第9話:ある意味、ここから本編
お待たせしました。
あ~ムカムカする。
ケーキの食べ過ぎもあるけど。
別に機嫌が悪いって訳じゃないんだよ。
むしろ姉さんとの賭けに勝って晴れて二人とも無気力サークルに身を置くことになれて嬉しいくらいだ。
ただね、同時にある疑惑が浮上して・・・。
もしかしたら姉さんと鏡って仲悪いのかな?
やたらと互いを意識しあってて何か敵を見るような目で睨んでいるから。
仮にそうだとしても、ボクでなんとかできるかな。
いや、できない。
だって、鏡は未知数だけど少なくとも姉さんはボクの5倍は強いからね。
情けないぜボク。
あ~ムラムラする。
じゃなかった、ムカムカする。
あながち間違ってないけどね。
姉さんがどんな感じかリビングで確認しよう。
恐る恐るドアを開きリビングへ。
ドアを締切るよりも先に姉さんがボクに呼びかける。
「あら、ハルちゃんおはよう。今朝はいい天気ね。こんな日は日差しが強いから家に篭ってましょ。ハルちゃんの綺麗な白い肌を紫外線から守らないとね」
「何言ってるの。別に授業をサボってもいいけど、サークルに行くから」
姉さんが何を言いたいのかがボクにはわかった。
何が何でもボクと鏡を会わせたくないのだろう。
「うぅ。・・・やっぱり行くの?」
「行くよ」
「絶対?」
「絶対」
「もし、外に出たら何か良からぬことが起きるとしても?」
「行くよ」
「・・・。わかったわ。そんなに行きたいなら行こうか。お姉ちゃんも昨日は皆に迷惑かけちゃったし、謝らなきゃね」
理解のある姉はいいと思うぜ。
なんてね。
「それに、あの女にハルちゃんが誰のものなのかを教えてあげないといけないし」
「えっ、なんだって?聞こえなかった」
気持ちも落ち着き席に着こうと椅子を引いたせいで姉さんが何を言ったのかが聞こえなかった。
「あっ、なんでもないの。気にしないで、ただの独り言だから」
本日も晴天なり。
さすがに5月も近づいてくると上着も薄くしたり、重ねる必要もなくなってくる。
・・・はずだよね。
なのに姉さんは何故ボクの腕にガッチリ腕を絡めてくるんだろ。
良いことなのか分からないけど、くっついてる事で生まれる周囲からの視線には耐性がついてしまった。
しかしこれからの時期どうすればいいのだろうか。
今現在は春だからまだなんとかなるけど、夏になったら視線どうこうじゃなく暑さ的にヤバイ。
ボクと姉さんが暑さに我慢しながらも汗ダクで肌を絡める。
この表現だと心無しか卑猥です。
それにしてもなんか昨日までよりも絡める力が強くなってないか?
