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第8話:あなた、憑いてますね

お久しぶりです。

少し話の形が見えてきました。

「ごっめーん。遅れっちゃたよ~」

 その女神さまは遅刻してきたことに全く悪びれる様子もなくヘラヘラと教場に入って来た。

 綺麗だなー、可愛いなー、素敵だなー。

 身長はボクと大して変わらないくらいだ。

 真っ白なややカールのかかった髪は腰まで届く程の長さで小さく揺れている。

 やや幼さを残した顔立ちではあるが、非常にバランスがとれているので芸術作品のような気品も感じられる。

 いやいや、顔以外も素晴らしいぞな。

 スタイルもすごいな。

 胸は小さいけど、ちっぱい好きなボクとしてはそこもまたGOOD!!

 もしかしたらこの女神さまはこのサークルの中で一番細いんじゃないか。

 もうちょっと食べてもよろしいでしょうな。

 クソッ、この距離じゃクンカクンカできない。

 したいお。

 って、そんなことより・・・どうしましょ。

 姉さんとこのサークルの最後の一人の性別で賭けをしていたのに。

 男だったらボクの勝ちで何かしらお願いを聞いてもらう予定だったけど、その人は女の子ではないですか。

 ボクの負けにより姉さんはボクにお願いができる。

 絶対に従わなければならないお願いを。

「ムフ、ムフフっフ。デュフ、うへっへっへ。ゲホ、ゲホ」

 ほら、隣で姉さんが喜びを噛み締めながら笑ってるよ。

 姉さんよその顔は危ないですぜ。

 それに途中でむせてるし。

 もう終わりなのか。

 ボクはきっと姉さんからエッロエロ~な命令をされるんだろうな。

 イヤ~ン、ラメェ~なんて言わされるのだろうか。

 なんだろうこの期待と不安が入り混じった感情は。

 下手したら入学よりも凄まじいかも。

(いつき)|さん、予定の時刻よりも早く伝えてあったのに、それを上回って遅刻してくるとは流石ですね」

 矢波が呆れたように女神さまに話しかける。

「だからーゴメンってば~。あんたこそ、この私に皮肉を言うなんていい度胸してるよね」

 遅れた女神は矢波の胸元を指でツンツンしている。

「止めてください。俺はあなたにあまり・・・いや、絶対に触られたくないんでね」

 そう言って女神さまの人差し指を軽くはらう。

 テッメー、ボクだったら幸せでいっぱいになるぞ!!というのは心の中に閉まっておこう。

 それにしてもこんな時でも鬼龍院さんと鏡はくつろぎながら読書してるよ。

 姉さんは隣で不気味な音を発してるし。

 なんなんだよこのサークルはー。

 









 とにもかくにも全員揃ったので改めてお別れ会と自己紹介が始まった。

 ちなみに自己紹介はボクと姉さんと女神さま以外の人は省略された。

 ボクたちは以前にこの場所でしたような自己紹介をした。

 ただし、ボクと姉さんのテンションは違ったけど。

 ボクは不安でいっぱいの今にも食べられそうな子羊の様に、姉さんはとても嬉しそうにウキウキと狩人が狩りをするような自己紹介で終わった。

 最後に「はじめまして。そしてさようなら」をもちろんつけてね。

 ハァ、ボクは貴方が女の子だったせいで食べられちゃうんですよ、と思いながら女神さまを見る。

 こんなに可愛いければ貴方のせいで食べられちゃってもいいかななんて。

 とうとう訳がわからなくなってきた。

 いよいよ始まる。

 女神さまの自己紹介が。








「それでは、本日をもって脱退する二人に自己紹介をお願いします」

 矢波に促され女神さまが教壇に上がる。

「はじめまして~。私はこのサークルの長をやっています~、4年文学部の樹九(いつきいちじく)|で~す。ちなみに~小学校からのあだ名は『気球』で~す。このサークルでは誰も呼んでくれないから~そう呼んでほしいなぁ。よろしくねッ!!エヘヘ」

 可愛い。

 いつもだったらこんなヘラヘラしてる喋り方には軽く苛立ちを覚えるのに。

 こんな喋り方すら九さんは武器にしてしまっているのか。

 心の中だから自然に下の名前で呼んでみる。

 あえてあだ名で呼ばないところが通。

「樹さん、あのこと言わなくてもよろしいんですか?」

 ここで珍しく鬼龍院さんが口を開いた。

「え~、でもさこの子達今日でいなくなっちゃうんでしょ~?だったら~お姉さんのほうはともかく遥君には夢を見させてあげたいしぃ~。言いたくないなぁ~」

「でしたら私から話しましょうか」

 鬼龍院さんは何が何でもあのこと、とやらを言いたいらしい。

「わかったよ~。話せばいいんでしょ。私、実は男で~す。ピース!!」

 は?

