぁっぁぁあああぁ、あぁ」

「涎なんて垂らしちゃって、そんなに気持ちいいんだね。可愛い」

 疲労と快感から意識が飛びかける。

 パシン!!

 次の瞬間ボクの頬に痛みが走る。

「誰が寝ていいって言ったかな?もう後ろガパガパだよ。もっと壊れてよ。ねぇ、壊れてよ!!」

 彼女のボクの後ろを犯す指がさらに激しさを増す。

 その眼はまるで壊れてしまったかのようにボクの身体を突き刺す。

「っく、あああああああぁぁぁぁぁっぁあぁぁあっぁあぁぁあああぁああああああ」

 再びボクの意識は飛んだ。














*                 *                  *

 あれ?

 ここはどこだろう?

 周囲に漂う行為の匂いでさっきまでの記憶が蘇る。

「また気絶しちゃうんだもん。しょうがないな」

 どうやらボクは鏡の膝枕の上にいたらしい。

 先程までと変わって鏡は優しくボクの頭を撫でている。

「まだ途中だったけどあんまりやりすぎは良くないと思ったから、午前中はこれでおしまいにしてあげる」

 ボクは一安心し起き上がる。

「ハルちゃんお腹すいたでしょ?」

 行為が終われば霊羅からハルちゃんに呼ばれ方は変わる。

 いつも姉さんが呼んでいたその呼び方も今ではしっかり鏡のものになってしまった。

 姉さんは面会はおろか電話やメールまでも拒否してしまい、ここ最近は何も話せていない。

 もちろん話せる状況にあっても毎日犯されているなんて言えないけど。

「うん。学食に行こうか」

「そうだね。じゃあ、行こうか」

 鏡がボクの手を掴み立ち上がる。

「着替えるからちょっと待ってて」

「ダ~メ。さっき気絶しちゃったから罰としてそのままの格好で食堂に行くこと」

「む、無理だよそんなの。女の子の格好なんかで行ったらおかしいよ」

 ズイっと鏡が顔を近づけてくる。

「大丈夫だよ。ハルちゃんただでさえ女顔だし、メイクにウィッグもしてるからバレないって。それに・・・」

 鏡はぼくを見つめて一拍置いてから微笑む。

「もう気づいてるでしょ?ハルちゃんは私から逃げることはできないの。ずっと私のおもちゃなの」

 鏡はボクの右頬を手で押さえ、耳元でそう囁いた。

「そ、そんなんじゃない」

 俯きながら震えるボクを見て鏡が微笑む。

「ハルちゃん私が怖いんだね。泣いちゃって可愛い」

 そう言われるまで気がつかなかった。

 知らず知らずのうちにボクは涙をこぼしていた。

「ハルちゃんは黙って私の言うことを聞いてればいいの。私の玩具であればいいの。ハルちゃんが苦しんで傷つけば傷つくほどゾクゾクする。愛したくなる」

 ボクは何かを諦めたかのように頷く。

 鏡から逃げることなんてできないんだ。

 最悪な事態を逃れるためには鏡の言うとおりにしなければならない。

「それじゃあ、行こうか」

 笑顔で鏡がボクを誘導する。

「はい」

 女物の下着から垂れてくる体液に不快感を覚えながらもボクはそれについて行く。

 時計の針は12時30分を指していた。














*                  *                  *

side yanami―――――――――――――――――――――――――――――

 一通り食べたものを片付け食堂を出ようという時だ、食堂の入口で千堂を見つけた。

 食堂は人で溢れかえっているので中々気づくことはないが、ゴスロリの服装に違和感を覚え目が止まった。

 一人ではなく隣りにゴスロリのような格好をした美少女がいた。

 千堂にも一緒に食事をする中の友達でもできたのだろうか。

 向こうは俺に気づいていないようで、声をかけるか迷ってしまう。

 しかし、何か京橋姉弟のことを聞けるかもしれない。

 ここは声をかけておこう。

近づくにつれ、会話が聞こえてくる。

「アリスはね~、エビチリ定食にしようかな。霊羅はどうするの?」

 アリス?

 千堂は一人称をアリスと言っているのか?

 隣のは「レイラ」と言ったな。

 レイラ?

 どこかで聞いたか目にしたことがある。

 それも最近だ。

 なんだったか?