ボク達義姉弟は勉強が嫌いです。
出来るか出来ないかは関係なく嫌いです。
ちなみに出来ない担当がボクです。
なので、授業を受けずに昼前に学校に着きご飯を買い部室へ直行する。
部室に近づく度ますます姉さんの絡める力が強くなる。
「腕が悲鳴をあげてるから離してくれないでしょうか?」
「却下。サークルに行くってことはこういうことなんだよ」
えーっと・・・どういうことでしょうか。
まずいな。
このままだとうっ血する。
部室に急ごう。
ガラガラ。
は~、嫌な予感がする。
麻痺していない方の腕で教場のドアを開く。
開いた瞬間に鏡の視線がボク達を刺す。
ってか、珍しく鏡しかいない。
なんでか他人からの視線は大丈夫なのに鏡からの視線だけは慣れないんだよな。
「こんにちは。今日も本当にお二人は仲が良いんですね。私も片腕が寂しいです」
「こんにちは。ごめんね、こんなにもラブラブなところを見せつけるように入ってきちゃって。別に悪気はないのよ」
「ええ、わかってますわ。あはは、素晴らしい家族愛ってことくらい」
「やっぱりわかっちゃうかしら。でも、この愛は家族愛だけじゃないのよ。うふふ」
「でしたら何の愛なんですかね。親子愛かしら」
「鏡ちゃん、私とハルちゃんは1つしか歳が違わないのよ。全く鏡ちゃんはギャグが上手なんだから。うふふ」
「あはは、そうですよね。変なこと言ってスミマセン」
なんだろう。
教場に入って早々ボクが二人の間にいるはずなのに、二人とも全く笑ってるはずなのに、笑ってない眼でお互いを捕らえてる。
まるでボクなんか空間に存在しないかのように二人だけの挨拶が交わされた。
しかも話している最中も更に姉さんの絡めてくる力が強くなってくる。
よくわかんないけど、痛くて耳がキーンって。
「あっ、そうでした。お姉さんに昨日は不快な想いをさせてしまったので、お詫びといってはなんですが。これを貰っていただけませんか」
そう言って鏡は、一ヶ月前あたりから現在にかけてまで非常に人気を独占している限定の高級ケーキを差し出してきた。
たしか予約が半年待ちだったはずだ。
でも、ケーキだ。
いつもなら嬉しいけど今は見るのも辛い。
あっ、なんかムラムラしてきた。
スミマセン、もういいですよね。
「別にいいのに。私も鏡ちゃんに嫌な想いをさせちゃったと思うし。お返しは明日でいいかしら?
「要りませんよ。私は遥と一緒で1年生ですから。私のほうが下ですし」
なんか妙にボクと一緒ってとこ強調しなかったか。
「そう?ごめんなさいね。変な気を使わせて。ありがたくハルちゃんと分けさせてもらうわね」
「待ってください。遥は昨日たくさん食べたから嫌かなと思って。代わりに遥にはお弁当を作ってきたの」
なーんだってー。
人生初の身内以外の女の子からの弁当だ。
なんだろう、急に雨が。
なんだ、涙じゃん。
「ちょっと待って。ハルちゃんにはさっきご飯買ってきたから、せっかくだけど受け取れないわ」
何!?
人生初の可愛い子からの弁当は死守せねば。
「だったら、さっき買った弁当は今晩食べるよ。わざわざ作ってきてくれたんだから申し訳ないし」
「でも、・・・」
まだ納得してないな。
仕方がない、奥の手でも使うか。
「ねぇ、お姉ちゃん。ボクは鏡の作ってきてくれたお弁当が食べたいな。ダメかな?」
ここで涙目で下から話しかけるのだ。
「グッ。これは、・・・。わかったわ、今日だけね。お姉ちゃんも貰ったケーキいただくし」
っしゃー。
姉さんはボクがお姉ちゃんって呼ぶと弱くなるからな。
どうしたんだろう?