 ボクの目がおかしくなければピースサインをする美女がいるはずだ。

 ボクの耳がおかしくなければピースサインをする・・・・・・えーっとオトコ?がいるはずだ。

 オトコってなんだっけ?

 オトコ、音子、OTOKO・・・男!?

 待っ、待て。

 今この子は男と言ったのか?

 そんな馬鹿な。

 このボクを騙そうったってそうはいきませんよ、レディ。

「あ~、遥くん私のこと疑ってるでしょ。私は~正真正銘の男の娘で~す。ほらこれが証拠だよ」

 九さんは財布からスゥっと学生証を取り出し差し出してきた。

 ほのかに香水の香りがする。

 クンカクンカできました。

 学生証を受け取り、姉さんがボクが受け取った学生証を覗き込み二人で見る。

 うんうん、写真も可愛い。

 指名手配犯みたいなボクの写真と違うね。

 ではでは性別の欄は・・・・・・男。

 本当に男じゃねーかー!!

 わっしょいわっしょい!!

 だから気球なんですね。

 球だけに、たまったもんじゃない。

 なんだろうこの胸の中の虚無感は。

 泣いてもいいですか?

 ググググ。

 なんだ?

 って姉さん!?

「姉さんそんな風に握ったら学生証が曲がっちゃうよ」

 見ると姉さんがものすごい力で九さんの学生証を握っていた。

「認めない、こんなこと。なんで女じゃないの?あなたが男だったらハルちゃんを・・・」

 俯きながら姉さんは震えていた。

 なんでそんなに女であってほしいの?

 ・・・・・・・・・あーっ!!

 すっかり忘れてた。

 九さんが男ってことは姉さんとの賭けはボクの勝ち!!

「賭けはボクの勝ちだね。残念だったけどボクの命令を聞いてもらうよ」

「わかったわ。賭けは賭けだもんね。いいわ、聞いてあげる。ハルちゃん、一体どんなエロいことを命令するの?」

「どうしようかなー?・・・って何エロいことが前提になってるの。それだったら勝っても負けても同じじゃないか」

「まさかこんな美女になんでも一つだけ命令できるって状況でエロい事じゃないの!?」

 九さんが男の娘だったことと、ボクがエロいことを命令しないことにショックを受けすぎているのか、姉さんがボク以外の目も気にせずキャラを忘れている。

「これは本当に賭けだったんだ。賭けに勝ったんだから夢を叶えたい。今のボクが最も叶えたい夢。それはボクと姉さんがこのサークルに残ること。いいね?」

「そんな、そんなことって。いや、お願い他のことならなんでもするから、このサークルに残ることだけは止めようよ」

 姉さんはすがるようにボクに訴えかけてくる。

「姉さんの気持ちも半分取り入れた結果がこれなんだ。嫌ならボク一人で残る」

 姉さんのこんな姿はボク以外に見せることはほとんどいないので、普段めったに反応しない鬼龍院さんでさえも心配そうに姉さんを見ている。

 鏡も落ち着かないのかそわそわしている。

「どっちもダメって言うなら、もうボク姉さんと口聞いてあげないから」

 こんなこと、できれば言いたくない。

 少し束縛されてても姉さんのことは好きだ。

 まだこの好きがlikeなのかloveなのか分からないけど、とにかく好きだ。

 だからこんな強がりを言っていてもどうせ数日したらまた仲直りするだろう。

 でもボクはもっと知りたい。

 姉さんの殻の中だけじゃなくボク自身の外の世界も見てみたい。

「大丈夫~?二人とももう一度話し合ってみたらどうかな。私達も部員が減ることは寂しいからできれば二人とも残って欲しいし~」

 九さんも気を使って話しかけてきてくれる。

「待ってください。話す必要ないと思います。遥はここに残りたい。でもお姉さんは出ていきたい。だったらそうすればいいじゃないですか。二人がくっついている必要なんてありませんよね」

