Five runaways with a past
※視点は新堂 幽に戻ります。
サブタイトル『Five runaways with a past / 逃走者5人の過去』
やった。やってやった。ついに、俺たちは無事に食料にありつけている。
今まで、ここにたどり着くまでにどれほど苦労した事か。
……今考えてみると、本当に仲間を引っ張り回してしまっただけじゃないか。
そうだ。そもそも食糧にありつく程度の事はコンビニでも事足りる話だった!
寝床も、視界を封鎖してしまえばゾンビではどう考えても立ち入るはずもない。
……なんてことだ。結局、俺は仲間に辛い思いをさせてしまった。
こうして食糧にありつけている今、皆は苦労を忘れて空のお腹にどんどん食糧を放り込む。
皆、幸せそうだ。安全に食料にありつけているからだろう。この結果は本当に奇跡的なものだ。
走っている時には偶然右を俺は選んでいた。その次の右に曲がる事は確定していたけど。
ただ、コンビニが逃げた先に構えてあったのは本当に救われた。
だから皆全力で走れたし、けが人もいない。これは、偶然が生んだ賜物だ。
走るゾンビを想定できずに、皆を撒きこんじまったのは飯の後で皆に謝らないと……。
弁当に大体ありつけて、全員が満腹そうな顔だ。そろそろ、言い時か。言いたい事は早目が一番だろう。
「皆、すまない。俺のせいで、あんなゾンビから逃げ回る事になっちまって……。」
「ん? 何言ってんだ、新堂は。 誰のおかげで全員生き延びてると思ってるんだ?」
「いや、そりゃぁ、今は奇跡的に全員無事だけど。」
「俺は、お前の声がなけりゃ逃げなかったかもしれない。他のみんなもそうだろ?」
「おう、お前を見た時は俺も立ち向かう勢いだったぞ。」
「皆で立ち向かえば、どんなゾンビだって勝てますよ!」
「…………皆。」
「全く、いきなりしんみりと何を言うかと思えば。個人のミスはチームでなんとかする!
これは常識だろ? 新堂君、君一人で積荷全てを背負う必要は全くない。」
「大門さん……。」
「そうだぞ、新堂。頭に血が上って、お前の事を一度見捨てちまった俺にもその積荷……
背負わせてもいいんじゃないか? むしろ、そこは俺が持つべきだろ?」
「藤島……。」
「相当疲れていたんでしょ? 仲間のためばかりに命をすり減らすのもどうかと僕は思います!」
「吉成……。」
皆、皆……ありがとう。俺は、心のどこかでその言葉を待っていたような気がするんだ。
う、ヤバぃ、俺、涙が出そうだ。 泣くな俺! ここはチームを活気づけてやるのが最良な場面だ。
これ以上しんみりするのは……。
「まぁ、深く考え込まないでさ。腹も久々の食糧っつぅわけで、あんまり派手な事は出来そういない。
だから、ここはひとつ食休みも兼ねて……いままでの過去を語るってのはどうだ?」
「今までの過去?」
「そう、今までの過去。あ、と言っても俺たちと会うところまでな。ゾンビがあらわれて、
今に至るまで。 話すのはここにいる5人全員だぞ?」
「過去……か。よし、俺から話してもいいか?」
「おう。」
「朝……昨日の朝の事だ。祖父が開いてる道場に久々に顔を出しに行ったんだ。
そこで、久々に祖父と話して、稽古をつけてもらったりしてたんだ。
だけど、少しして、道場の外が騒がしい事に祖父が気がついてな。
道場は其の日は休みにしてて、柵を閉めていたんだけど、ゾンビが柵にのしかかってたんだ。
祖父はゾンビだと知らずに口で喝を入れてたけど、今考えると当然の結果だろうな。ゾンビは
祖父の一喝にも何の変化も示さなかったよ。
そこで、祖父が木刀で一太刀、肩に入れたんだけど。ゾンビは当然軽いダメージじゃ、
ひるむことなく祖父に抵抗してきたよ。
ついに憤った祖父は脳への一撃を入れたんだけど、それでようやくゾンビが倒れたんだ。
それでも人間だと思ってた祖父は手加減してた見たいだけど。
祖父が外の異変をいち早く感じ取ったらしく、家族に人数分の木刀を渡すように頼まれて、