 ・・・・・・。

 そうだ。

 思い出したぞ。

 ミラクル霊羅だ。

 千堂がいつも読んでいたライトノベルだ。

 たしかそこにアリスというキャラクターもいたはずだ。

 なんだ、千堂もそんな趣味の合う友達が出来たのか。

 それはそれで千堂の将来に心配は無くは無いが嬉しく感じる。

 何か初めて自分の娘に友達が出来たかのような感じだ。

 別に娘はいないがな。

 何を言っているのだろう。

 まぁいい、これで肩の荷が少し降りた。

 そっとしておこうと二人を通り過ぎようとした時、俺は気づいてしまった。

 千堂の隣にいる美少女が京橋遥であることを。

 パッと見は分からないが、近づいてよく見てみれば京橋遥そのものだった。

 千堂も見た目はかなり良いが、隣りの美少女も負けず劣らずといった感じで周りに人集が出来ている。

 近づいて聞いてみたくもあるが個人の趣味ならば俺は口を出す必要もない。

 このまま流れて外へ出ようか。

 ふと、京橋遥と思われる美少女の顔を覗く。

 なんて、切なく寂しい表情をしているのだろう。

 これはほっとけない。

 二人の様子を伺うことにしよう。



















*                 *                  *

side haruka―――――――――――――――――――――――――――――

 周囲からの視線が痛い。

 ボクと鏡はそれぞれ食券を買い持っていく。

「霊羅はオムライスにしたんだ。可愛いね」

 周囲の視線にはもちろん女性も多いわけで鏡の中のスイッチが鏡からアリスに切り替わっている。

 それと同時に絡ませてくる腕の力も強く痛む。

 だが、それよりも今心配なのはボクのこの女装が周囲にバレてしまわないかということだ。

 なるべく顔を見られないように下を向いてはいるが、こんな格好が仇となりますます顔を覗かれてしまう。

「オムライスのお客様、エビチリのお客様どうぞ」

 店員の人に呼ばれ急いで取りに行く。

「あら、お嬢ちゃんたち可愛いわね~。これおまけであげちゃう」

 店員のおばさんはそう言ってボクたちが頼んでいないシーザーサラダをサービスしてくれた。

「たのんでいないのにいいんですか?」

 悪い気がして聞いてみる。

「いいわよ~。お嬢ちゃんたちのおかげでお客さんの入りが良くなったからね」

 そう言っておばさんが周りを見渡すと普段よりも確かに人は多くみんなの視線がボク達に集中していた。

 ボクは怖くなり急いでおばさんに礼を言ってなるべく遠い奥にある席に着く。

「ボク、男ってバレてないよね?」

「バレてるわけないでしょ。皆私たちに羨望の眼差しを向けてて。おばさんだって可愛いお嬢ちゃんって言ってくれたし」

 そうは言われても不安なものは不安だ。

 ボクたちはそれぞれ頼んだものを食べ始める。

「ねえ、ハルちゃんにもエビチリ食べさせてあげる。あーんして」

 周囲の人が減り、霊羅からハルちゃんに呼び方が変わったようだ。

 恥ずかしながらもあーんをする。

「おいしいでしょ。今度はオムライスを私にあーんして」

 ボクは一口サイズにスプーンで切り分け彼女の口に運ぶ。

「おーいしいー。こんなに美味しいオムライスは生まれて初めて。隠し味にハルちゃんの唾液があるからかな」

 こんな会話を周りに聞かれたらまずい。

 慌てて周囲を見るが大丈夫なようだ。

「そういうことは人がいる前で言わないでよ」

「ゴメンゴメン。ハルちゃんってば恥ずかしがり屋さんなんだから」

「そういう問題じゃないって」

 ボクがこんなにも怒っているのに鏡は分かってくれない。

 ため息を吐き再び食べようとしたその時に、急にボクの手に誰かの手が重なった。

「ねえ、君たち可愛いね。一緒に食べない?」

 いかにもチャラそうな男たちが4人ボクたちの周りを囲んだ。

 ウィッグではあるものの髪を男に触られるのは気持ち悪い。

「このウィッグ君に似合ってて君のためにあるみたいだよね」

 そう男Aが言い、他の3人もケラケラと笑う。

「女の子二人じゃ寂しいでしょ。この後さ、ゆっくり遊ぼうよ」

 さりげなく肩に手を回され、恐怖に俯いてしまう。

 すると、バンッ!!と隣で大きな音がした。

 ボクを含め周りのみんなが音の出処に注目する。

 見ると鏡が皿をテーブルに叩きつけていた。

 破片もいくつか飛んでおり、鏡も下を向いていた。

「――――――――――――」

 何かを鏡が呟いていたが、声が小さくてよく聞こえない。

「――――で。―ま―――い――」

 不審がってはいたが男の一人が鏡の肩に手を置く。

