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Death such as in nightmare  作者: C.コード
Episode.1:Around the Yokosaka Town
8/73

A street dispute 《people vs. zombie》

サブタイトル『A street dispute people vs. zombie / 街紛争 《人間vsゾンビ》』

荒廃したファミレスの数々が目に映った。

遠くから見てもわかる。ゾンビが徘徊している。吉成の被害現場は、ショッピングモールのような、

ゾンビの溜まり場に激変してしまっていたのだ。


「クソ、ここも想像以上の数だ!」

藤島がぼやいた。

ここを突破するのは困難か……。しかし、吉成の親族の安否を確認する手掛かりは

ここ以外には見つかるはずもない。なんとか、ゾンビ達に奇襲をかける算段を立てないと……。

作戦会議でもかけてみようと思った時に、一番手前のファミレスから声が聞こえてきた。

「そこの君達ー! 俺の声が聞こえるかー?」

俺たちに声をかけているのか。

「ええ、聞こえてます!」

返答をすると、そのファミレスから一人の男が出てきてこちらに向かってきた。

ゾンビじゃないし、普通の人間だ。

「ハァ、ハァ、あの、できればでいい。協力してくれないか?」

「きょ、協力ですか。 一体何が?」

「ああ、その説明が先か。 この町…いや、この一帯は、人間とゾンビの抗争が起こっている。

こちらは小数でなんとかゾンビの進行を遅らせているのに対し、向こうは数で攻めてくる。

このままでは……俺達の居場所が占領されてしまいそうなんだ!」

「ここを移るわけにはいかないんですか?」

「……すでに、けが人もでて、全員で大移動は無理なんだ。

安全性に欠ける余所(よそ)の地域での活動もあまり望ましくない。

向こうのショッピングモールは全精力でバリケートを張っても破られたそうじゃないか。

とてもじゃないが、確実に安全なところを捨ててまで行く場所もない。

昨日までは人間とゾンビの勢力は5:5ぐらいだった。少なくとも知能がないゾンビでは、

人間の思うがままになる展開も多かった。だが、交代で入れ替わったやつらに聞くと、

勢力は大きく傾いてしまった……。その比率、約2:8。戦略も尽きて、数の差をつかれ……

このままでは俺達の敗北は確実なものになりかねない! だから、頼む! 協力してほしい!」

「……分かった。協力しよう。」

「お、おい、新堂?」

「あっさり決めていいのか?」

「ここ以外に吉成の手掛かりは無い。 それに、ショッピングモールと同じ事さ。

救える命を救わないという選択肢はない。無謀な挑戦とはまた意味は違うが、武器もある。

危険なら後退しながらでもいい。」

「君達……ありがとう!」

「礼なら、俺達が勝利を治めてから言うもんですよ。それじゃ、俺たちはもうゾンビのもとへ向かいます。

最前線はどこですか?」

「この一帯の勢力は直線にしかぶつからない。この通りをまっすぐ行けばゾンビのもとへたどり着く。

仲間もいるはずだ。加担してやってくれ!」

「分かった。行くぞ!」

「おう!」

「それじゃ、僕は石でも拾ってきますね。」

「頼む。」

「狙う時は頭だ。強打しても死ななかった場合、何回でもいい。叩きまくれ!」

「ラジャッ!」

俺たちはまっすぐに走った。それにしても本当に勢力が分かれているんだな。ゾンビ1体すらいない。

やがて群れている何かが目についた。

「あれか!」

マズィ。人間の方が押されている!

流石、ゾンビだな。数の利がある……だけど、俺たちもここで引くわけにはいかない!

「うらぁ!!」

一番手前のゾンビに一打。周りのゾンビにも次々と一打ずつ叩く。

バタバタと倒れていくゾンビ。

「き、君達はッ!?」

「援軍です! ゾンビは頭を狙ってください! 思いっきり叩くんです!」

「よし、ぞぁああああ!」

鉄の棒でグシャっと体格が大きい男が叩いた。

「おお、こいつはいいぞ! 一撃で沈んだ。頭が弱点だったのか。」

「よし、全員頭部を狙えぇぇぇ!」

一気に人間のモチベーションが上がった!

数で圧倒的に不利な人間が、一撃で確実に処理できるようになり、後退することはなくなった。

「押せる! こいつは押せるぞ!」

人間側が雄叫びを上げるように叫び、気合いで押している!

