Movement"Leave Japan"part1
サブタイトル『Movement"Leave Japan"/日本離脱』
part1
何かが入り混じったかのような目線。
そんな目線が俺を指していた。
「幽……」
「皆どうしたんだ? 何かあったのか?」
「んーまぁ、何かあったって言えばあるんだが……。」
「まぁって……言いにくい事なのか?」
「い、いや……――――」
言いにくそうな藤島を遮って入ったのは硲だった。
「私から説明しましょう。」
「硲……」
場がさらに固まる。
「新堂君、ここ…日本を離れましょう。」
「はぁ?」
「ふふ、二度言わなくては理解できない人間じゃないはずですからゆっくり思い返してください。
実は宮ノ小路様直々の御達しで日本を離れる計画を考案されていたようです。
宮殿総勢ともども日本から離脱する事を宣言していました。私たちもそれに肖るということなんですよ。」
「宮ノ小路様……が許さないだろう。」
「許可は下りてます。すでに私たちの待遇は確たるもの。すくなくとも宮殿の人間同様に
離脱の手立てもあるようですし……どうです?」
日本からの離脱……。
状況はそこまで悪化していたとは。
だが、日本を離れてどうするつもりだ?
俺たちには、日本から離脱する手立てがあっても着陸後の保証は……
「幽君……まさか、いらぬ詮索をしているのでは?
移住後の保障もちゃんとありますし、日本にいてはあなたがいくら屈強で最強の人間だと仮定しても、
世界の科学を前にして太刀打ちできるはずもないでしょう。」
「科学……? ウィルスの事か?」
「ククク……ウィルスなら移住には至らない。核ですよ。核兵器!!
アメリカは日本の現状を見かねてついに核兵器の使用を宣言しました。
日本はついに破滅の運命をたどっているんですよ……。
世界から日本は抹消され、日本人も抹消される……いや、この場合は隠蔽ですか。」
「核兵器だと……!?」
「あなたは兵器相手に立ち向かって勝てるとでも? 今回は私の独断で移住に同行する事にしましたが、
幽君でも同じ判断に至れましたかね?
アジトで一泡吹かされたことが影響してこういうチャンスを逃すのは少々見苦しい。
それに……『自分の姿』が見えたのでしょう?」
「な、どういうことだ?」
「先程とは明らかに違う……。何をしでかしたのかは知りませんが、驕っては判断も鈍ります。
とにかく、今はプライドを抑えつけて同行してください。」
硲は言い終わると宮殿で休んだ。
日本が破滅
宮殿の移住
核兵器の使用……
何もかもがくるってる。
アメリカがどうしてそんな結論を出したのか……
簡単だ。日本が危険だからだ。
そんな日本からの移住をアメリカが認めるだと?
信じられるわけないだろ……!!
だが、核兵器を使われては日本は確実に……
どうすれば、どうすれば生きられる……
俺たちには、もう破滅しか道はないのか?
今まで生きるために戦ってきた事は無意味だったのか?
敵襲もなく、宮殿にはその後数日にわたる平和があった。
平和といっても何事も変わる事がなかったという意味での平和だ。
承諾を受け入れてからは何かと移住に関しての話を耳にするようになった。
そして、今日は移住を告げられてから数日後の今だ。
明日はついに移住結構の日。皆が食糧や支度を整えている最中だ。
移動手段は飛行機らしい。船だと時間がかかるうえ、途中で食料が尽きてしまうかもしれないしな。
(船でアメリカに着くまでどれくらいかかるのか見当もつかなかった俺の勝手な推測だが……)
今日は支度ができ次第、指定の空港に行くだけだ。
そして空港で夜明けを待ち、朝方に出発。
空港について、飛行機については心配はないらしい。
すでに整備されているとの事だ(宮殿の精鋭が日数をかけてゾンビを駆除したとしか聞かされていないが……)。
俺たちは自分の分の準備で良いと告げられていたが、俺たちはすでに準備が整っている。
後は出発を待つだけだった。
移住後は平和。
その言葉に偽りはない。アメリカは日本を危険視している。
逆にいえば余裕がなければ日本が危険だと判断できるはすがない。
ゾンビ化はアメリカには起こっていないという証明だ。
俺たちが受け入れられるのかは不安だが、何より……
『移住するまでの過程で敵襲がないか。』それだけが不安だった。
そんな時、九条が俺たちの前に現れた。
「そっちは大丈夫そうだな。出発はもうすぐだ。待たせてすまんな。」
「いえ。」
「心残りか?」
「え?」
「……報告はしていなかったが、空港に差し向けた駆除隊は一人か二人の人影を逃したらしい。
ゾンビにまぎれていたから間違いなくゾンビの類なんだが……。」
「大丈夫なんですか?」
「ふふ、戦闘部隊には武器も持たせてあるし、いざとなれば宮ノ小路様の側近も出るだろうさ。」
その言葉があっても俺は何かが引っ掛かっていた。
非常に小さな何か。今にも忘れそうだが、それでも不安で仕方がない。
何事もなければいいのだが……
「出発!」
その言葉で宮殿の人間が動き出した。
荷物運び、戦闘部隊、護衛部隊……警備は万全を期している。
俺たちは最後尾をついて行く形で後に続いた。
宮殿はもぬけの殻。寂しい雰囲気だけを臭わせる形だけを見て俺たちは先に進んだ。
「ここだ!」
空港! 待ちに待った……離脱の日!!
確かに、駆除隊はゾンビを確実に殺していた。
動くゾンビは建物内にはいない。
宮殿の戦闘隊は真っ先に建物をくまなく進行し、安全を確認した。
その間は護衛隊が荷物運びを守る。
「内部に異状なし!!」
その声で俺たちはようやく中に入れるのだった。
だが……その時、俺の不安はようやく見える形となって現れたのだった。
「くそ……駆除隊にも察知能力者を入れておくべきだったか。」
九条がぼやいている。
空港の内部から俺たちは考えていた。
離陸場に佇む怪物、人影をどう対処するのかを……!!
「やっとよ! ジュミネィ、フラーウィンド……やっとこの時が来たわ!」
「あの時の借り……返してあげるわ。」
「……感情的になるのはやめた方が――――」
「うるさいッ! たかだか一般人相手に撃退されるなんて屈辱以外の何物でもないわ!
今度こそ……屈辱は百万倍にして返してあげるんだから……!」
会話する三人と、それをただ聞くだけの巨体が3体。それに加え……
「あれが硲君が乗る団体様かい? 丁重におもてなしをしないといけないねぇ……!
そう思うだろ、『エーシックス』。」
「よくもまぁ、獣人を……。期待してるよ。」
「期待にはこたえるのが僕の主義でね。見てるがいいさ。エーシックスの怪力をね!」
宮ノ小路一行が勝利を掴むには、まだ速かった……!!