「どうしたんだよ。具合でも悪なったんなら医務室に連れてくけど。俺たちの。ガハハハハ」

 男たちが笑う。

「私たちの邪魔をすんなって言ってんのよ、このゴミカスどもが!!」

 鏡の顔が怒りに歪み男の手を肩から払い除ける。

「おいおい、そんな本気になんなって。お詫びはするからさ、俺たちの体で。怒んないでよ」

 まるで鏡の恐ろしさが分かっていない男たちは何事もなかったかのように笑っている。

「そう。お詫びをね。だったら、3限の終わりに部室棟南の3階廊下で待っててくれますか?そこで体でお詫びをしてもらうので。それまではほっといてくれませんか」

「うおー。おい聞いたかよ。この嬢ちゃんたち聞き分けがいいぜ。わかった。それまでは待っててやるよ。でもな、逃げたりしたらわかってるよな?」

「ええ、逃げたりしませんけど」

「でも、口じゃ何とでも言えるしな。それじゃ、何か貸してよ。ちゃんと来たら返すからさ」

「いいでしょう。でしたらこれを」

 鏡はバッグから財布を取り出す。

 そして中から1万円札を3枚抜き取り差し出す。

「まぁいっか。じゃあ、ちゃんと来たらこの3万返すから。絶対来いよ」

「わかりました。だったらさっさと失せてください」

「言うねぇ。じゃあ、俺たちは一旦引こうぜ」

「おう。仮に来なかったとしても3万は手に入るしな」

 男たちはぞろぞろと出て行く。

「大丈夫なの?3万なんて出しちゃって?」

 何事もなかったかのように財布をしまう鏡にボクは焦る。

「別に問題はないよ。あいつらから返してもらうから。それと私1人で行くから」

「そんなのダメだよ。ボクも行く」

「ハルちゃんが男ってバレたらもっと酷いことになるよ。大丈夫。私に考えがあるから」

 ボクの不安をよそに鏡はボクに抱きついてくる。

 本当に大丈夫なのだろうか?

















*                 *                  *

side yanami―――――――――――――――――――――――――――――

 チャラチャラした男共に俺の怒りが爆発しかけた。

 もしもあの時千堂が皿を叩きつけていなかったら、俺が殴りかかっていたところだった。

 人の性癖にどうこう言うつもりはないが遥も俺の大事な娘のひとりだ。

 二人は俺が守る。

 さっきの男どもは俺が叩き潰す。
























*                  *                  *

 3限が終わり俺は男たちのもとに向かう。

 教場で停電が発生し、折角早くに切り上げようとしていたのに、ドアが開かなく逆に遅れてしまう結果になった。

 これだったらテストではあったが休めばよかった。

 走りながら祈る。

 二人が無事であってくれと。

 そして、時間から15分遅れ、南棟3階廊下に着く。

 しかし、廊下には誰もいない。

 何か匂いがする。

 生臭いような。

 血だ。

 これは血の匂いだ。

 奥の部屋からする。

 まさか、あいつら。

 俺は急いで奥の部屋を開ける。

 すると、机が散らばっており、その中心に人が倒れていた。

 チャラ男の中の1人のようだ。

 気を失っているようで、体の下から血が流れていた。

 なんだ?

 あとの3人はどこだ?

 周りを見渡すと、チャラ男の2人が口から血を流し壁に吊られていた。

 あとの1人は?

 不意に頬に何かが落ちてきた。

 それを拭き取り指を見ると、それは血だった。

 そして、ポタポタと血の雨が降ってくる。

 恐る恐る天井を見る。

 そこには、チャラ男の1人が虚ろげに目を開けたまま長い金属の棒数本に体を貫かれる形で存在していた。

 おそらく4人全員死んでいるだろう。

 一体ここで何があったのだ?
























*                 *                   *

side kyo――――――――――――――――――――――――――――――――

 なんだ、あいつらチョロかったなぁ。

 チョロ男なんちゃって。

 良い人なんだけど、矢波さんにも来てほしくなかったから一時的に停電までさせるハメになったし。

 さてとお金も倍になったしハルちゃんの新しいコスプレの道具でも買いに行こうかな。

 いつもの場所まで迎えに行こうっと。


お久しぶりです。

次回も不定期です。

この作品で少しでも楽しんでいただけることができたのなら幸いです。

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