「お、俺たちはこの隙に建物のなかを!」

「見て何するんだ!?」

「建物内のゾンビの殲滅と、調達だ。役に立つおのがあるかもしれない。店によっては

日があるかもしれない。」

「よし、……といってもほとんど倒壊してんじゃんか!」

「無事そうな建物は……かなり向こうに1軒だけだな。」

「そこまで押してやるまでだ! おらああああああああ!」

藤島も、大分強くなったな。萎縮(いしゅく)していた場面も少なくなって、

もう俺の事も気にかけれるほどになったよ。

本格的に、俺がいなくてもやっていける度胸は身についているだろう。

「全員、進軍せよ!」

指揮を執る人が声を張った。また、最前線もひるむことなく頭部への一打でゾンビを崩していくため、

もう数の利程度では負けそうにない!

「あの唯一無事そうな建物まで押しきれぇぇ!」

指揮官の声が響いた。

「な、なんであの建物なんだ?」

「あの建物、5:5の時に戦ってたところなんだ。あそこが基準だ。あそこ以上に押せれば、

俺達の勝算も高くなってくる!」

「よし、押すぞ!」

どんどんゾンビの群を押してついに建物以上に押しきった!

「一気に押し切り、殲滅するぞ! 1名は作戦本部に戻り、援軍を至急呼んでくるように伝えてくれ!」

「その役目は俺が行く!」

「よし、では大至急だ!」

「はい!」

俺達がいなくても、連携が成り立っている。指揮官がしっかりしていたから、

あの状況でも2:8までに抑えられていたんだな。頼もしい指揮官だ。

「俺たちは建物内への特攻だ! 行くぞ!」

「ああ!」

「いまいく!」

「僕も行きます!」

「わ、私も!」

ガチャリ 扉を開ける。中には死体すらない。いや、待て! 奥にゾンビが!

「みんあはここで隠れててくれ。 ここは狭すぎる。もしもの時は奇襲を頼む!」

「はい。」

「それから、吉成。耳を澄ませて聞いててくれ。建物内の音をよく聞いててくれよ。」

「もちろんです。」

ゆっくりとゾンビに近づく。すると、ゾンビが席から立ちあがった!

……こちらをゾンビは見据える。まだ、俺以外には気づいていないはずだ。

こちらを見据えたはずのゾンビは俺から目をはずし、厨房の方へと向かった。

「な……ッ?」

ゾンビが、襲ってこない……? こ、これは一体どういう……。

すると、ゾンビは蛇口(じゃぐち)(ひね)り、コップを手に取り、水を入れ始めた。

そのコップの水を飲み干すと、やがて、元いた位置に戻り、座った。

ゾンビの矛盾した行動に俺が戸惑っていると……

「…………お前は、俺を攻撃しないのか?」

「………………」

グゥ、知能があるゾンビか! この余裕ぶった態度。これが罠だとしたら、俺たちは思うつぼに……

動かない方が賢明だろう。

「外はどうだ? 人間が押しているのではないだろうか。ゾンビはもう負けてしまう。そうだろ?」

「……ああ、そうだ。だけど、それはお前だって同じ事。俺たちは人間。お前はゾンビ。」

「……そう、なるのだろうな。」

こ、こいつ……!! なんなんだ、この態度は! ゾンビってのは、死に際でも恐怖を感じないのか!?