姉さんがご飯を食べ終わって、ケーキを食べればいいのになかなか食べようとしない。
まるで睨むかのようにケーキを観察している。
確かに入手困難なケーキではあるけれど、そんなに見ていたいのなら写メでも撮っておけばいいのに。
でも、緊張した様子で姉さんはケーキと鏡を見ている。
匂いまで嗅ぎ始めた。
まぁ姉さんには姉さんの鑑賞の仕方があるんだろう。
ボクは写メ撮るので忙しいから弁当はこれから食べるけど。
だって、素晴らしいんだよ。
弁当の中身はボクの大好物のハンバーグや色とりどりの野菜、魚もメインのハンバーグを邪魔しないように配置されており見ることでも楽しめる。
さーて、そろそろ食べますか。
「鏡、食べるね。いただきまーす」
鏡に向かって話しかけると鏡の頬は赤かった。
おいしい。
簡単な言葉ではあるが実際美味しいのだ。
確かに普段食べる姉さんの料理も相当美味しいが、鏡の料理も同じくらい美味しい。
「美味しいよー。本当にこんなに美味しいお弁当ありがとう」
箸が止まらない。
だって美味しいんだもん。
あれ、なんかハンバーグ肉汁に違う味が混ざってないか。
鏡も落ち着かない様子でこっちを見てくる。
何故かニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、モジモジしている。
でも気にしない。
ボクの直感が気にするなと言っている。
「ううぅぅぅぅぅ。助けてハルちゃん」
不意に隣を見ると姉さんがうずくまっている。
「姉さん!どうしたの?大丈夫?」
「痛いよ。お腹が痛い」
姉さんはボクに弱々しく訴えかけてくる。
「分かった。すぐに医務室に行こう。鏡、ごめん。また戻ってきたら弁当食べるから。先に姉さんを医務室に連れてくね」
「ええ、わかった。お姉さんを早く連れってってあげてね。待ってるから。このお弁当を最後まで食べてくれることを」
急いで姉さんを担ぎ医務室へと向かう。
ボクのほうが背が低いから移動は大変だ。
それにただでさえ、右腕は姉さんに絞り上げられていたから余計にキツイ。
周囲もボクたちの姿をみて「どうしたんだろう」「怪我でもしたのか」などの声が聞こえる。
また姉さんの変な噂が流されるな。
ごめんね。
ボクがもっと大きかったらこんな無様に背負わなくて済んだのに。
今も小さくうめき声をあげている姉さんがつらい。
昔も一度だけあったな、こんなことが。
姉さんが死んでしまうんじゃないかって思ったことが。
とにかく今は急ごう。
もうちょっとだから頑張って姉さん。
あはは、ちょっとだけ薬が強かったかな?
私の限定ケーキ薬装備は美味しかったでしょ。
でもいいか。
私に見せつけてくるんだもんな。
いくら将来義理の姉になる人だからって私をイライラさせるんだもん。
遥もかわいそう。
運命の相手であるこの私に、無理やり押し付けられた愛情を見せ付けられるなんて。
でも、大丈夫だよ。
私があのお姉さんから逃がしてあげる。
そしたら二人で幸せな家庭を・・・。
なんてね、そんな考えはあのお姉さんくらいしかしないよね。
私は違う。
私はより遥が幸せになれるように私と遥だけの世界に導いてあげる。
私たちの間に誰も入れないようにね。
そのためだったら子供もいらない。
それにしても、遥とお姉さんが居なくなっちゃったから私一人だけか。
普段なら鬼龍院さんか矢波さんがいるけど、昨日はグダグダだったから疲れただろうし、来れなくても仕方がないか。
今この教場に私だけ。
私だけ。
そして、食べかけのお弁当。
さっきはあんなに美味しそうに私が入ったハンバーグを食べるんだもん。
愛の詰まった肉汁、増やしてもいいよね。
美味しいんだからさ。
アリスにはその間に使いかけの箸をあげるね。
そして私はパンツを下ろし――――
「姉さんをよろしくお願いします」
姉さんを一人にしたくない。
ボクは医務室に着く寸前に気を失った姉さんと共に救急車に乗り込む。
こんな時になって何も出来ない自分に苛立つ。
あんなにも姉さんは苦しんでいたのに、ボクはまともに姉さんを運ぶことすらできなかった。
今のボクに出来ることは救急車の中で横になっている姉さんの手を握ってあげることくらいだ。
「そう。わかった。それじゃあね。お姉さんお大事にね」
今日はお姉さんを一人にしたくないから戻れないって。
残念。
折角ハンバーグを美味しくしたのに。
遥が食べないなら捨てちゃおう。
つまんないな。
また一人ぼっちだ。
ゴメン。
アリスはもう私の一部みたいなものだから。
だから怒らないで。
ねぇアリス、明日遥がサークルにくると思う?
この表現下品だとか指摘されそうで怖いのですが、どうでしょうか?
次回の更新は新学期ということもありますので、予定は2週間以内とします。