 薄く笑を浮かべながら鏡が言う。

 びっくりした。

 鏡のこんな顔は見るのは初めてじゃない。

 以前にも見たことがある。

 ボクと姉さんが初めてこのサークルに挨拶しに来た時だ。

 その時も鏡はこんな目で姉さんを見ていた。

 笑っているはずなのに怖い顔。

 まさか姉さんの言う嫌な奴って鏡のことなのかな。

「うるさい。あんたは黙ってなさい。これは私とハルちゃんの問題なの。あんたには関係無いのよ」

 何かがおかしい。

 姉さんのこんな怒り方はめったに見ない。

「すみませんね。ウフフ、私思ったことは口に出やすいんです。気を悪くさせたようなので黙りますね。でも最後に一つ。この場ではお姉さんより私の方が正論を述べてますよ」

 怖いっす。

 おいらチビりそうっす。

 確かに鏡の方が正しいのかな。

 一般論としては。

 でも姉さんは違う。

 姉さんは、強いようで弱い。

 姉さんの弱いところはおそらくボクが一番見てきたはずだ。

 そして、その姿を見るたびに胸が締め付けられてきた。

 もうそろそろ助け舟を出してあげてもいいのかな。

 このサークルに残ることを諦めよう。

「やっぱりボクも――「いいわ。わかった。あなたの言う通りね。ハルちゃんの自由にしてもいいわ」やめ・・・・・・って、え?いいの?だったら僕は残る」

「良かったね。遥、また私と一緒に活動できるね」

「待ちなさい。私はハルちゃんにサークルに残る権利をあげたわ。命令だったしね。でも、ハルちゃんを一人で残すことはできない。私もここに残る」

「いいんですよ?別に嫌なら出て行ってくれても」

「いいえ、これは私の意志よ。たった今私にも目的ができたわ。その目的のために私もここに残るわ」

 嫌な空気が漂う中でやはりというのかわからないが、九さんが動き出してくれた。

「いや~二人とも残ってくれてなによりだよ~。さっ、これからお別れ会から再入会パーティーにしよう。ね、ね!?」

 なんだか一番偉い人に気を使ってもらうことになるなんて。

 九さん、あんたは漢だよ。

 付いてるし。

 なのに可愛いんだよな。













 帰路です。

 姉さんも隣りにいます。

 朦朧とする意識の中でもう少し、もう少しと自分自身に言いかけて我が家へと向かう。

 2時間ほどで解散になったけどあんなにも長い2時間は経験したことがない。

 でも2時間って普通にしててもそこそこ長いか。

 全員が俯いて教場を後にした。

 ようやく終わった。

 今日も長かったな、特にサークルが。

 つらかった。

 あの後のパーティーは姉さんと鏡が喧嘩とまではいかないにしても雰囲気最悪だったし、矢波は我関せずで延々一人でビンゴやってるし、鬼龍院さんは疲れ果てた九さんにマッサージしてるし。

 ボクなんて雰囲気最悪の中心で静かにケーキ食って。

 あんな味のしないケーキは人生初めてだ。

 不公平だよなぁ、ケーキの味はしないのに胃だけもたれるなんて。

 うえっぷ。

 吐きそう。

 姉さんがボクに大丈夫?と心配しながら肩を貸してくれる。

 情けない。

 こんなこと初めてじゃないけどね。

 こういう時だけボクが小さくて・・・・・・じゃなくて、姉さんが背が高くてよかったな。

 いつかはボクが肩を貸してあげたいけどね。

 それがどんなときかはわからないけど、二人とも笑っていれたらいいな。


無事に8話投稿できました。

以前もいただいたのですが潜伏期間中に再びコメントをいただき書く力が漲ってきました。

しかし、どう書けば人に喜んでいただけるのかがわからず、答えも出せないまま取り敢えず自分の書きたいことを書こうと思いました。

これからも悩みながらも完結まで頑張っていきます。

読者の皆様、読んでいただき有難うございます(*´∀`*)

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