無事に家族まで届けたんだ。そこからだよ。家の外にゾンビがいて、俺たちは
かまいもせずにダッシュで逃げた。そこからだよ。家族と別れたのは。
祖父のもとに戻ってみると道場には誰もいなくて、道場から祖父のお気に入りだった、
長い木刀も1本道場からなくなっててさ。」
「おお、それじゃ、祖父はその木刀で今も生きてるってことか!」
「多分ね。祖父とあの木刀の事だから、些細な事じゃやられないとは思うけど……。
電話はいつからか使えなくて、友達の事も考えなくて……
おかしなやつらをずっと外で軽くあしらってたら、偶然にも昨日、大門さんが声を掛けてくれた。
俺はここまでだよ。」
「新堂も難儀な目にあってたんだな……。」
「アハハ、親は多分……生きてはいないと思う。」
「ェ、なんでだ?」
「逃げた方向が悪かった……。母は大通りの方に行ってた。最初渡った橋、覚えてるだろ? あそこさ。
父はモロ、ショッピングモールの方角。俺ももう生きてるとは思ってないよ……。」
「そ、それじゃ、他には?」
「弟と妹がいてな。妹は……どうしているんだろうか。逃げた方角までは分からない。
クネクネと角を曲がってすぐに方向を変えてたからな……上手く生き延びていてほしい。
弟は中3で、祖父じゃないけど俺が鍛えてたからな。家にあった俺の木刀を持たせてやったよ。
平等な勝負で負けるとは俺も思ってないけど……。」
「…………よし、次は俺が行くぜ!」
「藤島?」
「だから、言ってるだろ。積荷はお前だけのもんじゃないって。考えすぎるなよ?」
「あ、ああ。」
「さて、俺だな……。俺はだな、ゲームセンターにいたんだ。朝からな。
一人でボチボチ楽しんでたら、突然にゾンビが入ってきてさ、一人喰われてからみんなパニック状態。
いろんな奴が殴ったり椅子を押しつけたりで、押し返したんだ。そこから皆逃げたよ。
パニクってるもんだから、その辺の大型店とかはもう荒れ放題。俺は手軽な軽食だけ持ってきて、
逃げながら食ってた。いつの間にか俺一人で、ポツーンって突っ立ってたら……大門さんとね。
俺はここまで!」
「藤島も大変だったんだな。」
「お前ほどじゃねぇけどな。何とか今まで無事だけどさ。」
「僕はですね、ファミレスにいたんです。朝起きてから高1の兄と外食しようってことになりまして。
両親は親戚の所にいくと言っていたのですが、僕も兄もどういうわけか出かける気にはなれなかったんです、
どうしてでしょうね……。今考えると、こうなることを本能が察知していたのかも。
ファミレスでだいたい食べ終わった頃、ゾンビが現れて……逃げたんです。僕も兄も、
だけど、周りこまれて……そして、兄が僕の犠牲になってゾンビ達に……。」
「な、なんだと……辛かったろう。」
「僕は兄を見捨ててしまいました。こうして生き延びているのも、全部、兄の犠牲の上にあるものです。
大分空も暗くなってきたところで、大門さんと出会いました。藤島さんもその時は一緒でした。
そこで僕の過去はお終いです。」
「目の前で喰われたのか……大変だったろう。だけど安心してくれ、俺がいる間はもうそんなことは、
絶対にさせないからな。」
「新堂さん……ありがとうございます。」
「次は、俺の出番か。あまり長くないからそんなに熱心になることはないぞ?」
「はい。」
「そうだな……俺は家族のクリスマス祝いのためにケーキを買っておこうと思って外に出たんだ。
こう見えても、もうすぐ4歳になる娘がいてな……喜ばそうと思って、娘には内緒で
ケーキを買って、家の冷蔵庫の奥にしまっておいたんだ。次に、娘のクリスマスプレゼントを
買いに言ったんだ。妻と1週間前から相談して、やっとの思いで決まったやつだから、急いで買いに行ったんだが、
もう一度表に顔を出してみたら、騒動が起こっていて、それどころじゃなかった。
騒動があったのは一通りの多い街中で知ってたから、急いで妻に電話をかけたんだが、電話越しに
泣く娘の声、妻の絶叫が聞こえて……ゾンビのうめき声も聞こえてきた。