「確かに、私は……ゾンビとしての生を受けてしまった。だが、私はゾンビとしてではなく、

第2の人生として……今を生き抜くと決めたのだ。」

「な、何言ってやがる……お前は何がしたいんだ?」

対話だけで刻々と時間が過ぎてゆく。そして、そのゾンビは言い放った。

「私は……生前の願いを叶えたいのだ。」

「何だと……ッ!?」

「生前、私は、確かにこの場所で、大切な兄弟と共に食事をしていたはずなのだ……。

だが、ゾンビが現れた……。私はあえて犠牲になり、弟を逃がす選択肢を選んだ。ゾンビ共から、

弟を救うには、これしかなかったのだ……。」

「なるほど、ゾンビにも生前の記憶はあるのか。」

冷酷な態度で言ってやった。知能があるゾンビは未だに信用ならない。いや、ゾンビ自体信用できない。

「かなり、生身に近い状態でゾンビになれば、自我を持てるようになると私は推測しているよ。」

「へぇ、初耳だな。」

「私は、奇跡的に脳へのダメージがほとんどなかった。だからこうして会話が出来る。

もっとも、おかげで体はボロボロになってしまった。」

「お前はそんなボロボロの体で何を望むっていうんだ?」

「前置きが長くなってしまったようだな。私は、もう一度、弟の顔が見てみたいのだ……。」

「そいつの安否は気にならないってか?」

「できれば、生きていてほしい。だが、私にはその助力をすることは不可能だろう……。

きっと、この姿を見れば……人間だれしも()(きら)うはずだ。私の弟もな……。」

「そりゃそうだ。生前で会えればよかったのにな。」

「まったくだ……。」

「お前は人間を食わないのか?」

「生前の記憶まであるのだ。人間を食うはずがないだろう?」

「はは、いかにもらしいこといいやがって。そろそろ逝くか?」

「そう、か。なら、最後に聞いてくれないか。」

「良いだろう。冥土の土産とは全く逆だけどな。話してみろ。」

「その弟は、とても優しかった。事件が起きる前までは……眩しい笑顔で笑ってくれたよ。」

「良い弟じゃないか。」

もう、適当に相槌(あいづち)を打つ事にした。そろそろ逝くゾンビ相手だからな。

「あの顔を、もう一度拝みたかった。弟の顔を、『吉成』の顔を…………。」

「……何だとッ!?」

ガタッと後ろから音がした。当然だろうな。こ、こいつが吉成が言っていた兄なのか!?

「ま、まさか、生前の名字……『岸田』じゃないだろうな?」

「ああ、確かに私は生前は『岸田』と名乗っていた。『岸田 孝利(たかとし)』という名だったよ。」

後ろから歩く音が聞こえてきた。振り向くと、吉成の姿があった。

「吉成……!」

吉成の目はまっすぐに孝利という名のゾンビを見ていた。目からは涙があふれている。

「兄さん……兄さんなの?」

「吉、成……!」

俺は、とてもゾンビとは思えない光景を目にした。孝利と名のるゾンビが、目から涙を流している!

「おお、本当に、本当に吉成なのか……。」

「兄さんッ!!」

孝利に向かって走ろうとした吉成の手を俺は掴んだ。

「は、離して!」

「ゾンビになっちまうかもしれないんだぞ!!」

「でも、でもッ!」

「そうだ、吉成。これ以上私に近づいてはならん。お前に、私と同じ道を歩かせたくはない……。」

吉成は完全に泣きじゃくっている。孝利も涙を必死にこらえている様子だ。

俺は、ゾンビの認識を改める必要がありそうだ。このゾンビだけは、

見た目こそ青白く、肉もえぐられ、骨が一部むき出しになっているが……

このゾンビだけは、間違いなく人の心を持っている!!

「吉成、もう、私の事で泣いてはいけないよ。人間がゾンビ相手に悲しむのは、

本当は存在してはならない事なのだ……。」

「ゥ、ゥゥ、兄さん、兄さん……!」

「そこの人、お名前は何と言う?」

孝利が聞いてきた。

「俺は、新堂幽っていう名前だ。」

「新堂……地区最強か。」

「知っていたのか!?」

「想像よりも、ずっと優しそうな先輩でしたか。」

「え、先輩!?」

「あなたの事は噂でも聞いてましたし、同じ学校でした……。どうか、吉成の事を頼みます。」

「え、あ、ああ。」

「そろそろ、死ぬ時が来たようだ。」

「え?」

「君達、大丈夫だったか? む、あれはゾンビか!」

しまった! 部外者に気づかれた! こ、これではもう、孝利の命を救ってやることは……。

「遅かったか……! 逃げてください先輩……。吉成にむごい姿を見せるわけにはいかないんです……!

早く……!」

孝利……! お前、本当に、どうしてゾンビなんかで第2の人生を始めちまったんだ。

俺には納得できない……!!

「いくぞ! 吉成!」

「待って、まだ兄さんが!」

「ダメだ! もう、どうしようもない!! 藤島達も外に出るぞ!」

「あ、ああ!」

俺達が出た後に、次々と中へと前線で戦っていた面々が押し込んでいく!

そして、建物の中から聞こえてきた。

「このゾンビめ! よくも今までやってくれたな! 借りを全部返してやるッ!」

「こんの、死ね! 死ね!」

「うらっ! 全部お前たちのせいだ! 死んでしまえ!」

「うぐああああああああああ! 逃げろ、吉成ぃぃッ!」

「まだ言うか! 化物め!」

「があああああああッ!」

うおおおおおおおおおおおおおおお!

俺は吉成を引きずる勢いで手を引っ張った。

孝利の断末魔を聞かれてしまうことになるとは…………。もっと早く動いていれば、

悲しませる事もなかったのに……! 俺はまた、仲間を苦しめてしまった…。

もっと早く動けば、こんなに辛い思いをさせる必要なんてなかったのに!

しばらく走ると、やがて断末魔は聞こえなくなった。

「ヒグッ、ウグッ、に、兄さん……」

「吉成……。」

悲しみに暮れている吉成。これ以上は、何も言わない方がよさそうだ。

「兄さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!」

吉成が無慈悲なこの世に響くぐらいの叫びを上げた。

しかし、兄『孝利』の返答が聞こえてくるはずもなかった…………。

その日、俺たちは平穏な夜を手に入れたが、吉成がその晩に泣きやむことはなかった。

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