そのあとはどうなったんだろうな。俺は通話を切って自宅に戻ろうとしたが、ゾンビが
次から次へとわいてきて、結局後退せざるをなかった……家族の事を、俺は……。」
「大門さん……。」
「……心配掛けてすまんな。もう、大丈夫だ。」
「そ、そうですか。よかった。 ……ええと、藍沢さん?」
「あ、はい。私のことは香憐と呼んでください。」
「分かった。香憐?」
「あ、過去の事でしたね。私は親が父だけしかいない家族構成だったんです。
私と父の二人だけが家族でした。でも、父はもうこの世にはいない母の分も、
私を一生懸命に何不自由な思いをさせる事がないようにと私を何かと甘やかしてくれました。
クリスマスも私に色々とプレゼントを買うと張り切っていた父が、外の異変に気付いたんです。
父と私は車で移動しました。すると、ゾンビが横から出てきたんです。ゾンビは
車でも遅いかかってきて、父は逃げろと言ってました。結果的に、私も父も、
バラバラに逃げたので、その後の事は……。高杉さんと出会って、
バリケートづくりを手伝いました。女性は皆、バリケートの完成後はどこからともなく聞こえる
断末魔におびえて……。護衛に人が2階に上っていく姿を見ていられませんでした。
そしたら、新堂さんがバリケート内に現れて、ばったりと倒れてしまって……。」
「なるほど、そこから一緒だったのか。」
「はい。」
皆、苦労の連続だったんだな。家族を失った者や、行方が分からない人も……。
「そうだ、今後は、失った家族の安否を確かめに行くってのはどうだろう。」
「なるほど、目標がなくなった俺達にはそれが一番いいかもしれないな。」
「せめて、バックか何かがあれば……。」
「バック……!」
「ん、新堂、どうかしたか?」
「一か八かだが、レジの奥にある扉を蹴破る!」
「な、どうしてだ?」
「コンビニにはアルバイトの従業員がつきものだ。逃げたやつらが置いていったものがあるかも。」
「おお、そうか!」
「それじゃ行きますよ……。」
木刀もしっかり握ってるぞ。ゾンビが出てきたら大変だからな。
ガチャガチャ やっぱり鍵がかかってるな。木刀を振り落とす!
ガキッ ドアノブが取れる。
「うらぁッ!」
バキィィッ! 派手な音と共に扉が開かれた!
「凄いキック力だな。」
「喧嘩の毎日でしたからね。中学時代は。」
「な、なるほど……。」
中に入る。ゾンビはいないみたいだ。ん、あれは! 高校生のものと思しきバックが!
「あ、あったぞ!」
「おお! これで、食料が持っていけるな!」
「さっそく、入れれるだけ詰め込んでくれ!」
「任せとけ!」
「保存がきくやつだけにし得くださいよ~……?」
香憐が心配そうに聞いた。でも、スナック菓子ばかり詰め込んでるし保存は利くだろう。
「一人1本、スポーツドリングも頼む。」
これを忘れてはいけない。飲み物も大事だ。
「お、忘れてたぞ! サンキュー、新堂。」
大体準備も整った。良し、行くか!
「ここから近い現場ではぐれた人はいるか。」
「はい、この辺りに、さっき言ったファミレスがあります。」
「そうか、ならずそこだ!」
「ようし。」
「ん、大門さん?」
大門さんが掃除用具入れからモップを取りだした。ゴミを取る部分のカバーをはずす。
「それ、武器ですか?」
「そうだ、モップも武器にはなれる。誰か持っておけ。」
「それじゃ、香憐さんが。」
「はい。」
モップもどきの長い棒を受け取る。
「もう一つあるから、これは俺が持つ。」
「では、もしもの時は、大門さん。よろしくお願いします。」
「もちろんだ。」
「それじゃ、行きますよ。カバンは吉成が持ってくれ。」
「はい。わかりました。」
こうして、俺たちはコンビニを後にした。
吉成の通りに進んだ。すると、荒廃したファミレスの数々が目に映った。
遠くから見てもわかる。ゾンビが徘徊している。吉成の被害現場は、ショッピングモールのような、
ゾンビの溜まり場に激変してしまっていたのだ。